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第一章 悪魔を喰らうもの
episode6 宿屋木漏れ日にて①
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(どうやら終わったみたいだね)
太郎丸が耳をパタパタと忙しなく動かす姿を見て、リアムは殲滅が完了したことを悟った。
「まもなく戻ってくるぞ」
太郎丸の言葉に頷きつつ、リアムは自分と太郎丸が読んでいた本をカバンに収め、一際大きな欠伸をひとつする。
立ち上がりお尻に付着した泥を丁寧に払っていると、所在なく辺りをウロウロしていた戦士長が足早で近づいてきた。
「おい、やけに静かになったぞ」
「決着がついたということです」
「は? もうあの悪魔を倒したのか?」
「もう、というほど早くもないと思うのですが……」
リアムは懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。討伐に要した時間はおよそ十分強。相手はカテゴリーαの悪魔。彼女にしては時間がかかったほうだ。
「本当に倒したのか? 殺られたんじゃないのか?」
畳みかけるように言って迫る戦士長の体を、リアムは無言のうちに両手で押し除けた。
「疑うことは悪いことではありませんが、今回に限っては時間の浪費です。──ほら、噂をすればですよ」
リアムの視界には青色の血に染まったアリアが映る。振り返った戦士長はアリアの姿を見て息を呑み、アリアがリアムの前に立つ頃には不自然なほどに間隔を空けていた。
「終わっ……た」
「ご苦労様」
言いながらリアムはアリアの全身に素早く目を配る。
(怪我は……していないな)
ダゴン程度の悪魔にアリアが遅れを取るとも思えないが、それでも些細な傷を見逃せば今後の討伐に影響を及ぼさないとも限らない。
常に彼女の体調を万全にしておくこともリアムにとって重要な仕事のうちのひとつだ。
「リアム、これ」
アリアが手にした小瓶を差し出してくる。受け取り中身を確認したリアムは、カバンの中の収納ケースに小瓶を納めた。
どうやら今回の霊核は質が良さそうだと顔を上げれば、アリアが何か言いたそうにこちらを見ている。
思わず苦笑いを浮かべたリアムが手招きすると、アリアはリアムの前でそそくさと中腰になった。
「頑張ったね」
リアムが絹糸のような白金の髪を優しく撫でれば、アリアはほんわかとした笑みを浮かべる。これは今に始まったことではなく、悪魔を討伐したあとにアリアが要求するご褒美だった。
「じゃあ宿屋に帰ろうか」
「うん、かえ……る」
「吾輩はなにか甘いものを所望する」
「はいはい」
率先して前を歩く太郎丸に続いて宿屋に向かって歩き始めれば、先程とは打って変わり今度は恐る恐る近づいてくる戦士長を目にする。
リアムは戦士長が口を開く前に話しかけた。
「我々は明後日この町を発つ予定です。それまでに報酬を用意しておいてください」
「それはわかった。それよりも悪魔の死体はどうするんだ? さっき引き取るようなことを言っていただろう」
戦士長はダゴンが暴れていた方角に渋面を向けて言う。戦士長が依然としてリアムたちと一定の距離を保ち続けているのは、おそらく呪いの噂を気にしているのだろう。
ちなみに噂の出どころはリアムたちが所属している組織の流したデマが発端となっている。どこにでも興味本位や怖いもの見たさでで近づいてくる輩は一定数いるため、悪魔やデモンズイーターに対して過度な干渉をさせないための処置である。
今も昔も人は呪いなどというなんら実態がないものに対して畏怖を抱く。それはとても滑稽なことだとリアムは思いながら戦士長の質問に答えた。
「ご心配には及びません。組織の人間が悪魔を回収に来る手はずになっています」
「組織の人間?」
リアムの言葉に戦士長は眉を大いに顰める。大方これ以上町に厄介者が現れたら困るといった感じだ。
「悪魔の躯を専門に回収する人間です。アリアと同じ黒のマントを身に着けているのですぐにわかると思います」
悪魔討伐を依頼された時点で、リアムは組織に遺骸の回収を指示していた。組織内で〝骸衆〟と呼ばれる彼らは白の仮面で常に顔を隠している。
いかにも怪しい風体をしているので、普通の感覚をもつ者なら気味悪がって近づこうとはしないだろう。
「その……俺たちも手伝ったほうがいいのか?」
言葉とは裏腹に断られるのを期待しているのがまるわかりで、リアムは内心で苦笑した。
(だったら言わなければ言いのに……まぁ立場上言わざるを得ないんだろうけど)
そう思いつつ、リアムは表面上は笑顔を作って答えた。
「お気遣いはありがたいですが、気持ちだけ頂いておきます。回収員は他の人間が関わるのを好みませんから。ですので戦士の方たちはもちろん、住民の方々にも近づかないように配慮していただけると助かります」
「悪魔の死体なんかに好き好んで近づく奴なんかいねぇと思うが……その件は任せてくれ」
言った戦士長は心底ホッとしたような表情を見せる。存外この戦士長は顔に感情が出やすいと思いながらも礼を言い、最後にリアムはこう付け加えた。
「報酬の金貨は聖金貨でお願いします」
「聖金貨だと⁉」
「さすがに五百枚の金貨を持ち歩くのは大変ですから」
一般には流通していない聖金貨を用意するのはそれなりに骨が折れるだろうが、五百枚と五枚とでは持ち運ぶのに天と地ほどの差がある。
