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凍雪国編第4章
第33話 国都の異変2
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馬車の中には、ヤナリスのほか、小さな子どもが二人、同乗している。
その子たちは、不安げな顔をして、ヤナリスが着ている外套の裾を左右からしっかりと握り締めている。
「それに答えるより先に、オンジ殿にお尋ねしたいことがあります」
ヤナリスは、深刻そうな表情を浮かべ、やや緊張したように、オンジへ質問する。
「はい。何でしょう?」
「オンジ殿は、いつから国都を離れていたのですか?」
「二週間近く前です」
「その間、どこに?」
「リポウズです」
オンジは、島に渡り、ミショウ村へ行っていたことは話さない。
それは、ヴァールハイトのギルド員たちにも内緒のことで、ごく限られた者にしか詳細を明かしていない。
オンジの表向きの旅程は、リポウズへ行き、そこで逗留して、今日、国都へ帰着したのである。
「北……ですね」
ヤナリスは、軽く安堵の吐息を吐き出し、子どもたちの背中を擦る。
馬車を操る御者も、ほっとした表情をする。
「それが、どうかしましたか?」
「いえ、こちらの話です。一週間ほど前に、チヌルとネオクトンが兵を集めているという急報が入りました」
「チヌルとネオクトン? 犬猿の仲の両者が争うのですか?」
「違います。チヌルとネオクトンは、手を組みました」
「!」
それを聞いたオンジは、驚きのあまり言葉に詰まる。
チヌルとネオクトンは、長年権力闘争を繰り広げており、お互いがお互いに嫌い抜いている。
特に、チヌルの族長であるヒュブは、ネオクトンの族長ケヨンを見ただけで、露骨に顔をしかめる程である。
(チヌルとネオクトンが手を組むとは、何があった?)
オンジの疑問は、そのまま顔に現れ、正しくヤナリスへ伝わる。
「驚くのも無理はありません。私とて、信じられないことです。しかし、事態は急を要しており、チヌルとネオクトンがある南部には近づけません」
オンジは、それを聞いて、ヤナリスの最初の質問に納得する。
もし、オンジが南部へ行ったと答えていたら、ヤナリスに警戒心を抱かせていただろう。
「何が起きたのですか?」
「詳しくは、分かっていません。今、分かっていることは、二つの部族が兵を集めていること、国都から族人を引き揚げていること、ヒュブが召喚に応じず、国都を出奔したことです」
「ヒュブが去りましたか……」
オンジは、きな臭さを大いに感じ取ったが、国政への見解は差し控える。
「私は、夫の命で親族を頼りに行きます」
ヤナリスの出身部族であるロマキ族の集落は、国都から北にあり、リポウズ方向へ伸びる街道を途中で外れれば辿り着ける。
ロマキ族は、親レナール派であり、代々レナール族とは親交が深い。
これには、ロマキ族がレナール族と古くから姻戚関係を結び、武力で制圧されていないことに起因する。
また、北東部のハジル、南半島南部のゴイメールは、自ら臣従を願い出た部族であり、親レナール派に属している。
これに対し、南西部のチヌルと南東部のネオクトンは、いずれも武力でレナール族に屈服させられた歴史があり、五大族の中では、反レナール派に属している。
「それで……。先に行った馬車に、エシルバ様が乗られていたのですね?」
エシルバは、ロマキ族の族長ヌミの息子であり、次期族長と目されている人物である。
このエシルバは、国政に参加しており、主に農政を司っている。
「見たのですね?」
「いえ。気配を感じ取りました」
「流石、金雷の刀姫ですね」
ヤナリスは、オンジの実力を認めており、その噂はかねがね聞き及んでいる。
「ところで、あなたのギルドは、どう動くのですか?」
ギルドは、基本的には国政へ関与することはない。
これは、ギルドが独立機関であり、また、国家を跨いで存在しているからである。
そのため、ギルドは、国家の権力闘争には関わらず、口を挟むこともない。
ただ、ギルドに所属する冒険者たちは、傭兵の募集があれば、それらの依頼に応募することがある。
「ヴァールハイトは、レナールにも、チヌルやネオクトンにも付きません。ただし、依頼があれば、個人で受けることは拒否しません」
「それを聞いて、安心しました。では、私からの依頼は、受けてくれますか?」
「どのような依頼でしょうか?」
「ここからの護衛です。先程、ザウバを軽くあしらったあの方の腕に期待したい」
ヤナリスは、テムを指し示し、ロマキまでの護衛を願い出る。
それを少し離れたところから聞いていたテムは、自身を指差す。
「俺か?」
「えぇ、そうです。あなたの腕前ならば、チヌルやネオクトンでも手出しを控えるでしょう」
「俺は、ギルド員ではないぞ。だから、その依頼は受けられん。どうしても、護衛が欲しければ、あっちのギルド員を頼るのだな」
