92 / 100
ぼんの宇宙日記(92日目)
しおりを挟む
92日目。今日は、ミナの提案を断る日。
朝、ミナが新しいカメラを手に居住区にやってきた。ピカピカのレンズが光っていて、ぼくは思わず目を細めた。「ぼんも一緒に写真撮ろう」とミナが明るく声をかけてくる。カメラを持ったミナは、なんだかいつもよりウキウキして見えた。
ぼくはクッションの上で丸くなったまま、ミナの動きをじっと見ていた。彼女はカメラを構えて、「はい、こっち向いて」と手招きする。でも、レンズの先に立つのは、どうしても落ち着かない。丸い目玉みたいなレンズが、じっとこちらを見つめてくる。ぼくはその視線から逃げるように、くるりと背中を向けた。
「ぼん、ちょっとだけでいいから」とミナは優しい声で言う。でも、ぼくのしっぽは知らないうちに、カメラの反対方向へぴんと伸びていた。体も自然にカメラから遠ざかっていく。ミナは少し困った顔をしながらも、無理に近づいてはこなかった。
昼、ミナは自分でセルフタイマーをセットして、部屋の隅でポーズをとった。「今日はひとり写真かな」と小さく笑う。その笑い声は、ちょっとだけ寂しそうで、でも優しさが混じっていた。ぼくはその様子を、机の下からそっと見ていた。
午後、ミナはカメラを片付けながら、「また今度ね」と言って、ぼくの頭を軽く撫でた。その手は温かくて、責める感じはなかった。ただ、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちがぼくの胸に残った。みんなで写真を撮るのが特別なことだって、なんとなくわかるから。
夕方、居住区の窓辺で外を見ながら思った。人間には「残したい瞬間」というのがある。でも、ぼくは今日、どうしてもその輪に入る気分じゃなかった。それでもミナは怒らなかった。それがうれしかった。
おやすみ、光るレンズ。おやすみ、優しい提案。また、気が向いたら一緒に写ろうね。
朝、ミナが新しいカメラを手に居住区にやってきた。ピカピカのレンズが光っていて、ぼくは思わず目を細めた。「ぼんも一緒に写真撮ろう」とミナが明るく声をかけてくる。カメラを持ったミナは、なんだかいつもよりウキウキして見えた。
ぼくはクッションの上で丸くなったまま、ミナの動きをじっと見ていた。彼女はカメラを構えて、「はい、こっち向いて」と手招きする。でも、レンズの先に立つのは、どうしても落ち着かない。丸い目玉みたいなレンズが、じっとこちらを見つめてくる。ぼくはその視線から逃げるように、くるりと背中を向けた。
「ぼん、ちょっとだけでいいから」とミナは優しい声で言う。でも、ぼくのしっぽは知らないうちに、カメラの反対方向へぴんと伸びていた。体も自然にカメラから遠ざかっていく。ミナは少し困った顔をしながらも、無理に近づいてはこなかった。
昼、ミナは自分でセルフタイマーをセットして、部屋の隅でポーズをとった。「今日はひとり写真かな」と小さく笑う。その笑い声は、ちょっとだけ寂しそうで、でも優しさが混じっていた。ぼくはその様子を、机の下からそっと見ていた。
午後、ミナはカメラを片付けながら、「また今度ね」と言って、ぼくの頭を軽く撫でた。その手は温かくて、責める感じはなかった。ただ、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちがぼくの胸に残った。みんなで写真を撮るのが特別なことだって、なんとなくわかるから。
夕方、居住区の窓辺で外を見ながら思った。人間には「残したい瞬間」というのがある。でも、ぼくは今日、どうしてもその輪に入る気分じゃなかった。それでもミナは怒らなかった。それがうれしかった。
おやすみ、光るレンズ。おやすみ、優しい提案。また、気が向いたら一緒に写ろうね。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる