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凍雪国編第3章
第46話 獣装兵の宴3
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リターナは、ボフトスが持参してきた食材の中から幾つかを手に取り、短剣で切り刻んでいく。
「何をするんで……?」
「猪肉と香草のリゾットを作る」
リターナは、スイフトボアの肉が焼けたら、その肉を薄くスライスして米に混ぜ込み、締め料理を作るつもりである。
「言ってくれれば、わしが作りやす」
「下拵えは、あたしがやる。ボフトスは、味付けと仕上げを頼む」
「へい」
リターナは、女性らしい手つきで優しくアスタルテの皮を剝き、葉物野菜であるパーマグリーンを細かく刻んでいく。
リゾットには、アスタルテ特有の芋の甘味と辛味高菜であるパーマグリーンのほんのりとした辛味がよく合う。
「……ところで、火焔菜はあるか?」
「ありやすぜ」
ボフトスは、食材袋の中から、赤紫色に染まった蕪によく似た根菜を取り出す。
この火焔菜は、赤紫色の色素を豊富に含んでおり、栄養価が高く、疲労を回復する効果が高い。
また、煮込めば甘味が増し、ほくほくとした食感が美味しい食材である。
ただ、火焔菜を使った料理は、どれも赤色に染まった料理に仕上がってしまう。
「ふふふっ。彼らも、これは食したことがあるまい」
火焔菜は、数年前から国都で流通し出した野菜の1つである。
もともとの産地は、大陸西部の温暖な地域である。
しかし、火焔菜は、寒さに適応させるために、緑黄色から赤紫色へと品種改良を行い、寒冷地でも栽培できるようにした根菜類である。
「お嬢。そんなに入れると、小便が赤くなりやすぜ」
「構わん。血の色のような料理で、彼らの気を引いてみせる」
火焔菜は、一度に大量に食べると、赤紫色の色素が体内で分解できず、赤い尿として体外に排出されるのである。
リターナは、愉しそうに笑い、ボフトスが持ってきた火焔菜のほとんどを刻んでしまい、次々と鍋の中に放り込んでいく。
「この束は、残しておけ。あとで、テム殿に差し上げる」
「猪のお礼ですかい?」
「いや……。トセンへの招待状だな」
リターナは、ボフトスに含み笑いをし、それ以上は聞くなと目で制す。
(お嬢の悪い癖だ……)
リターナは、時として奇抜な方法で相手の機先を制すことを好む。
ボフトスは、今回も上手くいけば良いと願うが、一抹の不安がないわけではない。
「あとは、任せた。猪を焼き上げたら、腿肉の軟らかい部位のみを入れてくれ」
「分かりやした。少し手を加えますが、いいですかい?」
「塩辛くするなよ。あたしも食べるのだからな」
「塩は、それほど足しやせん」
「なら、いい」
リターナは、軽く頷いて許しを与えると、赤紫色に染まった手を洗うために小川へ向かう。
小川では、ネグルたちが持参した器を洗い、料理を盛り付ける準備を始めている。
ボフトスは、リターナのリゾットに、食物繊維が豊富なジャイアントケルプの乾燥粉末を足し、火焔菜による赤い尿を抑制するつもりである。
(いらぬトラブルを防止するためにも、こうした気配りは必要ですぜ……)
ボフトスは、リターナの後ろ姿見て思う。
リターナは、強さを求め、側近とも言えるボフトスにも弱みを見せない。
たまには、頼ることも覚えて欲しいと願うボフトスであるが、リターナが背負う重圧を思えば、それも致し方ないことであると諦観にも似た思いを抱く。
ダイザたちは、簡易天幕の前に立つバージと合流し、背負っていた荷物を天幕の中に運び入れている。
手の空いている獣装兵たちは、その様子を遠巻きにして眺め、宗主を敬う者や珍しげに見る者、腕試しをしたい者など様々な反応を見せている。
ダイザやバージ、テム、ジョティルは、それらの者の視線を平然と受け流している。
だが、アロンやジル、キントは、こういう場面に出くわしたことがないため、どう振舞えばよいのか分からずに、先ほどからずっと困惑した表情を浮かべたまま、ちらちらと辺りを見渡している。
「今は、ほっといていい」
テムが、三人に助言を与える。
三人は、浮かない顔をしまま、「う、うん……」と頼りなく頷き、なんとなく寄り添って立ち尽くしてしまう。
その様子を、テムは、はははっと豪快に笑いながら、猪をボフトスへ届けに行く。
「そのうち、リターナが呼びにくる。落ち着かないのであれば、天幕の中で休んでいればいい」
バージが、もてなされることに慣れていない三人に助け舟を出し、食事の用意ができるまで待機しているように促す。
やることもない三人は、お互いに顔を見合ってから頷くと、そそくさと天幕に隠れてしまう。
(手荒いもてなしを受けるのは、リポウズに着いてからだけどな……)
バージは、血の気の多い輩がうようよといるサイバジ族を思い浮かべる。
そこでは、アロンたちも手合わせを申し入れられ、逃れることはできない。
