SWEET TIMES

杜乃日熊

文字の大きさ
1 / 1

SWEET TIMES

しおりを挟む
「やっほー、今朝も元気にタッテルかな?」

 そんな下ネタとともに俺は目覚めた。声の主は俺の体に馬乗りになって、俺の顔を覗き込んでいる。それは知らない女だった。
 一体どこからどうやって俺の部屋へ入ってきたんだろうか。
 それと、気のせいだろうか。部屋はまだ薄暗いのに、その女の顔には不自然に光沢があるように見える。俺の頭がまだ寝ぼけているというのだろうか。
 ひとまず、この女の正体を突き止めねばなるまい。

「誰だアンタは。あと朝から何て発言をしてくれてんだよ。タッテても正直に言うわけないだろ。それから起き上がれないから早くどいてくれ」

 そう言って俺は乗りかかっている女ごと体を起き上がらせる。
 きゃー、という間延びした声とともに女は俺の足元へ倒れ込む。

「ちょっと、乱暴なことしないでくださいよ。女の子は大切にしないといけないんですから。雑な扱いをしてると、一生童貞のままで魔法使いになっちゃいますよ」

「余計なお世話だ! 見ず知らずのアンタに言われる筋合いは無いわ! ていうか、誰だよアンタは!」

 女のマイペースな態度に苛立ちを覚える。
 俺の問いに対して、女は体を起こして俺を真っ直ぐに見つめて爽やかな笑顔を見せる。ん? やはりどこか違和感があるような……。

「初めまして、私の名前はショコラといいます。あなたの精を吸い尽くしに来た悪魔です♪」

 ……一瞬だけ思考が停止してしまう。
 悪魔だって? 精を吸うということはサキュバスだろうか。現実味は無いが、確かに人間とは違う雰囲気ではある。でも、先ほど感じた違和感はどうもそれではない気がする。
 ショコラと名乗る悪魔の体を一通り見渡す。
 パッと見た感じは普通の女の子だ。だが服は着ておらず、全裸である。
 本来なら顔を背けるところだが、なぜか見ても恥ずかしい気持ちにならない。そういえば、さっきから思ってることがあったんだが。

「何ですか、そんなにまじまじと見つめちゃって。そんな目で見られたら下半身がうずうずとしてきちゃうじゃないですか」

「なぁ」

 恥ずかしがっているショコラを無視して、俺は疑問を投げかける。

「さっきから気になってたんだが、何でお前の体、そんなに茶色いんだ?」

 そう、彼女の体は頭から足まで全てが真っ茶色だった。それも南国で日焼けした人みたいな健康的な色ではなく、もっと無機質で生気のない色だ。それでいて、表面はツルツルとした感じに見える。
 すると、あぁ、と言ってショコラはうっすらと笑みを浮かべる。

「私の体は少々特殊でして。全身がチョコでできているんです。ほら、何となくカカオの甘い匂いがしてきませんか?」

 するとショコラは自分の右手を俺の方に向ける。
 俺は彼女の手の匂いを嗅ぐ。確かにチョコレート特有の甘い匂いがする。その匂いを嗅いだせいか、グゥ~、と腹の虫が鳴く声が聞こえた。

「お腹が空いたんですか? だったらどうぞ私をお食べになってください。朝からチョコを食べるのはちょっと胃に重たいかもしれませんが」

 ショコラは上げた右手を俺の口元へ近づける。未だに甘い匂いが漂ってくる。
 だが、俺は彼女の手から顔を離す。

「い、いやちょっと待てよ。体がチョコでできているからといっても、俺が食べてしまったらアンタも不便なんじゃないか? ○ンパンマンの顔みたいに体を取り替えないといけないのか?」

