学校の怪談

結城朔夜

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第一章 鏡の間

case.4

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「え?!もう一度旧校舎に行くって、本当なの?!」
「しっ!!声が大きい…!」

愛依の叫びに由宇は口元に人差し指を立て、周りに聞かれなかったかと確認してから、続きを話した。

「言い出したのは俺じゃない、一葉だよ。なんか、二葉ちゃんが旧校舎で落とし物したみたいで、それを探しにいきたいって言ってきてさ…」
「二葉ちゃんの落とし物?それなら、仕方ないけど…でも危険だわ。この間事故に遭ったばかりだし、今は下手に動かないようにって言ったじゃない」
「そうなんだけど…二葉ちゃんが無くしたもの、大事なものらしくて、ずっと気にしてて元気が無いみたいだって言うからさ。なんとかしたいって思ったんだけど…」

それなら…でも…、と、頭を悩ませる愛依に、由宇が「お願いします、愛依様!」と頭を下げて頼み込むと、「探し物をするだけよ」と苦言をさして、探すなら多い方が良いかもねと提案も出して、また皆で旧校舎へ行くことになった。

夕方になるのを待って、生徒たちが皆下校していったのを見計らい、一葉達は再び旧校舎の前に立っていた。

「良し、では探し物を見つけに行きましょうか~」
「って、なんでお前が仕切ってるんだよ?」

由宇の威勢に和也が突っ込み、「まあ良いじゃん、良いじゃん」と流しながら、由宇は先に旧校舎の中へと入ろうとするが…。

「あれ…」
「どうした?」
「………鍵、掛けられてる」
「はあ?マジか…」

先日入る時には開いていた職員玄関の扉に、今は鍵か掛けられている。
恐らく、生徒が事故に遭ったこともあって、ここにもセキュリティーを強化して、鍵をかけることにしたのだろう。

「どうすんだよ?これじゃ探し物も出来ないぞ?」
「う~ん………あっ」

ふと、なにかを思い出したかのように、一葉が声を上げると、「図工室の裏口は?」と言い、皆で裏口の方へと回ると、そこには気付いてなかったのだろうか、鍵がかけられてないままだった。

「良かった。とりあえず、ここから入ろう」

そして何とか旧校舎の中へと入ることが出来、とりあえずはほっと胸をなで下ろした。

「それで?無くしたってのは、どんなやつなんだ?」

由宇の問い掛けに、一葉が二葉の持っていたウサギのぬいぐるみを借りて、胸元を指差し、親指と人差し指で輪を作り、説明した。

「これくらいの大きさのブローチなんだけど…色は赤紫。楕円型で周りに小さなパールみたいなのが付いてて、端には緑に黄色の線が入ったリボンが付いてる」
「なるほど。簡単に絵にすると、こんな感じ?」

愛依が散らばっていた画用紙にさっと絵を描くと「そうそう、こんなの」と一葉が頷き、二葉もまた頷いた。

「よし、とりあえず、この前立ち寄った順番で見ていこうか」

和也の号令に、先日、皆で回った経路を元に、あちこちをくまなく探してはみたが、何処にもブローチは見当たらなかった。
念のため、見落してた所があるかもしれないと、二回、見て回ったがやはり見つからず、二葉はしょんぼりとした表情で俯いた。

「大丈夫よ、きっと見つかるわ」

愛依が励ますように、二葉に視線を合わせて座り、手をぎゅっと握った。
二葉は、「うん…」と、元気のない声で返事はするものの、やはり気が気でないらしい。

「でも、なんでそのブローチが大事なものなんだ?代わりのものじゃダメなのか?」

突発的に由宇がそう言うと、和也が頭をばしっと叩き、「バカ」と牽制した。

「なにすんだよ!」
「お前がバカだからだよ。あのブローチはな、二葉ちゃんの本当のお母さんの形見なんだよ。だったよな、一葉?」
「うん、亡くなった二葉のお母さんの、唯一の形見だったんだ。だから、代わりなんて何処にも無いんだよ」
「………ごめん。なんて言うか…その。マジ、すんませんでした!!」

