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聖女と聖獣と神官 6
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(あ、尺八の音。)
キャクタスの持つ武骨なこん棒は、まるで尺八のようなどこか懐かしさを感じる音色。
椅子に座ったまま、身長の半分程の尺八を吹く。
イメージとしてはじっくり落ち着いた音色だったのに、思ったいたより軽やかで高い音。
曲のせいかもしれないが、身体が横にひょいひょいと揺れてしまう。
演奏するキャクタスも楽しそうに、観客を見ながら体を揺らす。
そして同じ様な長さの、箒の柄ほどの太さの横笛を『美しき音色を愛でるホリディ・ボニータ』が立ったまま演奏する。
軽い足取りでステップを踏みながら、低く甘い笛の音を響かせる。
(この音、聞いたことがある。なんだっけ……。)
二人? は、一番盛り上がる新年の祝いの曲を選んだようだ。
祝いの席でこの曲が始まると、平民達は焚火台の周りや広い場所に出て思い思いに踊る。
貴族達は儀式や宴会等で、ダンスが始まる合図としてお馴染み。
人によっては体のムズムズが止まらない。
この踊りだけは苦手ない人はいない。
リズムに合わなくても、人の足を踏んでしまっても、それも踊りの表現の一つとしてゆるーく許される。
案の定アイリスとミーナ、リリーとティーがペアを組んで踊り始めた。
小さくクルクルとお互いが回りながら、手を差し出しては場所を変える。
そこかしこでお仕着せの白い聖女服のスカートが、ふわりふわりと広がる。
それぞれに色とりどりの流したままの髪やまとめ髪が、体の動きと風にサラサラフワフワと揺れる。
全員が元貴族令嬢だけあって、芝生の上でも優雅でやや複雑な足さばきも上品に、クルクルと回って見せる。
『テッセン』は『ベルトワール』のゆっくりと動かす両腕の上をぴょんぴょんと飛び回り、揃って笑い声をあげている。
腕が上がると、両足をそろえぴょんと飛び移り、体を左右に動かす。
下がっていく腕から、また上がっていく反対側へと飛び移る。
『ベルトワール』は上半身を揺らさない様に、足元はステップを踏む。
時々『ベルトワール』が、ゆっくりと回転するのが、『テッセン』のスリルポイントらしい。
回り終わると、腕の上で両手を上げ下げして喉をコロコロと鳴らして得意そうにする。
『ポンちゃん』はその二頭とハイジの周りをタシタシと走り回り、楽し気に体を上下させている。
忙しい。
見てるだけで忙しい。
伏せからの後ろ脚だけの立ち上がり、そして勢いあまってゴロゴロと横に転がる。
ビックリしたとばかりに、ハイジに走り寄りアピールしてまた走り出す。
ハイジと『スノウィワールド』『バサナテーパサン』は、頭と尻尾をゆらゆらと揺らして曲に聞き入っている。
時々目の間に来る『ポンちゃん』に、頷いて走るさまを見守る。
甘党トラは、皿まで舐め始めている。
マーガレットは舞い上がりすぎて、胸の前で両手を組んだまま。
侍女達は揃って手と足を止め、演奏を聞き入っている。
身を乗り出し、体が揺れているのはご愛敬。
(ああ、インドの笛。なんだっけ、バーンスリーだっけか。)
こちらの楽器も、前世の楽器と似ている様な気がしていた。
どこも考えつくのは同じなんだろうなぁと、深く考えないでいたけども。
どこかで誰かが、向こうを懐かしんで作ったのかもしれない。
こちらの曲はアップテンポと言えど、向こうとは速さが違う訳で。
あれほど聞き慣れていた電子楽器の音色は、もう思い出の中でしか聞けない。
大音量のハイスピードハイテンポ、光の洪水のような照明が混ざりあった、懐かしい歌手やバンドの映像。
これが無いと生きていけないと思っていたスマホも、無いまま生きてる。
懐かしさと切なさと、祝い曲のムズムズと嬉しさ。
混ざりすぎて、胸がいっぱいで。
鼻がツンと痛く、目の奥が熱くなって涙が溢れそうになる。
目の前で演奏している、白い日本猿に見える『美しき音色を愛でるホリディ・ボニータ』様。
ぼやけて見えるのが、神々しさを一層感じる形になる。
(ああ、ハヌマーン。横笛は別の神様のアトリビュート、だった気がするけど。)
習性なのか、無意識なのか。
インドのヒンドゥー教、猿の神様ハヌマーンを連想し手を合わせて拝んでしまう。
神仏習合の歴史は長かったからね、仕方ないね。
隣に座るマーガレットも、似たようなポーズだから目立たない。
こちらは目の前で物凄い演奏を聞いてしまったことによる、感謝の祈りだ。
但し、脳内独白は垂れ流し。
幸い誰も聞いてない。
演奏者の二人?以外は。
キャクタスはこの二人が踊り出したら、自分の勝ち。
悲しくて泣き出したら、負け。
勝手に勝負内容を決めて、更に煽る様に音を大きくする。
そして笛を吹きながら、白いまつげに囲まれた金色の瞳の主は優しくベロニカを見ている。
彼女にとっても、ベロニカの連想した名前は懐かしいものだったから。
昔々、幼い頃の楽しい思い出。
眠る前に聞く、元の世界の昔話や、神話。
面白くって、ドキドキした冒険のお話。
名付けてくれたあの人の記憶。
*アトリビュート 神様や聖人が持つ特徴的な物。動物だったりもする。
今風に砕いて表現すると、「属性」って言うと誰かに怒られる気がする。
四星球=悟空 サトシ=ピカチュウ ヤタガラス=神武天皇 的な?
