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白熱した年寄会議
しおりを挟む「なぁ、道具屋のじいさん。」
「なんじゃ、傭兵のおっさん。」
ぶはっと周囲と傭兵が吹き出す。
「いや、確かにおっさんだがよぉ。」
ポリポリと頭を掻く傭兵。
「なんじゃ、不満か。そのうち、お前もじいさんじゃ。今のうちにおっさんを堪能せい。」
「はははは!なんだよその理屈。間違っちゃいないが、いやだなぁー。」
傭兵は笑いが収まらないまま話を続ける。
「なんっつううか、俺の仕事のあてな、じいさん何かないかなぁと。」
「なんじゃ、考えなしか。」
「いやぁ、アレコレ考えたんだがよぉ、なんだかしっくりこなくて、困ったんだわ。」
「ふむ。しっくり、か。」
年寄達がお節介を焼き始め、アレだコレだと口を出しながら議論が始まる。
先住薬師も、会議に加わりに薬師に背負われてきた。
傭兵はぽりぽりと頭を掻きながら、結果が出るまでのんびりと待つ事になった。
「行商の護衛あたりから、やってみりゃいいじゃろが。」
「商売は難しいからの、情報集めの傍らで護衛が良いじゃろ。」
「口が達者過ぎて、商売人には向いてないの。そっちがいいぞぃ」
のんびりと白熱した年寄会議が中休みとなり、放置されていた本人へ話題の提供を求めた。
「そうじゃ、今の王都の話を聞かせてみい。面白い噂話はあったのかの?」
「んーー。面白いかどうかわかんねーけど、いくつかきいたぜ?」
じいさん達にほれほれと促され、思い出しつつ話す傭兵。
薬師がそれぞれ飲み物のおかわりを入れて回る。
「聖女様がこの国に戻ってきただろぉ?ああ、どうも他の国にも興味が出たらしくてよ。領地めぐりより旅に出たいって言ってるらしいんだわ。」
「はっ。あの聖女は、この戦の意味がわからんかったのか。」
とたんにしぶい顔になる道具屋の元あるじ。
傭兵が確か前に見た事がある顔だ、たしか周りの男達が怖がっていたなと思い出す。
「どう伝わったのかわかんねーけど、聖女は悪くない事になったんじゃねーの?」
「ふむ。他はあるかの?」
「あとは旅に出るのを止めるために、王子か大司教の息子が求婚するとか、賭けも始まってたな。」
「ほうほうほうほう。」
「ほっほ!こっちでも賭けるか?」
「結果がわかっておるのに、賭けもクソもないじゃろうが。」
賭けと聞いて周囲は盛り上がり始める。
しかし賭けの内容が気に入らないらしく、別の事で賭けを持ちかける。
その騒ぎを横目に傭兵は話をしめた。
「それっくらいだな。」
「ふむ。では、王都に行って商人組合に伝言を頼むかの。」
「隣国の王子が処分されて、公爵同士の喧嘩が始まりそうだと。」
「はっ? 処分?王子が!」
道具屋の元あるじが、すました顔でとんでもない事を言い出した。
傭兵の慌てぶりを聞き流し、賭けの輪の中へ入ってしまった。
こまめに動く薬師から、果実水を受け取りポリポリと頭を掻く。
いつの間にか薬師と牧師も傭兵の側で座り、のんびりと年寄達の盛り上がりを眺める。
あちこちへ脱線した会議が終わり、ようやく本人へ決定を告げる。
「お前さん、商人組合の情報係がええじゃろう。」
「なんだそりゃ?」
「推薦状は書いてやる、王都に行って登録してこい。」
「へっ?王都から荷物運んできたんだぞ?」
「登録が終わったら、すぐに戻ってくるんじゃぞ。仕事は用意しておくからの。」
「お、おう。仕事があるのはありがたいがよぉ。」
「王都に行くついでに、王都の噂話をたんまり仕入れてくるんじゃ。」
「噂話、仕入れって。モノじゃねぇんだ、金にならねぇよ。」
「なるぞ。しかも、これから重要になる仕事じゃ。」
「はっ?じいさん、ボケ「誰が耄碌ジジイじゃと?」いえ、すみません。」
ぴしりと姿勢を正す傭兵に、ひやりとした雰囲気を醸し出す年寄達。
道具屋の元あるじは、ニヤリと凄みのある笑顔を傭兵に向ける。
「儂はまだまだ現役じゃ、商人として勝負する時はカンが働くのさ。」
「勝負?」
「そうじゃ、こんな田舎だからわかる事もあるんじゃよ。」
「ほっほ、儂らの引退はもう少し先になりそうじゃの。」
「儂の息子を連れて行け。」
「家の孫もな。」
「それなら、あ奴らも連れて行った方がええじゃろ。」
「えー俺は引退しに来たのにー。」
わちゃわちゃと周りから、誰も連れて行け、あれも一緒にと声がかかる。
困り果てる傭兵に牧師と薬師が声をかける。
「ようこそ、この町へ。騒がしい所ですが、貴方ももう住民ですよ。」
「ここは構いたがりのお年寄りの多い、優しい方ばかりの良い街です。楽しいですよ。」
困ったように微笑む牧師と、屈託のない笑みで頷く薬師。
遠くで町長の悲鳴と子供達の笑い声が聞こえる。
傭兵は頭を掻きながら、笑顔で答える。
「あー、これから宜しくお願いします。」
三人は森の果物を使った果実水で小さく乾杯する。
「王都の神殿にも寄って頂きたいのですが。」
「医療組合に届けて欲しい包みがあるので、ついでにお願いしますね。」
「まってくれよ、人使い荒いぞ。ここの人達。」
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