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敗。
しおりを挟むセルジョの両耳は弾丸によって無惨にも引き裂かれ、両手の甲には丸い穴が開く。
どちらの傷からも、血がダラダラと止めどなく零れ出す。
苦痛に顔が歪むセルジョの前に、エルモから借りた銃を指でクルクル回し遊ぶチェルソが立ち──そしてこれから迫るであろう、恐ろしい言葉を放つ。
まるでそれは、これから行う遊びを長引かせたい想いで。
「お前は、あとどの程度まで耐える」
目の前に迫る恐怖の対象。
弾丸が突き抜けた両手は痛みと痺れでもう力が入らず、武器であったナイフを握る事は不可能。
初めから己の敗けは見えていた。それでも抗おうとした。
馬鹿にされた苛つきで刃物を振るいはしたが、それでも心の端に未だ残る、この人物の部下になりたい気持ち。
だが何故ここまでされてその気持ちが消えぬのか、セルジョ自身わからなかった。
相手の強さに惹かれるのか……確かにその想いは存在する。嘗て遠目から見たチェルソの存在に、心が動いたのもまた事実。
例え今この状況であろうと、部下になる許可が降りれば喜んだであろう。
そんな心情に、セルジョは苦笑いする。
──はは、俺は相当馬鹿だ。薬で脳がやられたか?
もはやどうする事も出来ず、セルジョは息を飲み一歩後ろに下がった──
その直後、視界が大きくぶれ、こめかみには激しい痛みが走る。
「──ッ!?」
チェルソは手に握る銃で、セルジョこめかみ目掛け殴ったのだ。
あまりの衝撃の強さに脳が左右に揺れ、視界の中に眩い光が見えた。
一体今、自分の身に何が起きたのか。
それを把握出来る前に衝撃でセルジョの身体は前のめりに倒れるが、地面に着かずして新たな攻撃が成される。
「…………グァ……っ」
今し方殴ったのはエルモの銃、そして次は逆手に持つチェルソ愛用の拳銃で下から腕を伸ばし、セルジョの顔面を殴り上げた。
噴水のように吹き溢れる血。
セルジョの身体は跳ね上がり、頭部は背後に向かって倒れていく。
しかしまたもや、地面に倒れ伏す前に次の衝撃が身体を走る。
「────!」
空を切る速さで、チェルソの回し蹴りがセルジョの腹部を叩き付けた。
事態に理解出来ず混乱する頭。くの字に曲がる身体。そこから鈍い音が聞こえる事から、肋骨も折れたであろう重い一撃。
脚の動きが止まり靴底が地面に着く頃には、蹴り飛ばされたセルジョは激しい衝突音と共に、本日二度目となる壁に激突──壁にめり込む形となった。
その後ズルリと剥がれ落ちたセルジョは、なんの抵抗もなく倒れ伏す。
それでもかろうじて息はあり、意識も微かに覗く。
瞼は切れ、こめかみも切れ、耳は千切れ、鼻は折れ──血だるまになるその顔は、大きく腫れ上がり視界が狭まる。
その狭い視界の中に徐々に近寄る靴の先端が見えるが、もはや一歩も動く事の出来ない身体を恨む。
せめて、どこか一ヶ所でも動く場所があれば──
そう思う間に、頭上には影が掛かる。
セルジョの息がある事を確認し、まだ死んではいない事を知れば口元に笑みを浮かべた。
うつ伏せの身体を蹴って転がし仰向けにさせれば、チェルソはその場にしゃがむ。
「んぅ……っ……」
「どうだ、気分は?」
「……ざい、あ……ぐ、だ…………」
なんとか聞き取れた『最悪』との言葉に、チェルソは気分を良くし、クスッと笑う。
しかし──
「で、も……これで…………と、どぐ……」
「あ?……ッ!?」
視界の先に何かが動いたかと思えば、僅かな痛みと共にチェルソの頬に一本の赤い線が出来る。
その線からじわりと滲み出る血。
ついにセルジョは、相手に傷を付ける事が出来たのだ。
