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第1章 王国と最強魔導士

第4話 最強魔導士と竜の過去

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 全身に痛みが走り意識が遠のいていく。そんな時こそ走馬灯が頭の中で見えてくる。
 あれは数年前。俺様と弘樹が出会って間もない頃。俺様たちは王国軍の兵士として王国を護っていた。
 その関係は良きライバルとして競いながら成長し合いながら日々を過ごしていた。
 いつまでも変わらないとそう思っていた。だが、あの時にあれが起こるまでは......。
 ある日。燃え盛るお城の中を俺様は必死に走る。焦っていて無我夢中だった。
 ある部屋に到着すると、血だらけで倒れている少女と、血痕が付着している刀を右手に持っている弘樹がいた。
 想像を越えた出来事に俺様は開いた口が塞がらない。

「弘樹ぃぃぃぃぃぃ!!! お前ぇぇぇ!!!」

 咄嗟に体が動き、弘樹に近づき、左手で胸ぐらを掴む。

「どうしてだ!? 何故、俺様の妹を!!!」

「落ち着け。お前の妹は......」

 そんな言葉に聞く耳を持たず、右拳に炎を纏い振るう。
 弘樹は黙ったまま飛ばされて壁にぶつかる。瓦礫を退かし立ち上がる。

「フレドラ、俺の話を聞け!」

「言い訳を聞くわけねぇだろ!!!」

 俺様は弘樹に向かって飛び出す。

「お前の妹は神雷によって殺されたんだよ!」

 その言葉で俺様は立ち止まる。

「そうよ。この子は神雷くんによって命を絶たれたのよ」

 その声に振り向くと俺様の妹を抱っこする金髪で左サイドテールの女性がいた。彼女は弘樹の正妻であるミハルだ。
 この国では一夫多妻が認められている。

「弘樹......ほんとなのか?」

「あぁ」

 その後の俺様は何も言えなかった。何故、妹は殺された? 神雷は何者なのか?
 頭の中がぐちゃぐちゃして感情が分からなくなっている。
 そんな中、雨が降りだし、俺様の悲しみを表しているようだ。
 俺様たちは移動して妹を火葬してもらい、我が妹が好きだった場所に遺骨を埋葬してお墓を建てる。
 それから数ヵ月後に弘樹は神雷と闘い、封印に成功したらしい。俺様は悲しみのあまり、自分の城から出なかった。
 そこへミハルが1人の女の子を連れてきた。その子を見た俺様は驚愕する。
 我が妹と瓜二つなのだ。5歳ぐらいの子で名はまだない。

「フレドラくん。この子をお願いできるかな?」

「どういう事だよ!?」

「実はね......」

 ミハルは彼女の事を全て話してくれた。その話を聞いた後で断われなかった。
 こうして俺様は彼女にエンドラと名付け、育てる事になった。これがエンドラとの出会い。
 現在、俺様は目を覚ますと天井が見える。
 ここはどこだ?

「目が覚めたみたいですね」

 声が聞こえた方へ目線をやるとエリナがいた。お前がいるとか、俺様は死ねなかったのかよ......くそ!

「貴方がやろうとしていた事をマスターがさせると思います? それであの子が喜びますか?」

 何も言えない。確かにあいつが喜ぶとは思えない。
 それでも俺様は......。

 戦艦の甲板に私エンドラと、リカ王女と金髪少女の3人いた。
 光の柱が消えていくのが見える。何でだ? まさか、兄上に何かが起こったのか!?

「お前たち......何をした?」

「それは俺に聞く事だな」

 弘樹の野郎が現れた。その隣には赤髪の少女も一緒だ。

「父上!?」

「パパ!? どうしてここに?」

 弘樹がここにいるって事は兄上が負けたのか......我らの願いは叶わないのか。

「兄上は負けたのか......」

 私は震え声になっている。兄上が負けるなんてありえない!
 最強のドラゴンだぞ! ドラゴンの中の王だ! そんな兄上だからこそ負けるはずがない。

「エンドラ、フレドラは俺に負けた。あいつは......」

 弘樹の目を見れば分かる。奴が嘘をついているとは思えない。
 私は膝から崩れ落ちお尻と両手を地につける。

「私は......兄上を護るのが私の努めなはず......それなのに私は! 竜の王の妹として情けない」

 弘樹は私に近づき、そっと抱き締める。

「お前はフレドラの妹だ。ドラゴンではない人間だとしても竜の王の妹なんだよ!!!」

 私は気付いた時には涙が流れていた。あれ? どうして涙が出るのだろう?
 何故、私は心が苦しいのだろう?

「俺は何でも言ってやる! 世界中がお前を人間ではなく、ドラゴンさえもないと言うなら、フレドラの妹であり、ドラゴンであり、人間だと! だからよ。エンドラ、お前は華林の守護者として生きて生きて生き続けろ!!! そんな奴らをお前の炎でぶっ飛ばせ!!!」

 そうか。弘樹は知っていたのか......私がドラゴンでもなく、人間でもない。そのせいで虐められ、迫害を受けた事を。
 それでも兄上は私を妹として受け入れてくれた。兄上のために闘ってきたが、全ては私自身のためだった。
 ずっと苦しく辛かった私をこの男は......何だよ......涙が止まらないではないか。
 私はしばらく泣いて、心に誓った。この世界を変えてやると。私のように辛く、苦しんでいる人々を助けるため、そして私自身のために!

 こうしてフレドラとの闘いを終えた俺たちはリカが住まう城へ戻ってきた。
 フレドラは病院にて療養しているが、処罰が下された。エンドラとの面会を禁止され、退院後は一般兵士の教育者として生きるようにと命じられた。エンドラに対しての処罰は華林の守護者としてこの世の安寧のために闘う事を命じた。
 リカの判断は論争が起きそうだがな。あれだけの反逆行為をしたのだ。死刑にしてもおかしくはない。
 だが、リカは死刑を望まない。命に対して、俺より真剣に向き合っている。命の尊さ、儚さを知っているからこそ殺す事に躊躇してしまう。リカらしい処罰だと言えよう。
 町の門。俺とリカ、リリカ、華林、エンドラがいる。

「良いのか? リカ。お前までついて来なくて良かろう」

「何を言う父上! 私も見てみたいのだ! この世界の闇を」

「良いじゃん! パパ。リカと一緒に旅がしたいよ!」

「たく、仕方ないなぁ。無理はするなよ、リカ」

「うむ!」

 分かっているのか? こいつ。

「さぁー出発するわよ! 向かうは......何処に行くんだっけ?」

 華林以外全員ずっこける。
 頼もしいと思ったらこれかよ。
 さて、俺たちは旅に出る。行き先なんて分からない。華林を世界の王にさせる適当な旅だ。
 だがそれが良い。行き先を決めず、行き当たりばったりで旅するのが楽しいもの。
 これからどんな事が俺たちを待ち受けるのだろう。この五人なら大丈夫だろう。
 何だって世界の王とその守護者たちだから。
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