キャクタスの持つ武骨なこん棒は、まるで尺八のようなどこか懐かしさを感じる音色。
椅子に座ったまま、身長の半分程の尺八を吹く。
イメージとしてはじっくり落ち着いた音色だったのに、思ったいたより軽やかで高い音。
曲のせいかもしれないが、身体が横にひょいひょいと揺れてしまう。
演奏するキャクタスも楽しそうに、観客を見ながら体を揺らす。
そして同じ様な長さの、箒の柄ほどの太さの横笛を『美しき音色を愛でるホリディ・ボニータ』が立ったまま演奏する。
軽い足取りでステップを踏みながら、低く甘い笛の音を響かせる。
(この音、聞いたことがある。なんだっけ……。)
二人? は、一番盛り上がる新年の祝いの曲を選んだようだ。
祝いの席でこの曲が始まると、平民達は焚火台の周りや広い場所に出て思い思いに踊る。
貴族達は儀式や宴会等で、ダンスが始まる合図としてお馴染み。
人によっては体のムズムズが止まらない。
この踊りだけは苦手ない人はいない。
リズムに合わなくても、人の足を踏んでしまっても、それも踊りの表現の一つとしてゆるーく許される。
案の定アイリスとミーナ、リリーとティーがペアを組んで踊り始めた。
小さくクルクルとお互いが回りながら、手を差し出しては場所を変える。
そこかしこでお仕着せの白い聖女服のスカートが、ふわりふわりと広がる。
それぞれに色とりどりの流したままの髪やまとめ髪が、体の動きと風にサラサラフワフワと揺れる。
全員が元貴族令嬢だけあって、芝生の上でも優雅でやや複雑な足さばきも上品に、クルクルと回って見せる。
『テッセン』は『ベルトワール』のゆっくりと動かす両腕の上をぴょんぴょんと飛び回り、揃って笑い声をあげている。
腕が上がると、両足をそろえぴょんと飛び移り、体を左右に動かす。
下がっていく腕から、また上がっていく反対側へと飛び移る。
『ベルトワール』は上半身を揺らさない様に、足元はステップを踏む。
時々『ベルトワール』が、ゆっくりと回転するのが、『テッセン』のスリルポイントらしい。
回り終わると、腕の上で両手を上げ下げして喉をコロコロと鳴らして得意そうにする。
『ポンちゃん』はその二頭とハイジの周りをタシタシと走り回り、楽し気に体を上下させている。
忙しい。
見てるだけで忙しい。
伏せからの後ろ脚だけの立ち上がり、そして勢いあまってゴロゴロと横に転がる。
ビックリしたとばかりに、ハイジに走り寄りアピールしてまた走り出す。
ハイジと『スノウィワールド』『バサナテーパサン』は、頭と尻尾をゆらゆらと揺らして曲に聞き入っている。
時々目の間に来る『ポンちゃん』に、頷いて走るさまを見守る。
甘党トラは、皿まで舐め始めている。
マーガレットは舞い上がりすぎて、胸の前で両手を組んだまま。
侍女達は揃って手と足を止め、演奏を聞き入っている。
身を乗り出し、体が揺れているのはご愛敬。
(ああ、インドの笛。なんだっけ、バーンスリーだっけか。)
こちらの楽器も、前世の楽器と似ている様な気がしていた。
どこも考えつくのは同じなんだろうなぁと、深く考えないでいたけども。
どこかで誰かが、向こうを懐かしんで作ったのかもしれない。
こちらの曲はアップテンポと言えど、向こうとは速さが違う訳で。
あれほど聞き慣れていた電子楽器の音色は、もう思い出の中でしか聞けない。
大音量のハイスピードハイテンポ、光の洪水のような照明が混ざりあった、懐かしい歌手やバンドの映像。
これが無いと生きていけないと思っていたスマホも、無いまま生きてる。
懐かしさと切なさと、祝い曲のムズムズと嬉しさ。
混ざりすぎて、胸がいっぱいで。
鼻がツンと痛く、目の奥が熱くなって涙が溢れそうになる。
目の前で演奏している、白い日本猿に見える『美しき音色を愛でるホリディ・ボニータ』様。
ぼやけて見えるのが、神々しさを一層感じる形になる。
(ああ、ハヌマーン。横笛は別の神様のアトリビュート、だった気がするけど。)
習性なのか、無意識なのか。
インドのヒンドゥー教、猿の神様ハヌマーンを連想し手を合わせて拝んでしまう。
神仏習合の歴史は長かったからね、仕方ないね。
隣に座るマーガレットも、似たようなポーズだから目立たない。
こちらは目の前で物凄い演奏を聞いてしまったことによる、感謝の祈りだ。
但し、脳内独白は垂れ流し。
幸い誰も聞いてない。
演奏者の二人?以外は。
キャクタスはこの二人が踊り出したら、自分の勝ち。
悲しくて泣き出したら、負け。
勝手に勝負内容を決めて、更に煽る様に音を大きくする。
そして笛を吹きながら、白いまつげに囲まれた金色の瞳の主は優しくベロニカを見ている。
彼女にとっても、ベロニカの連想した名前は懐かしいものだったから。
昔々、幼い頃の楽しい思い出。
眠る前に聞く、元の世界の昔話や、神話。
面白くって、ドキドキした冒険のお話。
名付けてくれたあの人の記憶。
*アトリビュート 神様や聖人が持つ特徴的な物。動物だったりもする。
今風に砕いて表現すると、「属性」って言うと誰かに怒られる気がする。
四星球=悟空 サトシ=ピカチュウ ヤタガラス=神武天皇 的な?
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