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聖女と聖獣と神官 2
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「明日ですか? そういえば今日の顔合わせには、クマさんいませんでしたね。」
精霊ちゃんが、こてんと小首を傾げて話に加わる。
その後ろにちょこちょこと、ピッタリとついて回る大きな白いカタマリ。
『そうなのヨー。ダアリンは今日は狩りの日で、明日にならないと帰ってこないの、寂しいワ。』
「顔合わせの日ぐらいは休めば良いのに、あの子は真面目だからな。」
『ネー。でもでもっ! そんなところも素敵なのヨー♡』
キャッとばかりに、むき出しの爪と分厚い両手で顔を押さえる、乙女な仕草の『ベルトワール』嬢? いや氏?
見ようによっては可愛いかも、しれない。
少なくともベロニカは「可愛い」と思ってしまった様子。
口元に手を添えて頬を染めているマーガレットも、同じように感じたらしい。
「明日が楽しみです。『ベルトワール』様の奥様に、ぜひお会いしたいですわ。」
「わたしもお会いしたいです! リリー様『ベルトワール』様、ご一緒しても宜しいですか?」
『もちろんヨ! きっとダアリンも喜んでくれるワ!』
「ああ、本当にそうだな。怖がられる事が多いから、会いたいと言ってくれるのは嬉しいだろう。」
キャッキャッとはしゃぐ一頭を、微笑ましく見守る一同。
どうやらこのクマさんは、見た目と違い愛され系の様だ。
そのクマに、小さ、くもないイタチが走り寄り、その体を駆け上がる。
頭の上にちょこんとつかまり、大きなリボンを得意げに揺らし新人達に話しかける。
『あのね『ベルトワール』は、私の親友なのよ! 本当は今日も、お揃いのリボンをつけるつもりだったの!』
『そうなの、お揃いにしたかったワ。でも、混乱しちゃうと困っちゃうから、ネ。』
「『ベルトワール』は、雄だが、リボンをつけると勘違いされるだろう? 驚かれるのは不本意だから、今日は着けないで会う事にしたんだ。」
リリーがクスリと笑いながら説明してくれた。
『ベルトワール』の頭の上で『テッセン』がひょこひょこ動くたびに、ふわりふわりと揺れるリボン。
小さな親友が落ちない様に、動きを止めた大きなクマ。
どちらもワクワクしているのが、何となく伝わってくる。
「今回は二人がすぐに、受け入れてくれて良かったよ。ティーの時は、しばらく混乱させてしまったからね。」
リリーの視線と言葉を受けて、ばつが悪そうに肩をすくめて見せるクレマティス。
どうやらお揃いのリボンは、彼女がつけているのだろう。髪色と同じ青紫のリボンが襟もとで揺れている。
『うん! ティーにちゃんと説明したら、わかってくれたの。『ベルトワール』は男の子だけど、可愛いんだよって!』
「確か、「おとめん」か。男性が乙女でも良いと言う事だろう。いい言葉だな。」
『テッセン』とリリーが嬉しそうに、照れている灰色熊を褒める。
『今日から『ベルトワール』は、「おとめん」だねー!』
『うふふふふ。乙女だなんて、嬉しいけど恥ずかしいワー。』
『の、のう。「メンズ」について、もうちょっと聞いてもよいかの?』
話の切れ目に『バサナテーパサン』が、ベロニカへおずおずと話しかけてくる。
もっと聞きたいのを、頑張って配慮してくれたらしい。
意外といじらしいお爺ちゃんである。
「あ、はい。メンズですね。『バサナテーパサン』様。」
さて、どうやって和製英語を説明したものかと、悩むベロニカ。
まずは和製からかー。そうすると、さっき質問された「ニツホン」に行きつくわけだけど。
にっぽん、もしくは、にほん の自国での古い名前が 倭っていうか和でー。
漢字も説明しなきゃなー。和で作られた外国の……。
いや、ちょっと違うな……。
難しい顔でどう説明するか、頭の中でつらつらと考えていく。
ある程度まとまった所で、言葉にする。
「まずは『バサナテーパサン』様のご質問の「ニツホン」からになりますが……。」
『よいよい。良く分かった。できれば「漢字」や「英語」、あとは「日本」の歴史の事も、いつかは話して欲しいのう。』
「あっ!(やっ! 筒抜けだった!)」
『とりあえずは「メンズ」は男性を表している言葉で、深い意味はなさそうじゃのぅ。ふむふむ』
『ベロニカは面白い国にいたのじゃな。気が向いたら、ハイジにも教えて欲しい。』
あわあわするベロニカを慰めるように、そっとベロニカの肩に頭を押し付ける。
肉球をプニプニされるより、オデコかアゴ下を撫でて欲しいハイジだ。
『慣れるまでは戸惑うじゃろうが、我らに気に入られた者として諦めてくれ。』
申し訳なさそうな声とちょびっと揺れる尻尾の『バサナテーパサン』が、慰めにならない慰めを伝える。
『ハイジはベロニカと話せるのは嬉しい。だから、加護を嫌がらないで欲しいのじゃ。』
少しだけしょんぼりと話ながらも、アゴだけではなく顔全体もグイグイと撫でられるハイジに「ありがとう」の気持ちを込めて笑顔を浮かべる。
その横では『スノウィワールド』と、声を出さずに会話するマーガレット。
どうやら「考えが全部伝わるのが少し恥ずかしいのは、どうしたらよいのか」と、尋ねているが。
その恥ずかしさが良く分からない『スノウィワールド』は、答えあぐねている。
一部ほんわかした空気が漂っているが、追加のお茶菓子を運ぶ侍女さん達は忙しくてそれどころではない。
主にミーナとアイリスの、二人の口と手が原因だ。
精霊ちゃんが、こてんと小首を傾げて話に加わる。
その後ろにちょこちょこと、ピッタリとついて回る大きな白いカタマリ。
『そうなのヨー。ダアリンは今日は狩りの日で、明日にならないと帰ってこないの、寂しいワ。』
「顔合わせの日ぐらいは休めば良いのに、あの子は真面目だからな。」
『ネー。でもでもっ! そんなところも素敵なのヨー♡』
キャッとばかりに、むき出しの爪と分厚い両手で顔を押さえる、乙女な仕草の『ベルトワール』嬢? いや氏?
