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聖女と聖獣と神官 16
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「はぁ。それにしても、マーガレットとトリーは遅いわね。」
「そうですね。様子を見に行った方が宜しいでしょうか?」
「んー。いいわ。任せるって言ったんだし、どうにもならない場合にもこっちに来るでしょう。」
首を振り、もう少しだけ待つ事に。
夕食は、部屋で食べた方が良いかもしれない。
「ソフィア。夕食は部屋で食べます。マーガレットが良ければ一緒に。」
「はい。では食堂の方に伝えてきますね。」
「うん、お願いね。」
音もなくドアを出るのを見送って、日記を取り出す。
昨日は、結局何も書けなかった。
今日の分は、もう書いておこう。
昨日今日で色々ありすぎて、思い出すのも大変だわ。
あーハイジさんモフりたいわー。
ハイたんハイたんモフモフハイたーん。
「歌の練習?」
「違うでしょ。ベロニカ様、トリーが来たようです。」
「あら、やっとね。入って貰って。」
トリーの先導で精霊ちゃんが部屋に入ってきた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。」
「いいのよ。で、どう? 納得したの?」
「一応、でしょうか?」
トリーの後ろでしょんぼりしているマーガレットが、ひたすら謝っているのは聞こえてる。
でも、謝って欲しいわけでもないしね。
むしろこっちが、考えを押し付けちゃってごめんなさい。
「ねっ、マーガレット。ごめんね。私、言い過ぎたわ。」
「いいえ、ベロニカ。本当にごめんなさい。(ごめんなさい。ごめんなさい。頑固で考えなしでごめんなさい。)」
「ちょっと、トリー。悪化してない?(なにがあったの?)」
「ベロニカ様のお部屋の感想について、後悔なさっている様なのですが。どうお伝えしても聞いて頂けなくて。」
悲しい顔で謝罪されてしまった。
むう。どうしよう。
「マーガレット、ちょっとこっちに座って?」
三人掛けのベンチに座って、隣を叩く。
「いえ、わたしは……。」
「座って。」
「……はい。」
ネガティブ精霊ちゃん、どうしてくれよう。
そうだ。
「トリー、昨日ペルーシャ様が出したお茶、わかるかしら?」
「はい、新茶です。」
「それは頼んだら、今飲めるかしら? 暖かい方がいいんだけども。」
「食堂に茶葉を置いてますので、持ってくるまでお時間頂きますが、ご用意できます。」
「うん。手間だけど、お願いできる?」
「かしこまりました。」
トリーさんもまた、音もなく部屋の外へ。
ここの廊下、歩くと音が鳴っていたはずなんだけどな。
忍者かな?
「マーガレット、そのままでいいから聞いてね。」
(ごめんなさい。お気に入りのお部屋をけなすつもりはなかったんです。ごめんなさい。)
「前世の話なんだけどね。私ね、四十代で独身で、独り身だったの。」
(ごめんなさい。話したくないお話をさせてしまっているのかもしれない。気を使わせてごめんなさい。)
「いいのよ、どうせ話すつもりだったし。でね、その時に働いていたところがね、給料安いトコでね。食べていくのがやっとで。」
くっ、どうして転職しなかったんだ、あの時の私!
わかってる、感覚がマヒしてたんだ。
ただ日々精一杯働いて、きっといつか報われるって思ってた。
「そのかわりというか、身の回りに安い物でいっぱい。必要ない物ある物も集めて、ごちゃごちゃした場所で生活してたの。」
「いつか、お金と時間ができたら、もっといい部屋になーんにもない部屋に住みたいって、思ってたんだけど。寝てる時に、建物内で火事があったらしくてね。」
「目が覚めたら、煙まみれの部屋で。逃げようと思っても玄関先には火の手が回っててね、逃げられなくて。」
うーん。あれはどうにもならなかった。
警報装置も鳴らなかったし、欠陥アパートだったんだろうなぁ。
「窓に逃げようと思ったら煙を吸い込んで、咳き込んでたら目の前が真っ暗に。」
「……う、ん。」
おっ、やっと反応してくれましたね。
ごめんね、気をひく話がこれ位しか思い浮かばなかったんだ。
「気がついたら、赤ん坊になってたわ。」
「その家も、前世の家と同じようにいらない物だらけで。そしてまた、稼がないとダメな家で。」
「で、何の話をしようとしたんだっけ?」
「へっ?」
ポカンと口を開けたまま、固まってるマーガレットさん。
あら、いつの間にかソフィアとトリーが戻って来てる。
みなさんも固まってますが、お茶はまだですかね?
「えっとね。そうそう。なーーんにもない部屋ね。理想の部屋って、前世も今世も変わってないの。理由はさっきの通り。で、ここから本題。」
「えっ。」
「うふふふ。話長くなってごめんね。」
戸惑うマーガレットさんもいいぞ!
そしてまだ続くのじゃ!
