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ドライヴランド編
31話 荒治療
しおりを挟む腕の手当てをするからと、キッチンの椅子に座るよう言われた。
テーブルには、赤、青、緑のくすんだ薬瓶が用意してある。
すぐにシャツをかぶったゼイツ准将が戻ってきて、私の真向いに座る。
彼は膝が触れあうキョリまで椅子をひき、赤い瓶を手にとってちゃぽちゃぽと振った。
「この傷は残るぞ」
そう断言されて、私は自分を納得させるようにうなずいた。仕方ないもの。
「だ、大丈夫で」
「だがそんな事は俺が許さねえ」
私の返事きいてない。
「借りもんの王女に傷をつけたとあっちゃ、フェアリーアイランドからの信用にかかわるからな。悪いが荒治療させてもらう」
「荒治療?」
「そうだ。この薬なんだが……、赤、青、緑の順に患部にかけていけば、明日にはかさぶた程度になって元通りになる」
「……傷のこらないで済むの?」
「ああ」
私は首を縦にふった。
「はい。お願いしたいです」
「ただ、尋常じゃないほど沁みるぞ。覚悟はいいか?」
「がんばり、ます……」
「代われるもんなら代わってやりたいが、頑張ってもらうしかない。腕だせ」
オンチ鳥に噛まれたのは、左の前腕部だった。
准将が私の手首をとって、手の甲を下へ向けるように腕をひねる。
そして、木のスプーンを私の口に差し出した。
「噛め」
「そんなに沁みるんですか……!?」
私はこわごわスプーンを咥えた。
「かけるぞ」
瓶のふたをあけたゼイツ准将が、わずかに気弱な表情をみせた。これから私が受ける痛みに、同情しているかのようだった。
シュワワッ
「☆$#ッ!!」
私は震えあがった。引っこめようとした腕をゼイツ准将がびくともしない力で固定する。苦痛に歪む顔を、ガン見されてしまった。
「……うううぅ……ううう゛」
スプーンが床に落ちている。
「もう一回かけるぞ」
「まっ……ッ」
「……」
「も、もういい きずなんか残ってもいい…………」
もちろんよくないけど、准将に変な顔みられちゃったダメージが上乗せされて動揺していた、私は泣き言をいいだした。
「もうやりたくない」
「今はそう思うかもしれないが、治した方が絶対にいい」
汗ばむ私の左手をゼイツ准将が両手で包んでいる。
「結婚式する時、ドレス着んだろ? こんな傷ない方がいいだろ? ジョニーの為だと思って頑張れ」
わけわかんない。私はかぶりをふった。
「ジョニーは私がどんな姿でも愛してくれるもん」
「なら自分の為に頑張れ」
「准将が信用を失わない為にでしょっ」
「……」
八つ当たりしちゃった。私は意を決して顔をあげた。
「わ゛かったやる。ゼイツ准将のために」(錯乱)
「あのな、一旦落ち着け」
「ゼイツ准将にたくさん気持ちよくしてもらってるのに、私は全然気持ちよくしてあげられないから、これくらいがん」
あっさり腕に薬をかけられて、顔を見られないようにうつむいて耐えた。
「う゛―っ う゛―っ」
彼が手の甲を撫でてくれている。
私は足の裏で、彼の脛をつっぱねていた。
「よし、峠は越えた。次の二つは赤よりマシだ。赤は……俺の隊で失神した奴がいたくらいだからな、フェルリナの方が強いぞ」
えっ……。ほ、褒められた?
「次も頑張ったら旅団長にしてやる」
「旅団長……」
って、サーカスの団長みたいな響きで特になりたいと思わないけど、でも、ゼイツ准将に褒められたからには、期待に応えたい。
彼は青い薬瓶の蓋を回し開けた。
パシャパシャ
「!!」
やばっ、サーカス旅団フェルリナ、叫びそうになっちゃったけど頑張った。
今度の痛みは別次元で、赤よりマシだっていうけど、こっちの方が痛く感じた。
叫ばない代わりに椅子から立ち上がっちゃって、引っ張り戻される。
「大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、はい……」
「おし、フェルリナ准将。次頑張ったら褒美やるよ。何がいい」
「はぁ、はぁ、私いつ准将になりましたか」
「旅団長と准将は同等なんだ。で何が欲しいんだ」
抱きしめてほしい。
そんな思いが浮かんだ。
「…………ハグ……」
「家具? 何のだ?」
「…………た、箪笥」
「タンスってお前、渋いな。いいけどよ」
よくないよ(涙)
シャビシャビシャビ
「ピイイイッウエェ!?」
「おっし、おつかれさん!」
ゼイツ准将がにっかり笑って緑瓶に蓋をかける。
「ぷはっ、はぁっ、はぁっ、ちょっ、ちょっと待って???」
「どした」
「いぃまのが一番キツかったんですけど!? 青、緑って……実は赤が一番楽だったんじゃないですかっ!?」
「はっはっはっ。ンんなことね~よ」
そう嗤う横顔はわるいかお。まんまとノセられた。しんじらんない。
「ほめられて本気にしちゃったじゃないですか!」
「ほめて伸びる奴と、叩いて伸びる奴と、色々いるからなぁ」
いるからなぁ、じゃなーい!!///
「ふみゃっ」
ゼイツ准将がティッシュで私の鼻をつまんだ。なにしてるの? 私、鼻水たれてるの?
私は顔をそむけて、自分で鼻をかんだ。
准将がテープを人差し指と中指に挟んで、ハサミで切る。ガーゼを私の腕に貼って、包帯を巻き始める。
「どうせジョニーだと思って触ろうとして噛まれたんだろ? 違うつったのに、俺を信用しねーからだ」
「またジョニーの話ですか? なんでいっつもジョニージョニー言うんですか」
って、あらら?
私、ジョニーの名前、難なく口に出せるようになってる。
「ゼイツ准将、ジョニーはキ」
「別に、こんな何日も放っておく男のどこがいいんだと思っただけだ。持病のこと当然知ってんだろ? 俺なら何が何でもその日に駆けつけるけどな」
すごい長いひとりごとをゼイツ准将が呟き終わるのを待って、もう一度息を吸う。
「あのですね、ジョニーは、キツ」
「怪我、俺の責任だ。すまなかった」
ゼイツ准将が、私に頭をさげた。
「!? や、やめてください。この傷は……」
准将のせいじゃないのに。
「…………」
包帯を巻き終えた彼がふっと廊下をふりむいたので、私もそっちを見た。
マグカップを手にした男の人が、目を細めて私たちを眺めていた。
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