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凍雪国編第3章
第54話 獣装の由来4
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「最初の獣装は、ルイビス様のご長男であるセルム様が始められた」
イザックが話したセルムとは、ルイビスの息子で、ボーキョウの次期村長と目されていた人物である。
このセルムは、父ルイビスから剣の手解きを受け、剣の腕をめきめきと磨き上げていった。
「セルム様は、西の海岸線へ狩りに行ったとき、偶然ディスガルドタイガーを見つけ、仕留められた」
「ほぅ……」
テムは、イザックに相槌を打ち、ふと思う。
(ディスガルドタイガーは、絶滅に近い状況だったはずだが……、個体数が増加していたのか?)
イザックは、テムの思いには気がつかず、続きを話す。
「セルム様は、派手なことを好む性格で、ディスガルドタイガーを仕留めた記念を欲しがった」
ディスガルドタイガーは、獰猛で知られており、狩るのにもひと苦労を強いられる。
また、その希少価値が高いため、仕留めた場合には、その証が欲しくなるのは、自然な流れである。
「それで、剥製にして鎧兜に仕立てたのか?」
「うむ。セルム様は、それ以後、その姿で狩りを行った。すると、獲物が面白いほど次々に狩れるようになった」
「どうしてだ?」
「獣装により、人の臭いが消せるという利点が大きい」
獣は、人よりも嗅覚が優れているため、離れた場所からでも人の存在を察知することができる。
そのため、例え、気配を上手く消して近づいても、人の体臭で見抜かれることもある。
クウザミ族の剥製技術は、それほど高くないため、毛皮には獣臭が残り、人の臭いを消す効果を持っているという訳である。
「なるほど……」
テムは、イザックの説明にとりあえず頷く。
ミショウ村の者たちにとっては、体臭で察知される前に獣を倒すのが常識である。
これは、ほとんどの者が『身体強化』を行えるため、獣が気づく前に攻撃を仕掛けることができるためである。
「セルム様に付き従う若衆は、セルム様の雄壮な姿に憧れ、我先にとセルム様の真似をし、鎧兜を着飾っていった」
若者たちは、セルムが身に纏うディスガルドタイガーではなく、近隣でよく狩ることができる黒銀熊の毛皮を剥製にして、鎧兜の外被として仕立て上げた。
それ以来、獣装兵の間では、黒銀熊の鎧兜が一般的となり、腕に覚えのある者だけが飛竜や氷嵐鳥などの毛皮を鎧兜にするようになった。
「それが、獣装兵の始まりか?」
「そうだ。当時は、獣装を纏い、林の中を駆け巡っていた」
「いつ、騎馬に乗ったんだ?」
テムは、クウザミ族が馬に乗る習慣がなかったのを知っている。
だから、今の騎馬兵がいつ出来たのかをイザックへ問う。
イザックは、少し笑みを含んで言う。
「飛竜隊への対抗心を持つようになってからだ」
「何があった?」
「ある時、セルム様は、獣装した若衆を引き連れてリポウズへ出向かれた。すると、そこで飛竜隊から攻撃を受けそうになった。飛竜隊は、獣の集団が村を襲撃しにきたと思ったそうだ」
サイバジ族の集落であるリポウズは、ヤグラムが逝去して以降、飛竜を飼い馴らす技術を獲得している。
サイバジ族の飛竜隊は、集落を守護する役割を担い、代々の伝統として受け継がれている。
「それは……、そうだろうな」
テムは、イザックの説明に納得する。
獣装兵は、一見すれば獣の集団に見え、飛竜隊が見間違えても仕方がない格好をしている。
実際に、キントは、黒銀熊の鎧兜を纏ったクイに矢を放っている。
「セルム様も、そのようにお考えになられた。そこで、獣の集団から脱却するために、騎馬に乗ることを思いつかれた」
当時、クウザミ族は、山岳住まいで、騎馬に乗るのは大変な苦労を伴った。
「セルム様は、騎兵隊を組織し、ほかの部族に誇れる獣装騎兵を作り上げられた」
「そうか……。獣装の経緯については理解した。教えてくれて礼を言う」
テムは、イザックに頭を下げ、感謝の気持ちを表す。
しかし、セルムのその後が気になり、すぐに頭を上げて、イザックへ尋ねる。
「セルム殿は、ボーキョウにいるのか?」
「いや……」
イザックは、急に歯切れが悪くなり、二人の話を静かに聞いていたボフトスとネグルも複雑な表情を浮かべる。
イザックが話したセルムとは、ルイビスの息子で、ボーキョウの次期村長と目されていた人物である。
このセルムは、父ルイビスから剣の手解きを受け、剣の腕をめきめきと磨き上げていった。
「セルム様は、西の海岸線へ狩りに行ったとき、偶然ディスガルドタイガーを見つけ、仕留められた」
「ほぅ……」
テムは、イザックに相槌を打ち、ふと思う。
(ディスガルドタイガーは、絶滅に近い状況だったはずだが……、個体数が増加していたのか?)
