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第一章 鏡の間
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あなたの学校に、こんな噂はありませんか?
『家庭科室にある鏡を午前零時に覗き込むと、鏡の中に引き込まれる』
『美術準備室にある卒業生が描いた絵で、未完成な物が日に日に完成していく』
『中央階段の13段目で転ぶと、死神が殺しに来る』
それはよくある、学校怪談のひとつ、七不思議。
さらに、その7つ全てを見知った者には、更なる災いが降りかかるという。
しかし、誰もその真実を見知った者はいない。
全国各地で知られる学校怪談には、いくつか共通点があるモノの、そのどれもが各地で様々な内容へと変化している。
はたして、それらはすべて、『ただの噂』なのだろうか?
でも、僕は知っている。
森の中で一本だけ違う色の花咲く木があるように、その『扉』は僕たちのすぐ隣にあることを…。
―――僕たちは走った。
走って走って、走り続けた。
早くしないと“アイツ”が追いかけてきてしまう…!
「二葉!頑張って走れ!“アイツ”がもうそこまで来てる!!」
「はぁはぁ、…お兄ちゃん!」
「だめだ、このままじゃ追いつかれる…!」
「…くそっ!何かないのか…?!このままじゃ、皆“アイツ”に…!」
緊迫した空気の中、数人の少年少女が、夜の旧校舎を全力で走っている。
彼らのすぐ後ろには、不気味な影が、もうすぐそこまで迫ってきていた。
すぐそばにある音楽室の中へと逃げ込むと、息を潜めて、じっと待っていた。
―――ーずりっ ずっ ずりっ
重たい何かを引きずるような音が聞こえてくる。
そして時たま、「キヒヒ…」と不気味な笑い声も聞こえて。
僕たちは机の影に隠れて、“アイツ”が通り過ぎるのを待った。
―――ずりっ ずっ ずりっ
そして音楽室の入り口で音が止まると、しばらくの間、静寂が訪れた。
―――どくん、どくん
心臓の音が聞こえるのではないかと言うくらいに感じて。
その直後―――。
ガシャーン!
(―――っ!)
入り口近くの机が蹴り飛ばされる音が聞こえて。
“アイツ”は近くにある机を次々に蹴り飛ばしていき、どんどん近付いてくる。
ガシャーン!
ガシャーン!
『ヒヒヒ…隠れても無駄だ。出てこいよ…。なぁ…』
どんどんと近付いてくる。
そして、すぐそばの机が蹴飛ばされて…。
『………みぃ~つけた』
“アイツ”は手に持っていた大鎌を振り上げて、僕たちを笑いながら見下ろした。
「「「っ!!」」」
―――どうして?
なぜ、こんな事になってしまったのか?
いつの間に、僕たちは未知の領域へと、足を踏み入れてしまったのだろう。
全てが凍り付いた時の中で、まるで走馬灯を見るかのように。
僕―――
神成一葉(しんじょう かずは)はこれまでのことを思い返していた。
―――4月下旬。
新学期を迎え、生徒たちは新しいクラスメイト達と仲良くなろうと、それぞれグループを作り、楽しそうに話をしていた。
ここ七星学園初等部5年1組の教室内でも、皆がグループに分かれて談笑している。
そんな中で、ひときわ目立っているのが、一葉達のいるグループだった。
デジカメを手に写真を撮りまくる少年・御坂由宇(みさか ゆう)が 中心となり、一葉の隣の席に座っている瀧本和也(たきもと かずや)と、その斜め後ろの席の少女・黒瀬愛依(くろせ めい)。
この4人はいつも一緒にヤンチャをして、特に由宇は何でもかんでも写真を撮ろうとするので、毎回先生に叱られては、皆の笑いを取っていた。
愛依は一見大人しそうな印象だか、タロットカードの占いでは的確な答えを出すことで、一部の女子の間で人気だったりする。
そんな4人は、いつものようにバカ騒ぎをしては、教室内の笑いを集めている。
と言っても、中心になっているのは、やはり由宇で。
一葉と和也が突っ込みを入れて、愛依が静かに静観している姿が、クラスメイトにとっては面白おかしく見え、今日もまた穏やかな一日が過ぎていった。
放課後に成り、習い事や塾へ行く者達は、足早に下校し、残ったメンバーは地域の児童館で宿題を済ませたり、パソコン室でネット検索をしていたりと、それぞれに分かれていた。。
その中に、一葉達の姿もあって。
