6 / 17
第06話「外伝2・任務失敗」
しおりを挟む
翌朝、納屋で一夜を明かした『ザルツ』の面々は、沈んだ空気の中で出発した。カイルの肩の傷は十分に癒えておらず、リナの表情には疲労の色が濃く出ていた。それでも、誰も弱音を吐くことはなかった。プライドが高い彼らは、A級パーティの面目にかけても、この任務は成功させなければならない。そう思ってしまっていた。
「地図によると、魔物の巣窟はこの先のはずだ」
カイルは前夜、村の長老から得た情報を基に進路を決めていた。しかし、彼らが得た情報はあまりにも断片的だった。
「どんな魔物がいるんだろう?」
セリナが呟いた。
「大きな蜘蛛型なのは分かったけど、他には?」
「大丈夫よ」
リナは自信なさげな笑みを浮かべた。
「私たちは何百もの魔物と戦ってきたわ。今さら怖がることなんてないはずよ」
ダリオは黙って頷いたが、その目には不安の色が宿っていた。
森の奥へと進むにつれ、周囲の木々はより密集し、陽光さえ地面に届かない暗がりとなった。不気味な沈黙が漂う中、彼らは巨大な洞窟の入り口に辿り着いた。
「ここが巣窟か」
カイルは剣を構えながら呟いた。
「作戦は━━」
彼は言葉に詰まった。普段ならリオンが事前に情報をくれてそれをもとにカイルが中心となって作戦を綿密に立て、全員の役割を明確にしていたのだ。
「作戦は無い。突撃だ!」
カイルは思いつきで叫んだ。
「俺が先頭、ダリオは右翼、リナは後方から魔法支援、セリナは影から急所を狙え!」
単純な作戦だったが、経験豊富な彼らにとっては十分のはずだった。洞窟に踏み込んだ一行は、すぐに異様な光景に息を飲んだ。
洞窟内部は巨大な蜘蛛の巣で覆われ、天井からは無数の卵嚢が吊り下がっていた。そして中央には、前日遭遇したものよりはるかに大きな親蜘蛛が待ち構えていた。
「なんてこと」
リナの声が震えた。
「まさか。こんなに大規模な巣だったなんて」
「情報が不足していたな」
ダリオが低く呟いた。
カイルは顔を引きつらせながらも、剣を強く握り締めた。
「構わない!行くぞ!」
彼が叫ぶと同時に、親蜘蛛が動き出した。巨大な脚が地面を震わせ、口からは粘着性の毒液が飛び散った。
「防御魔法!」
リナが杖を振り上げたが、放たれた魔法のバリアは通常の半分ほどの大きさでしかなかった。
「どうして?私の魔力が」
「魔法具の調整不足だ」
セリナが叫んだ。
「いつもはリオンが━━」
言い終わる前に、親蜘蛛の攻撃がリナを直撃した。彼女は悲鳴を上げて壁に叩きつけられ、意識を失った。
「リナ!」
カイルが駆け寄ろうとした瞬間、天井から無数の子蜘蛛が降りてきた。
「囲まれた!」
セリナの声が響く。
ダリオは黙々と斧を振るい、次々と子蜘蛛を薙ぎ倒していたが、その数はあまりにも多かった。
「撤退すべきだ」
ダリオはカイルにそう告げる。
「冗談じゃない!」
カイルは怒りに任せて親蜘蛛に向かって突進した。
「A級パーティが、こんな魔物に負けるわけがない!」
しかし、彼の剣は親蜘蛛の固い外殻をかすり傷程度しか与えられなかった。
「なぜだ」
カイルは絶望的な表情で叫んだ。
「俺たちはA級なのに」
その時、セリナが気づいた。
「カイル!この親蜘蛛。特殊な弱点をつかないと太刀打ちできないわ」
「セリナ。どこでそんな情報を?」
「リオンのメモに書いてあった。いつもはリオンが全部調べてくれていたの」
セリナは震える声で返した。
「彼がいれば、こんな状況には」
それを聞いてダリオも口を開いた。
「リオンなら。……この状況を予測して。対策を練っていた」
「黙れ!」
カイルは怒りで顔を歪ませた。
「あいつの名前を出すな!俺たちだけで十分だ!」
カイルは再び無謀な突進を試みたが、親蜘蛛の強力な脚に弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。口から血を吐き出し、立ち上がることもできない。
セリナは絶望的な状況の中、必死に頭を働かせた。
