ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第39話 キントの意向1

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 小屋の入り口から、ホレイと同じく壮年の域に達し、日に焼けた精悍な顔つきをした男が顔を見せる。
 テムは、農業に精を出していることもあり、土と格闘してきた両腕は筋肉で盛り上がり、村一番の怪力の持ち主である。

「ロナリアから、聞いていないか?」

 ホレイは、藁を編む作業中であったテムに尋ねる。

「いや、今日は、会っていないな」

「そうか……。なら、説明するが……、その前に、キントは家にいるか?」

「あぁ。奥にいるぞ」

 テムは、ホレイの言葉に疑問を浮かべつつ、小屋の奥を指し示す。

「なら、よかった」

「何がいいのか、さっぱりだが、まぁ、座ってくれ」

 テムは、小屋の中央に置いてある椅子代わりの切り株を勧めて、自身も手近にあった切り株を引き寄せて座る。
 ホレイが腰を下ろしたのを見たテムは、ホレイを促す。

「それで?」

「あぁ。先ほど、島の外から来訪者が来た」

 ホレイがそう言うと、テムは、少し驚いた表情をする。

「数十年ぶりだな……」

「そうなるな」

「それで、何をしに来た?」

「あぁ……。その来訪者は、ジョティルという巡察官だが、国主からの使いで、近々大陸で大戦が起こることを伝えに来た」

 テムは、それを聞いて、少し考え出す。

「……そうか。それで、お前は、それを伝えにきてくれたわけだな?」

「あぁ。それもあるが……、キントに用があってな」

「キントにか?」

「そうだ。国主の文には、この村から人を派遣して欲しいことが書かれていて、村長は、その候補にキントを入れられた」

「キントを国都へ送るのか?」

 テムは、少し意外そうな顔をして、ホレイに聞き返す。

「そういうことだな。だから、私がキントを呼びに来たんだ」

「……そうか。しかし、キントは、国都へ行って何をするんだ? まさか、兵として戦には行かないよな?」

「そういう話は出ていないな。私が聞いたのは、キントが武術師範として、国都の軍を鍛えるという話だ」

「キントが先生になるのか?」

「そうだな」

「ふ~む……」

 テムは、腕組みをして唸り、しばし考え込む。

「確かに、キントの弓の腕前は相当なものだが、魔法はからっきしだぞ? それに、引っ込み思案の性格がどうかな?」

「魔法の方は、問題ないだろう。性格は……、人見知りの克服も兼ねて、挑戦してもらうしかないな。ただ、キントのほかにも、バージやモールさんが同行することになっている」

「モール爺が?」

「あぁ。村長が指導役として是非同行して欲しいと名前を挙げられた」

「モール爺は、相当な都嫌いだぞ?」

「その辺は、村長が何とかするとおっしゃっていた。ただ、モールさんなら、面倒見も良いし、腕っ節も立つ。テムも、キントを安心して送り出せるだろう?」

「まぁな……」

 テムは、そう言って、あれこれと考えを巡らす。
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