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第三章 交差
第八節 アンテ城脱出後編
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「僕は人間界の永続では無く、世界の滅びを確定させる事を選びました。それが綺亜という勇者の選択です。他の誰のせいでもありません」
足を掛けてハプタ王を転ばせると、感電の痛みに苦しむ王に輪舞の雷球と、電撃剣をともに振り下した。
「キア、やめて」
リシャーリスの邪魔が入り、ハプタ王は命拾いした。
襲来してきた彼女の弓弧の蒼色火矢を輪舞の雷球との対消滅で回避すると、木陰に隠れる。
「キア、なのよね。薄々、上位魔法が使えるのは知っていたけど」
「そう? ご存じでしたか」
僕は三百億年後の未来でセラシャリスと未来の魔法使い達から上位魔法を習った。
リシャーリスはミレニアの魔法学校首席卒業者だ。教育者でもある彼女の目を誤魔化すのは難しい。未来から戻りアンテ城で魔界侵攻準備に関わりだしてからは、上位魔法はアン・アナアムの塔だけで使用した。
セラシャリスの存在はネイト神の奇跡で消されていても、僕に上位魔法を教えた謎の存在までは消せなかったからだ。特に僕が上位魔法を覚えた理由は、リシャーリスを倒すためだったから察せられる訳には行かなかった。
「唇の動きで、次の句の候補を予想できるわ。キアは上位魔法特有の古い語りを知っている」
魔法戦闘技術の研究で、魔法学校を卒業したリシャーリスには敵わない。
「流石です、殿下」
リシャーリスが動いたのを察知して、若い木立を剣で切り倒す。
『炎華』
襲い来る炎の魔法と逆方向に動いて、操作魔法の詠唱を試みる。
『輪舞の雷球』
『弓弧の蒼色火矢』
意図は察知されて、リシャーリスも操作魔法を唱え直した。
こうなると互いに林の中に隠れられない。
「何をしに来たの? 父上を殺させはしない。私の親よ」
アンテ城要塞部を細かく走る林間の小道に二人とも出て、剣と魔法で対峙した。
「殿下、アンテ城襲撃の意図はありません。陛下を殺めに来た訳では無いのです」
「じゃあ魔王の勇者が飛竜に乗って居城物件を物色にでも? 勝った方は気楽よね」
「カイラル山の紫水晶の剣を取りに来たのです」
「ふーん? ん! 地震? いや衝撃魔法か。あれは魔王の詠唱?」
南側で土煙が立ち、大きな石が転がるような衝撃音が十数秒続く。
レンの試みが成功して要塞部南壁の一部が崩落したのだ。
「綺亜、グレイイン戻って! 脱出する!」
レンの叫び声が、土煙の中から響く。慣れない戦闘に苦労しているグレイインが目を輝かした。続いて何度も衝撃魔法の詠唱が続き、要塞部南壁が西から次々と視界から消えていった。
「魔王と一緒に来たのね。紫水晶の剣はキアの佩剣という事? キアは魔王の……」
グレイインが地響きを立てながら二本の歩脚で走ってきたので、リシャーリスは身を引いた。
「殿下、失礼します」
かろうじて飛竜の鞍金具にしがみつくと、助走を付けたグレイインはそのまま要塞部から身を踊らせた。
「綺亜、魔法! 『破槌の衝撃波』」
「何? 『破槌の衝撃波』」
レンは黄水晶の剣を、そのままアンテ城要塞部に放置した。ぞんざいな扱いは直感に反するが実は問題は無い。水晶剣は気まぐれで勝手に戻ってくる。
水晶剣に反射した円錐状の衝撃波が古い城壁に止めを刺した。要塞下の練兵場にある建物を次々と石と土砂が押しつぶしていく。
さらにグレイインは離陸際の滑空でリシャーリスの執務室を蹴飛ばした。わずかな高度差で練兵場と市街を隔てる壁を飛び越すと大通りを超低空飛行で川へと下り、川沿いに速度を上げながらようやくと高度を得ていった。