「ダリオ!あの天井の岩!親蜘蛛の真上!」
ダリオは一瞬で状況を理解し、巨大な斧を天井の脆い岩に向かって投げつけた。激しい振動と共に、巨大な岩塊が親蜘蛛を直撃した。
轟音と土煙が洞窟内を支配し、しばらくして静寂が戻った時、親蜘蛛は岩の下敷きとなり、動かなくなっていた。
「何とか。勝ったわね」
セリナは膝をつき、激しく息を切らした。
しかし、彼らの勝利は完全なものではなかった。リナは重傷を負って意識不明、カイルも立ち上がれないほどの怪我を負っていた。ダリオも複数の傷から血を流し、力尽きたように座り込んでいた。
「帰還しよう」
ダリオは疲れ切った声で言った。
セリナはぼんやりと頷きながら、リオンの不在がもたらした惨状を見つめていた。情報不足、装備の不備、戦略の甘さ。すべてがリオンの存在の大きさを物語っていた。
「私たちは、彼を必要としていたのね」
セリナは小さく呟いた。
しかし、その言葉はカイルの耳には届かなかった。彼はただ、屈辱と怒りに震えながら、自分たちのプライドが砕け散る音を聞いていたのだった。
*
村の小さな医療所は、今日ほど多くの負傷者を一度に受け入れたことはないだろう。
『ザルツ』の面々は、それぞれ深い傷を負って横たわっていた。リナは未だ意識を取り戻さず、カイルの体は包帯で覆われ、ダリオも治療を受けていた。唯一歩ける状態だったセリナだけが、窓際に立って外を眺めていた。
「依頼主が来るわよ」
彼女は小さく呟いた。
部屋の扉が開き、村の長老が険しい表情で入ってきた。
「魔物は倒したのか?」
一行を見る長老の声には不信感が混じっていた。
「ええ、親蜘蛛は倒しました」
セリナが答えた。
「ですが、巣窟全体の掃討は━━」
「まだ残っているのか!」
長老は声を荒げた。
「依頼は巣窟の完全排除だったはずだ!」
カイルが痛みを堪えながら上体を起こした。
「完全排除するつもりだった。だが━━」
「A級パーティと聞いていたが、こんな状態では話が違う」
長老は厳しい目を向けた。
そのまま報酬の入った袋を投げ捨てた。
「報酬は当初の半分だ。残りの仕事が完了したら残額を支払おう」
「半分だと!」
カイルは激しく抗議しようとしたが、痛みで顔を歪め、言葉を失った。
セリナは諦めたように肩をすくめた。
「分かりました。受け取ります」
「ふん。これ以上戦えないのなら帰ってくれて結構だ」
そう言われて誰も何も言えなかった。
「どうやら本当に無理みたいだな。帰れ。ギルドにはありのまま伝える」
そのまま長老は去っていった。
長老が去った後、重い沈黙が部屋を支配した。
「交渉も。……できなかったな」
ダリオが低く呟いた。
「リオンなら」
「うるさい!」
カイルは怒りに任せて叫んだ。
「あいつの名前を出すな!俺たちはA級なんだ。こんな失敗があってたまるか!」
リナは意識不明のまま、わずかに呻いた。治療師は「数日は安静が必要」と言い残して部屋を出ていった。
セリナは財布の中身を確認して溜息をついた。
「これじゃ、元の町に戻るまでの宿代も危ういわね」
「なぜそうなる?」
カイルは眉をひそめた。
「予算は十分あるはずだ」
「予算管理が狂っているのよ」
セリナは疲れた声で説明した。
「宿代、食費、装備の修理費。……全部計算が合ってない。いつもはリオンが全部管理してくれていたから気づかなかったけど、今回は私たちがやって。ひどい結果ね」
沈黙が再び支配した。彼らは口にはしなかったが、リオンの存在がいかに重要だったかを心のどこかで理解し始めていた。
三日後、彼らはようやく村を後にする準備が整った。リナの容体は安定し、カイルもダリオも歩けるようになった。しかし、A級パーティとしての威厳は失われていた。
ギルドに到着すると、彼らを待っていたのは厳しい評価だった。
「任務はほぼ失敗。負傷者複数。村からの評価も芳しくない。特に依頼主からのクレームが凄かったです」
ギルド職員は淡々と告げた。
「このままでは、A級維持は厳しいでしょう」