皆が今夢中になって見ているモノは、普段から良く見ているあるネット掲示板の記事だった。
「おっ!今日もいろいろと情報が上がってるぞ!」
「どれどれ?」
「う~ん、でも、どれも今朝ニュースで言ってたことばかりだな…」
「仕方ないよ、ここ最近は変わった事件なんて、そう滅多に起きてないんだし。平和だって事だろう?」
そんないつもと変わらない会話をしている時だった。
誰かがひそひそと話している声が耳に入ってくる。
「ねえ、まただって…」
「最近多いよね?」
「これで何人目だっけ?」
そんな声が和也たちにも、聞こえていて。
またか、と誰とも言わずに、ぽつりと言葉が零れた。
「なんか、またあったのかな?例のアレ」
「みたいだな。新学期早々、単に呆けてるだけじゃないのかって話だけど。でも結構多いよな?」
「これでもう何人になるんだっけ?」
それは、ここ最近学園内で起きている、ある出来事の話だった。
この学園には旧校舎が隣接しているが、現在老朽化が進み、危険と判断されているため、基本的には立入禁止になっているが、一部の改装された場所のみ使用されているため、人の出入りはあるのだった。
その為、興味本位でいたずらに旧校舎内へと入る生徒がいて、恰好の遊び場になっているのだ。
そんな生徒たちに、ここ最近、やたらと不可解な現象が起きていたのだ。
中央階段で遊んでいた生徒が、後日事故で大けがを負ったり、トイレでかくれんぼをしていた生徒が、奇妙な声を聞いたり、と様々ではあるが、結構頻繁にそれは起きていたのだった。
一葉達はその話を聞き、互いに顔を見合わせた。
「なぁ、やっぱり何かあるんじゃないか?旧校舎の怪異」
「怪異って…。単に事故が頻発してるだけだろう?」
「でも、確かにここ最近多いよね。新学期に入ってから、余計に多くなってきてない?」
「そうかな?言われてみれば多いかも知れないけど…」
そんな中で、不意に由宇が含み笑いを浮かべていて。
それに気づいた和也が、また何か企んでいるなと勘づいた。
「お前、何考えてるのか分からないけど、どうせまた興味本位だろう?」
「またとか言うな!俺様は真意を持ってこの謎に立ち向かおうとだな…」
「はいはい。分かったから、ちょっと静かにしなさいよ?他の生徒が迷惑してるから」
愛依が人差し指を口に立てて、声のトーンを落しながら言うと、由宇は周りから声が大きいと怪訝な視線を向けられていることに気づいた。
「ごめんなさい…」と周りに謝り、一旦出ようかと云う話になり、パソコン室を退室した。
教室に戻ってきた4人は、和也の机を書く無用に集まって座り、先ほどの話の続きをしていた。
「絶対、検証する価値あると思うんだよね」
「…そんなこと言って、結局は良い写真が撮りたいだけなんじゃないの?」
「それは…違う!俺はただ単にこの噂の真実について、真相を解き明かそうと…」
「はいはい。結局は興味本位なだけで、またカメラ持ち歩いて探検ですか」
和也の冷ややかな問い掛けに、由宇は一瞬言葉を詰まらせるが、慌てて反論した。
その横で苦笑いしながら、一葉が相槌を打っている。
しかし、愛依だけは口元に手を添えて、何かを考えていた。
そして徐にタロットカードを取り出して、何かを占い始めた。
「おっ、出ました。愛依先生の診断の時間です!」
「茶化すなよ、バカ。それにしても、何占ってるんだよ?」
「………」
無言のまま、カードを配置し、次々に捲っていく愛依。
そして出た答えに、静かに解説していく。
「…正位置の愚者と魔術師に、逆位置の悪魔」
「…って、つまりどういう意味?」
「行動を起こすか起こさないかは、本人の自由。もし実際に行動すれば、何かしらの発見があるかもしれないってことよ。チャンス到来ってとこかしら」
「ほら!やっぱ検証するべき時なんだってことだよ!そうと決まれば…」
「…やっぱり何か企んでいたのな」
意気揚々とする由宇に、一葉と和也は同時に溜息を吐き、自分たちも巻き込まれることを思って、うんざりした表情を浮かべた。
それから暫くして、夕方に成り、下校時間を知らせる放送と音楽が流れてきた。
児童館に顔を出し、一葉の妹の二葉(ふたば)と、愛依の下の双子の姉弟・梨音(りお)と那音(なお)を迎えに行き、帰路についた。
その夜。
由宇から皆にLINEが送られてきて、4月30日の夜に検証をするという提案が出された。
