僕はわがままで 人間を裏切った

しーしい

文字の大きさ
11 / 25
第二章 キアの裏切り

第五節 敗戦処理

しおりを挟む
 転送座は私を魔界の魔王城から、人間界のアンテ城に送り返した。
 そして私が参謀部にある練兵場の庭に倒れ込むのと同時に、転送座は消滅して城下まで響く空間振動を発生させた。

 人間同盟の参加国が設けた多数の小屋掛けの中から、王太子ピーラリオが走ってくる。


 「兄上、申し訳ありません。侵攻部隊は……」


 「大丈夫か、リシャーリス、それは参謀会議で報告しろ。キア・ピアシントは?」

 何と答えれば良いのだろう。キアへのピーラリオの言及には私的な感情が交じる事がある。兄上が彼女の事を、勇者としてそして政治的な婚約者候補として以上に考えているのは確かだった。


 「キアは健在でしたが……魔王との決着は……」

 「無事なのか」

 「……無事です」焦燥したピーラリオの顔に光が差した。


 「そうか……リシャーリス怪我をしているのか、すまない。手当ての者をここに」

 「リシャーリス殿下、今ここに」

 「い! 痛い!」

 呼ぶまでも無く隣まで来ていた医師が左手の傷を触り、私は思わず叫び声を上げてしまった。
 
 「リシャーリス殿下の鎧には燭水晶の切片が埋め込まれています。それをこの様に斬る剣など」

 治療の場を仕切ったのは、医師では無くミレニアの魔法使いだった。いや医師には違いないのだが。

 「分かってるのでしょう。まがい物では水晶剣に太刀打ち出来ないわ」

 「では、これがまさに黄水晶の剣による傷! 新しい知見です」

 クソ医師は、水晶剣という言葉に目を輝かせる。確かに水晶剣を身に受けて生きている者など、ミレニアの記録にもヘリオトスの記録にも存在しない。
 だがその知的好奇心を本人の前でも遠慮しないのが魔法使いという人種だ。

 「私は魔法使いだけど、戦士よ。傷は治せるの?」

 「私は魔法使いで医師です。分かりません。確かな事は何一つ知らないのです……最善は尽くしますよ」

 クソ医師は私が巻いた包帯を剥ぎ取ると、傷を子細に検分し始めた。

 「霜剣リス・セシーランを籠手で受けたのですか。燭水晶に感謝するべきですな、殿下」

 「まあね、臓物肉には勝てたわ。あとシーランだけどね」

 「水晶剣の傷については、まず縫いましょう。まるで斬られた直後の様な新鮮な傷です」

 医師は水晶剣についてはそれ以上言及せずに、その浅いがひたすら痛くて血が止まらない傷を縫い始める。


◇◇◇


 「魔界侵攻部隊前線総指揮官リシャーリス・トノア(王位継承順位二位)・アン・テアノム・ハプタ・ヘリオトスよりの報告をします。人間同盟参加各国と我が国の戦士、九百九十八名が魔界から帰還出来ませんでした。全滅です」

 参謀会議に列席したハプタ王家と人間同盟の指揮官・参謀達は、沈んだ顔をして私の報告を聞いている。

 魔界侵攻を決定して以来、我々は何度か威力偵察を敢行したが、これ程までの損害を被ったのは初めてだ。

 毎回手ひどい被害を受けたが、半分の人員と多くの転送座基台は帰還出来ていた。

 ミレニアの軍監は人目もはばからず机に突っ伏して泣き始める一方、帝国の将軍達は先ほどから会議室の隅で秘密の話し合いをしている。

 人間同盟と言っても、すべての人間国家を網羅している訳では無い。むしろ聖剣と世界の運命に興味がある極一部の国家首脳の集まりであって、多くの人間はその事を知りもしないのだ。

 「私の脱出時点では魔王は健在で、勇者と魔王は剣を床に落として組み合っていました」

 魔王健在のまま、勇者を置き去りに全滅。
 これは事前に想定された最悪の作戦失敗ケースだ。

 「リシャーリス王女殿下、我々人間は滅ぶのですか?」

 「それは、聖剣の勇者であるキア・ピアシントの選択次第です」

 なおも血が滲む左腕と、キアを見捨てた心の傷がともに脈動を伴う痛みとなって私を苦しめる。

 「我々はなんという事をしてしまったのだ、世界の運命がただ一人の意志によって決まるなどと」
 隣国クピスのヘンリード王子が頭をかかえる。クピスはヘリオトスの保護国で、彼は重要な意志決定に参加した訳では無い。

 「……今からでも遅くありません、キア……勇者を救出する部隊を編成して魔界に送り込みましょう」

 私は絞り出すように声を出す。無茶だとは分かっているけれども、それでも私はキアに、助けに行くと約束したのだ。

 「王女殿下、我々には十分な兵力が残っていません。転送座基台てんそうざきだいも残り四基しかありませんし、先導して単独転送座で転移可能な魔法使いは、殿下を含めても数名しかいないのです」

 「閣下待ってください、無理を押してでもやりましょうよ、世界が滅びるかどうかの瀬戸際なんですよ。ただ…ただ…準備のために最低一日、いや半日必要です」

 「そもそも、なんで勇者に聖剣を背負わせてわざわざ魔王退治なんかに行かせたんだ。魔王に献上するようなものじゃないか」

 「なにをいまさら、勇者がこちらで魔王に説得されたり拉致されたりしたらどうするのですか?」

 監視していた偵察隊の報告では、魔王は聖剣が抜かれる前、何度か人間界に来訪しては城下で遊ぶキアと接触している。
 さらに臓物肉が語った事を信じるならば、キアと魔王の接触は城内でもあった事になる。

 「今まさに魔王は勇者を説得しているでしょうな。勇者が魔界に取り残されるのも、人間界で説得されるのも危惧の深刻さは変わらないという事です」

 「少し……伯爵閣下、勇者が負けたと決まった訳ではありませんぞ」
 アンテ城に残したもう一人の副官カーテルが、釘を刺す。

 私は会議が目の前の危機から目を逸らし、言葉遊びを始めた事に激怒した。
 机に両手を叩きつけると、左腕に激痛が走る。集まる視線に私は訴えかける。

 「いい加減にしなさい。今はキアを救う事だけを考えてください。既に済んだ事を蒸し返してどうするのです」

 アンテ城の会議室は重い雰囲気が立ちこめ、だんだんと発言する参加者は減っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...