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聖女と聖獣と神官 9
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夕食前に部屋の移動をすると言われ、聖獣様達と先輩達へ挨拶して室内に入る。
入る前に、『スノウィワールド』がごね始めた。
明日まで別々なのは嫌だと。
ハイジや他の精霊がなだめるが、ごねるごねる。
確かにこのままでは体が大きすぎて、入れない。
『マーガレットや、『スノウィワールド』を何があっても守ってやって欲しいが、良いか?』
「え? 『スノウィワールド』様を守る、とは? とても御強くて凛々しくて頼りがいがあって……。」
『わかった、わかったが。『スノウィワールド』が小さくなれば、中に入れる。だがな。』
シブシブといった感じで、話すハイたん。
どうやら小さくなると問題があるらしい。
『小さくなるとな、思考が幼くなってしまうのじゃ。『スノウィワールド』は元が大きいゆえ、我ほどの。んん、ハイジと同じくらいでも童並みの判断力となる。故に警戒心が緩むのじゃ。』
「ハイたん、警戒って言っても、神殿内だし。危ない事ってないよね?」
『……。』
そっと目を逸らすハイたん。
『スノウィワールド』も、目を逸らす。
他の聖獣達もだ。
なんなん? どういうことだってばよ。
リリーが、聖獣様達の代わりに伝えてきた。
「危ないんだ。可愛すぎて。それこそ部屋に閉じ込めて、ずっと眺めていたくなるほどに。」
物凄く辛そうに、リリーがこぶしを握り締め強く目をつぶる。
アイリスが話を続けて受け持った。
「わたくしも『スィートスィートスィートハニー・ティガット』が大き過ぎるので小さくなってもらった事があるのです。」
「ですが、もう。もう小さくなってはいけません!」
『お菓子に囲まれて眠って、目が覚めてもお菓子の山が目の前にあった。あれはいいものだ。』
「それが駄目なのです。『スィートスィートスィートハニー・ティガット』あれは駄目ですわ!」
甘党トラに説教をはじめるアイリスと、周囲の聖獣達。
いや、『テッセン』だけは、自分の小ささを自慢している。
言うほど小さくもないけどね。
『良い、一度小さくなった『スノウィワールド』を見てみるが良い。その代わり、わ、ハイジが駄目だと思ったら元に戻す。良いな?』
「はいっ! 『スノウィワールド』様はわたしが必ずお守りいたします!」
『いや、様子見だからの。今だけ様子見じゃ。すぐに戻すぞ。』
『マーガレット、我を頼むぞ。』
「はい!『スノウィワールド』様!」
低く威厳のある声で『スノウィワールド』がマーガレットに頼み込む。
その様子に、ほんの少し。いやかなり不安が胸をよぎる。
「ハイたんや……。」
『ベロニカよ、そなたはハイジにつかまっていると良い。動かない様に押さえておく。』
「マジか……。(どんだけー)」
わちゃわちゃしているうちに、『スノウィワールド』の体がぼんやりと揺らぐ。
スーッと体が小さくなって、小さくなって……。
「ちっちゃ!」
ぼんやりと霧がかって姿が良く見えないが、ハイジより小さく『テッセン』並みに縮む『スノウィワールド』。
ハイたんが慌てたように叫ぶ。
『こら、『スノウィワールド』よ! 小さくなりすぎじゃぞ!』
『皆の者! 決して、決して動くでないぞ!』
すぐさま『バサナテーパサン』が前に出て注意を飛ばす。
楽しそうな『テッセン』『ポンちゃん』と、だらけている甘党トラ以外に緊張が走った。
きゅーぶぎゅー『だっこー』
霞が晴れると、白くつぶらな瞳のウリ坊が、ちょこんと「いた」。
白いふわふわな体に、黒いラインが何本も見える。
ちまっとした尻尾が、一生懸命に振られて、きゅーきゅーと可愛らしい声で鳴いている。
