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回る勘違い
しおりを挟む「今のオレは、多重人格……みたいなもんだよ」
嘘は言っていない、と思う。
だが確実に今のオレは、頬が引きつっているだろう。
これ以上の言い訳が思い付かなかったのだから、仕方ない。事実、魂が二つ存在している時点で、あながち間違った発言はしていない筈。
それに、そのまま本当の事など言える訳がない。
オレは今後このマフィア組織を、部下を、利用する。
チェルソの魂は存在しているが、今の時点では常にオレが表に出ている状態。
首領が別の人間だと知られたら、いろいろと不味い。
まずここの部下なら、オレ自身の魂を無理矢理引き剥がそうとはしそうだ──物理的には難しくとも。
とは言えいきなり多重人格だなんて、そんな話を信じてもらえはしなかった。
後ろからカルロの、呆れと動揺を含んだ声が掛かる。
「……それ、本気で言ってますか?」
「…………」
言葉に詰まる。
首だけを曲げ、ちらりとカルロの方に振り返ってみる。口元は笑みを浮かべてはいるが、やはり目だけは全く笑っていない。
「あなたの事ですから、何か理由があるのでしょう。ですが、あまり内部を混乱させないでください。同じようにフェルモが──」
カルロが話すには、フェルモがオレの中にもう一人人間が居る。と言ったそうだ。
魂が交代された瞬間──それは勿論フェルモは知る事では無いが、それと体感で感じる雰囲気、その後の態度、それらを含めてそんな考えに至ったと。
フェルモはなかなか勘の鋭い奴みたいだ。
今オレが多重人格と言ってカルロは一瞬動揺したが、それはフェルモから聞いた言葉もあったから余計かもしれない。
だが信じはせず、カルロは感じるチェルソの変化を演技で出していると思っている。
「ドン、何かお考えがあるようでたら、教えて頂きたいのですが……」
「…………」
考えも何もない。
そう言えたら良いのだが、言える筈もなく。更なる言い訳を産み出そうとオレは腕を組んで黙る。
──何故ドンは何も答えてくれないのでしょうか。長く傍に居ますが、時々何を考えいるのかわからない。右腕である私にも言えない内容。
──外部はともかく、内部からも混乱させてまで弱体化の演技をする理由。……まさか、内部にドンに対する裏切り者が居る!?
──ドンは弱った振りをして、その裏切り者を誘きだそうと。ですが、私にもその事を話せないでしょうか? 全体で騙せた方が良いのか……もしかすると、内部でも近しい側にその裏切り者が居る可能性も考えて。
──そうであれば、私からもその情報事態を漏れるのを案じて、敢えて弱体化した態度で接している。ドンの命を狙う者は多い。インクロッチ側の人間がもし組織に紛れ込んでいたら、慎重にもなるのは頷けますね。
「なるほど。そう言う事でしたか」
「……ん?」
オレが言い訳を考えている間、カルロも同じように黙ってしまった。
部屋に流れる沈黙。時間にして、数十秒といったとろこ。
その沈黙を破ったのはカルロだった。
それも、何かに納得した口振りで。
まだオレは、更なる言い訳を産み出してはいないんだけれど……
「ドンのお考え、理由、理解致しました」
「え?」
何を言い出すかと思えば、良くわからないが何かに理解されてしまったようだ。
オレは椅子を回転させて、カルロの顔を見る。
その顔は先程の怒りを含む笑みとは違い、少し晴れ晴れとしていた。
コイツ、一体何を理解したんだ!?
困惑するオレを置いていき、カルロは言葉を続ける。
「どこに潜むかわからない敵を落とすには、まず内側から騙す。ドンにしては、随分と優しいお考えですね」
「カルロ……」
「以前と違いむやみやたらと乱射して、無駄に構成員を殺さない辺り良いと思います」
「なんの話を……」
「私もその敵がどこに潜むのか、密かに調査してよろしいでしょうか? 敵は一人と限りません。ですが演技とはいえ、ドンに騙される悪戯も面白そうなので、そのまま騙されておきましょう」
「……」
「必ず裏切り者を見付け出し、その首をドンに差し上げます」
「………………………………期待している」
「はい」
はっきり言おう。
さっぱりもって、意味がわからない。
カルロは何をどう理解し勘違いしたのか、裏切り者がどうのと言っている。
騙されてみるとは、何の事だろうか。
一先ず話を逸らすのもややこしくなりそうな為、期待していると言ってしまった。
チェルソ……お前の部下は、何を考えているのはわならないぞ。
と、心に話し掛けてみたところで当の本人──魂は何も答えてはくれない 。
「そうだ、今後の仕事について話がある。忙しくなるぞ」
チェルソの記憶を辿ると出てくる裏社会の闇。それを一つずつ破壊していく事を考え、無意識に口元が緩む。
もはやここまで来たら後戻りは出来ない。
「大量に弾が必要になりそうだ」
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