「なんで、4月30日って、日付指定なんだ?」
「そういえばお前らは『ワルプルギスの夜』を知らないんだったな?その日の夜は特別で、魔女たちが春の到来を待つ宴が行われると言われてるんだよ。その夜には死者と生者の境が弱くなる時間だから、何か起こるには打って付けだろうと思ってさ」
「へー、そんなのがあるんだな。相変わらずそっち系のことに詳しいよな」
オカルトマニアな由宇と愛依にとっては常識と言っても過言ではなく、一方の一葉と和也はごく一般的な普通の子供故、其処までの知識はなかった。
「で?30日に本当にやるのかよ」
「当たり前だろう?時は来たれリ!このチャンスを逃せば次はないからな。愛依の占いにもあっただろう?行動すれば何かしらあるかも知れないってさ」
「まあ、それはそうだろうけど…」
そんなやり取りをして、結局4月30日の夜に、旧校舎で検証と称した肝試しをすることになった。
そして4月30日に成り、授業を終えた生徒たちが足早に下校していく中、由宇は待ってましたとばかりに意気込んで、持ってきていたバッグの中をごそごそと漁っていた。
また何をしようというのか、と、呆れつつも由宇の行動に付き合う一葉達。
それからまた人通りが少なくなるのを待って、旧校舎への入り口に集まった。
夕方に成り、午後4時を回った頃だろうか。
「よし、じゃあ下準備に行きますか」
由宇のかけ声と共に、皆が旧校舎の中へと入っていた。
まだそれほど古くないように見えるが、所々でコンクリートに皹が入っていたり、壁紙が剥がれていたりと、多少の老朽化は確認出来た。
夕陽が差し込む廊下は、茜色に染まっていて、どことなく寂しい雰囲気が漂っている。
そんな中で、由宇は先ほどのバッグから、デジカメを取り出し、いろんな場所を撮っていく。
明るいうちに一度確認しておくことで、夜来た時に何か変わったことがないか、違いを見ることで検証することになっている。
噂になっている場所へ行き、デジカメに撮ってはまた次の場所へと移っていった。
一通り、旧校舎内を歩き回って、デジカメの撮影もある程度済んだところで、一旦引き上げることにした。
「これだけ確認しておけば、夜に来た時に分かりやすいからな。それじゃあまたあとで!」
そう言い、旧校舎から出ようとした時だった。
ふと、どこからか漂ってきた風が頬を撫でる。
その生ぬるい風に違和感を憶えた一葉は、一瞬誰かの視線を感じて、振り返った。
しかし、其処には誰の姿もなく、夕陽に照らされたがらんとしたろうかが続いているだけだった。
「おーい、何してるんだよ。早く行くぞ!」
「…ああ、今行く」
気のせいかと思い、一葉は先に出入り口にいる皆の元へと駆けていく。
だが、この時、誰も気付くことはなかった。
旧校舎に入った時から、ある者達の視線が彼らに向けられていたことを。
そしてどこからともなく、真っ黒いネコが一匹、誰もいなくなった旧校舎の廊下の中を歩いていた。
そして再び、生ぬるい風が吹き抜けて。
その風に乗って、どこからか聞き覚えのある歌が聞こえてくる。
それは、誰もが知っている、童歌。
か~ご~め か~ご~め…
か~ごの な~かの と~り~ぃは…
い~つ い~つ で~あ~う…
よ~あ~け~の~ば~ん~に~…
つ~ると か~めが す~べった…
うしろの しょうめん…
だ~あ~れ~…
―――暗闇の中で、何者かが蠢き出す。
もしかしたら、僕たちは知らぬ間にその『扉』を開き、引き寄せられていたのかも知れない。
“彼ら”の存在を知らなかった僕らに、報復とも言えるだろう恐怖の種を撒き散らして。
これから起こりえることが、永遠に終わらないと思えるほどに。
僕らは、異界の地へと足を踏み入れていたことに、この時はまだ、知る由もなかったんだ―――。
『家庭科室にある鏡を午前零時に覗き込むと、鏡の中に引き込まれる』
『美術準備室にある卒業生が描いた絵で、未完成な物が日に日に完成していく』
『中央階段の13段目で転ぶと、死神が殺しに来る』
それはよくある、学校怪談のひとつ、七不思議。
さらに、その7つ全てを見知った者には、更なる災いが降りかかるという。
しかし、誰もその真実を見知った者はいない。
全国各地で知られる学校怪談には、いくつか共通点があるモノの、そのどれもが各地で様々な内容へと変化している。
はたして、それらはすべて、『ただの噂』なのだろうか?
