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第12話「決別」
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ギルドの書庫で、俺は報告書をめくっていた。
最近扱った案件の精算確認が目的だったが、ふと視界の端に見慣れた名前が目に飛び込んできた。
『A級パーティ(現在C級相当)“ザルツ”依頼失敗報告』
俺がかつて所属していたカイルたちのパーティだ。
気づけば、指が勝手にその報告書を引き抜いていた。
こんなこと、知る必要はない。だが、ページを開く手を止められなかった。
依頼の失敗。連携の乱れ。物資の不足。
俺がいなくなってから、同じようなトラブルが何度も繰り返されている。
「……やっぱり、俺がいた頃と比べると、管理が崩れているな」
つぶやいた声が、書庫に静かに響く。
昔の仲間たちが苦戦しているという事実に、心が揺れる。
自業自得だ。そう割り切ることもできる。
だが、十年も共に歩んできた仲間だったことは、どうしても心の奥に残っていた。
最後のページには、別ギルドに移籍したというものだった。
「カイルの奴。ずる賢さは相変わらずだな」
俺はこれを見た瞬間、カイルの考えだと瞬時に思った。
このギルドにいても既にC級相当に降格になっている。次の更新時期で正式なC級パーティになるはずだ。だが拠点を変えて別のギルドに移籍することでA級を維持する事が出来たのだ。
本来だったらそんな詐欺まがいの行動はできないのだが、移籍先のギルドは人で結構な僻地で冒険者不足なので大した調査もせずにA級パーティとして受け入れたのだろう。
「いや、あいつらがどうなろうが俺には関係ない」
俺は一人で呟きながら首を横に振った。
「全く。まだ引きずってるのか、俺は」
自嘲気味に笑った時、ふいに誰かの気配を感じた。
「リオン。そこにいるの?」
「エリナか」
声の主は、エリナだった。
俺が書庫にこもると、いつも心配して見に来てくれる。
「今日は何の資料を探しているの?」
「ちょっと、資料を探している時にまとまった報告書の束を見つけてな。つい、手が止まっただけだ」
急で誤魔化す事も出来ず正直に言ってしまった。さすがに昔の仲間たちの情報を見ていたなんて言えないが。
「もしかして、あの人たち?」
あっさりと図星を突かれて、少し驚いた。
エリナは俺のことを、よく見ている。いや、見すぎている。
「……バカだよな。もう俺には関係のない話なのに、つい気になってしまう」
「……それは、仕方のないことよ。だって、リオンが本気で支えてきた人たちだったんでしょう?」
俺は答えられなかった。
否定すれば嘘になる。肯定すれば未練に聞こえる。
だが、エリナはそんな俺を責めるでもなく、そっと隣に腰を下ろした。
「……でもね、リオン。支えてきた時間に意味がなかったとは思わないわよ。私は」
「……支えてきた時間の意味?」
「そう。それがあったから、今のリオンがいるの。今、ギルドで頼りにされている“あなた”が」
エリナの声は、どこまでもまっすぐだった。
その瞳に映る自分が、過去に囚われたままの存在ではなく、「今」を生きる誰かであるように感じられた。
「ありがとう。エリナ。少し、救われた気がするよ」
「そう。それは、よかったです。それではリオンさん。仕事に戻りましょう」
エリナも仕事モードになる。
静かな書庫の中、ページをめくる音が再び鳴り始めた。
俺は、前に進む。未練も後悔も抱えたまま――だが、確かに前へ。
*
翌朝。
昨日までより、ほんの少しだけ背筋が伸びたような気がした。
過去に心を引かれるのは人の性。それはわかっている。だが、だからといって立ち止まり続けるのは俺の流儀じゃない。
俺はもう冒険者ではない。ギルド職員としての道を歩き始めている。その証を、行動で示すしかない。
今日の案件は、地方都市に拠点を構える中堅ギルドとの物資取引の調整だ。
最近、物流が滞っており、アイテムや装備の価格が乱高下しているという報告が上がっていた。