「グレイイン、矢は刺さっていないから」
飛行中のグレイインには聞こえないが、それでも意を伝えるために鞍の上でレンが大声を挙げている。
「いたた、剣を捨ててしまった」
鞍の把手金具を登って把踏桿に辿り着く。
輪舞の雷球は牽制のために放出したが、電撃剣は魔法を回収して鞘に収める暇が無かったので剣ごとアンテ城に放棄してきた。
「神授の剣は、綺亜が紫水晶の剣を得るから回収された」
長大で扱いにくい水晶剣と、手頃な鋼の剣では差がある気もするが神意はよく分からない。
「グレイインは?」
「矢が刺さっていると気にしている」
「射られていたけど、刺さっていなかった」
グレイインは稚児達が射掛ける矢など、ものともしなかった。
近衛の弓兵が強化弓を射れば傷付いたかも知れないが、最初に要塞部に辿り着いたのは斥候だ。
「彼女は幼い時から、気が小さいから」
これだけ大きな飛竜と成っても、もって生まれた性格は変わらないのだ。
「そう、ハプタ王陛下とリシャーリス王女殿下と戦った」
僕は先ほどまでの出来事をレンに打ち明ける。
「勝負は付かなかったのね」
「横槍が無ければ王を殺していた」
勇者がヘリオトスの王座に刃を向けたのは初めてでは無いが、実際に手に掛けていたら史上初の出来事になったはずだ。
「それも一つの戦後処理の形。外務卿は頭を抱えるでしょうけど」
「僕の裏切りが、実際に刃を交える形で表出して動揺している」
「老王が己の実力を顧みずに自ら命を危険にさらした。私達は落ちた先がたまたまアンテ城だっただけ」
「そうなのだろうね」
いや、本当は違う。リシャーリスと刃を交えて僕は気分が高揚している。
「お昼を過ぎた。弁当は鞍に入れたから潰れていない。食べましょう」
鞍の荷物入れから、布に包んだお菓子を取り出す。燕麦を砕いて蜂蜜で固めた物だ。
「失敗した。焼いた物を頼めば良かった」
「苦手なの?」
「二十五年間ご飯食べてきたからね」
砕いただけの燕麦は、東京の人間にとっては消化が難しいのだ。
足を掛けてハプタ王を転ばせると、感電の痛みに苦しむ王に輪舞の雷球と、電撃剣をともに振り下した。
「キア、やめて」
リシャーリスの邪魔が入り、ハプタ王は命拾いした。
襲来してきた彼女の弓弧の蒼色火矢を輪舞の雷球との対消滅で回避すると、木陰に隠れる。
「キア、なのよね。薄々、上位魔法が使えるのは知っていたけど」
「そう? ご存じでしたか」
僕は三百億年後の未来でセラシャリスと未来の魔法使い達から上位魔法を習った。
リシャーリスはミレニアの魔法学校首席卒業者だ。教育者でもある彼女の目を誤魔化すのは難しい。未来から戻りアンテ城で魔界侵攻準備に関わりだしてからは、上位魔法はアン・アナアムの塔だけで使用した。
セラシャリスの存在はネイト神の奇跡で消されていても、僕に上位魔法を教えた謎の存在までは消せなかったからだ。特に僕が上位魔法を覚えた理由は、リシャーリスを倒すためだったから察せられる訳には行かなかった。
「唇の動きで、次の句の候補を予想できるわ。キアは上位魔法特有の古い語りを知っている」
魔法戦闘技術の研究で、魔法学校を卒業したリシャーリスには敵わない。
「流石です、殿下」
リシャーリスが動いたのを察知して、若い木立を剣で切り倒す。
『炎華』
襲い来る炎の魔法と逆方向に動いて、操作魔法の詠唱を試みる。
『輪舞の雷球』
『弓弧の蒼色火矢』
意図は察知されて、リシャーリスも操作魔法を唱え直した。
こうなると互いに林の中に隠れられない。
「何をしに来たの? 父上を殺させはしない。私の親よ」