でも、僕は知っている。
森の中で一本だけ違う色の花咲く木があるように、その『扉』は僕たちのすぐ隣にあることを…。
―――僕たちは走った。
走って走って、走り続けた。
早くしないと“アイツ”が追いかけてきてしまう…!
「二葉!頑張って走れ!“アイツ”がもうそこまで来てる!!」
「はぁはぁ、…お兄ちゃん!」
「だめだ、このままじゃ追いつかれる…!」
「…くそっ!何かないのか…?!このままじゃ、皆“アイツ”に…!」
緊迫した空気の中、数人の少年少女が、夜の旧校舎を全力で走っている。
彼らのすぐ後ろには、不気味な影が、もうすぐそこまで迫ってきていた。
すぐそばにある音楽室の中へと逃げ込むと、息を潜めて、じっと待っていた。
―――ーずりっ ずっ ずりっ
重たい何かを引きずるような音が聞こえてくる。
そして時たま、「キヒヒ…」と不気味な笑い声も聞こえて。
僕たちは机の影に隠れて、“アイツ”が通り過ぎるのを待った。
―――ずりっ ずっ ずりっ
そして音楽室の入り口で音が止まると、しばらくの間、静寂が訪れた。
―――どくん、どくん
心臓の音が聞こえるのではないかと言うくらいに感じて。
その直後―――。
ガシャーン!
(―――っ!)
入り口近くの机が蹴り飛ばされる音が聞こえて。
“アイツ”は近くにある机を次々に蹴り飛ばしていき、どんどん近付いてくる。
ガシャーン!
ガシャーン!
『ヒヒヒ…隠れても無駄だ。出てこいよ…。なぁ…』
どんどんと近付いてくる。
そして、すぐそばの机が蹴飛ばされて…。
『………みぃ~つけた』
“アイツ”は手に持っていた大鎌を振り上げて、僕たちを笑いながら見下ろした。
「「「っ!!」」」
―――どうして?
なぜ、こんな事になってしまったのか?
いつの間に、僕たちは未知の領域へと、足を踏み入れてしまったのだろう。
全てが凍り付いた時の中で、まるで走馬灯を見るかのように。
僕―――
神成一葉(しんじょう かずは)はこれまでのことを思い返していた。
―――4月下旬。
新学期を迎え、生徒たちは新しいクラスメイト達と仲良くなろうと、それぞれグループを作り、楽しそうに話をしていた。
ここ七星学園初等部5年1組の教室内でも、皆がグループに分かれて談笑している。
そんな中で、ひときわ目立っているのが、一葉達のいるグループだった。
デジカメを手に写真を撮りまくる少年・御坂由宇(みさか ゆう)が 中心となり、一葉の隣の席に座っている瀧本和也(たきもと かずや)と、その斜め後ろの席の少女・黒瀬愛依(くろせ めい)。
この4人はいつも一緒にヤンチャをして、特に由宇は何でもかんでも写真を撮ろうとするので、毎回先生に叱られては、皆の笑いを取っていた。
愛依は一見大人しそうな印象だか、タロットカードの占いでは的確な答えを出すことで、一部の女子の間で人気だったりする。
そんな4人は、いつものようにバカ騒ぎをしては、教室内の笑いを集めている。
と言っても、中心になっているのは、やはり由宇で。
一葉と和也が突っ込みを入れて、愛依が静かに静観している姿が、クラスメイトにとっては面白おかしく見え、今日もまた穏やかな一日が過ぎていった。
放課後に成り、習い事や塾へ行く者達は、足早に下校し、残ったメンバーは地域の児童館で宿題を済ませたり、パソコン室でネット検索をしていたりと、それぞれに分かれていた。。
その中に、一葉達の姿もあって。
皆が今夢中になって見ているモノは、普段から良く見ているあるネット掲示板の記事だった。
「おっ!今日もいろいろと情報が上がってるぞ!」
「どれどれ?」
「う~ん、でも、どれも今朝ニュースで言ってたことばかりだな…」
「仕方ないよ、ここ最近は変わった事件なんて、そう滅多に起きてないんだし。平和だって事だろう?」
そんないつもと変わらない会話をしている時だった。
誰かがひそひそと話している声が耳に入ってくる。
