ロシュフォール物語

凍雪国編第１章

第１０２話 試合後の顛末１

「バージ！」

　ホレイは叫び、決着がついたばかりのバージを咎とがめる。

（あっ……。まずいな……）

　バージは、青筋を立てたホレイの顔を見るなり、急いで謝る。

「すいません。ホレイさん」

「これは、何事だ！」

　ホレイは、目を怒らせてバージを睨み、広場の端で伸びているジョティルを指差す。

「はぁ……。ジョティルがどれほど成長したのかと思い、手合わせを行いました」

「やりすぎだ！」

「すいません。つい……、力が入ってしまって……」

　しおらしく謝るバージに、ホレイがさらに文句を言おうとすると、ドルマが声を上げる。

「ホレイ。わしが許可をしたんじゃ」

「村長！」

　ホレイは、後ろから近づいてきたドルマを見やり、収まらない怒りをそのままぶつける。

「ジョティルは、国都からの正式な使者です！」

「分かっておる」

　ドルマは、怒りを露あらわにするホレイを穏やかに見やる。

「でしたら、なぜ！」

「本人も了承済みのことじゃ」

「そうですよ、ホレイさん。ジョティルとの約束を果たしたまでです」

　バージは、ここぞとばかりに口を挟み、ホレイへの釈明を試みる。

「約束？」

　ホレイは、少し怒りを収め、訝いぶかる声を出す。

「えぇ。昨日、村の案内をしていたときに、巡察官として認められたジョティルの腕前を見せてもらう約束をしたんですよ」

「……それでか？」

「はい。明日の出発を前に、疲れを残さない程度に腕試しを行いました」

「あれでか？」

　ホレイは、未だにピクリともしないジョティルを指差し、バージに非難の目を向ける。

「ちょっと……、やりすぎました。すいません……」

　バージは、ホレイに深々と頭を下げて、反省の態度を示す。

「ホレイ。バージをそう責めてくれるな」

　ドルマは、ホレイの背中をぽんぽんと叩き、バージにジョティルの様子を見てくるように指示を出す。
　バージは、助かったと思い、安堵の表情を浮かべ、ジョティルのもとへと向かう。

「ジョティルの腕前を見る必要があったのじゃ」

「なぜです？」

「アロンとジル、キントを託しても良いのかを見極めるためじゃよ」

「……そうでしたか。しかし……」

「国都からの使者は丁重にもてなすべき……というホレイの懸念は分かる。じゃが、この村の未来に関わることでもあるでな」

「……というと？」

「この場では言えん」

　ドルマは、バージに介抱されるジョティルを見やり、ホレイには別のことを言う。

「しかし、バージは強くなったな」

「え……、あぁ、はい」

　ドルマが急に話題を変えたので、ホレイは少し戸惑う。
　だが、先ほどの戦いを見る限り、バージの腕前が上がったことには異存がない。

「余分な力が抜けた分、剣筋に鋭さが加わりました」

「そうじゃな」

「ただ、余裕をみせすぎるところが難点でしょうか？」

「うむ。格下と思うて舐めておると、そのうち痛い目を見るかもしれんの」

　ドルマは、何事かと集まってきた観衆に手を振り、各自の家に戻るように促す。
　そして、ホレイに目配せをしてから、自宅に入る。