ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第89話 フレイとオンジの出会い1

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 オンジは、メリングと同様に整った顔立ちをしており、長い黒髪を頭の後ろで一つに束ね、そのまま後ろへ垂れ流している。
 背中には、長刀を肩掛けにして背負い、腰帯に短刀を差し挟んでいる。

「豊作、豊漁だったぞ」

 ガンドが、がははっと笑い、料理中の皆に告げる。
 オンジも、にこやかに笑い、両手に抱えた小魚を少し持ち上げて見せる。
 しかし、視線をモールへ向け、側にいるフレイを見たあと、おやっという表情になる。

「リックス。これも、焼いてくれ」

 オンジは、鉄板焼に勤しんでいるリックスに近寄り、小魚を鉄板の上に並べていく。

「塩味でいいですか?」

「あぁ、頼む」

 リックスの提案に、オンジは軽く頷く。

「俺の山菜も、調理してくれや」

 ガンドは、収穫が上手くいき、機嫌が良いのか、先程から笑い続けている。
 腰や尻の痛みは、もう感じていないようである。
 リックスも、笑いながらガンドに応じ、受け取った山菜を水魔法で洗ったあと、鍋の中に入れていく。
 オンジは、モールのもとへ行き、側にいるフレイのことを聞く。

「紅寿様。こちらの少年は、どなたです?」

「僕?」

 名指しされたフレイは、びっくりして、オンジを見上げる。
 オンジは、それに微笑みを持って返し、モールの返答を待つ。

「ん? フレイのことか?」

 モールは、フレイが持ってきた野菜の幾つかをメリングに渡している。

「はい」

「村の子どもじゃよ。ダイザの息子じゃな」

 オンジも、メリングやリックス同様、ダイザが宗主であることを知っている。
 また、オンジは昔、国都に教練師として赴任してきたダイザと直接会っている。
 オンジは今、フレイがダイザの息子と聞いて、フレイの顔をしげしげと眺め、確かにその面影を見つける。

「私は、オンジという。以前、フレイ殿のお父上にお会いしたことがある者です」

 オンジは、フレイを宗主の子どもとして扱う。
 そして、メリングがしたように、地面に膝をついて目線を合わせ、握手の手を差し出す。

「う、うん。僕、フレイです」

 フレイは、幾分緊張して、オンジの手を握り返す。
 オンジの手からは、メリングと同じような力強い魔力波長を感じる。
 ただ、オンジが、メリングと違うのは、どことなく雪龍種のトウジンに似た雰囲気があることである。

「?」

 フレイは、離された自分の手を見て、僅かに首を傾げる。
 これまで、島外の人を見たことがなかったが、龍に似た雰囲気の人を見るのは初めてである。
 フレイは、答えを求めて、モールの方を見る。

「どうした?」

「ん……」

 フレイは、オンジを目の前にして、何と聞いていいのか分からなくなる。

「フレイ殿。遠慮なく申して欲しい。私が気に触っていたら、申し訳ないが……」

「えっ!? ううん、そうじゃないよ」

 フレイは、慌てて両手を横に振り、オンジの懸念を打ち消す。

「では、どうしたんじゃ?」

「えっと……。なんだか、トウジンのおじさんを思い出したの……」

 フレイは、トウジンとは幼少の頃より仲良くしており、トウジンが纏う空気が好きなのである。

「トウジン? あぁ……」

 モールは、思い当たることがあったのか、一人で納得している。
 オンジとメリングは、何のことか分からないまま、話の成り行きを静かに見守っている。
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