貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

文字の大きさ
8 / 33

07 残念な親睦

しおりを挟む
 人数の多い家庭がそれぞれ二家族ずつ空き家に入り、少人数や身内がいる場合は同居と決まる。
 村長の家も人が増え、寂しいのが嫌いなケガ人は痛みも忘れ、話に夢中だ。
 手狭になる家からは男達がそれぞれ追い出され、空き小屋にまとめて寝泊りすることに。
 それはそれで男同士でバカ騒ぎができる事に気が付いたらしく、二日もすると文句は出なくなった。

「じゃ、俺今日男小屋に行くわ。」
「父さん、ぼくも一緒に泊りに行く!」
「おっ。いいねぇ。毛布は持っていくんだぞ。」
「うん。泊りの準備してくる。」
「ちょっと! 子供に聞かせられない話はしないでよね!」
「大丈夫大丈夫。みんなそこらへんは、まるで貴族の様だぜ?」
「なによそれ、何一つ信用できないじゃない!」

 女達は旦那の愚痴であっという間に結束が固まる。
 子供達はおずおずと仲良くなっていく。
 秘密基地作りに夢中になる男達を止めるのも、子供の役目だ。

「酒があればもっと盛り上がるんだがなぁ。」
「向こうでは村長に取られっちまってなぁ。くそっ。」
「親睦を深めるってのはやっぱ酒が無いとな。」
「薄くてもいいから飲みてぇー。」
「蜂蜜酒、まだ出来上がってないんだよ。」
「あ、バカっ子供の前で言うなよ!」
「あっ。坊主ども、母ちゃん達には内緒だぞ!」

 騒ぎすぎやこっそり酒を飲むという行動により、村の男達は孫や子供達の前で揃って、嫁達に怒られるという残念な親睦を掴めつつ、あっという間に移住の為に町へ出る日となった。
 村のあちこちで別れを惜しむ声がする。
 主に泣いているのは、何故か男性が多い。

「もー、子供達の前でみっともないわねー。」

 そう言って、泣き続けるトムを慰めているマリーは、仕方ないわねと笑顔で溜息をつく。

(義姉さんの好みが理解できない。)
(いや、分からなくても、ありがたいのには変わりない。)
(確かにね。)

 ひそひそと小声で話す、トムの弟サムと妹チェルシー。
 この二人は運よく、未だ現役狩人である父親の怖い顔は遺伝しなかった。

「兄ちゃん達、元気でね。お父さんとお母さんをよろしくね。」
「ああ。お前も、元気でな。体を大切にな。」
「グスッ……。頑張れよ。いや、頑張りすぎるなよ!」
「兄ちゃん。」
「兄ィ……。」
「「泣き過ぎ。」」

 怖い顔の大元は、娘夫婦と一緒に村を出る孫娘達に、新しい弓と矢を泣きながら渡している。
 移住先は恐らく町だろうと思われる。
 弓は使わないのでは? と周囲は考えたが、無粋なので誰も触れていない。

「落ち着いたら連絡するわ。」
「おう、引っ越し先の確保、頼むぞ。」
「まっかせて! この目利きのチェルシー様にお任せあれ!」
「お、おう。」

 サムは妹の、幼いころからのよく分からない自信にタジタジになる。
 上手くいってもいかなくても揺るがない、根拠のない自信はどこから来るのか。
 知らない所に家族で行くのだから、これ位前向きでも良いだろうと、ふっと笑顔になる。

「頼りにしてるぞ。」

 ポンっと、チェルシーの旦那の肩を叩き小さな声で「頑張れ。」と付け加える。
 肩をすくめ、困ったように頷く旦那のアレン。

 町でチェルシーに一目ぼれされ、強引に村に連れてこられた彼は少しだけ押しに弱い。
 孤児院で育ち、細工師見習いとして安い賃金で働いていたアレン。
 初めての挨拶の時、恋人の父親と兄の姿を見ても怖がらなかった、とても貴重な人間の一人だ。
 結婚が決まったのは、一瞬で家族の一員として受け入れられ、いつの間にか家まで用意されていて断れなかったせいかもしれない。

「いつものように何とかなっちゃうよ、きっと。」

 諦めたように答え、娘達に張り付いて大泣きしている義理の父を、義理の母と一緒に剥がしにかかる。
 すっかり実の親として見ているのか、その言動や行動には遠慮は無い。
 実際見た目は優し気で細く、顔の作りも似てもいないのだが、男三兄弟としても違和感がない位には、この一族に馴染んでいる。
 周囲もすっかり、昔からいたように扱っている。

 バタバタしているうちに、娘達の涙はとっくに引いた様だ。
 仲の良いいとこたちともあっさりした別れで、もしかすると「もう会えない」の意味がわからないのかも知れない。
 もしくは、大泣きしている爺さんと熊の様な叔父の二人に、呆れているのか。

 あちこちで似たような光景が見受けられたが、やっと出発の準備が整った。
 村からは独身の若者四人と(やや)若い夫婦が六組、隣村からは一組が出発することになった。
 子供を連れての旅になるが、ここよりは医者や薬師もいる商会の同行の方が安心だ。

 荷馬車の御者は、馬の扱いの上手い鍛冶屋が毎回務めていた。
 今回は、自身の息子夫婦が移住組となった。
 職人としてはまだまだだが、見習いは卒業しているので独り立ちも兼ねている。

 アルバートは気持ちだけでもと言い、少額だがそれぞれに旅の資金を渡した。
 そのあと、町までの道行に選ばれた若者五人と鍛冶屋に、職を探すふりをしつつ様子を見て来て欲しいと頼み込む。
 三日間ほど広範囲に、村から出て仕事を探していると、言いまわってきてくれと。
 帰りは村に戻るのを見られない様に、こっそり帰ってくるよう言われ村人達は緊張した面持ちになる。
 頼まれた方は不思議がり、理由を尋ねたが、首を振るアルバート。
 帰ってきたら、詳しく説明すると約束し送り出す。

 村人達は二度と会えないであろう、若い世代のうしろ姿を木々の間から見送る。
 その姿が見えなくなっても、ただ、立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...