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領主様に飯をタカりに
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たまらず誰かが声を上げる。
住民の信じたくないとすがるような視線が町長に集まる。
「まだ、まだ未定と仰っていたが。傭兵を町の防衛に回すか、自警団を作って自衛がいいか。」
「じ、自警団を作れば、兵隊には取られねぇって事か?」
黙って頭を振る町長。
そのあとは俯き、顔を両手で覆い涙をこらえている。
一緒に行った薬師が、隣に座る町長を見かねてか代わり口を開いた。
「防衛を傭兵に任せるなら、防衛費を徴収する必要があると、言われまして。それならば、町長さんが傭兵よりは、自警団を作れせてくれと提案されたんです。」
「領主様は少数の傭兵に町を守らせて、領民の多くを兵にしようとお考えだった様です。町長さんはそれを逆にして欲しいとお願い、したのですが……。」
一緒に行った残り二人も近くに座っていたが、立ち上がり交互に話し出す。
「町長がよぉ、必死に頼んだもんだからよぉ、じゃあ自警団作って、町から代表で何人か兵隊出せってよぉ。」
「すげーのよ、俺らよ、領主様の前でひとっことも声が出せなかったんだよ。町長すげーよ。だから、責めないでやってくれよ。」
「町長さんは息子さんを代表の一人として、領主様に送り出す約束をされました。この町からは、少なくともあと九人。」
薬師の静かな声が響いた後は、誰も何も話せず、身動きもとれない。
静まりかえった教会の中で、町長の小さなすすり泣きが聞こえる。
俯き顔を覆い泣きながら、すまないとすまないと、何度も繰り返す。
一緒に領主の所に行った貸荷馬車屋の青年が、腕をさすりながら町長へ声をかけた。
「町長よー、俺も息子さんと一緒に行ってくるよ。昨日出かけた中では、俺が最適っつーかよ。大食らいだからよ、ちょっとの間、領主様に飯をタカりに行って来るよ」
町長の息子は顔色は悪いながらも少しだけ俯いていたが、その声かけにハッとしたように顔を上げる。
領主にタカると強がった青年を見やり、目が合わせると二人ともニヤリと笑った。
あと八人……。
誰もが俯き、自分が行くとも、誰が行けとも言えず、黙り込む。
「今日は、ここまでにしましょう。自警団も結成しなければなりませんが、今すぐ決めなくても良い事です。また後日、話し合いをしましょう。」
牧師が話し合いの終了を切り出す。
参加した住民全員で祈りを捧げ、解散となった。
後日、年若い者を中心に「領主にタカる」を合言葉に、代表十人が決まる。
青年たちは町の傭兵達と共に、領主の元へ。
気のいい傭兵が数人、向こうできちんと面倒を見ると宿屋の主人に約束していた。
自警団は妻帯者のほとんどが参加となり、かなり大規模な自警団となった。
「もしも」他領の軍が攻めてきた場合の時に備え、町を取り囲む石壁を直し、高さを上げる。
近隣の町や村との連携も改めて考え直され、町長は精力的に動き回っている。
隣の年寄りしかいない村は「もしも」が起きた時、全員町に避難する事になった。
誰もが、緊張と不安で息をひそめる冬が終わった。
春になり領主から「防衛費」の徴収があった。
自警団は自分達で運営しているのに、防衛費。
他の町も少数ずつ代表者を出しているはずなのに。
約束を守らない領主に怒りが募る。
しかも壁の修繕や整備は領民任せだ。
それでも、代表者達の生活費だと思って出そうと、前向きに考え支払う。
しばらくすると、領主から傭兵が二人送られてきた。
話を聞くと、自警団へ剣や槍の指導をするように言われたと。
そして他の自警団のある町にも、それぞれ二人ずつ送られているらしい。
夏の初めには、傭兵達は領主の所へ戻る予定になっているそうだ。
二人の傭兵は、この町の青年達は皆元気で頑張っている、と伝え喜ばれた。
その後は、集会に参加し、貴族の動向も「大きな独り言」で伝えてきた。
曰く、聖女様は王子様と良い仲になりそうだ。他の青年貴族はそれを祝福しているらしい。
曰く、貴族間の争いは、一部を除いて領地同士の争いにはならないだろう。
曰く、隣国の王子が王宮に居座り、聖女に言い寄っているが相手にされていない。
独り言を喋り、スッキリした様子の中年の傭兵。
そのあとも、領主の愚痴を一通りこぼして皆の笑いを誘う。
「何か気になることがあれば、何でも聞いてくれ。」
「お!おれ!いいか?他のとこではよぉ、喧嘩があるかもなんだろぉ? なんでだ?」
商品が売れると嬉しいが、売れなくても嬉しい武器屋の若旦那が真っ先に訊ねた。
武器屋と言っても、鍛冶場で金物の手直しが基本。
大柄で力は強く体力がある為、町での力仕事の中心人物だ。
小さな物が好きで、細工物を頼むとなかなか良い出来な上に、頼まれると断れない性格のせいか女衆に人気がある。
見た目は、いたって平凡だが。
「あーそれな。質の悪い婚約破棄が、王都で流行ったらしくてな。」
「ほら、若いお貴族様ってのは婚約者がいるだろ。その婚約期間中に、相手に冤罪を被せて婚約破棄しちまった、残念な貴族の坊ちゃんが何人もいたんだよ。ご令嬢側は、冤罪突き付けられた上に破棄だから、怒って家同士の喧嘩ってわけさ。」