理由を聞いて、一葉たちの家庭環境を思い出し、由宇は土下座して謝った。

一葉と二葉は実は実の兄妹ではない。
一葉の母親と二葉の父親が互いに再婚し、家族になったのだった。
親が再婚同士で、血の繋がらない兄妹であることは、ある程度は話していたので、それを思い出した由宇は、ひたすら「すんません!ごめんなさい!」と謝っていたのだった。

「もう良いよ。とりあえず今は、ブローチを見つけなきゃ」

そう切り替えて、話を戻し、今度は別々で探してみようと提案し、一葉と二葉、それに和也のグループと、由宇、愛依、梨音、那音のグループに分かれ、それぞれでもう一度探すことにした。

 
それから、それぞれ分かれてもう一度探してみたものの、やはりブローチは何処にも見当たらず、だいぶ日も傾いてきていた。
半ば誰もが諦めかけて、それでも、どこかに必ずあるはずと、一葉と二葉は懸命に探し続けた。
すると…。

「にゃーお」

どこからともなく、猫の声が聞こえてきて、周りを見渡すと、廊下の突き当たりに黒い猫がいた。

「おまえ、もしかしてこの前の猫か?」
「にゃー」

まるで返事でもするかのように、黒猫は鳴いた。
そしてまた、喉をグルグルと鳴らして二葉の足元にすり寄ってきた。

「この前もそうだったけど、なんで二葉に懐いてるんだ?」
「さあ?でも、こいつには感謝しなきゃだな。この前はこいつがいたから出られたも同然なんだから」
「それもそうだな」

「ありがとな」と、一葉達が黒猫にお礼を言い撫でると、「にゃーお」と一声鳴いて、二葉の足元に戻った。
やはり、何故か分からないが、二葉にすごく懐いてるみたいだ。
二葉はどうしたら良いのか分からず、とりあえず黒猫を撫でていると、相変わらず喉をグルグルと鳴らしてすり寄っていた。

「それにしても、見つからないな。一体何処にあるんだろう?」
「なにか探し物してるの?」
「え?」

突然の声に、一葉達は一瞬驚いた表情で互いを見合わせ、声のした方に視線を向けると、見知らぬ少女が其処に佇んでいた。
いつの間に現れたのか。
そんなことを思いつつ、「えっと…」と一葉は言葉を詰まらせてると、先ほどまで二葉に懐いていた黒猫が、トコトコと歩き出し、どこかへ行ってしまった。

「ごめんね、急に話しかけて。私は長谷川桜花(はせがわ さくら)って言います。私も探し物してたんだけど…」
「あ、俺は神成一葉って言います。こっちは妹の二葉」
「俺は瀧本和也です。長谷川さんも、探し物ですか?」
「桜花で良いよ。ねぇ、もし良かったら、一緒に探さない?一人でも多い方が、探しやすくなるから…」
「全然良いですよ。俺たちは二葉の持ってるぬいぐるみのブローチを探してるんですけど、桜花さんは?」
「私は、人なんだけど。ここに一緒に来たのに、いつの間にかはぐれちゃって。良くぼけっとしてる子だから、たぶん、どこかでまた寝てるかもしれないんだけど…」
「人、ですか?」
「うん、二宮郁斗(にのみや いくと)っていう、幼馴染なんだけど、会わなかった?」

自分たち以外にも人がいたこと自体驚きだったが、もう一人いたことにさらに驚き、一葉達は顔を見合わせて「会ってない、よな?」と確認した。
「そっか…」と桜花は残念そうな表情を浮かべた。

