青き誓い 〜W杯優勝を夢見た少年が夢を叶える物語〜

ましゅまろ

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夢のグラウンド

新たなる挑戦

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それは、太陽ジュニアカップから一ヶ月が経った、初夏の午後だった。
練習が終わり、蓮が汗まみれのユニフォームのままスパイクを脱いでいると、コーチが一人の男を伴って近づいてきた。

「蓮、紹介する。JFC東京ジュニアユースの育成部スカウト、久賀さんだ」

男は、風間翔のかつての所属チーム――Jリーグのトップクラブ「JFC東京」の下部組織に所属する育成担当だった。

「初めまして、蓮くん。プレー、何試合も見させてもらったよ。正直、衝撃を受けた。きみは……天才だ。でもね、今のままでは世界トップレベルでは通用しない。」

蓮は真剣に聞き入った。

「もし、もっと上の環境に挑戦する気があるなら、うちに来ないか? JFC東京の育成機関で、4年生以下の選抜チームに入ってもらう。君には、特別なトレーニングプログラムも用意するつもりだ」

コーチが静かに背中を押した。

「行ってこい、お前はここにいたら勿体無いレベルの存在だ。その才能に磨きをかけたいなら、行くべきだ。1年生からこの待遇、なかなかあるものじゃないぞ。」

蓮は小さくうなずいた。

「うん。僕、挑戦してみたい……」

1年生にして、風間蓮はJリーグ下部組織という“特別な舞台”に足を踏み入れることになる。

前代未聞の出来事だった。

ただこれは“試練”の始まりでもあった。



「……うそでしょ」

初めて参加した練習で、蓮は衝撃を受けていた。

体格が違う。スピードが違う。
コーチの指示は専門用語だらけ。
ミスをすれば、容赦なく叱責される。

「お前、チビなだけど、何年生なの?」

「1年です」

「マジか……それにしてはすげぇけど……お前パス判断、遅すぎね?」

一つ年上の先輩から、ストレートに指摘された。

(レベルが違う…)

ここは全国から"若き天才たち"が集められたチーム。それぞれが地元では無双状態であったが、ここにくると必ずといっていい程レベルの高さに圧倒される。



その日の帰り道、蓮はシューズ袋をぎゅっと握りしめていた。

グラウンドの端で見ていたコーチ・久賀が、声をかける。

「驚いたか?」

「……はい。ぼく、何もできなかった」

「ここには、“できる奴しかいない”。でもな、その中でも上に行ける奴は、“やめない奴”だ。わかるか?」

蓮は強くうなずいた。

「はい。もっと頑張ります。ぜったいに負けません」



特別プログラムが始まったのは翌週からだった。

朝は、体幹とフィジカルトレーニング。
放課後は週5回の戦術講義と映像学習。
週末は3時間以上の練習試合。
他の子たちがゲームで遊ぶ時間も、蓮は黙々とノートに戦術図を描き続けた。

夢ノートの隣には、新たな「蓮の戦術ノート」が並ぶようになった。



「風間、またボール見すぎだ。全体を見ろ!」

「ポジショニングが浅い! 相手に読まれてるぞ!」

「切り替え遅い! プレス早く!」

怒号が飛ぶ練習環境に、最初は戸惑った。
でも蓮は、逃げなかった。

父の言葉が、いつも胸にある。

「立ち上がることを、やめるな」

泥だらけになりながら、何度も転び、歯を食いしばって練習を重ねる。
ドリブルの癖を矯正するため、1日何百回もターンを繰り返す。
フォーム改善のため、動画で自分の動きを確認し、研究する。

「風間蓮――。こいつ、やっぱりとんでもねぇぞ…」

彼はまだ1年生。

それでも、確かに“世界”へと続く道を、自らの足で切り拓き始めていた。





秋の風が涼しさを帯びてきた10月初旬。
風間蓮がJFC東京ジュニアユースに加入してから、半年が経とうとしていた。

この半年で、蓮は目に見えて変わった。

ドリブルはただ美しいだけでなく、“実用的”になった。
守備の切り替えも早くなり、ポジショニングの意識も格段に上がった。
そして何より――「周囲を見る目」が磨かれていた。