「ねえ、まただって…」
「最近多いよね?」
「これで何人目だっけ?」
そんな声が和也たちにも、聞こえていて。
またか、と誰とも言わずに、ぽつりと言葉が零れた。
「なんか、またあったのかな?例のアレ」
「みたいだな。新学期早々、単に呆けてるだけじゃないのかって話だけど。でも結構多いよな?」
「これでもう何人になるんだっけ?」
それは、ここ最近学園内で起きている、ある出来事の話だった。
この学園には旧校舎が隣接しているが、現在老朽化が進み、危険と判断されているため、基本的には立入禁止になっているが、一部の改装された場所のみ使用されているため、人の出入りはあるのだった。
その為、興味本位でいたずらに旧校舎内へと入る生徒がいて、恰好の遊び場になっているのだ。
そんな生徒たちに、ここ最近、やたらと不可解な現象が起きていたのだ。
中央階段で遊んでいた生徒が、後日事故で大けがを負ったり、トイレでかくれんぼをしていた生徒が、奇妙な声を聞いたり、と様々ではあるが、結構頻繁にそれは起きていたのだった。
一葉達はその話を聞き、互いに顔を見合わせた。
「なぁ、やっぱり何かあるんじゃないか?旧校舎の怪異」
「怪異って…。単に事故が頻発してるだけだろう?」
「でも、確かにここ最近多いよね。新学期に入ってから、余計に多くなってきてない?」
「そうかな?言われてみれば多いかも知れないけど…」
そんな中で、不意に由宇が含み笑いを浮かべていて。
それに気づいた和也が、また何か企んでいるなと勘づいた。
「お前、何考えてるのか分からないけど、どうせまた興味本位だろう?」
「またとか言うな!俺様は真意を持ってこの謎に立ち向かおうとだな…」
「はいはい。分かったから、ちょっと静かにしなさいよ?他の生徒が迷惑してるから」
愛依が人差し指を口に立てて、声のトーンを落しながら言うと、由宇は周りから声が大きいと怪訝な視線を向けられていることに気づいた。
「ごめんなさい…」と周りに謝り、一旦出ようかと云う話になり、パソコン室を退室した。
教室に戻ってきた4人は、和也の机を書く無用に集まって座り、先ほどの話の続きをしていた。
「絶対、検証する価値あると思うんだよね」
「…そんなこと言って、結局は良い写真が撮りたいだけなんじゃないの?」
「それは…違う!俺はただ単にこの噂の真実について、真相を解き明かそうと…」
「はいはい。結局は興味本位なだけで、またカメラ持ち歩いて探検ですか」
和也の冷ややかな問い掛けに、由宇は一瞬言葉を詰まらせるが、慌てて反論した。
その横で苦笑いしながら、一葉が相槌を打っている。
しかし、愛依だけは口元に手を添えて、何かを考えていた。
そして徐にタロットカードを取り出して、何かを占い始めた。
「おっ、出ました。愛依先生の診断の時間です!」
「茶化すなよ、バカ。それにしても、何占ってるんだよ?」
「………」
無言のまま、カードを配置し、次々に捲っていく愛依。
そして出た答えに、静かに解説していく。
「…正位置の愚者と魔術師に、逆位置の悪魔」
「…って、つまりどういう意味?」
「行動を起こすか起こさないかは、本人の自由。もし実際に行動すれば、何かしらの発見があるかもしれないってことよ。チャンス到来ってとこかしら」
「ほら!やっぱ検証するべき時なんだってことだよ!そうと決まれば…」
「…やっぱり何か企んでいたのな」
意気揚々とする由宇に、一葉と和也は同時に溜息を吐き、自分たちも巻き込まれることを思って、うんざりした表情を浮かべた。
それから暫くして、夕方に成り、下校時間を知らせる放送と音楽が流れてきた。
児童館に顔を出し、一葉の妹の二葉(ふたば)と、愛依の下の双子の姉弟・梨音(りお)と那音(なお)を迎えに行き、帰路についた。
その夜。
由宇から皆にLINEが送られてきて、4月30日の夜に検証をするという提案が出された。