「何だと!」
カイルは机を叩いた。
「たった一度の失敗で!?」
「内容が酷すぎます。情報収集不足、戦略的ミス、チーム連携の崩れ…報告書を見る限り、基本的な部分で問題があります。一度の失敗で降格を考えなければいけないレベルです」
職員は冷静に指摘した。
「次回の依頼は一段階下げて、B級相当を提案します」
それを聞いたカイルの顔が真っ赤になった。
「冗談じゃない。俺たちは━━」
「受けよう」
ダリオが重い声で言った。彼はカイルに真剣な目を向けた。
「カイル。現実を見るべきだ」
「何を言っている!?」
ダリオの勝手な行動にカイルは怒りに震えていた。
「リオンがいない今、俺たちは完全ではない」
ダリオは珍しく静かに長い文を紡いだ。
「彼は裏方として、重要な役割を果たしていた。情報収集、装備管理、戦略立案。全てを一人でこなしていた。俺たちはあいつの貢献を見ていなかった」
「違う。リオンはお荷物だった!」
カイルは叫んだ。
「あいつは戦えなかった!」
「戦うだけが、全てじゃない」
ダリオは静かに、しかし力強く言い切った。
カイルはそれ以上何も言えず、ギルドを飛び出していった。リナは複雑な表情で立ち尽くし、セリナはため息をついた。
その夜、宿に戻った彼らは早々に別々の部屋に引きこもった。セリナは窓際に座り、夜空を見上げながら財布の中身を再度確認していた。予算はリオンがいた時の半分以下しか残っておらず、このままでは長期的な活動が危ぶまれる状況だった。
彼女は星空を見つめながら、小さく呟いた。
「あいつは何をしていたんだろう。私たちが見えないところで」
静かな夜風が彼女の言葉を運び去った。『ザルツ』の崩壊は、既に始まっていたのだ。一方で、誰も知らないところで、リオン・アルディスは新たな人生を歩み始めていた。
ギルド職員として、その能力を正当に評価される場所で。
「地図によると、魔物の巣窟はこの先のはずだ」
カイルは前夜、村の長老から得た情報を基に進路を決めていた。しかし、彼らが得た情報はあまりにも断片的だった。
「どんな魔物がいるんだろう?」
セリナが呟いた。
「大きな蜘蛛型なのは分かったけど、他には?」
「大丈夫よ」
リナは自信なさげな笑みを浮かべた。
「私たちは何百もの魔物と戦ってきたわ。今さら怖がることなんてないはずよ」
ダリオは黙って頷いたが、その目には不安の色が宿っていた。
森の奥へと進むにつれ、周囲の木々はより密集し、陽光さえ地面に届かない暗がりとなった。不気味な沈黙が漂う中、彼らは巨大な洞窟の入り口に辿り着いた。
「ここが巣窟か」
カイルは剣を構えながら呟いた。
「作戦は━━」
彼は言葉に詰まった。普段ならリオンが事前に情報をくれてそれをもとにカイルが中心となって作戦を綿密に立て、全員の役割を明確にしていたのだ。
「作戦は無い。突撃だ!」
カイルは思いつきで叫んだ。
「俺が先頭、ダリオは右翼、リナは後方から魔法支援、セリナは影から急所を狙え!」
単純な作戦だったが、経験豊富な彼らにとっては十分のはずだった。洞窟に踏み込んだ一行は、すぐに異様な光景に息を飲んだ。
洞窟内部は巨大な蜘蛛の巣で覆われ、天井からは無数の卵嚢が吊り下がっていた。そして中央には、前日遭遇したものよりはるかに大きな親蜘蛛が待ち構えていた。
「なんてこと」
リナの声が震えた。
「まさか。こんなに大規模な巣だったなんて」
「情報が不足していたな」
ダリオが低く呟いた。
カイルは顔を引きつらせながらも、剣を強く握り締めた。
「構わない!行くぞ!」
彼が叫ぶと同時に、親蜘蛛が動き出した。巨大な脚が地面を震わせ、口からは粘着性の毒液が飛び散った。
「防御魔法!」
リナが杖を振り上げたが、放たれた魔法のバリアは通常の半分ほどの大きさでしかなかった。
「どうして?私の魔力が」
「魔法具の調整不足だ」
セリナが叫んだ。
「いつもはリオンが━━」
言い終わる前に、親蜘蛛の攻撃がリナを直撃した。彼女は悲鳴を上げて壁に叩きつけられ、意識を失った。