久賀コーチは、蓮の変化をノートにこう記していた。

「この半年で、“自分のサッカー”から“勝つためのサッカー”に変わった」

「天才は、努力を続けたとき、本当の怪物になる」



そして迎えた、U-10の交流大会。
関東各地の育成組織が一堂に集まる、育成関係者が注目する非公式のトーナメント戦。
蓮は本来、1年生。
この大会には出場予定ではなかったが――久賀コーチは、スタッフミーティングで言い切った。

「今の蓮なら、出せる。いや、“出さなきゃいけない”。」



試合前夜。
蓮はいつものように母・美咲と夕食を囲んでいた。

「……明日、試合なんだ。今までで一番、大事な試合」

「うん、知ってるよ。お母さん、朝からお弁当作るからね」

蓮は、ご飯茶碗を置きながら口を開いた。

「……ぼくね、最近毎日考えるんだ」

「なにを?」

「お父さんを超えたいって。お父さんが夢見た“日本のW杯優勝”、ぼくが実現したいって」

美咲は目を見開き、それからふっと優しく微笑んだ。

「翔も、きっと同じことを願ってるわ。蓮が、お父さんを超えていくこと」

蓮は小さくうなずき、夢ノートを机に広げた。
もう何十回、何百回も読み込んだそのノートに、最後にこう書き足した。

「あした、ぼくはうまれかわる。どりょくをしんじて、ゆめをしんじて、ぼくはピッチにたつ」



翌日、JFC東京の紺色のユニフォームに袖を通した蓮は、観客のざわめきの中、ピッチに立った。

「8番、風間蓮! 1年生、ピッチイン!」

アナウンスに会場がどよめく。
だが、蓮は一歩も引かなかった。
全身に血がめぐり、頭の中は冴え渡っていた。

キックオフ直後――
敵陣の中盤で、こぼれ球を拾った蓮は、瞬時に3人の位置を確認し、ワンタッチで前を向いた。

相手のプレッシャーが迫る。

だが――

(今だ)

蓮の右足が閃く。
緩急と重心移動で1人目を抜き、次は左足でボールを半歩引くように浮かせる“トーキックスラローム”。
相手が体勢を崩した隙に、最後の1人を股抜きで突破。

スタンドが一斉に沸き上がる。

「えっ、今の何だ!?」「止められない!」

ペナルティエリアで、蓮は冷静にゴール左隅を狙い――

「決まったぁぁぁ!!」

シュートは美しい弧を描き、ネットを揺らした。

ベンチで、久賀コーチが言葉を失った。

「こいつは……怪物だ」



蓮はこの日、2ゴール1アシスト。
試合は3-0の完勝。

すべてのプレーが繋がった。
積み重ねてきた“努力”と、“才能”のすべてが噛み合った、奇跡のような試合だった。

試合後、ピッチに膝をついた蓮は、青空を見上げながらつぶやいた。

「……お父さん、ぼく……楽しいよ。苦しいこともいっぱいあったけど、全部、サッカーだから、ぼく……」

ふいに涙がこぼれた。

「ぼく、サッカーが、大好きだよ」



蓮のプレーは、スカウト関係者の目に強く焼きつけられた。
“風間翔の息子”から、“風間蓮という一人の才能”へ――彼の名は、初めて独り立ちした。



その夜、夢ノートに新しい1ページが追加された。

「負けて、悔しくて、何度も泣いた。でも、全部サッカーだったから、ぼくは逃げなかった。

そして今日、少しだけ“答え”を見つけた。

僕の夢は、お父さんの夢じゃない。
僕の夢は、僕の夢なんだ。

サッカーで世界一になる。

それが――ぼくの誓い」

蓮はまだ、1年生。
だがその目に宿る光は、すでに“世界”を見つめていた。
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