テムは、街道を少し外れたところで、こちらの様子を見守っているガンドたちを指し示す。
その子たちは、不安げな顔をして、ヤナリスが着ている外套の裾を左右からしっかりと握り締めている。
「それに答えるより先に、オンジ殿にお尋ねしたいことがあります」
ヤナリスは、深刻そうな表情を浮かべ、やや緊張したように、オンジへ質問する。
「はい。何でしょう?」
「オンジ殿は、いつから国都を離れていたのですか?」
「二週間近く前です」
「その間、どこに?」
「リポウズです」
オンジは、島に渡り、ミショウ村へ行っていたことは話さない。
それは、ヴァールハイトのギルド員たちにも内緒のことで、ごく限られた者にしか詳細を明かしていない。
オンジの表向きの旅程は、リポウズへ行き、そこで逗留して、今日、国都へ帰着したのである。
「北……ですね」
ヤナリスは、軽く安堵の吐息を吐き出し、子どもたちの背中を擦る。
馬車を操る御者も、ほっとした表情をする。
「それが、どうかしましたか?」
「いえ、こちらの話です。一週間ほど前に、チヌルとネオクトンが兵を集めているという急報が入りました」
「チヌルとネオクトン? 犬猿の仲の両者が争うのですか?」
「違います。チヌルとネオクトンは、手を組みました」
「!」
それを聞いたオンジは、驚きのあまり言葉に詰まる。
チヌルとネオクトンは、長年権力闘争を繰り広げており、お互いがお互いに嫌い抜いている。
特に、チヌルの族長であるヒュブは、ネオクトンの族長ケヨンを見ただけで、露骨に顔をしかめる程である。
(チヌルとネオクトンが手を組むとは、何があった?)
オンジの疑問は、そのまま顔に現れ、正しくヤナリスへ伝わる。
「驚くのも無理はありません。私とて、信じられないことです。しかし、事態は急を要しており、チヌルとネオクトンがある南部には近づけません」
オンジは、それを聞いて、ヤナリスの最初の質問に納得する。
もし、オンジが南部へ行ったと答えていたら、ヤナリスに警戒心を抱かせていただろう。
「何が起きたのですか?」
「詳しくは、分かっていません。今、分かっていることは、二つの部族が兵を集めていること、国都から族人を引き揚げていること、ヒュブが召喚に応じず、国都を出奔したことです」
「ヒュブが去りましたか……」
オンジは、きな臭さを大いに感じ取ったが、国政への見解は差し控える。
「私は、夫の命で親族を頼りに行きます」
ヤナリスの出身部族であるロマキ族の集落は、国都から北にあり、リポウズ方向へ伸びる街道を途中で外れれば辿り着ける。
ロマキ族は、親レナール派であり、代々レナール族とは親交が深い。
これには、ロマキ族がレナール族と古くから姻戚関係を結び、武力で制圧されていないことに起因する。
また、北東部のハジル、南半島南部のゴイメールは、自ら臣従を願い出た部族であり、親レナール派に属している。
これに対し、南西部のチヌルと南東部のネオクトンは、いずれも武力でレナール族に屈服させられた歴史があり、五大族の中では、反レナール派に属している。
「それで……。先に行った馬車に、エシルバ様が乗られていたのですね?」
エシルバは、ロマキ族の族長ヌミの息子であり、次期族長と目されている人物である。
このエシルバは、国政に参加しており、主に農政を司っている。
「見たのですね?」
「いえ。気配を感じ取りました」
「流石、金雷の刀姫ですね」
ヤナリスは、オンジの実力を認めており、その噂はかねがね聞き及んでいる。
「ところで、あなたのギルドは、どう動くのですか?」
ギルドは、基本的には国政へ関与することはない。
これは、ギルドが独立機関であり、また、国家を跨いで存在しているからである。
そのため、ギルドは、国家の権力闘争には関わらず、口を挟むこともない。
ただ、ギルドに所属する冒険者たちは、傭兵の募集があれば、それらの依頼に応募することがある。
「ヴァールハイトは、レナールにも、チヌルやネオクトンにも付きません。ただし、依頼があれば、個人で受けることは拒否しません」
「それを聞いて、安心しました。では、私からの依頼は、受けてくれますか?」
「どのような依頼でしょうか?」
「ここからの護衛です。先程、ザウバを軽くあしらったあの方の腕に期待したい」
ヤナリスは、テムを指し示し、ロマキまでの護衛を願い出る。
それを少し離れたところから聞いていたテムは、自身を指差す。
「俺か?」
「えぇ、そうです。あなたの腕前ならば、チヌルやネオクトンでも手出しを控えるでしょう」
「俺は、ギルド員ではないぞ。だから、その依頼は受けられん。どうしても、護衛が欲しければ、あっちのギルド員を頼るのだな」
テムは、街道を少し外れたところで、こちらの様子を見守っているガンドたちを指し示す。
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