身体のどこか一ヶ所でも動ける箇所はないかと考えた時に、セルジョはまだ肩と肘に感覚があると知る。
手首から下は一切感覚は無かったものの、腕が動けば大丈夫と思い、チェルソとの距離が近くなったのをチャンスに腕を振り上げた。
そしてチェルソの頬を爪で引っ掻く事に成功、漸くセルジョは満足気に声を上げる。
「ははっ……は、やっと……やっど、攻撃を食らわせたぜ」
これには予想外だったのか、チェルソは目を丸くし暫し固まってしまう。
「どうだい、旦那……今の、きぶンンあああっ……ぐぁああっ!?」
「俺は変わり無く良好だ」
セルジョに肩と肘に次々と撃ち込まれる弾丸。これではもう、腕を動かす事は出来ないだろう。
更にチェルソは立ち上がり、負傷すら肩を踏みつける。
「まだ動けた事は褒めてやる」
何度も何度も何度も肩を踏みつけた後に、グチャグチャに潰れ──動かせばもげるだろうその肩を見つつ、口の端を楽し気に緩ませる。
チェルソは再びしゃがむと、ふと思い出したように口を開く。
「そう言えばお前は、俺の部下になりたかったみたいだな?」
「……ッ、ぁ……」
まともに喋る事すら出来なくなったセルジョに対し、銃身の先の顔に宛がう。
次は何をされるのかと恐怖に怯える相手の姿を無視し、チェルソは語り出す。
「お前に何が足りないのか、教えてやる。俺の部下になりたければ……先ずは、跪け」
「んぅ──!?」
膝に弾丸が飛ぶ。
ビクンッと跳ねかった膝から、ドバドバと溢れる血液。
「その二、考える脳」
立ち上がり高く上げられたチェルソの脚が勢いよく降下し、踵から頭部を蹴る。
それでもまた微かに残る意識。
「その三、口には気を付けろ」
「んんぅ!? んん──っ!」
口内に銃身が入る。
今度こそお仕舞いだ──死を覚悟した瞬間、弾丸は頬を突き破り口が裂けた。
「────ッ」
声にならない声が、喉の奥から突き上げる。
「その四、俺に気に入られるかどうか…………ん?」
狂気に満ちた笑顔を浮かべると、仕上げとばかりに両手に持つ銃をセルジョの腹部目掛けて撃ち込もうとした──が、トリガーを引く指が全く動かない事に気付く。
ガタガタと手は震え、言うことを聞かない。
目の前の対象をあと一息で殺せる──それが出来ない事に、チェルソは苦笑いを浮かべ心底残念そうに告げる。
「交代の時間だ……」
「……?」
殺される覚悟は無いも、それでも死を前にしてくるであろう衝撃に構えたが、突如それが止む。
セルジョは何が起きたのかと薄れる視界の先で、困惑するチェルソを見る。
すると、手から銃が落ちる瞬間が目に飛び込む。
ドクン──ドクン──
チェルソは苦し気に胸元を押さえ、後ろに下がると同時にセルジョに視線を向け悔しそうに笑う。
「お前……命拾い、したな……」
「……?」
余計に何が起きているのか、セルジョは理解出来ないまま意識が遠退いて行く。
朦朧とする頭、もはや起きている事が苦痛。
現状に生きている事が不思議といった感じではあるが、セルジョは死を免れただただ眠りに入ってしまった。
……ドクン、ドクン、ドクン。
チェルソは更に苦しむ胸の痛み、そして頭痛が襲い──徐々にそれが激しくなると、魂は入れ替わる──
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン───ッ!
チェルソの身体がビクッと跳ねたかと思えば、溢れ出ていた恐怖のオーラは薄れていく。
足元に転がる無惨な姿のセルジョに、元警官の魂が表に現れれば、ぼそりと呟く。
「やりすぎだ……」
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