「でも、回っていればいつか会えるかもしれないから、また回ってみようか。それに、ブローチもどこかにきっとあるはずだから、一緒に探しましょう」

そう言い、桜花は二葉に視線を合わせ、「ね?」と微笑むと、二葉は恥ずかしそうに一葉に隠れながら、「うん」と頷いた。
そして一葉達は桜花と一緒に、もう一度旧校舎内を見てまわることにした。

その頃、由宇たちは…。

もう一度、見落としがないか、くまなく探し続けていた。
そして中央階段に差し掛かった時。

「なぁ、そう言えばこの前来た時、ここでだったよな?例の写真…」

由宇が突発的に話題を切り出し、愛依はそう言えば、と思いだした。
話を聞いてなかった梨音と那音は何のことかさっぱり分からず、互いに顔を見合わせて首をひねっていると、由宇は再びデジカメを取り出して、徐にシャッターを切った。
しかし、その画像を確認しても、特に変わったことはなかった。

「う~ん?やっぱり何もない、か」

そう呟き、次に体育館へ向かうために階段を上っていた時だった。

―――ガタン…

どこからか物音が聞こえ、皆が立ち止まった。
音がしたのは、図書室の方からだった。
ふと、愛依がなにかに気付いて図書室の中をそっと覗き込んだ。

「やっぱり…」

そう呟くと、愛依は図書室の中へと入っていく。
由宇たちもその後を追って、中に入っていくと、そこには机に上に1匹の黒猫がいたのだった。

「あれ?お前もしかしてこの前の…?」
「にゃーお」

由宇が声を掛けると、黒猫はまるで返事でもするかのように鳴き、机の上からぴょんと飛び降り、カウンターの方へと歩いていく。
そしてカウンターの裏に回り、喉をゴロゴロと鳴らしながら甘えるように鳴いていた。
由宇が黒猫の後を追い、カウンターの裏を覗き込むと、「え?」と声を上げた。
その声に、愛依達もカウンターの裏を覗きこみ、同じく驚いて「嘘…」と言葉を漏らした。

そこには、一人の少年がいたのだった。

少年は居眠りしているようで、黒猫がすり寄ってもまるで反応がない。
「にゃーお」とまるで起こすかのように、黒猫が少年の耳元でなくと、少年はやっとその瞼を開けた。

「ん…あれ?今何時?」

ぼんやりした表情で目を擦っていた少年は、ようやくカウンター越しに自分を見つめてくる視線に気付いて、きょとんとした表情で起き上がった。

「君たち、誰?」
「それはこっちの台詞…。お前こそ誰だよ?」
「こんな所で寝てる人、初めて見たわ」
「いや~、この本読んでるうちに没頭していつの間にか寝ちゃってたみたい。で?君たちは?何しにここへ?」
「え~っと、俺たちは…探し物をしててここに来たんだけど。何度かここの前も通ってたけど、気付かないくらい熟睡してたのか?」
「う~ん…たぶん」

そう言ってはにかみ笑いを浮かべる少年に、由宇は気が抜けてカウンターに寄りかかった。

「ちなみに、僕は二宮郁斗(にのみや いくと)6年だよ。君たちは?」
「俺は御坂由宇、5年です。先輩だったんすね、なんかすんません…」
「私は黒瀬愛依、同じく5年。こっちは妹の梨音と弟の那音で二人とも3年よ」

互いに自己紹介し合って、とりあえず、「よろしく」と挨拶して、一緒に行動することにした。

「で?探し物をしてるっていったけど、何を探してたの?」
「こういう感じのブローチなんだけど…見なかったかしら?」

愛依は、先ほどの画用紙を見せ、特徴を伝えると、郁斗は「う~ん…」と腕を組みながら見つめて「どこかで見たような…」と呟くと、由宇は「何処か思い出せないっすか」と問い掛けた。

「何処だったかな?でもこういう系なら、桜花の方が良く見つけられるんだけどな…」
「さくら、さん?」
「うん。幼馴染で一緒に来てたんだけど…、僕が寝てる間にどこかに行っちゃったみたい」