黒く光るちっちゃな瞳が、濡れたように潤み上を見上げ……。
「……激ヤバイ……。」
「あ、あの。『スノウィワールド』様、なの?」
困惑したマーガレットの声が聞こえた。
ハイたんの体にしっかりとしがみついていたのに、力が抜けていくのがわかる。
周囲から、小さくつぶやく声が次々と波の様に聞こえる。
「「可愛い。」」
「「かわいい。」」
ゴクリと唾をのむ音が聞こえたのは、自分のものなのか誰かのものなのか。
庇護欲をそそりすぎる、小さな生き物が目の前に。
『だっこー、だっこー。』
トテトテと小さな短い脚でマーガレットに近寄るウリ坊。
ハイたんが前足で、前に行かない様に捕まえているのがわかる。
わかるが。
あれはダメだ。反則だ。
可愛すぎる。
放してハイたん。
あの子可愛い。
『しっかりするのじゃ、ベロニカ。このままでは、ハイジは焼きもちを焼いてしまう。ベロニカ駄目じゃ。』
『だっこー』
「だっこですか? 『スノウィワールド』様?」
『うん、だっこしてー』
「これ! 『スノウィワールド』よ、元に戻すゆえ、離れよ!』
『パサナテーパサン』が慌てて押しとどめようとするが、イヤイヤと頭を振りもちもちと動くウリ坊。
可哀想だから、止めないで上げて!
イヤイヤ可愛い!
「ちょこっと抱っこして、元に戻りましょうね?」
『だっこー』
意外にも冷静なマーガレットが、『パサナテーパサン』の隣でしゃがみ込み手を伸ばす。
トテトテウリ坊が、ポスリとその腕の中に身をゆだねる。
『マーガレットよ、大丈夫か? 少しだけ抱っこで大丈夫か?』
ハラハラしているのがはっきりとわかる『パサナテーパサン』が、慌ててマーガレットに問う。
不思議そうに、小さなウリ坊を撫でながらマーガレットが『パサナテーパサン』に頷き「はい。少しだけですね。」と、にっこり笑顔で答える。
その間にも小さなウリ坊は、両腕の中で嬉しそうにくるくると回りプキプキと機嫌よく鳴いている。
『マーガレットは、大丈夫なのかえ?』
入る前に、『スノウィワールド』がごね始めた。
明日まで別々なのは嫌だと。
ハイジや他の精霊がなだめるが、ごねるごねる。
確かにこのままでは体が大きすぎて、入れない。
『マーガレットや、『スノウィワールド』を何があっても守ってやって欲しいが、良いか?』
「え? 『スノウィワールド』様を守る、とは? とても御強くて凛々しくて頼りがいがあって……。」
『わかった、わかったが。『スノウィワールド』が小さくなれば、中に入れる。だがな。』
シブシブといった感じで、話すハイたん。
どうやら小さくなると問題があるらしい。
『小さくなるとな、思考が幼くなってしまうのじゃ。『スノウィワールド』は元が大きいゆえ、我ほどの。んん、ハイジと同じくらいでも童並みの判断力となる。故に警戒心が緩むのじゃ。』
「ハイたん、警戒って言っても、神殿内だし。危ない事ってないよね?」
『……。』
そっと目を逸らすハイたん。
『スノウィワールド』も、目を逸らす。
他の聖獣達もだ。
なんなん? どういうことだってばよ。
リリーが、聖獣様達の代わりに伝えてきた。
「危ないんだ。可愛すぎて。それこそ部屋に閉じ込めて、ずっと眺めていたくなるほどに。」
物凄く辛そうに、リリーがこぶしを握り締め強く目をつぶる。
アイリスが話を続けて受け持った。
「わたくしも『スィートスィートスィートハニー・ティガット』が大き過ぎるので小さくなってもらった事があるのです。」
「ですが、もう。もう小さくなってはいけません!」
『お菓子に囲まれて眠って、目が覚めてもお菓子の山が目の前にあった。あれはいいものだ。』
「それが駄目なのです。『スィートスィートスィートハニー・ティガット』あれは駄目ですわ!」
甘党トラに説教をはじめるアイリスと、周囲の聖獣達。
