聖女様?城にいんだろ。

護茶丸夫

文字の大きさ
上 下
19 / 23

凄い作戦

しおりを挟む
「おう、今帰ったぞー」

 いつもそうだった様に、家の中に入る前に汚れを叩き落とす。
 もう服はボロボロで、脱いでしまえば二度と着る事が出来ないだろうが。

「あんた!」
「とーちゃぁん!」

 かあちゃんと末っ子が抱きついてきた。

 ぐっと二人を抱きしめる。

 胸がつまって、言葉が出てこない。

 帰り道、どんな事を話そうか、皆であんなに話し合ったのに。
 騎士様に足を一本とられちまったが、三本目は守ったぜってよぉ。
 声が、言葉が出てこないぞ。

「父ちゃん!」「とーちゃん!」

 息子と娘の声が背後から聞こえた。
 振り返ると、持っているカゴに森の恵みが入っているのが見える。

 末っ子を首にぶら下げなおして、二人に向かって手を広げる。

「ただいま」



「牧師様、みなさん帰って来ましたよ。」
「ええ、ええ。あちこちからお知らせ頂いて、聞いてますよ。」

 出兵していた男衆が、戻って来た日の夜。
 町長は牧師へ報告のため、教会へ顔を出した。

 教会の厨房で白湯を飲みながら、帰ってこれなかった町民達の名前を告げる。
 目も鼻も赤いまま教会に来た町長は、家でさんざん泣いたのだろう。
 声を詰まらせながらも、残された家族達の支援は、町できちんとする旨を牧師へ伝える。
 教会でも支援するつもりなので、お互いに気を付け合おうと約束した。

「向こうでの状況は、神官達が手紙を送ってくれました。前の戦争の時より酷い。」
「ええ、でも、帰って来た人数は予想よりずっと多いです。よかった。」
「それでも、許せるものでは無いです。」

 ふぅーっと二人は深いため息をつく。
 町長はすっかり冷めてしまった白湯を、カップの中でぐるぐると回しながら見つめる。

「町としては、慰霊祭をしたいです。」
「ええ、いいと思います。」
「毎年したいです。」
「……そう、ですね。そうしましょうか。」
「はい。それで、これは町からの慰霊祭のお願いのお金です。」

 ごちゃりと、重い音を立てて巾着袋をテーブルに置く。
 牧師は布を広げ、中身を出し袋を返す。

「とても多い金額です。宜しいのですか?」
「はい、慰霊祭ともう一つお願いがあります。」

 お金の入った布を縛りテーブルに置き直し、神への祈りをささげた。
 もう一つとは? 話を促すために、町長へ頷く。

「あとですね! 隣国から引っ越ししてくる人達がいるんです。」
「はい?」
「今日帰って来た何人かが、向こうで友人を作ったらしくて。」
「はい。」
「向こうより、こっちで暮らそうって誘ったらしいんですよ。」
「はい?」
「あと、前に教会に傭兵さんが来てましたでしょう?」
「はい。」
「その方も傭兵を引退して、町で暮らしたいって仰ってまして。」
「はぁ。」
「それで住民が増える予定です!」
「……。」

 戸惑う牧師に、ドヤ顔の町長。
 首を傾げ、牧師は珍しく腕を組む姿を見せた。
 確かめる様に、ゆっくりと問いかける。

「……まずは、戦地で、友人ができたのは、わかります。」
「はい。」
「なぜ、敵対していたはずの隣国の方と、友達になれた、のでしょうか?。」
「いやぁ、息が合ったらしいですよ。向こうでお互いやり取りしてたそうです。」
「……やり取り?どう、やって。」
「ええ、遠く離れてる場所から、こう、身振り手振りで笑わせ合ったらしいです。」
「はい?」
「さすがですよね! いやぁ、何かやらかすとは思ってましたが、凄いですね!」
「えぇぇー。」

 何とか聞きだした話をまとめた牧師は、町長に確認をとる。

「こういう事でしょうか。戦地で待ち時間が長かった。空いた時間で、離れた場所にいる人と試しに対話をしてみた。」
「それが面白かったので、戦闘後治療している時に友人になった。その友人の暮らしを聞いて、町においでと誘った。で、いいですか?」

「はい!さすが牧師様だ!それで、家族で引っ越して来るって言ってたそうですよ。」

 ニコニコと答える町長。
 また寄ってたかって乗せられたんだろう。
 まぁ、それで落ち込みが軽くなるなら、それでいい。

 あとで息子さんに、これからは気を付ける様に言っておこう。
 そう考えた牧師は、ニコリと笑い頷いておいた。

「あとは、傭兵さんと言うと、二人ともですか?」
「いえいえ、おっさんの方です。」
「……そうですか。でも、大丈夫でしょうか?みなさん傭兵には良い印象は無いですよね?」
「いやぁそれが、その方のお陰でみな帰って来れたらしいんですよ。凄い作戦だったって言ってましたよ。」
「どんな作戦だったんでしょう?」
「それは、聞いてない、ですね……。ただ、誰も戦わなくてすんだって言ってましたよ。」
「? 戦わなかった?」
「ええ! あれ? そういえばどうやったんでしょうね?」
しおりを挟む

処理中です...