「リオンさん、例の取引先との交渉資料、こちらです」
若手職員が、少し緊張した様子で書類を差し出してきた。
受け取りながら、その内容に目を走らせる。
「……予算枠の割に、あちらの要求が強すぎるな。歩み寄るとしたら、この素材供給ルートの見直しが鍵になるか」
資料を見ながら解決策を考えていく。
「えっ……そんな短時間で?」
「数字を見れば、だいたい見えてくる。今夜までに再交渉の素案を作る。先方への連絡は俺がやるよ」
周囲が驚いたように息を呑んだのがわかった。
だが、これが俺の仕事だ。
むしろ、こういう混乱した現場ほど、得意な分野でもある。
交渉、帳簿、物資管理、流通経路、冒険者の消耗具合。
パーティでの裏方時代に培ったものは、戦場では地味だったかもしれない。けれど、ここでは明確な「力」として通用する。
夕方、ギルドマスター室に資料を提出したとき、ギルドマスターが目を細めて言った。
「お前は……まるで全体を見通す監督官のようだな。冒険者だけがギルドの宝ではない。お前のような者もまた、要だと改めて実感する」
その言葉に、胸の奥で小さな何かが灯るのを感じた。
必要とされている。
それだけで、救われる。
あの頃の俺には、決して届かなかった言葉だ。
夜、書類整理を終えて執務室を出ると、廊下の端にエリナが立っていた。
「今日も、お疲れ様です」
「……エリナ。なんでそんなところで待っていた?」
「リオンさんが“自分を見失わないように”って、ちょっとだけ見張りです」
冗談めかして笑うその表情に、俺も思わず微笑んだ。
「ありがとうな。エリナ」
「いいえ。私、リオンがどんどん前に進んでいくのを見るの、好きなのよ」
何気ないその言葉が、妙に心に残った。
そう言う意味ではないだろうが、「好き」と言われて少し心がときめいてしまった。
俺は今、誰かに支えられ、そして誰かを支えている。
それは確かに、かつてとは違う形の「絆」だった。
*
数日後。
業務の合間に、エリナが一通の報告書を手に俺の席にやってきた。
「エリナ。どうした?」
心なしかエリナの顔色が悪い。
「リオン。あのね。ちょっと……これを見て」
差し出されたのは、一枚の書類。
「報告書?」
俺が受け取ったもの。それは、別ギルドからの事故報告書だった。
任務失敗による冒険者の死傷報告。よくあると言えば、それまでの話だ。
だが、目を通してすぐ、胸がざわついた。
「……こ、これは」
載っていた名前。
そこには、見覚えのある者たちの名前が並んでいた。
A級パーティ『ザルツ』の任務失敗により崩壊。
ダリオ・ヴェルト――任務中。重傷の末、死亡。
リナ・グレイル――任務中の傷がもとで死亡。
そして、カイル・ラグナ。
「現在、消息不明」と記されていたが、文面のニュアンスからして、生存の可能性は極めて低い。
手が、止まった。
彼らは俺の元仲間だ。かつて共に戦い、笑い、夢を語った仲間。
そして、俺を「お荷物」として追放した者たち。
「こっちのギルドにも、いくつか情報が上がってきているわ。任務の失敗が続いていたみたいで……補給も、記録管理も、全部めちゃくちゃだったそう。最後のほうは少しまともになったみたいだけど。運悪く強いモンスターに遭遇してしまったみたいで」
静かに語るエリナの声を、俺はぼんやりと聞いていた。
そうか。
俺がやっていたことは、やっぱり“無駄”じゃなかったんだな。
誰かが帳簿をつけていたから、無駄のない装備調達ができた。
誰かが戦略を整えていたから、無謀な戦闘は避けられた。
それを、誰も気づかないまま“当たり前”と勘違いしていたんだ。
「ははは」
乾いた笑いが口から漏れた。
「……なんでなんだろうな。ざまあみろって、思ってもいいはずなのに……」
俺は目の奥が熱くなるのを感じた。
悔しさか、悲しさか、それとも。
「リオン」
エリナの声が、そっと俺の胸に触れるようだった。
そう感じていると、そのままエリナに抱きしめられた。
「エリナ?」