アンテ城要塞部を細かく走る林間の小道に二人とも出て、剣と魔法で対峙した。
「殿下、アンテ城襲撃の意図はありません。陛下を殺めに来た訳では無いのです」
「じゃあ魔王の勇者が飛竜に乗って居城物件を物色にでも? 勝った方は気楽よね」
「カイラル山の紫水晶の剣を取りに来たのです」
「ふーん? ん! 地震? いや衝撃魔法か。あれは魔王の詠唱?」
南側で土煙が立ち、大きな石が転がるような衝撃音が十数秒続く。
レンの試みが成功して要塞部南壁の一部が崩落したのだ。
「綺亜、グレイイン戻って! 脱出する!」
レンの叫び声が、土煙の中から響く。慣れない戦闘に苦労しているグレイインが目を輝かした。続いて何度も衝撃魔法の詠唱が続き、要塞部南壁が西から次々と視界から消えていった。
「魔王と一緒に来たのね。紫水晶の剣はキアの佩剣という事? キアは魔王の……」
グレイインが地響きを立てながら二本の歩脚で走ってきたので、リシャーリスは身を引いた。
「殿下、失礼します」
かろうじて飛竜の鞍金具にしがみつくと、助走を付けたグレイインはそのまま要塞部から身を踊らせた。
「綺亜、魔法! 『破槌の衝撃波』」
「何? 『破槌の衝撃波』」
レンは黄水晶の剣を、そのままアンテ城要塞部に放置した。ぞんざいな扱いは直感に反するが実は問題は無い。水晶剣は気まぐれで勝手に戻ってくる。
水晶剣に反射した円錐状の衝撃波が古い城壁に止めを刺した。要塞下の練兵場にある建物を次々と石と土砂が押しつぶしていく。
さらにグレイインは離陸際の滑空でリシャーリスの執務室を蹴飛ばした。わずかな高度差で練兵場と市街を隔てる壁を飛び越すと大通りを超低空飛行で川へと下り、川沿いに速度を上げながらようやくと高度を得ていった。
「グレイイン、矢は刺さっていないから」
飛行中のグレイインには聞こえないが、それでも意を伝えるために鞍の上でレンが大声を挙げている。
「いたた、剣を捨ててしまった」
鞍の把手金具を登って把踏桿に辿り着く。
輪舞の雷球は牽制のために放出したが、電撃剣は魔法を回収して鞘に収める暇が無かったので剣ごとアンテ城に放棄してきた。
「神授の剣は、綺亜が紫水晶の剣を得るから回収された」
長大で扱いにくい水晶剣と、手頃な鋼の剣では差がある気もするが神意はよく分からない。
「グレイインは?」
「矢が刺さっていると気にしている」
「射られていたけど、刺さっていなかった」
グレイインは稚児達が射掛ける矢など、ものともしなかった。
近衛の弓兵が強化弓を射れば傷付いたかも知れないが、最初に要塞部に辿り着いたのは斥候だ。
「彼女は幼い時から、気が小さいから」
これだけ大きな飛竜と成っても、もって生まれた性格は変わらないのだ。
「そう、ハプタ王陛下とリシャーリス王女殿下と戦った」
僕は先ほどまでの出来事をレンに打ち明ける。
「勝負は付かなかったのね」
「横槍が無ければ王を殺していた」
勇者がヘリオトスの王座に刃を向けたのは初めてでは無いが、実際に手に掛けていたら史上初の出来事になったはずだ。
「それも一つの戦後処理の形。外務卿は頭を抱えるでしょうけど」
「僕の裏切りが、実際に刃を交える形で表出して動揺している」
「老王が己の実力を顧みずに自ら命を危険にさらした。私達は落ちた先がたまたまアンテ城だっただけ」
「そうなのだろうね」
いや、本当は違う。リシャーリスと刃を交えて僕は気分が高揚している。
「お昼を過ぎた。弁当は鞍に入れたから潰れていない。食べましょう」
鞍の荷物入れから、布に包んだお菓子を取り出す。燕麦を砕いて蜂蜜で固めた物だ。
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