一転して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる戦士長を尻目に、リアムたちは定宿にしている〝宿屋木漏れ日〟へと向かった。
太郎丸が耳をパタパタと忙しなく動かす姿を見て、リアムは殲滅が完了したことを悟った。
「まもなく戻ってくるぞ」
太郎丸の言葉に頷きつつ、リアムは自分と太郎丸が読んでいた本をカバンに収め、一際大きな欠伸をひとつする。
立ち上がりお尻に付着した泥を丁寧に払っていると、所在なく辺りをウロウロしていた戦士長が足早で近づいてきた。
「おい、やけに静かになったぞ」
「決着がついたということです」
「は? もうあの悪魔を倒したのか?」
「もう、というほど早くもないと思うのですが……」
リアムは懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。討伐に要した時間はおよそ十分強。相手はカテゴリーαの悪魔。彼女にしては時間がかかったほうだ。
「本当に倒したのか? 殺られたんじゃないのか?」
畳みかけるように言って迫る戦士長の体を、リアムは無言のうちに両手で押し除けた。
「疑うことは悪いことではありませんが、今回に限っては時間の浪費です。──ほら、噂をすればですよ」
リアムの視界には青色の血に染まったアリアが映る。振り返った戦士長はアリアの姿を見て息を呑み、アリアがリアムの前に立つ頃には不自然なほどに間隔を空けていた。
「終わっ……た」
「ご苦労様」
言いながらリアムはアリアの全身に素早く目を配る。
(怪我は……していないな)
ダゴン程度の悪魔にアリアが遅れを取るとも思えないが、それでも些細な傷を見逃せば今後の討伐に影響を及ぼさないとも限らない。
常に彼女の体調を万全にしておくこともリアムにとって重要な仕事のうちのひとつだ。
「リアム、これ」
アリアが手にした小瓶を差し出してくる。受け取り中身を確認したリアムは、カバンの中の収納ケースに小瓶を納めた。
どうやら今回の霊核は質が良さそうだと顔を上げれば、アリアが何か言いたそうにこちらを見ている。
思わず苦笑いを浮かべたリアムが手招きすると、アリアはリアムの前でそそくさと中腰になった。
「頑張ったね」
リアムが絹糸のような白金の髪を優しく撫でれば、アリアはほんわかとした笑みを浮かべる。これは今に始まったことではなく、悪魔を討伐したあとにアリアが要求するご褒美だった。
「じゃあ宿屋に帰ろうか」
「うん、かえ……る」
「吾輩はなにか甘いものを所望する」
「はいはい」
率先して前を歩く太郎丸に続いて宿屋に向かって歩き始めれば、先程とは打って変わり今度は恐る恐る近づいてくる戦士長を目にする。
リアムは戦士長が口を開く前に話しかけた。
「我々は明後日この町を発つ予定です。それまでに報酬を用意しておいてください」
「それはわかった。それよりも悪魔の死体はどうするんだ? さっき引き取るようなことを言っていただろう」
戦士長はダゴンが暴れていた方角に渋面を向けて言う。戦士長が依然としてリアムたちと一定の距離を保ち続けているのは、おそらく呪いの噂を気にしているのだろう。
ちなみに噂の出どころはリアムたちが所属している組織の流したデマが発端となっている。どこにでも興味本位や怖いもの見たさでで近づいてくる輩は一定数いるため、悪魔やデモンズイーターに対して過度な干渉をさせないための処置である。
今も昔も人は呪いなどというなんら実態がないものに対して畏怖を抱く。それはとても滑稽なことだとリアムは思いながら戦士長の質問に答えた。
「ご心配には及びません。組織の人間が悪魔を回収に来る手はずになっています」
「組織の人間?」
リアムの言葉に戦士長は眉を大いに顰める。大方これ以上町に厄介者が現れたら困るといった感じだ。
「悪魔の躯を専門に回収する人間です。アリアと同じ黒のマントを身に着けているのですぐにわかると思います」
悪魔討伐を依頼された時点で、リアムは組織に遺骸の回収を指示していた。組織内で〝骸衆〟と呼ばれる彼らは白の仮面で常に顔を隠している。
いかにも怪しい風体をしているので、普通の感覚をもつ者なら気味悪がって近づこうとはしないだろう。
「その……俺たちも手伝ったほうがいいのか?」
言葉とは裏腹に断られるのを期待しているのがまるわかりで、リアムは内心で苦笑した。
(だったら言わなければ言いのに……まぁ立場上言わざるを得ないんだろうけど)
そう思いつつ、リアムは表面上は笑顔を作って答えた。
「お気遣いはありがたいですが、気持ちだけ頂いておきます。回収員は他の人間が関わるのを好みませんから。ですので戦士の方たちはもちろん、住民の方々にも近づかないように配慮していただけると助かります」
「悪魔の死体なんかに好き好んで近づく奴なんかいねぇと思うが……その件は任せてくれ」
言った戦士長は心底ホッとしたような表情を見せる。存外この戦士長は顔に感情が出やすいと思いながらも礼を言い、最後にリアムはこう付け加えた。
「報酬の金貨は聖金貨でお願いします」
「聖金貨だと⁉」
「さすがに五百枚の金貨を持ち歩くのは大変ですから」
一般には流通していない聖金貨を用意するのはそれなりに骨が折れるだろうが、五百枚と五枚とでは持ち運ぶのに天と地ほどの差がある。
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