「リオン。私は、リオンがここにいてくれて、本当に良かったと思っているわ」
その言葉に、俺の中で膿のように淀んでいた感情が、静かに溶けていくのを感じた。
俺はもう、戻る場所なんてない。
だけど――進む道なら、ここにある。
少なくとも、今の俺を、誰かが必要としてくれている。
その事実だけで、救われる気がした。
*
その夜、俺は久しぶりに一人、ギルドの屋上に出た。
街の明かりが滲んで見える。静かだった。人の声も、風の音も遠く、まるで別世界のように思えた。
「――ここで、カイルと空を見上げたことがあったな」
ふと、口に出していた。
十代の終わり、初めてA級に昇格した夜。
浮かれていたカイルに付き合わされて、深夜まで飲んで、酔い潰れた奴を背負って歩いた。俺はその後、装備点検と資金報告の整理に追われてほとんど眠れなかったっけ。思い返すとずっとそんな役割ばっかりだ。
でもあの頃は、それでいいと思っていた。
裏方に回って、誰かを支えることが、自分にできる最善だと。
だが、そういう役割は、気づかれないこともある。
支えが当たり前になったとき、人はそれを「無価値」と錯覚する。
だから、俺は追放された。
「でも」
今の俺は、違う。
ギルドという舞台で、俺の働きは目に見える形で評価されている。
任された案件は増え、困難な依頼にも応えられるようになってきた。
「数字と戦略だけじゃない。俺自身の価値を、ようやく証明できるようになった」
それは、かつての俺にはなかった誇りだった。
足音が近づいてくるのに気づいて、振り返る。
「ここにいると思ったわ」
エリナだった。
彼女は隣に立ち、夜風に髪をなびかせながら、静かに言った。
「……辛いわよね。大切だった仲間が、いなくなるって」
「……ああ。でも、それでも」
俺はゆっくりと、頷いた。
「俺は、もう前を向く。あいつらの死を無駄にしないためにも、ここで、もっと強くなる」
誰かを支えるだけじゃなく、俺自身が、誰かを導けるように。
「私も、支えるわよ。リオン」
エリナが笑った。
その笑顔が、灯火のように心に染みた。
俺はまた歩き出す。
自分の力で、新しい未来を築くために。
最近扱った案件の精算確認が目的だったが、ふと視界の端に見慣れた名前が目に飛び込んできた。
『A級パーティ(現在C級相当)“ザルツ”依頼失敗報告』
俺がかつて所属していたカイルたちのパーティだ。
気づけば、指が勝手にその報告書を引き抜いていた。
こんなこと、知る必要はない。だが、ページを開く手を止められなかった。
依頼の失敗。連携の乱れ。物資の不足。
俺がいなくなってから、同じようなトラブルが何度も繰り返されている。
「……やっぱり、俺がいた頃と比べると、管理が崩れているな」
つぶやいた声が、書庫に静かに響く。
昔の仲間たちが苦戦しているという事実に、心が揺れる。
自業自得だ。そう割り切ることもできる。
だが、十年も共に歩んできた仲間だったことは、どうしても心の奥に残っていた。
最後のページには、別ギルドに移籍したというものだった。
「カイルの奴。ずる賢さは相変わらずだな」
俺はこれを見た瞬間、カイルの考えだと瞬時に思った。
このギルドにいても既にC級相当に降格になっている。次の更新時期で正式なC級パーティになるはずだ。だが拠点を変えて別のギルドに移籍することでA級を維持する事が出来たのだ。
本来だったらそんな詐欺まがいの行動はできないのだが、移籍先のギルドは人で結構な僻地で冒険者不足なので大した調査もせずにA級パーティとして受け入れたのだろう。
「いや、あいつらがどうなろうが俺には関係ない」
俺は一人で呟きながら首を横に振った。
「全く。まだ引きずってるのか、俺は」
自嘲気味に笑った時、ふいに誰かの気配を感じた。
「リオン。そこにいるの?」
「エリナか」
声の主は、エリナだった。
俺が書庫にこもると、いつも心配して見に来てくれる。
「今日は何の資料を探しているの?」
「ちょっと、資料を探している時にまとまった報告書の束を見つけてな。つい、手が止まっただけだ」
