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第06話「悪役令嬢の取り巻き」

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 俺とメリルは生まれた頃からの付き合いだ。
 俺が生まれた時、わざわざ我が屋敷に様子を見に来てくれていたリリアーヌ様がメリルを抱えていた。
 メリルとは一緒にいる事が多いが、年中一緒にいるわけではない。
 俺の知らないメリルの交友関係もある。
 悪役軍団がそのいい例だ。
 俺が十二歳になって初めて三人の存在を知った。正確には出会ってゲームの登場人物である事を思い出しただが、それまで一度も会った事は無かった。
 気になってメリルに尋ねてみることにした。
「メリル。三人との出会いがどんな風だったかを教えてくれ」
「忘れたわ」
 この件に関するメリルとの会話は一瞬で終わった。

          *

「ミネルバさん。ティゼさん。アンリエッタさん」
 俺は三人の名前を呼ぶ。
「悪役軍団とか言ってすみませんでした」
 俺はそう言ってそのまま頭を下げた。
 目の前に誰かいるわけではない。
 ただ俺が外で一人きりで誰もいないところに謝罪していたのだ。
 きっかけというか、寝ている時にふと思った。
 別に口にしたわけではないが、「悪役軍団」とか貴族令嬢でもなんでもない失礼な言い方だったなとなんとなく反省したのだ。
 メリルは「悪役令嬢」で三人は「悪役令嬢の取り巻き」だ。
 人生でたまにある周囲にはどうでもいい自分だけの誰にも言わない決定事項だった。
 そんな自己満足に浸っていると、部屋のドアがノックされた。
 ルグナス公爵家の侍女の人が入って来る。
「ディゼル様。メリルレージュ様のご友人がいらっしゃっていますが、お会いになりますか?」
「誰ですか?」
「三名です。ミネルバ様とティゼ様とアンリエッタ様です」
 タイミングがいいのか悪いのか。
 メリルの取り巻き達が全員来たようだ。
「わかりました。俺がお相手します」
 俺はある事が気になってメリル抜きで三人に会うことにした。

          *

「メリル様との馴れ初めですか?」
 両手にシュークリームを掴み口に運びながらミネルバが喋る。
「そう。教えてくれないか」
 俺は三人にそう頼んだ。
 仲良く取り巻き三人でメリルに会いに来たのにメリルが所用で出掛けていたというタイミングの悪さ。
 かく言う俺もメリルに呼ばれてルグナス公爵家に来てみたら急遽出かけていて「ごめんなさい」と侍女の人から伝言を受け取っていたので一人でいたのだ。
「ではまずは私からお話します」
 ティゼが口を開いた。
 豚令嬢と称されるミネルバと呪令嬢と称されるアンリと違って一人だけ可憐な少女だ。
 ティゼはメリルと出会ったのは九歳の時らしい。
「メリル様は私にとって雲の上の存在でした。それがあるパーティの時に二人きりになった時に言われたのです」
『成功した人生を送りたい?』
『成功した人生ですか?そうですね。メリル様のような人生を送りたいと思います』
『ならば私の下僕になりなさい。私のような人生は送れなくても貴女の出自にしては成功したと呼べるような人生を送れるわよ』
『はい。宜しくお願いします。メリルレージュ様』
 とのやりとりがあったそうだ。メリルの言葉に本気を感じてティゼは即答したそうだ。やっぱり友達じゃ無くて下僕だった。
 次にミネルバに聞こうと思ったが、口いっぱいにパンを頬張っている最中だったので別の人物を見る。
「アンリエッタはメリルとどういう馴れ初め何だ?」
「……………私は」
 アンリエッタが話し出した。
 呪令嬢アンリエッタ。
 長く伸ばした黒髪で顔全体を覆っている。
 その髪の下にはニキビがつぶれたようなブツブツが顔面を覆っている。
 一見顔を髪で隠して髪を上げれば中から美少女の顔が出て来るような雰囲気だが、いざイベントで髪を上げた時だけBGMがホラーゲームのそれになっていた。
 画面ドアップに映し出される目をそむけたくなるようなアンリエッタの素顔。
 あの一瞬だけホラーゲームだった。それもトラウマ級のイベントだった。
 そんなアンリエッタがメリルとの出会いを話し始めた。
 ティゼと同じで出会ったのは九歳の時だったそうだ。
 ちょうどその時に婚約者にも素顔を見られてしまい、泣きだされて失禁されたあげく婚約を破棄されてしまったそうだ。
『復讐したい?』
 そうメリルに持ちかけられたそうだ。
『……復讐できるのならしたいです』
『そう。なら秘蔵の書をあげるわ。闇魔法の使えない私には役に立たないけど貴女には使えると思うわ。成功したら私の下僕になりなさい』
 そう言って不気味は本を預かったそうだ。
「それから一年。おかげで私と婚約破棄した元婚約者は発狂して死にました」
 怖いよ。
 十歳で呪いを発動させてやがる。さすがは呪令嬢。
 それ以来、アンリエッタはメリルに忠誠を誓ったそうだ。
 そしてティゼと同じ。友人じゃ無くて下僕だった。
「ミネルバは?」
 食べ終わって豪快に紅茶を飲みほして一息ついていたミネルバに話しかける。
「私ですか?」
 ミネルバは一瞬お代わりを求めてお菓子に伸ばした手の動作を止める。
 豚令嬢ミネルバ。ゲームほど横に広がっていないが既に豚と呼んでもいいくらいの膨らみだ。
「私とメリル様の出会いでしたら」
 ミネルバがメリルとの出会いを思い出す。
『おいしいお菓子あげるから私の下僕になりなさい』
『はい』
「と言うやりとりがありました。以上です」
「凄いな。回想が二行だけで説明できたぞ」
 ティゼも即答だったと思うがそれ以上にあっさりと下僕になることが決まった。
 結局三人共友人ではなく下僕だった。そしてそれでいいと思っている。
 この掌握術。さすがは悪役令嬢メリルレージュだ。
「私達も聞かせて欲しいのですが、ディゼル様はどうなのですか?」
 ティゼに尋ねられる。
「俺は」
 メリルとの出会いを思い出していた。
「物心ついたら一緒にいた」
 そう。家族と同レベルだ。一番古い記憶にはもうメリルがいる。
「他にメリルに友達っているのかな?」
「どうでしょう。社交界の場でお話する方はたくさんいると思いますが」
 ティゼは他の人が思いつかなかったようだ。
「私も他の方は知らないです」
「……………私も」
 ミネルバとアンリエッタも特に思いつかなかったようだ。
 そうか。メリルの交友関係は親しい中だと今ここにいるメンバーで収まるのか。
「ディゼル様のお友達にも機会がありましたらご挨拶させてもらいたいのですが」
 ティゼがそんなことを言いだすのだが、それは決して叶う事は無い。
「いないぞ」
「えっ」
 俺のその言葉にティゼが驚く。
「友達。俺は友達と呼べる人がいない」
「そ、そうでしたか。失礼しました」
 そこまでティゼが気まずそうにする。
 だが事実だ。
 俺に友達はいない。
 社交性がない。わけではないのだが、友人と呼べる存在はいない。
 昔から俺が仲良くなった子は男女問わずメリルに蹴り飛ばされた。
「ではここにいるメンバーでメリル様に仲良くしてもらえるメンバー勢ぞろいですね」
 マイペースなミネルバがそう答えた。
「そうですね。私達五人でメリル様のチームですね」
 ティゼがそう言ってアンリが無言でうなずいた。
 いつの間にか俺も、悪役令嬢の取り巻きに入れられてしまったのだった。
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