「ん?どーゆーこった?」
「さぁ、なんか難しい言葉だな。」
「分かり易く頼む。」
住民の信じたくないとすがるような視線が町長に集まる。
「まだ、まだ未定と仰っていたが。傭兵を町の防衛に回すか、自警団を作って自衛がいいか。」
「じ、自警団を作れば、兵隊には取られねぇって事か?」
黙って頭を振る町長。
そのあとは俯き、顔を両手で覆い涙をこらえている。
一緒に行った薬師が、隣に座る町長を見かねてか代わり口を開いた。
「防衛を傭兵に任せるなら、防衛費を徴収する必要があると、言われまして。それならば、町長さんが傭兵よりは、自警団を作れせてくれと提案されたんです。」
「領主様は少数の傭兵に町を守らせて、領民の多くを兵にしようとお考えだった様です。町長さんはそれを逆にして欲しいとお願い、したのですが……。」
一緒に行った残り二人も近くに座っていたが、立ち上がり交互に話し出す。
「町長がよぉ、必死に頼んだもんだからよぉ、じゃあ自警団作って、町から代表で何人か兵隊出せってよぉ。」
「すげーのよ、俺らよ、領主様の前でひとっことも声が出せなかったんだよ。町長すげーよ。だから、責めないでやってくれよ。」
「町長さんは息子さんを代表の一人として、領主様に送り出す約束をされました。この町からは、少なくともあと九人。」
薬師の静かな声が響いた後は、誰も何も話せず、身動きもとれない。
静まりかえった教会の中で、町長の小さなすすり泣きが聞こえる。
俯き顔を覆い泣きながら、すまないとすまないと、何度も繰り返す。
一緒に領主の所に行った貸荷馬車屋の青年が、腕をさすりながら町長へ声をかけた。
「町長よー、俺も息子さんと一緒に行ってくるよ。昨日出かけた中では、俺が最適っつーかよ。大食らいだからよ、ちょっとの間、領主様に飯をタカりに行って来るよ」
町長の息子は顔色は悪いながらも少しだけ俯いていたが、その声かけにハッとしたように顔を上げる。
領主にタカると強がった青年を見やり、目が合わせると二人ともニヤリと笑った。
あと八人……。
誰もが俯き、自分が行くとも、誰が行けとも言えず、黙り込む。
「今日は、ここまでにしましょう。自警団も結成しなければなりませんが、今すぐ決めなくても良い事です。また後日、話し合いをしましょう。」
牧師が話し合いの終了を切り出す。
参加した住民全員で祈りを捧げ、解散となった。
後日、年若い者を中心に「領主にタカる」を合言葉に、代表十人が決まる。
青年たちは町の傭兵達と共に、領主の元へ。
気のいい傭兵が数人、向こうできちんと面倒を見ると宿屋の主人に約束していた。
自警団は妻帯者のほとんどが参加となり、かなり大規模な自警団となった。
「もしも」他領の軍が攻めてきた場合の時に備え、町を取り囲む石壁を直し、高さを上げる。
近隣の町や村との連携も改めて考え直され、町長は精力的に動き回っている。
隣の年寄りしかいない村は「もしも」が起きた時、全員町に避難する事になった。
誰もが、緊張と不安で息をひそめる冬が終わった。
春になり領主から「防衛費」の徴収があった。
自警団は自分達で運営しているのに、防衛費。
他の町も少数ずつ代表者を出しているはずなのに。
約束を守らない領主に怒りが募る。
しかも壁の修繕や整備は領民任せだ。
それでも、代表者達の生活費だと思って出そうと、前向きに考え支払う。
しばらくすると、領主から傭兵が二人送られてきた。
話を聞くと、自警団へ剣や槍の指導をするように言われたと。
そして他の自警団のある町にも、それぞれ二人ずつ送られているらしい。
夏の初めには、傭兵達は領主の所へ戻る予定になっているそうだ。
二人の傭兵は、この町の青年達は皆元気で頑張っている、と伝え喜ばれた。
その後は、集会に参加し、貴族の動向も「大きな独り言」で伝えてきた。
曰く、聖女様は王子様と良い仲になりそうだ。他の青年貴族はそれを祝福しているらしい。
曰く、貴族間の争いは、一部を除いて領地同士の争いにはならないだろう。
曰く、隣国の王子が王宮に居座り、聖女に言い寄っているが相手にされていない。
独り言を喋り、スッキリした様子の中年の傭兵。
そのあとも、領主の愚痴を一通りこぼして皆の笑いを誘う。
「何か気になることがあれば、何でも聞いてくれ。」
「お!おれ!いいか?他のとこではよぉ、喧嘩があるかもなんだろぉ? なんでだ?」
商品が売れると嬉しいが、売れなくても嬉しい武器屋の若旦那が真っ先に訊ねた。
武器屋と言っても、鍛冶場で金物の手直しが基本。
大柄で力は強く体力がある為、町での力仕事の中心人物だ。
小さな物が好きで、細工物を頼むとなかなか良い出来な上に、頼まれると断れない性格のせいか女衆に人気がある。
見た目は、いたって平凡だが。
「あーそれな。質の悪い婚約破棄が、王都で流行ったらしくてな。」
「ほら、若いお貴族様ってのは婚約者がいるだろ。その婚約期間中に、相手に冤罪を被せて婚約破棄しちまった、残念な貴族の坊ちゃんが何人もいたんだよ。ご令嬢側は、冤罪突き付けられた上に破棄だから、怒って家同士の喧嘩ってわけさ。」
「ん?どーゆーこった?」
「さぁ、なんか難しい言葉だな。」
「分かり易く頼む。」
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