見ようによっては可愛いかも、しれない。
少なくともベロニカは「可愛い」と思ってしまった様子。
口元に手を添えて頬を染めているマーガレットも、同じように感じたらしい。
「明日が楽しみです。『ベルトワール』様の奥様に、ぜひお会いしたいですわ。」
「わたしもお会いしたいです! リリー様『ベルトワール』様、ご一緒しても宜しいですか?」
『もちろんヨ! きっとダアリンも喜んでくれるワ!』
「ああ、本当にそうだな。怖がられる事が多いから、会いたいと言ってくれるのは嬉しいだろう。」
キャッキャッとはしゃぐ一頭を、微笑ましく見守る一同。
どうやらこのクマさんは、見た目と違い愛され系の様だ。
そのクマに、小さ、くもないイタチが走り寄り、その体を駆け上がる。
頭の上にちょこんとつかまり、大きなリボンを得意げに揺らし新人達に話しかける。
『あのね『ベルトワール』は、私の親友なのよ! 本当は今日も、お揃いのリボンをつけるつもりだったの!』
『そうなの、お揃いにしたかったワ。でも、混乱しちゃうと困っちゃうから、ネ。』
「『ベルトワール』は、雄だが、リボンをつけると勘違いされるだろう? 驚かれるのは不本意だから、今日は着けないで会う事にしたんだ。」
リリーがクスリと笑いながら説明してくれた。
『ベルトワール』の頭の上で『テッセン』がひょこひょこ動くたびに、ふわりふわりと揺れるリボン。
小さな親友が落ちない様に、動きを止めた大きなクマ。
どちらもワクワクしているのが、何となく伝わってくる。
「今回は二人がすぐに、受け入れてくれて良かったよ。ティーの時は、しばらく混乱させてしまったからね。」
リリーの視線と言葉を受けて、ばつが悪そうに肩をすくめて見せるクレマティス。
どうやらお揃いのリボンは、彼女がつけているのだろう。髪色と同じ青紫のリボンが襟もとで揺れている。
『うん! ティーにちゃんと説明したら、わかってくれたの。『ベルトワール』は男の子だけど、可愛いんだよって!』
「確か、「おとめん」か。男性が乙女でも良いと言う事だろう。いい言葉だな。」
『テッセン』とリリーが嬉しそうに、照れている灰色熊を褒める。
『今日から『ベルトワール』は、「おとめん」だねー!』
『うふふふふ。乙女だなんて、嬉しいけど恥ずかしいワー。』
『の、のう。「メンズ」について、もうちょっと聞いてもよいかの?』
話の切れ目に『バサナテーパサン』が、ベロニカへおずおずと話しかけてくる。
もっと聞きたいのを、頑張って配慮してくれたらしい。
意外といじらしいお爺ちゃんである。
「あ、はい。メンズですね。『バサナテーパサン』様。」
さて、どうやって和製英語を説明したものかと、悩むベロニカ。
まずは和製からかー。そうすると、さっき質問された「ニツホン」に行きつくわけだけど。
にっぽん、もしくは、にほん の自国での古い名前が 倭っていうか和でー。
漢字も説明しなきゃなー。和で作られた外国の……。
いや、ちょっと違うな……。
難しい顔でどう説明するか、頭の中でつらつらと考えていく。
ある程度まとまった所で、言葉にする。
「まずは『バサナテーパサン』様のご質問の「ニツホン」からになりますが……。」
『よいよい。良く分かった。できれば「漢字」や「英語」、あとは「日本」の歴史の事も、いつかは話して欲しいのう。』
「あっ!(やっ! 筒抜けだった!)」
『とりあえずは「メンズ」は男性を表している言葉で、深い意味はなさそうじゃのぅ。ふむふむ』
『ベロニカは面白い国にいたのじゃな。気が向いたら、ハイジにも教えて欲しい。』
あわあわするベロニカを慰めるように、そっとベロニカの肩に頭を押し付ける。
肉球をプニプニされるより、オデコかアゴ下を撫でて欲しいハイジだ。
『慣れるまでは戸惑うじゃろうが、我らに気に入られた者として諦めてくれ。』
申し訳なさそうな声とちょびっと揺れる尻尾の『バサナテーパサン』が、慰めにならない慰めを伝える。
『ハイジはベロニカと話せるのは嬉しい。だから、加護を嫌がらないで欲しいのじゃ。』
少しだけしょんぼりと話ながらも、アゴだけではなく顔全体もグイグイと撫でられるハイジに「ありがとう」の気持ちを込めて笑顔を浮かべる。
その横では『スノウィワールド』と、声を出さずに会話するマーガレット。
どうやら「考えが全部伝わるのが少し恥ずかしいのは、どうしたらよいのか」と、尋ねているが。
その恥ずかしさが良く分からない『スノウィワールド』は、答えあぐねている。
一部ほんわかした空気が漂っているが、追加のお茶菓子を運ぶ侍女さん達は忙しくてそれどころではない。
主にミーナとアイリスの、二人の口と手が原因だ。
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