イザックは、テムの思いには気がつかず、続きを話す。
「セルム様は、派手なことを好む性格で、ディスガルドタイガーを仕留めた記念を欲しがった」
ディスガルドタイガーは、獰猛で知られており、狩るのにもひと苦労を強いられる。
また、その希少価値が高いため、仕留めた場合には、その証が欲しくなるのは、自然な流れである。
「それで、剥製にして鎧兜に仕立てたのか?」
「うむ。セルム様は、それ以後、その姿で狩りを行った。すると、獲物が面白いほど次々に狩れるようになった」
「どうしてだ?」
「獣装により、人の臭いが消せるという利点が大きい」
獣は、人よりも嗅覚が優れているため、離れた場所からでも人の存在を察知することができる。
そのため、例え、気配を上手く消して近づいても、人の体臭で見抜かれることもある。
クウザミ族の剥製技術は、それほど高くないため、毛皮には獣臭が残り、人の臭いを消す効果を持っているという訳である。
「なるほど……」
テムは、イザックの説明にとりあえず頷く。
ミショウ村の者たちにとっては、体臭で察知される前に獣を倒すのが常識である。
これは、ほとんどの者が『身体強化』を行えるため、獣が気づく前に攻撃を仕掛けることができるためである。
「セルム様に付き従う若衆は、セルム様の雄壮な姿に憧れ、我先にとセルム様の真似をし、鎧兜を着飾っていった」
若者たちは、セルムが身に纏うディスガルドタイガーではなく、近隣でよく狩ることができる黒銀熊の毛皮を剥製にして、鎧兜の外被として仕立て上げた。
それ以来、獣装兵の間では、黒銀熊の鎧兜が一般的となり、腕に覚えのある者だけが飛竜や氷嵐鳥などの毛皮を鎧兜にするようになった。
「それが、獣装兵の始まりか?」
「そうだ。当時は、獣装を纏い、林の中を駆け巡っていた」
「いつ、騎馬に乗ったんだ?」
テムは、クウザミ族が馬に乗る習慣がなかったのを知っている。
だから、今の騎馬兵がいつ出来たのかをイザックへ問う。
イザックは、少し笑みを含んで言う。
「飛竜隊への対抗心を持つようになってからだ」
「何があった?」
「ある時、セルム様は、獣装した若衆を引き連れてリポウズへ出向かれた。すると、そこで飛竜隊から攻撃を受けそうになった。飛竜隊は、獣の集団が村を襲撃しにきたと思ったそうだ」
サイバジ族の集落であるリポウズは、ヤグラムが逝去して以降、飛竜を飼い馴らす技術を獲得している。
サイバジ族の飛竜隊は、集落を守護する役割を担い、代々の伝統として受け継がれている。
「それは……、そうだろうな」
テムは、イザックの説明に納得する。
獣装兵は、一見すれば獣の集団に見え、飛竜隊が見間違えても仕方がない格好をしている。
実際に、キントは、黒銀熊の鎧兜を纏ったクイに矢を放っている。
「セルム様も、そのようにお考えになられた。そこで、獣の集団から脱却するために、騎馬に乗ることを思いつかれた」
当時、クウザミ族は、山岳住まいで、騎馬に乗るのは大変な苦労を伴った。
「セルム様は、騎兵隊を組織し、ほかの部族に誇れる獣装騎兵を作り上げられた」
「そうか……。獣装の経緯については理解した。教えてくれて礼を言う」
テムは、イザックに頭を下げ、感謝の気持ちを表す。
しかし、セルムのその後が気になり、すぐに頭を上げて、イザックへ尋ねる。
「セルム殿は、ボーキョウにいるのか?」
「いや……」
イザックは、急に歯切れが悪くなり、二人の話を静かに聞いていたボフトスとネグルも複雑な表情を浮かべる。
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