急で誤魔化す事も出来ず正直に言ってしまった。さすがに昔の仲間たちの情報を見ていたなんて言えないが。
「もしかして、あの人たち?」
あっさりと図星を突かれて、少し驚いた。
エリナは俺のことを、よく見ている。いや、見すぎている。
「……バカだよな。もう俺には関係のない話なのに、つい気になってしまう」
「……それは、仕方のないことよ。だって、リオンが本気で支えてきた人たちだったんでしょう?」
俺は答えられなかった。
否定すれば嘘になる。肯定すれば未練に聞こえる。
だが、エリナはそんな俺を責めるでもなく、そっと隣に腰を下ろした。
「……でもね、リオン。支えてきた時間に意味がなかったとは思わないわよ。私は」
「……支えてきた時間の意味?」
「そう。それがあったから、今のリオンがいるの。今、ギルドで頼りにされている“あなた”が」
エリナの声は、どこまでもまっすぐだった。
その瞳に映る自分が、過去に囚われたままの存在ではなく、「今」を生きる誰かであるように感じられた。
「ありがとう。エリナ。少し、救われた気がするよ」
「そう。それは、よかったです。それではリオンさん。仕事に戻りましょう」
エリナも仕事モードになる。
静かな書庫の中、ページをめくる音が再び鳴り始めた。
俺は、前に進む。未練も後悔も抱えたまま――だが、確かに前へ。
*
翌朝。
昨日までより、ほんの少しだけ背筋が伸びたような気がした。
過去に心を引かれるのは人の性。それはわかっている。だが、だからといって立ち止まり続けるのは俺の流儀じゃない。
俺はもう冒険者ではない。ギルド職員としての道を歩き始めている。その証を、行動で示すしかない。
今日の案件は、地方都市に拠点を構える中堅ギルドとの物資取引の調整だ。
最近、物流が滞っており、アイテムや装備の価格が乱高下しているという報告が上がっていた。
「リオンさん、例の取引先との交渉資料、こちらです」
若手職員が、少し緊張した様子で書類を差し出してきた。
受け取りながら、その内容に目を走らせる。
「……予算枠の割に、あちらの要求が強すぎるな。歩み寄るとしたら、この素材供給ルートの見直しが鍵になるか」
資料を見ながら解決策を考えていく。
「えっ……そんな短時間で?」
「数字を見れば、だいたい見えてくる。今夜までに再交渉の素案を作る。先方への連絡は俺がやるよ」
周囲が驚いたように息を呑んだのがわかった。
だが、これが俺の仕事だ。
むしろ、こういう混乱した現場ほど、得意な分野でもある。
交渉、帳簿、物資管理、流通経路、冒険者の消耗具合。
パーティでの裏方時代に培ったものは、戦場では地味だったかもしれない。けれど、ここでは明確な「力」として通用する。
夕方、ギルドマスター室に資料を提出したとき、ギルドマスターが目を細めて言った。
「お前は……まるで全体を見通す監督官のようだな。冒険者だけがギルドの宝ではない。お前のような者もまた、要だと改めて実感する」
その言葉に、胸の奥で小さな何かが灯るのを感じた。
必要とされている。
それだけで、救われる。
あの頃の俺には、決して届かなかった言葉だ。
夜、書類整理を終えて執務室を出ると、廊下の端にエリナが立っていた。
「今日も、お疲れ様です」
「……エリナ。なんでそんなところで待っていた?」
「リオンさんが“自分を見失わないように”って、ちょっとだけ見張りです」
冗談めかして笑うその表情に、俺も思わず微笑んだ。
「ありがとうな。エリナ」
「いいえ。私、リオンがどんどん前に進んでいくのを見るの、好きなのよ」
何気ないその言葉が、妙に心に残った。
そう言う意味ではないだろうが、「好き」と言われて少し心がときめいてしまった。
俺は今、誰かに支えられ、そして誰かを支えている。
それは確かに、かつてとは違う形の「絆」だった。
*
数日後。
業務の合間に、エリナが一通の報告書を手に俺の席にやってきた。
「エリナ。どうした?」
心なしかエリナの顔色が悪い。
「リオン。あのね。ちょっと……これを見て」
差し出されたのは、一枚の書類。
「報告書?」