「リナ!」
カイルが駆け寄ろうとした瞬間、天井から無数の子蜘蛛が降りてきた。
「囲まれた!」
セリナの声が響く。
ダリオは黙々と斧を振るい、次々と子蜘蛛を薙ぎ倒していたが、その数はあまりにも多かった。
「撤退すべきだ」
ダリオはカイルにそう告げる。
「冗談じゃない!」
カイルは怒りに任せて親蜘蛛に向かって突進した。
「A級パーティが、こんな魔物に負けるわけがない!」
しかし、彼の剣は親蜘蛛の固い外殻をかすり傷程度しか与えられなかった。
「なぜだ」
カイルは絶望的な表情で叫んだ。
「俺たちはA級なのに」
その時、セリナが気づいた。
「カイル!この親蜘蛛。特殊な弱点をつかないと太刀打ちできないわ」
「セリナ。どこでそんな情報を?」
「リオンのメモに書いてあった。いつもはリオンが全部調べてくれていたの」
セリナは震える声で返した。
「彼がいれば、こんな状況には」
それを聞いてダリオも口を開いた。
「リオンなら。……この状況を予測して。対策を練っていた」
「黙れ!」
カイルは怒りで顔を歪ませた。
「あいつの名前を出すな!俺たちだけで十分だ!」
カイルは再び無謀な突進を試みたが、親蜘蛛の強力な脚に弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。口から血を吐き出し、立ち上がることもできない。
セリナは絶望的な状況の中、必死に頭を働かせた。
「ダリオ!あの天井の岩!親蜘蛛の真上!」
ダリオは一瞬で状況を理解し、巨大な斧を天井の脆い岩に向かって投げつけた。激しい振動と共に、巨大な岩塊が親蜘蛛を直撃した。
轟音と土煙が洞窟内を支配し、しばらくして静寂が戻った時、親蜘蛛は岩の下敷きとなり、動かなくなっていた。
「何とか。勝ったわね」
セリナは膝をつき、激しく息を切らした。
しかし、彼らの勝利は完全なものではなかった。リナは重傷を負って意識不明、カイルも立ち上がれないほどの怪我を負っていた。ダリオも複数の傷から血を流し、力尽きたように座り込んでいた。
「帰還しよう」
ダリオは疲れ切った声で言った。
セリナはぼんやりと頷きながら、リオンの不在がもたらした惨状を見つめていた。情報不足、装備の不備、戦略の甘さ。すべてがリオンの存在の大きさを物語っていた。
「私たちは、彼を必要としていたのね」
セリナは小さく呟いた。
しかし、その言葉はカイルの耳には届かなかった。彼はただ、屈辱と怒りに震えながら、自分たちのプライドが砕け散る音を聞いていたのだった。
*
村の小さな医療所は、今日ほど多くの負傷者を一度に受け入れたことはないだろう。
『ザルツ』の面々は、それぞれ深い傷を負って横たわっていた。リナは未だ意識を取り戻さず、カイルの体は包帯で覆われ、ダリオも治療を受けていた。唯一歩ける状態だったセリナだけが、窓際に立って外を眺めていた。
「依頼主が来るわよ」
彼女は小さく呟いた。
部屋の扉が開き、村の長老が険しい表情で入ってきた。
「魔物は倒したのか?」
一行を見る長老の声には不信感が混じっていた。
「ええ、親蜘蛛は倒しました」
セリナが答えた。
「ですが、巣窟全体の掃討は━━」
「まだ残っているのか!」
長老は声を荒げた。
「依頼は巣窟の完全排除だったはずだ!」
カイルが痛みを堪えながら上体を起こした。
「完全排除するつもりだった。だが━━」
「A級パーティと聞いていたが、こんな状態では話が違う」
長老は厳しい目を向けた。
そのまま報酬の入った袋を投げ捨てた。
「報酬は当初の半分だ。残りの仕事が完了したら残額を支払おう」
「半分だと!」
カイルは激しく抗議しようとしたが、痛みで顔を歪め、言葉を失った。
セリナは諦めたように肩をすくめた。
「分かりました。受け取ります」
「ふん。これ以上戦えないのなら帰ってくれて結構だ」
そう言われて誰も何も言えなかった。
「どうやら本当に無理みたいだな。帰れ。ギルドにはありのまま伝える」