「ハイ、理想のお部屋が目の前に来ました。『今まで私が頑張ったからご褒美』が良いのか『先にご褒美渡すから、これで頑張ってね』の、どっちがやる気がでるでしょーか?」
「えええっ?」
「あははは。ちなみに私は『これで頑張ってね』の方がやる気が出ます。」
「あっ。うん。」
「あと、なーーんにもない部屋については、どう思われても仕方ないなって、思ってるから。それは気にしないで。だって、そのとおりだもんね。」
「で、でも。」
「マーガレットだから、いいの。友達だから、言いたい放題言い合っても、話し合ってお互い理解し合えたらそれでいいの。」
「そうですね。様子を見に行った方が宜しいでしょうか?」
「んー。いいわ。任せるって言ったんだし、どうにもならない場合にもこっちに来るでしょう。」
首を振り、もう少しだけ待つ事に。
夕食は、部屋で食べた方が良いかもしれない。
「ソフィア。夕食は部屋で食べます。マーガレットが良ければ一緒に。」
「はい。では食堂の方に伝えてきますね。」
「うん、お願いね。」
音もなくドアを出るのを見送って、日記を取り出す。
昨日は、結局何も書けなかった。
今日の分は、もう書いておこう。
昨日今日で色々ありすぎて、思い出すのも大変だわ。
あーハイジさんモフりたいわー。
ハイたんハイたんモフモフハイたーん。
「歌の練習?」
「違うでしょ。ベロニカ様、トリーが来たようです。」
「あら、やっとね。入って貰って。」
トリーの先導で精霊ちゃんが部屋に入ってきた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。」
「いいのよ。で、どう? 納得したの?」
「一応、でしょうか?」
トリーの後ろでしょんぼりしているマーガレットが、ひたすら謝っているのは聞こえてる。
でも、謝って欲しいわけでもないしね。
むしろこっちが、考えを押し付けちゃってごめんなさい。
「ねっ、マーガレット。ごめんね。私、言い過ぎたわ。」
「いいえ、ベロニカ。本当にごめんなさい。(ごめんなさい。ごめんなさい。頑固で考えなしでごめんなさい。)」
「ちょっと、トリー。悪化してない?(なにがあったの?)」
「ベロニカ様のお部屋の感想について、後悔なさっている様なのですが。どうお伝えしても聞いて頂けなくて。」
悲しい顔で謝罪されてしまった。
むう。どうしよう。
「マーガレット、ちょっとこっちに座って?」
三人掛けのベンチに座って、隣を叩く。
「いえ、わたしは……。」
「座って。」
「……はい。」
ネガティブ精霊ちゃん、どうしてくれよう。
そうだ。
「トリー、昨日ペルーシャ様が出したお茶、わかるかしら?」
「はい、新茶です。」
「それは頼んだら、今飲めるかしら? 暖かい方がいいんだけども。」
「食堂に茶葉を置いてますので、持ってくるまでお時間頂きますが、ご用意できます。」
「うん。手間だけど、お願いできる?」
「かしこまりました。」
トリーさんもまた、音もなく部屋の外へ。
ここの廊下、歩くと音が鳴っていたはずなんだけどな。
忍者かな?
「マーガレット、そのままでいいから聞いてね。」
(ごめんなさい。お気に入りのお部屋をけなすつもりはなかったんです。ごめんなさい。)
「前世の話なんだけどね。私ね、四十代で独身で、独り身だったの。」
(ごめんなさい。話したくないお話をさせてしまっているのかもしれない。気を使わせてごめんなさい。)
「いいのよ、どうせ話すつもりだったし。でね、その時に働いていたところがね、給料安いトコでね。食べていくのがやっとで。」
くっ、どうして転職しなかったんだ、あの時の私!
わかってる、感覚がマヒしてたんだ。
ただ日々精一杯働いて、きっといつか報われるって思ってた。
「そのかわりというか、身の回りに安い物でいっぱい。必要ない物ある物も集めて、ごちゃごちゃした場所で生活してたの。」
「いつか、お金と時間ができたら、もっといい部屋になーんにもない部屋に住みたいって、思ってたんだけど。寝てる時に、建物内で火事があったらしくてね。」
「目が覚めたら、煙まみれの部屋で。逃げようと思っても玄関先には火の手が回っててね、逃げられなくて。」
うーん。あれはどうにもならなかった。
警報装置も鳴らなかったし、欠陥アパートだったんだろうなぁ。
「窓に逃げようと思ったら煙を吸い込んで、咳き込んでたら目の前が真っ暗に。」
「……う、ん。」
おっ、やっと反応してくれましたね。
ごめんね、気をひく話がこれ位しか思い浮かばなかったんだ。
「気がついたら、赤ん坊になってたわ。」
「その家も、前世の家と同じようにいらない物だらけで。そしてまた、稼がないとダメな家で。」
「で、何の話をしようとしたんだっけ?」
「へっ?」
ポカンと口を開けたまま、固まってるマーガレットさん。
あら、いつの間にかソフィアとトリーが戻って来てる。
みなさんも固まってますが、お茶はまだですかね?
「えっとね。そうそう。なーーんにもない部屋ね。理想の部屋って、前世も今世も変わってないの。理由はさっきの通り。で、ここから本題。」
「えっ。」
「うふふふ。話長くなってごめんね。」
戸惑うマーガレットさんもいいぞ!
そしてまだ続くのじゃ!
「ハイ、理想のお部屋が目の前に来ました。『今まで私が頑張ったからご褒美』が良いのか『先にご褒美渡すから、これで頑張ってね』の、どっちがやる気がでるでしょーか?」
「えええっ?」
「あははは。ちなみに私は『これで頑張ってね』の方がやる気が出ます。」
「あっ。うん。」
「あと、なーーんにもない部屋については、どう思われても仕方ないなって、思ってるから。それは気にしないで。だって、そのとおりだもんね。」
「で、でも。」
「マーガレットだから、いいの。友達だから、言いたい放題言い合っても、話し合ってお互い理解し合えたらそれでいいの。」
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