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#11 悪者になる
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※「走れメロス」より引用文があります。
『全然可愛くない! ガッカリした!!』
あれは私の事だったんだ。メロディはドレスのすそを握りしめた。恥ずかしい、全然気づかなかった。チェストラ様、私には一言もいわずに庇ってくれていたんだ。
それなのに私は……あなたを悪者のように思って……。
「やめろよカスタネット。婚約者の悪口言われたら誰だって怒るだろ」
男仲間が言った。
「結婚するのはチェストラで、お前じゃないんだぞ?」
なぜカスタネットがこれほどまでにメロディを嫌うのか。
彼はチェストラが自分よりメロディを選んだことが悔しかったのである。
親友としてチェストラを思うあまり、婚約者がどんな女性なのかと、本人以上に緊張していたカスタネットは、いかにも文学少女なメロディが現れてガッカリした。
当然チェストラも同意見だと思っていたら、彼はメロディの味方をした。
興奮したカスタネットはチェストラの胸ぐらをつかんだ。
「何が婚約者だよ! んなもん適当な理由つけて断りゃいいだろうが!」
「離せっ!」
「皆だって思ってるだろ? チェストラは真面目すぎて鬱陶しいって言ってたよな?」
「いやそれは図書館でナンパするなって言われたから……」
「あんなスケスケな床を見上げるなって言う方がむり……」
「ほらな? 頭カタいんだよお前。言っとくけどあんなコミュ障丸出しの女、オレたちのグループに入れないからな!」
私のせいだ、とメロディはこぶしを握りしめていた。止めなくては……。早く……私のせいでチェストラ様が友達失っちゃう。
「こっちだって人の悪口言うような奴と友達でいるつもりはない!」
「やめろよカスタネット! チェストラの気持ちも考えろ」
「やめなよ二人とも!」
チェストラ様は友達が家族みたいなものだって。
その友達に私は気に入ってもらえなかった。
私はチェストラ様と結婚しちゃだめなんだ。
メロディはウィッグを脱いだ。ポシェットからめがねケースをだして、ぶるぶる震える手でめがねをかけた。
チェストラのつらそうな横顔がくっきりと見えた瞬間、
彼女は砂を踏んで前へ出た。
「私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ!!」※
気づいたら彼らに向かって叫んでいた。
「『私は途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえないのだ。殴れ!!」※
チェストラを見つめて言い、カスタネットを見つめて言い、舞台役者のように空を見上げて言った。
「『私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生まれて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない!!」※
チェストラがあぜんと見、カスタネットが見、みんながメロディを見た。
この場に分厚い眼鏡のメロディがいる。
なぜ彼女がいるのかということは、彼女が着ているサンドレスを見れば分かった。
だがなぜ、急に台詞をわめきだしたのか、その理由は分からなかった。皆、一瞬静まり返った。
「ぶっ」
とカスタネットは噴き出した。
「きもちわりぃ! コイツきもちわりぃ!」
「キャッハハハハ!」
「うぅわっ、怖っ……」
女の子たちは腹を抱えて笑い出し、男たちは身震いした。
チェストラは、目を丸くして見ている。
「『ありがとう、友よ』……」※
メロディは、うつむいて、物語を締めくくった。
地平線に沈む太陽が赤く燃えている。
※太宰治「走れメロス」より引用
『全然可愛くない! ガッカリした!!』
あれは私の事だったんだ。メロディはドレスのすそを握りしめた。恥ずかしい、全然気づかなかった。チェストラ様、私には一言もいわずに庇ってくれていたんだ。
それなのに私は……あなたを悪者のように思って……。
「やめろよカスタネット。婚約者の悪口言われたら誰だって怒るだろ」
男仲間が言った。
「結婚するのはチェストラで、お前じゃないんだぞ?」
なぜカスタネットがこれほどまでにメロディを嫌うのか。
彼はチェストラが自分よりメロディを選んだことが悔しかったのである。
親友としてチェストラを思うあまり、婚約者がどんな女性なのかと、本人以上に緊張していたカスタネットは、いかにも文学少女なメロディが現れてガッカリした。
当然チェストラも同意見だと思っていたら、彼はメロディの味方をした。
興奮したカスタネットはチェストラの胸ぐらをつかんだ。
「何が婚約者だよ! んなもん適当な理由つけて断りゃいいだろうが!」
「離せっ!」
「皆だって思ってるだろ? チェストラは真面目すぎて鬱陶しいって言ってたよな?」
「いやそれは図書館でナンパするなって言われたから……」
「あんなスケスケな床を見上げるなって言う方がむり……」
「ほらな? 頭カタいんだよお前。言っとくけどあんなコミュ障丸出しの女、オレたちのグループに入れないからな!」
私のせいだ、とメロディはこぶしを握りしめていた。止めなくては……。早く……私のせいでチェストラ様が友達失っちゃう。
「こっちだって人の悪口言うような奴と友達でいるつもりはない!」
「やめろよカスタネット! チェストラの気持ちも考えろ」
「やめなよ二人とも!」
チェストラ様は友達が家族みたいなものだって。
その友達に私は気に入ってもらえなかった。
私はチェストラ様と結婚しちゃだめなんだ。
メロディはウィッグを脱いだ。ポシェットからめがねケースをだして、ぶるぶる震える手でめがねをかけた。
チェストラのつらそうな横顔がくっきりと見えた瞬間、
彼女は砂を踏んで前へ出た。
「私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ!!」※
気づいたら彼らに向かって叫んでいた。
「『私は途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえないのだ。殴れ!!」※
チェストラを見つめて言い、カスタネットを見つめて言い、舞台役者のように空を見上げて言った。
「『私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生まれて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない!!」※
チェストラがあぜんと見、カスタネットが見、みんながメロディを見た。
この場に分厚い眼鏡のメロディがいる。
なぜ彼女がいるのかということは、彼女が着ているサンドレスを見れば分かった。
だがなぜ、急に台詞をわめきだしたのか、その理由は分からなかった。皆、一瞬静まり返った。
「ぶっ」
とカスタネットは噴き出した。
「きもちわりぃ! コイツきもちわりぃ!」
「キャッハハハハ!」
「うぅわっ、怖っ……」
女の子たちは腹を抱えて笑い出し、男たちは身震いした。
チェストラは、目を丸くして見ている。
「『ありがとう、友よ』……」※
メロディは、うつむいて、物語を締めくくった。
地平線に沈む太陽が赤く燃えている。
※太宰治「走れメロス」より引用
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