そのまま長老は去っていった。
長老が去った後、重い沈黙が部屋を支配した。
「交渉も。……できなかったな」
ダリオが低く呟いた。
「リオンなら」
「うるさい!」
カイルは怒りに任せて叫んだ。
「あいつの名前を出すな!俺たちはA級なんだ。こんな失敗があってたまるか!」
リナは意識不明のまま、わずかに呻いた。治療師は「数日は安静が必要」と言い残して部屋を出ていった。
セリナは財布の中身を確認して溜息をついた。
「これじゃ、元の町に戻るまでの宿代も危ういわね」
「なぜそうなる?」
カイルは眉をひそめた。
「予算は十分あるはずだ」
「予算管理が狂っているのよ」
セリナは疲れた声で説明した。
「宿代、食費、装備の修理費。……全部計算が合ってない。いつもはリオンが全部管理してくれていたから気づかなかったけど、今回は私たちがやって。ひどい結果ね」
沈黙が再び支配した。彼らは口にはしなかったが、リオンの存在がいかに重要だったかを心のどこかで理解し始めていた。
三日後、彼らはようやく村を後にする準備が整った。リナの容体は安定し、カイルもダリオも歩けるようになった。しかし、A級パーティとしての威厳は失われていた。
ギルドに到着すると、彼らを待っていたのは厳しい評価だった。
「任務はほぼ失敗。負傷者複数。村からの評価も芳しくない。特に依頼主からのクレームが凄かったです」
ギルド職員は淡々と告げた。
「このままでは、A級維持は厳しいでしょう」
「何だと!」
カイルは机を叩いた。
「たった一度の失敗で!?」
「内容が酷すぎます。情報収集不足、戦略的ミス、チーム連携の崩れ…報告書を見る限り、基本的な部分で問題があります。一度の失敗で降格を考えなければいけないレベルです」
職員は冷静に指摘した。
「次回の依頼は一段階下げて、B級相当を提案します」
それを聞いたカイルの顔が真っ赤になった。
「冗談じゃない。俺たちは━━」
「受けよう」
ダリオが重い声で言った。彼はカイルに真剣な目を向けた。
「カイル。現実を見るべきだ」
「何を言っている!?」
ダリオの勝手な行動にカイルは怒りに震えていた。
「リオンがいない今、俺たちは完全ではない」
ダリオは珍しく静かに長い文を紡いだ。
「彼は裏方として、重要な役割を果たしていた。情報収集、装備管理、戦略立案。全てを一人でこなしていた。俺たちはあいつの貢献を見ていなかった」
「違う。リオンはお荷物だった!」
カイルは叫んだ。
「あいつは戦えなかった!」
「戦うだけが、全てじゃない」
ダリオは静かに、しかし力強く言い切った。
カイルはそれ以上何も言えず、ギルドを飛び出していった。リナは複雑な表情で立ち尽くし、セリナはため息をついた。
その夜、宿に戻った彼らは早々に別々の部屋に引きこもった。セリナは窓際に座り、夜空を見上げながら財布の中身を再度確認していた。予算はリオンがいた時の半分以下しか残っておらず、このままでは長期的な活動が危ぶまれる状況だった。
彼女は星空を見つめながら、小さく呟いた。
「あいつは何をしていたんだろう。私たちが見えないところで」
静かな夜風が彼女の言葉を運び去った。『ザルツ』の崩壊は、既に始まっていたのだ。一方で、誰も知らないところで、リオン・アルディスは新たな人生を歩み始めていた。
ギルド職員として、その能力を正当に評価される場所で。
103
あなたにおすすめの小説
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。
柊
ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。
辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。
※複数のサイトに投稿しています。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる