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聖女選定 9
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「明日の聖獣様との話し合いの後、他の聖女様達と合流して頂きますが、仮聖女様達は、まぁ、追々ですね。」
内心ぐぬぬと唸っているベロニカを、何も気が付いてないようにスルーするペルーシャ。
ここで突っ込んだら、また黒歴史の波動に囚われてしまう。
なぜなら彼もまた黒歴史の持ち主だから、知っているのです。
誰もが通る道なので、一々突っ込みはしない。
「純粋に怖がっている仮聖女様に対しては、聖獣様方も気を使って少しづつ、距離を縮めていらっしゃるのですよ。」
「問題がそれ以外の方々に対してでして。」
美人が憂いを帯びた顔で、ふうっと溜息をつく。
でも、手元がダイナミックに羊を撫でまくっているのであまり色っぽくない。
「対応が聖獣様ごとにバラバラなので、その都度説明するしかないので、追々とさせて頂きますね。」
「はぁ。」
「は、はい!」
自分も撫でたいと考えながら、なんとなく返事を返す者。
やはり聖獣様は優しい方々なんだなぁと、気合を入れつつ返事をする者
温度差が激しい二人。
「何か気になる事はありますか? なければこの後は、部屋に案内いたしますが。」
「は、はい、あります。引退聖女様についてです。結婚後と仰いましたが、あ、あの清くなくなっても、聖女として働けるのですか?」
真っ赤になりながらも、勇気を出したマーガレット。
「あ、そうだね」と言わんばかりの顔になったベロニカ。
加護が無くても、この二人は分かりやすいと思ったペルーシャ。
うっとりし続けている白モコメリノ。
「ええ、もちろんですよ。」
真面目な顔になり、二人が恥ずかしがらない様にきちんと答える事を、意識して話始めた。
「知性ある生き物の営みとして、聖獣様は幸せな結婚を推奨されていらっしゃいます。」
二人の顔を交互に見ながら、言葉選びが間違っていないか用心しながら続ける神官。
「聖女様が選んだ方が、相性の良い相手だと聖獣様が判断した場合、喜んでお付き合いを勧められます。」
「なにより結婚後の、お子様の出産を楽しみにしている聖獣様も多いんです。その生まれた子供が気に入れば、その場で加護をお渡しになる聖獣様もいらっしゃいます。」
真面目だが、その行動は真面目なのかどうなのかわからなくなる。
うっとりしすぎの白モコメリノは、もはや聞いていない。
「神殿長が生まれてすぐに加護を貰った、子供の一人ですよ。」
「まあ! すごい!」
「本当! 素敵ですね!」
キャッキャと無邪気に喜ぶ二人。
もう少しだけ丁寧に補足を入れておく用心深い神官。
あけすけだと断定されたのは、もしかして悔しかったのかもしれない。
「神殿長のお母様に当たる引退聖女様は近くにお住まいです。父親に当たる方は神殿騎士ですよ。この方は現役ですので、そのうちお会いになると思います。」
ニコニコと頷く二人に、やりきった気持ちの一人。
うっとりが過ぎて眠りそうなのが一頭。
「他にございますか? 今でなくても今後、側にいる者に聞いて頂いても大丈夫ですよ。」
「聖女様には二人づつ侍女がつきます。交代で当たりますが、気の合うものがいれば話し合って専属にする事も可能です。」
「あと、外から呼ぶこともできますが、少々審査が必要になります。すぐにご希望に沿う事は難しいので、そこはご了承ください。」
外から侍女は呼ぶつもりはないと、二人は神官に告げた。
質問も今は特に無いとなり、それでは部屋へと移動することになった。
ペルーシャは腰に吊り下げていた袋から、ふたたびベルを取り出した。
先ほどとは違い、今度はゆっくりとした音色を響かせる。
りーん、りーん、りーん。
軽やかな鈴の音が広がる。
ドアノックが聞こえ、すぐさまキリっと上体を起こした白モコメリノが「めぇー」と返事をする。
先ほどとは違う侍女達が入室し、まずは聖獣へと挨拶をし、聖女、神官へと続けて挨拶を行う。
三人と一頭は立ち上がり、ベロニカとマーガレットは侍女の先導について部屋の外に出る。
部屋に残る神官と聖獣に、ドアの前でまた明日と挨拶を交わす。
「めぇー。」
「ではまた明日。『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』も『明日を楽しみにしている』と仰っていますよ。」
くいっと頭を差し出した聖獣に、二人は笑顔でぽふりっと手を乗せそっと撫でる。
「はい! 今日はありがとうございました。大好きです。」
「はい。素敵な時間をありがとうございました。頑張ります。」
幸せの時間だ。
うっとりと撫でられる聖獣とうっとりねっとりと撫でるベロニカ。
ゆっくりと壊れ物に触れる様に、優しく撫でるマーガレット。
その二人と一頭を、微笑ましく見つめる神官と侍女達。
短い別れの挨拶ナデナデが終わる。
名残惜しそうに振り返り手を振る二人と、無事に顔合わせが終わりほっとした神官と聖獣。
元の部屋に戻り、夕食までの甘い全力のマッサージの時間が始まる。
外へのガラス戸は目いっぱい開いているので、二人っきりではない。と言う事にしておこう。
しばらく長い廊下を歩いた後、ベロニカとマーガレットはドアの位置が近い隣同士の部屋に案内された。
夕食は一緒に食べようと約束し別れる。
まずは暖かいお茶で一息入れて、モコモコを思い出してこっそりニヤニヤしよう。
顔に出さない様に用心しているベロニカさん、侍女さん達は加護持ちですよ?
内心ぐぬぬと唸っているベロニカを、何も気が付いてないようにスルーするペルーシャ。
ここで突っ込んだら、また黒歴史の波動に囚われてしまう。
なぜなら彼もまた黒歴史の持ち主だから、知っているのです。
誰もが通る道なので、一々突っ込みはしない。
「純粋に怖がっている仮聖女様に対しては、聖獣様方も気を使って少しづつ、距離を縮めていらっしゃるのですよ。」
「問題がそれ以外の方々に対してでして。」
美人が憂いを帯びた顔で、ふうっと溜息をつく。
でも、手元がダイナミックに羊を撫でまくっているのであまり色っぽくない。
「対応が聖獣様ごとにバラバラなので、その都度説明するしかないので、追々とさせて頂きますね。」
「はぁ。」
「は、はい!」
自分も撫でたいと考えながら、なんとなく返事を返す者。
やはり聖獣様は優しい方々なんだなぁと、気合を入れつつ返事をする者
温度差が激しい二人。
「何か気になる事はありますか? なければこの後は、部屋に案内いたしますが。」
「は、はい、あります。引退聖女様についてです。結婚後と仰いましたが、あ、あの清くなくなっても、聖女として働けるのですか?」
真っ赤になりながらも、勇気を出したマーガレット。
「あ、そうだね」と言わんばかりの顔になったベロニカ。
加護が無くても、この二人は分かりやすいと思ったペルーシャ。
うっとりし続けている白モコメリノ。
「ええ、もちろんですよ。」
真面目な顔になり、二人が恥ずかしがらない様にきちんと答える事を、意識して話始めた。
「知性ある生き物の営みとして、聖獣様は幸せな結婚を推奨されていらっしゃいます。」
二人の顔を交互に見ながら、言葉選びが間違っていないか用心しながら続ける神官。
「聖女様が選んだ方が、相性の良い相手だと聖獣様が判断した場合、喜んでお付き合いを勧められます。」
「なにより結婚後の、お子様の出産を楽しみにしている聖獣様も多いんです。その生まれた子供が気に入れば、その場で加護をお渡しになる聖獣様もいらっしゃいます。」
真面目だが、その行動は真面目なのかどうなのかわからなくなる。
うっとりしすぎの白モコメリノは、もはや聞いていない。
「神殿長が生まれてすぐに加護を貰った、子供の一人ですよ。」
「まあ! すごい!」
「本当! 素敵ですね!」
キャッキャと無邪気に喜ぶ二人。
もう少しだけ丁寧に補足を入れておく用心深い神官。
あけすけだと断定されたのは、もしかして悔しかったのかもしれない。
「神殿長のお母様に当たる引退聖女様は近くにお住まいです。父親に当たる方は神殿騎士ですよ。この方は現役ですので、そのうちお会いになると思います。」
ニコニコと頷く二人に、やりきった気持ちの一人。
うっとりが過ぎて眠りそうなのが一頭。
「他にございますか? 今でなくても今後、側にいる者に聞いて頂いても大丈夫ですよ。」
「聖女様には二人づつ侍女がつきます。交代で当たりますが、気の合うものがいれば話し合って専属にする事も可能です。」
「あと、外から呼ぶこともできますが、少々審査が必要になります。すぐにご希望に沿う事は難しいので、そこはご了承ください。」
外から侍女は呼ぶつもりはないと、二人は神官に告げた。
質問も今は特に無いとなり、それでは部屋へと移動することになった。
ペルーシャは腰に吊り下げていた袋から、ふたたびベルを取り出した。
先ほどとは違い、今度はゆっくりとした音色を響かせる。
りーん、りーん、りーん。
軽やかな鈴の音が広がる。
ドアノックが聞こえ、すぐさまキリっと上体を起こした白モコメリノが「めぇー」と返事をする。
先ほどとは違う侍女達が入室し、まずは聖獣へと挨拶をし、聖女、神官へと続けて挨拶を行う。
三人と一頭は立ち上がり、ベロニカとマーガレットは侍女の先導について部屋の外に出る。
部屋に残る神官と聖獣に、ドアの前でまた明日と挨拶を交わす。
「めぇー。」
「ではまた明日。『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』も『明日を楽しみにしている』と仰っていますよ。」
くいっと頭を差し出した聖獣に、二人は笑顔でぽふりっと手を乗せそっと撫でる。
「はい! 今日はありがとうございました。大好きです。」
「はい。素敵な時間をありがとうございました。頑張ります。」
幸せの時間だ。
うっとりと撫でられる聖獣とうっとりねっとりと撫でるベロニカ。
ゆっくりと壊れ物に触れる様に、優しく撫でるマーガレット。
その二人と一頭を、微笑ましく見つめる神官と侍女達。
短い別れの挨拶ナデナデが終わる。
名残惜しそうに振り返り手を振る二人と、無事に顔合わせが終わりほっとした神官と聖獣。
元の部屋に戻り、夕食までの甘い全力のマッサージの時間が始まる。
外へのガラス戸は目いっぱい開いているので、二人っきりではない。と言う事にしておこう。
しばらく長い廊下を歩いた後、ベロニカとマーガレットはドアの位置が近い隣同士の部屋に案内された。
夕食は一緒に食べようと約束し別れる。
まずは暖かいお茶で一息入れて、モコモコを思い出してこっそりニヤニヤしよう。
顔に出さない様に用心しているベロニカさん、侍女さん達は加護持ちですよ?
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