ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第31話 砂浜への上陸2

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 延々と続く砂浜は、砂が傾いた太陽の光を反射して白く輝く。
 また、砂浜に平行するように育つ凍土林の木々は、ようやく新芽をつけたところで、緑に色づき始めている。
 この辺りは、島での景色とはずいぶん異なるが、視界が良好で、数km先まで鮮明に見ることができる。
 テムは、キントの衣服を乾かし、ダイザたちの様子をちらりと見る。
 ダイザとバージ、ジョティルは、筏の周りに留まったまま、何やら話し込んでいる。

「よく見えるということは、何にも邪魔されていないということだ。魔素に邪魔されないから、遠くまで見通せるんだよ」

「ふ~ん……」

「さぁ、これで乾いたぞ。大丈夫か?」

 テムは、キントの肩に手をぽんと置き、疲れた顔をしているキントを心配する。

「うん。海の上にいたときは、ずっとふわふわしていたけど、今はなくなったよ。ほらっ。普通に歩けるよ」

 キントは、そう言って、テムの周囲をぐるぐると回る。
 アロンとジルも、少し歩いてみて、平衡感覚が戻ってきていることに安心する。

「それは、船酔いだ。海の上は、絶えず揺れるから、バランス感覚が狂うんだ。だが、陸へ降り立ってしまえば、元に戻る。だからそれほど、心配しなくてもいい」

「うん。ありがとう、父さん」

「歩けるのなら、ダイザたちのところへ行くか。俺は、腹が減った。遅い昼飯の段取りを決めて、早いこと、飯にしたい」

 テムは、若き三人を引き連れ、ダイザたちへ近づく。
 ダイザたちは、筏の始末を話し合っており、島への侵入者を招かないように、筏を燃やすことに決めたところである。
 ただ、テムは、すでに筏を燃やすことを考えており、ダイザが言い出すより前に切り出す。

「筏を燃やすんだろ?」

「はい。今後の心配をなくすためにも、そうすべきだと思います」

 ダイザが、バージとジョティルと話したことをテムに告げる。
 テムも、それに同意して、筏を燃やす準備のため、先ほどの乾燥した空気を筏に浴びせる。

「ダイザたちも、乾かしたんだろ?」

「はい。バージが乾かしてくれましたよ」

「俺も、割と器用ですからね」

 バージが、テムに少し胸を張る。
 バージも、風魔法を得意としており、火魔法を僅かに追加して、温風を作り上げることができる。
 実は、ダイザも、衣服を乾かすことができる。
 だが、ダイザの場合は、風魔法が使えないため、脱いだ衣服を火魔法で炙るようにして乾かすしかない。

(二つの魔法を同時に操るのは、至難の技なのですがね……)

 ジョティルは、心中でそう呟き、大陸の常識が通用しないテムとバージに、そっとため息をつく。

「それより、俺は腹が減った。お前たちも、そろそろ胃袋が悲鳴を上げてきているだろ?」

「えぇ。俺も、腹の虫が鳴きっぱなしですよ」

 バージは、己の腹をなでる。
 それは、ダイザとジョティルも同じようで、うんうんと頷いている。

「では、こいつを早く片付けて、飯にしよう。そろそろ、焼き始めてくれ」

「はい」

 ダイザは、火魔法を放って、筏に火をつける。
 燃え上がった火は、テムの魔法に煽られて、次第に大きくなっていく。
 しかし、海水に濡れた筏は、火魔法でもそう簡単には燃えない。
 テムは、筏を乾かしながら、バージとジョティルへ合図をし、ダイザに加勢するように促す。

「先に、狩りをしてから、燃やせば良かったですかね?」

 バージは、筏を燃やす火で、獲物を焼けば良かったかと思い、テムに尋ねる。

「いや、ここは目立ってかなわん。林の中に移動して、腹ごしらえをしたほうがいい」

 テムは、狼煙のごとく空高く昇った煙を見上げ、氷嵐鳥などによる襲撃を警戒する。
 ダイザも、テムと同意見で、早く移動した方がいいと目でバージやジョティルへ訴える。

「それでは、狩りをしましょう。その辺りにある獣の足跡を追えば、獲物が見つかるかもしれませんよ」

 ジョティルは、テムにそう提案し、火魔法に込める力を強くする。

「そうだな。さっさと焼いてしまおう」

 バージは、ジョティルに賛成して、風魔法も追加する。
 そうして、四人は、火に風を送り、筏を数分で燃やし尽くしてしまう。

「よし。飯だ」

 腹が減りすぎたテムは、早々と切り上げ、皆を促して浜辺から凍土林の中へ移動する。
 あとには、ほんの少し炭が残るだけとなった筏の残骸と、焼け焦げた砂が残される。
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