「いえ、それについては心配いりません。後で魔力を補給すれば体は自然と再生します。なので、あなたが精を提供してくだされば問題ありません」

 それは俺からすれば大問題ではないのか。
 今朝の食事(しかも朝からチョコだ)をもらう代わりに精を吸われるのとでは対価として釣り合ってない。それだったら今から下へ降りて、ちゃんとした朝食を食べた方が断然いい。

「さぁ、遠慮なさらずに私を召し上がれ♪」

 ショコラは再度右手を俺に押し付けて、無理矢理食べさせようとする。
 て、やめろ! お前を食べれば俺の命が危ぶまれるだろうが! そんな命懸けで朝食を食べようだなんて微塵みじんも思えない。
 俺は口を閉じて何とか抵抗する。
 十数秒の格闘の後、なかなか食べないことに気づいたショコラは左手で俺の顎を掴む。そして下へ引っ張って、俺の口を開こうとする。

「もう、遠慮なんてしなくていいんですよ。あなたが私を食べてくだされば、既成事実を逆手に取ってあなたの精を奪うことができるのですから……!」

 彼女は変わらず笑顔のままだ。しかし、その顔はやや引きつっている。徐々に化けの皮が剥がれて、下心が顔に出始めている。
 どんな手段を使ってこようが絶対に食べないからな!
 だが、俺の必死の抵抗も虚しく、俺の口が開いてしまう。そこへショコラの人指し指が侵入してくる。
 舌にはチョコの滑らかな感触が伝わる。そして、掴んだままの左手で顎を閉じさせて、パキ、と小気味いい音が鳴る。
 あぁ、とうとう悪魔の果実を食べてしまった。俺の心の中は絶望で溢れているというのに、口内はとても甘くて美味しいチョコの味で満たされていく。今まで食べたことの無いほどの未知の味が舌から脳へと染み渡る。
 こう言うのは悔しいが、とても病みつきになる味だった。もっと食べたいと思ってしまう。そんな俺の心中を察したのか、ショコラは先ほどの人懐っこい笑顔とは違う、妖艶な笑みを浮かべる。

「どうですか。もっと欲しくなってきたでしょう? いいですよ、もっと食べてくださっても。そうやってあなたが私に虜になってくれた方が、より上質な精に有り付けますからね」

 その言葉を聞いて、俺はショコラの右手を力強く掴み取る。
 これ以上はいけないと思いつつも、どうしても誘惑に打ち勝つことが出来ない。脳内は既にチョコを食べたいという渇望で充満している。

「もう我慢できない……! アンタの腕ごと丸かじりしたい! もっとそのチョコを味わわせてくれ!!」

「だから何度も言ってるじゃないですか。変に意地を張らなければ、この快楽はいつまでも続きます。さぁ、赤子が母乳を吸うように、あなたも一心不乱に私の手にむしゃぶりつきなさい……!」

 そうして、俺は何も考えることなくショコラの手に齧り付く。彼女の艶やかな指や手首を辿って、さらに前腕、二の腕へと食を進める。
 胃もたれなんかは毛頭感じることは無かった。只々ただただその甘い快楽を求めて無我夢中にチョコを噛み砕く。
 この後の自分の末路なんて考える気にもなれない。舌から伝わり、脳へ届く甘味はまだまだ流れていき──────















 ──────そこで目が覚める。
 俺はハッと我に帰る。ここはいつも通りの俺の部屋だ。ベッドにはあのチョコ型の悪魔の姿はない。だが、口の中にはあの甘いチョコの味が確かに残っている。
 あれが夢か現実かは分からない。けれども、もう一度あの悪魔に会いたいな、と思う自分がいることに気づき、思わず笑みがこぼれてしまう。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

筆下ろし

wawabubu
青春
私は京町家(きょうまちや)で書道塾の師範をしております。小学生から高校生までの塾生がいますが、たいてい男の子は大学受験を控えて塾を辞めていきます。そんなとき、男の子には私から、記念の作品を仕上げることと、筆下ろしの儀式をしてあげて、思い出を作って差し上げるのよ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

処理中です...