「なんで、4月30日って、日付指定なんだ?」
「そういえばお前らは『ワルプルギスの夜』を知らないんだったな?その日の夜は特別で、魔女たちが春の到来を待つ宴が行われると言われてるんだよ。その夜には死者と生者の境が弱くなる時間だから、何か起こるには打って付けだろうと思ってさ」
「へー、そんなのがあるんだな。相変わらずそっち系のことに詳しいよな」
オカルトマニアな由宇と愛依にとっては常識と言っても過言ではなく、一方の一葉と和也はごく一般的な普通の子供故、其処までの知識はなかった。
「で?30日に本当にやるのかよ」
「当たり前だろう?時は来たれリ!このチャンスを逃せば次はないからな。愛依の占いにもあっただろう?行動すれば何かしらあるかも知れないってさ」
「まあ、それはそうだろうけど…」
そんなやり取りをして、結局4月30日の夜に、旧校舎で検証と称した肝試しをすることになった。
そして4月30日に成り、授業を終えた生徒たちが足早に下校していく中、由宇は待ってましたとばかりに意気込んで、持ってきていたバッグの中をごそごそと漁っていた。
また何をしようというのか、と、呆れつつも由宇の行動に付き合う一葉達。
それからまた人通りが少なくなるのを待って、旧校舎への入り口に集まった。
夕方に成り、午後4時を回った頃だろうか。
「よし、じゃあ下準備に行きますか」
由宇のかけ声と共に、皆が旧校舎の中へと入っていた。
まだそれほど古くないように見えるが、所々でコンクリートに皹が入っていたり、壁紙が剥がれていたりと、多少の老朽化は確認出来た。
夕陽が差し込む廊下は、茜色に染まっていて、どことなく寂しい雰囲気が漂っている。
そんな中で、由宇は先ほどのバッグから、デジカメを取り出し、いろんな場所を撮っていく。
明るいうちに一度確認しておくことで、夜来た時に何か変わったことがないか、違いを見ることで検証することになっている。
噂になっている場所へ行き、デジカメに撮ってはまた次の場所へと移っていった。
一通り、旧校舎内を歩き回って、デジカメの撮影もある程度済んだところで、一旦引き上げることにした。
「これだけ確認しておけば、夜に来た時に分かりやすいからな。それじゃあまたあとで!」
そう言い、旧校舎から出ようとした時だった。
ふと、どこからか漂ってきた風が頬を撫でる。
その生ぬるい風に違和感を憶えた一葉は、一瞬誰かの視線を感じて、振り返った。
しかし、其処には誰の姿もなく、夕陽に照らされたがらんとしたろうかが続いているだけだった。
「おーい、何してるんだよ。早く行くぞ!」
「…ああ、今行く」
気のせいかと思い、一葉は先に出入り口にいる皆の元へと駆けていく。
だが、この時、誰も気付くことはなかった。
旧校舎に入った時から、ある者達の視線が彼らに向けられていたことを。
そしてどこからともなく、真っ黒いネコが一匹、誰もいなくなった旧校舎の廊下の中を歩いていた。
そして再び、生ぬるい風が吹き抜けて。
その風に乗って、どこからか聞き覚えのある歌が聞こえてくる。
それは、誰もが知っている、童歌。
か~ご~め か~ご~め…
か~ごの な~かの と~り~ぃは…
い~つ い~つ で~あ~う…
よ~あ~け~の~ば~ん~に~…
つ~ると か~めが す~べった…
うしろの しょうめん…
だ~あ~れ~…
―――暗闇の中で、何者かが蠢き出す。
もしかしたら、僕たちは知らぬ間にその『扉』を開き、引き寄せられていたのかも知れない。
“彼ら”の存在を知らなかった僕らに、報復とも言えるだろう恐怖の種を撒き散らして。
これから起こりえることが、永遠に終わらないと思えるほどに。
僕らは、異界の地へと足を踏み入れていたことに、この時はまだ、知る由もなかったんだ―――。
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