時の嵐の中で〜メッセージを受け止めて〜

夕妃

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決裂

本当の敵は

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「正直に答えなさい!私達を見てたのは何故?誰に頼まれてきたの?」
転んだ男を捕まえて、人に見られるもの厄介だと利津と理沙が両腕を掴み、ファーストフードを出て学校の使われていない教室に戻ってきた。
5人で男を囲む。もちろん、ただの女子高生の私達は怖いので、男は教室にたまたまあったロープできつく縛り上げている。
「早く話した方が身の為だと思いますわ。お二方、手の早い方がいらっしゃいますから。ボコボコにされますわよ」
冷静に言う若葉の方が怖いと思う。
「もう、我慢出来ない!あたしは気が短いのよ!殴られたいの?!」
「あたしが先!」
利津と理沙が訳の分からない順番争いをしながら、男に向かって拳を振り上げんばかり。
「いや…それは…」
「だったら、早く言いなさいよ」
葉月が足をダンッと床を鳴らす。
男の顔が凍りつき冷や汗が流れる。
「…わ、わ、わたしは《巫女姫》様の遣いの者。お前達の邪魔を命じられ…ぎゃあ!」
話の途中で、男が叫び、白い霧を上げて消えた。
『おだまりなさい。誰が余計な事を話して良いと言ったのです』
高らかな声が、私達しかいない教室に響く。
振り返ると、着物を着た女の人が立っていた。
この人、誰かに似ているような気がする。

「誰だ?」
理沙が睨むように振り向いて身構える。続くようにみんなが振り向いた。
『ふふっ。初めてお目にかかり申します。わたくし巫女姫と申します』
ふくみ笑を浮かべ、目を細めた女の人は綺麗な絵柄の扇で口元を隠し続けた。
『大人しくなさってらっしゃれば、変わりない日々を送れたものを』
不敵な笑みを浮かべている。一体目的は何?
「どうして、あたし達を狙うのよ」
苛立った口調の利津が、腕を組んで《巫女姫》と名乗る女の人を鋭い眼差しで見つめる。
『それはもちろん、あなた方が《姫巫女》の手助けをなさろうとするからです。《姫巫女》の手伝いをされたらわたくしが困るのです』
表情が崩れない。余裕のある笑みが不気味な印象だ。
「なんだ。結局のところ勝てないから邪魔しに来たって事か」
片手を腰にあて、髪の毛をかき上げる利津。恐れ知らずな事を言う。
「それでしたら、放っておいていいですわね。さてと、男の方も消えてしまいましたし、手紙もなくなってしまいましたわね。どうしましょう」
さらっと言いながら《巫女姫》に背を向ける若葉。
それに釣られて、全員が背を向けた。

私は少しだけホッとしていた。
《姫巫女》の言う通り、5人に手紙の内容は読めなかったから。何度も読み返しては手が震えて眠れなかった。
「手紙、元に戻ったりしないわよね?」
「葉月ー、あれが元に戻ったらすごいよ?」
葉月の言葉に首を傾げる未奈。
『わたくしを無視するでない!後悔する事になるぞえ。その時がくるまで、せいぜい別れを惜しむが良い』
そう言い残して《巫女姫》は姿を消した。
「さて、言ったものの、どうしたもんかね」
理沙が言いながら、男が消えた後に残ったロープに手を伸ばした時…
「わっ!」
私達は揃って声を上げる。
「何?この光!目が…開かない!」
とてつもなく眩しい白い光が私達を包み込んだように感じた。

「どうなってるの?!」
目を開けられた時、私の手に《姫巫女》からの手紙が乗せられていた。あの男に消された手紙が。
「ねぇ、葉月と理沙と未奈は?」
「ここ、どこですの?」
利津の言葉に顔をあげると、真っ白な空間に私と利津と若葉の3人だけがいた。
「美沙希、利津…『石』が…光ってますわ」
若葉が私のネックレスを指差す。
「え?」
慌ててネックレスを外してみる。利津も合わせてピアスを外し、手の平に乗せた。
「ホントだ。若葉のリングも光ってる」
3人でジャンケンポンみたいに手を出して確認する。
「そう言えば、この『石』の事もわかってないね」
「《姫巫女》様とお会いしてみたいですわね」
「確かに。うちら夢で見ただけだし」

《『石』を持つ者、揃いて『石』の力なりけり。『石』を持つ者、他の者なりて『石』の力ならず。》
真っ白な空間に、こだまするように優しい声が響いた。
「姫?」
すかさず問いかける。いつの間にか視線の先に綺麗な着物を着た髪の長い《姫巫女》が立っていた。
その表情は優しくもあるが、明らかに憔悴していた。
《美沙希、来てくださってありがとう。利津、若葉も呼び掛けに応じてくださってありがとう》
そう言って、優しい微笑みを浮かべた。
《《巫女姫》の狙いは、わたくしの持つこの『石』の力なのです。この力を自分の物にしようとしているのです》
疲れ切ったような切なそうな表情を浮かべた《姫巫女》は力なく微笑んだ。
《せっかく来てくださったのに、お呼びしておいて申し訳ないのですが、わたくしは今、長い時間こうしていられないのです。ただ、それだけお伝えしたくてお越し願いました。またお目にかかる事がございましょう。3人ともご無事で》
そう言って、すぅっと姿が見えなくなる。
「《姫巫女》様!」
利津と若葉が姫を呼んだ時、また真っ白な光に包まれて気がつくと学校の正門の前にいた。
辺りはすっかり暗くなっている。
腕時計を見ると、19時を指していた。
もちろん葉月と理沙、未奈の3人の姿はない。
スマホの受信音がなる。
見ると葉月から連絡が入っていた。

【急に消えちゃってなにがあったの?無事なの?
しばらく待ってたけど、とりあえず帰るね。見たら連絡してよ?】

ひとまず私達も帰る事にした。
帰りながら葉月に返信する。
【心配かけてごめんね。気が付いたら、さっき学校の門の前だった。】
それだけ打って返信する。
姫と会った事は言わずにいた。
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