俺が受け取ったもの。それは、別ギルドからの事故報告書だった。
任務失敗による冒険者の死傷報告。よくあると言えば、それまでの話だ。
だが、目を通してすぐ、胸がざわついた。
「……こ、これは」
載っていた名前。
そこには、見覚えのある者たちの名前が並んでいた。
A級パーティ『ザルツ』の任務失敗により崩壊。
ダリオ・ヴェルト――任務中。重傷の末、死亡。
リナ・グレイル――任務中の傷がもとで死亡。
そして、カイル・ラグナ。
「現在、消息不明」と記されていたが、文面のニュアンスからして、生存の可能性は極めて低い。
手が、止まった。
彼らは俺の元仲間だ。かつて共に戦い、笑い、夢を語った仲間。
そして、俺を「お荷物」として追放した者たち。
「こっちのギルドにも、いくつか情報が上がってきているわ。任務の失敗が続いていたみたいで……補給も、記録管理も、全部めちゃくちゃだったそう。最後のほうは少しまともになったみたいだけど。運悪く強いモンスターに遭遇してしまったみたいで」
静かに語るエリナの声を、俺はぼんやりと聞いていた。
そうか。
俺がやっていたことは、やっぱり“無駄”じゃなかったんだな。
誰かが帳簿をつけていたから、無駄のない装備調達ができた。
誰かが戦略を整えていたから、無謀な戦闘は避けられた。
それを、誰も気づかないまま“当たり前”と勘違いしていたんだ。
「ははは」
乾いた笑いが口から漏れた。
「……なんでなんだろうな。ざまあみろって、思ってもいいはずなのに……」
俺は目の奥が熱くなるのを感じた。
悔しさか、悲しさか、それとも。
「リオン」
エリナの声が、そっと俺の胸に触れるようだった。
そう感じていると、そのままエリナに抱きしめられた。
「エリナ?」
「リオン。私は、リオンがここにいてくれて、本当に良かったと思っているわ」
その言葉に、俺の中で膿のように淀んでいた感情が、静かに溶けていくのを感じた。
俺はもう、戻る場所なんてない。
だけど――進む道なら、ここにある。
少なくとも、今の俺を、誰かが必要としてくれている。
その事実だけで、救われる気がした。
*
その夜、俺は久しぶりに一人、ギルドの屋上に出た。
街の明かりが滲んで見える。静かだった。人の声も、風の音も遠く、まるで別世界のように思えた。
「――ここで、カイルと空を見上げたことがあったな」
ふと、口に出していた。
十代の終わり、初めてA級に昇格した夜。
浮かれていたカイルに付き合わされて、深夜まで飲んで、酔い潰れた奴を背負って歩いた。俺はその後、装備点検と資金報告の整理に追われてほとんど眠れなかったっけ。思い返すとずっとそんな役割ばっかりだ。
でもあの頃は、それでいいと思っていた。
裏方に回って、誰かを支えることが、自分にできる最善だと。
だが、そういう役割は、気づかれないこともある。
支えが当たり前になったとき、人はそれを「無価値」と錯覚する。
だから、俺は追放された。
「でも」
今の俺は、違う。
ギルドという舞台で、俺の働きは目に見える形で評価されている。
任された案件は増え、困難な依頼にも応えられるようになってきた。
「数字と戦略だけじゃない。俺自身の価値を、ようやく証明できるようになった」
それは、かつての俺にはなかった誇りだった。
足音が近づいてくるのに気づいて、振り返る。
「ここにいると思ったわ」
エリナだった。
彼女は隣に立ち、夜風に髪をなびかせながら、静かに言った。
「……辛いわよね。大切だった仲間が、いなくなるって」
「……ああ。でも、それでも」
俺はゆっくりと、頷いた。
「俺は、もう前を向く。あいつらの死を無駄にしないためにも、ここで、もっと強くなる」
誰かを支えるだけじゃなく、俺自身が、誰かを導けるように。
「私も、支えるわよ。リオン」
エリナが笑った。
その笑顔が、灯火のように心に染みた。
俺はまた歩き出す。
自分の力で、新しい未来を築くために。
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