(まぁ……。アロンやジルだと楽勝だし、キントも弓術を見せれば問題ないだろう)
バージは、ひとり楽しそうに笑い、小川からこちらへ向かってくるリターナを待つ。
「何をするんで……?」
「猪肉と香草のリゾットを作る」
リターナは、スイフトボアの肉が焼けたら、その肉を薄くスライスして米に混ぜ込み、締め料理を作るつもりである。
「言ってくれれば、わしが作りやす」
「下拵えは、あたしがやる。ボフトスは、味付けと仕上げを頼む」
「へい」
リターナは、女性らしい手つきで優しくアスタルテの皮を剝き、葉物野菜であるパーマグリーンを細かく刻んでいく。
リゾットには、アスタルテ特有の芋の甘味と辛味高菜であるパーマグリーンのほんのりとした辛味がよく合う。
「……ところで、火焔菜はあるか?」
「ありやすぜ」
ボフトスは、食材袋の中から、赤紫色に染まった蕪によく似た根菜を取り出す。
この火焔菜は、赤紫色の色素を豊富に含んでおり、栄養価が高く、疲労を回復する効果が高い。
また、煮込めば甘味が増し、ほくほくとした食感が美味しい食材である。
ただ、火焔菜を使った料理は、どれも赤色に染まった料理に仕上がってしまう。
「ふふふっ。彼らも、これは食したことがあるまい」
火焔菜は、数年前から国都で流通し出した野菜の1つである。
もともとの産地は、大陸西部の温暖な地域である。
しかし、火焔菜は、寒さに適応させるために、緑黄色から赤紫色へと品種改良を行い、寒冷地でも栽培できるようにした根菜類である。
「お嬢。そんなに入れると、小便が赤くなりやすぜ」
「構わん。血の色のような料理で、彼らの気を引いてみせる」
火焔菜は、一度に大量に食べると、赤紫色の色素が体内で分解できず、赤い尿として体外に排出されるのである。
リターナは、愉しそうに笑い、ボフトスが持ってきた火焔菜のほとんどを刻んでしまい、次々と鍋の中に放り込んでいく。
「この束は、残しておけ。あとで、テム殿に差し上げる」
「猪のお礼ですかい?」
「いや……。トセンへの招待状だな」
リターナは、ボフトスに含み笑いをし、それ以上は聞くなと目で制す。
(お嬢の悪い癖だ……)
リターナは、時として奇抜な方法で相手の機先を制すことを好む。
ボフトスは、今回も上手くいけば良いと願うが、一抹の不安がないわけではない。
「あとは、任せた。猪を焼き上げたら、腿肉の軟らかい部位のみを入れてくれ」
「分かりやした。少し手を加えますが、いいですかい?」
「塩辛くするなよ。あたしも食べるのだからな」
「塩は、それほど足しやせん」
「なら、いい」
リターナは、軽く頷いて許しを与えると、赤紫色に染まった手を洗うために小川へ向かう。
小川では、ネグルたちが持参した器を洗い、料理を盛り付ける準備を始めている。
ボフトスは、リターナのリゾットに、食物繊維が豊富なジャイアントケルプの乾燥粉末を足し、火焔菜による赤い尿を抑制するつもりである。
(いらぬトラブルを防止するためにも、こうした気配りは必要ですぜ……)
ボフトスは、リターナの後ろ姿見て思う。
リターナは、強さを求め、側近とも言えるボフトスにも弱みを見せない。
たまには、頼ることも覚えて欲しいと願うボフトスであるが、リターナが背負う重圧を思えば、それも致し方ないことであると諦観にも似た思いを抱く。
ダイザたちは、簡易天幕の前に立つバージと合流し、背負っていた荷物を天幕の中に運び入れている。
手の空いている獣装兵たちは、その様子を遠巻きにして眺め、宗主を敬う者や珍しげに見る者、腕試しをしたい者など様々な反応を見せている。
ダイザやバージ、テム、ジョティルは、それらの者の視線を平然と受け流している。
だが、アロンやジル、キントは、こういう場面に出くわしたことがないため、どう振舞えばよいのか分からずに、先ほどからずっと困惑した表情を浮かべたまま、ちらちらと辺りを見渡している。
「今は、ほっといていい」
テムが、三人に助言を与える。
三人は、浮かない顔をしまま、「う、うん……」と頼りなく頷き、なんとなく寄り添って立ち尽くしてしまう。
その様子を、テムは、はははっと豪快に笑いながら、猪をボフトスへ届けに行く。
「そのうち、リターナが呼びにくる。落ち着かないのであれば、天幕の中で休んでいればいい」
バージが、もてなされることに慣れていない三人に助け舟を出し、食事の用意ができるまで待機しているように促す。
やることもない三人は、お互いに顔を見合ってから頷くと、そそくさと天幕に隠れてしまう。
(手荒いもてなしを受けるのは、リポウズに着いてからだけどな……)
バージは、血の気の多い輩がうようよといるサイバジ族を思い浮かべる。
そこでは、アロンたちも手合わせを申し入れられ、逃れることはできない。
(まぁ……。アロンやジルだと楽勝だし、キントも弓術を見せれば問題ないだろう)
バージは、ひとり楽しそうに笑い、小川からこちらへ向かってくるリターナを待つ。
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