いや、『テッセン』だけは、自分の小ささを自慢している。
言うほど小さくもないけどね。
『良い、一度小さくなった『スノウィワールド』を見てみるが良い。その代わり、わ、ハイジが駄目だと思ったら元に戻す。良いな?』
「はいっ! 『スノウィワールド』様はわたしが必ずお守りいたします!」
『いや、様子見だからの。今だけ様子見じゃ。すぐに戻すぞ。』
『マーガレット、我を頼むぞ。』
「はい!『スノウィワールド』様!」
低く威厳のある声で『スノウィワールド』がマーガレットに頼み込む。
その様子に、ほんの少し。いやかなり不安が胸をよぎる。
「ハイたんや……。」
『ベロニカよ、そなたはハイジにつかまっていると良い。動かない様に押さえておく。』
「マジか……。(どんだけー)」
わちゃわちゃしているうちに、『スノウィワールド』の体がぼんやりと揺らぐ。
スーッと体が小さくなって、小さくなって……。
「ちっちゃ!」
ぼんやりと霧がかって姿が良く見えないが、ハイジより小さく『テッセン』並みに縮む『スノウィワールド』。
ハイたんが慌てたように叫ぶ。
『こら、『スノウィワールド』よ! 小さくなりすぎじゃぞ!』
『皆の者! 決して、決して動くでないぞ!』
すぐさま『バサナテーパサン』が前に出て注意を飛ばす。
楽しそうな『テッセン』『ポンちゃん』と、だらけている甘党トラ以外に緊張が走った。
きゅーぶぎゅー『だっこー』
霞が晴れると、白くつぶらな瞳のウリ坊が、ちょこんと「いた」。
白いふわふわな体に、黒いラインが何本も見える。
ちまっとした尻尾が、一生懸命に振られて、きゅーきゅーと可愛らしい声で鳴いている。
黒く光るちっちゃな瞳が、濡れたように潤み上を見上げ……。
「……激ヤバイ……。」
「あ、あの。『スノウィワールド』様、なの?」
困惑したマーガレットの声が聞こえた。
ハイたんの体にしっかりとしがみついていたのに、力が抜けていくのがわかる。
周囲から、小さくつぶやく声が次々と波の様に聞こえる。
「「可愛い。」」
「「かわいい。」」
ゴクリと唾をのむ音が聞こえたのは、自分のものなのか誰かのものなのか。
庇護欲をそそりすぎる、小さな生き物が目の前に。
『だっこー、だっこー。』
トテトテと小さな短い脚でマーガレットに近寄るウリ坊。
ハイたんが前足で、前に行かない様に捕まえているのがわかる。
わかるが。
あれはダメだ。反則だ。
可愛すぎる。
放してハイたん。
あの子可愛い。
『しっかりするのじゃ、ベロニカ。このままでは、ハイジは焼きもちを焼いてしまう。ベロニカ駄目じゃ。』
『だっこー』
「だっこですか? 『スノウィワールド』様?」
『うん、だっこしてー』
「これ! 『スノウィワールド』よ、元に戻すゆえ、離れよ!』
『パサナテーパサン』が慌てて押しとどめようとするが、イヤイヤと頭を振りもちもちと動くウリ坊。
可哀想だから、止めないで上げて!
イヤイヤ可愛い!
「ちょこっと抱っこして、元に戻りましょうね?」
『だっこー』
意外にも冷静なマーガレットが、『パサナテーパサン』の隣でしゃがみ込み手を伸ばす。
トテトテウリ坊が、ポスリとその腕の中に身をゆだねる。
『マーガレットよ、大丈夫か? 少しだけ抱っこで大丈夫か?』
ハラハラしているのがはっきりとわかる『パサナテーパサン』が、慌ててマーガレットに問う。
不思議そうに、小さなウリ坊を撫でながらマーガレットが『パサナテーパサン』に頷き「はい。少しだけですね。」と、にっこり笑顔で答える。
その間にも小さなウリ坊は、両腕の中で嬉しそうにくるくると回りプキプキと機嫌よく鳴いている。
『マーガレットは、大丈夫なのかえ?』
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