てへっと舌を出し、おちゃらける郁斗に、由宇たちはは「そう、ですか」と、愛想笑いを浮かべていた。

「桜花は誰かの忘れ物やなくし物を見つけるのが上手いんだ。僕、良くぼけっとしてて、何処でも寝ちゃうから、良く物をなくすんだけど、いつも見つけてくれるんだ」
「へ~。すごいんですね、その桜花さんって方。今どこにいるのかしら?」
「たぶん、まだここにいるはずだよ。一緒に探して、見つけてもらおうか?」
「いいんすか?!」
「うん、たぶん向こうも僕のこと探してると思うから、きっと回っていればどこかで会えるかもしれないし。一緒に探そう」

そう言い、郁斗を加えて、由宇たちは図書室を後にして、体育館へ行く途中だったのを思い出し、向かった。

それから数分後、入れ替わるように図書室へとやって来た一葉達は、先ほどまで人がいた形跡を見て、桜花が呟いた。

「ここにいると思ったけど、もうどこか行っちゃったのかな?彼、本が好きで良くここにいるんだけど。当てが外れちゃったみたい」

カウンターの裏を覗き込んで、桜花がそう呟くと、一葉もカウンターを覗き込み、散らばった本を見て思った。
もしかしたら、由宇たちが来たのかもしれない、と。
もし、一緒にいるのなら話は早い。
一葉は由宇のスマホに電話を掛け、居場所を探ろうとした。

着信に気付いた由宇が、スマホを取り出し、電話に出ると、既に体育館に着いた頃だったらしく、ボールを突く音が聞こえてきた。

「おい由宇、まさか遊んでないだろうな?」
「違う、俺じゃない」

郁斗がボールで遊んでいることを告げると、桜花はやっぱりと呆れた表情を浮かべつつ、安堵し胸をなで下ろした。
とりあえず、一度落ち合おうと言うことに成り、由宇たちがいる体育館へ向かうことにした一葉達。
電話は繋いだまま、移動しながら互いの状況を説明し、体育館へと続く渡り廊下を歩いている時だった。

「ん?何だあれ?」

ふと、由宇が何かを見つけたらしく、電話越しに何やら呟いていた。
が、次の瞬間―――。

「うわっ何だよ!こっちこんな!!」

急に由宇が叫ぶ声が聞こえた。

「由宇?どうした、何かあったのか?」
「うわあああああ!!」

由宇の叫び声が渡り廊下まで響いてきた。
一葉達は急いで体育館へと走るが、何故か入り口の扉が閉まっていて開かない。

「くそっ!どうなってるんだ?おい由宇!!大丈夫か?!」
「愛依!梨音ちゃん!那音くん!返事してくれ!!」
「いっちゃん?!」

ドンドンと扉を叩き、中にいるはずの由宇たちに声を掛けるが、何故かそれきり物音が聞こえない。
何が起きたのかと、電話越しにも呼びかけてみるが、何故かノイズが入って通話が出来ない。

「何だよ!!一体、何が起きてるんだよ?!」

皆がパニックに陥っている中、二葉だけはじっと体育館の扉を見つめ、“何か”を感じ取っていた。
そして、ある一点を見つめて、その“何か”を見定めると、迷うことなく、そこに手を伸ばしたのだった。

「二葉?何して……っ!?」

それは扉の中心、何の変哲もない扉の真ん中に、二葉が手を触れると、まるで波紋が拡がるように、空気が歪み出した。
二葉がそのまま手を伸ばし続けると、まるで引き込まれるように、渦を巻く歪んだ空気の中へと入っていく。

「…そこに、由宇たちがいるのか?」
「………」

無言でゆっくりと頷く二葉に、一葉と和也は顔を見合わせ、桜花にも視線を送る。
桜花も無言で頷くと、一葉が先に立ち、歪みの中へと足を進めていった。
続いて和也が、そして最後に、二葉と桜花が手を繋いで、その中へと入っていく。
皆がそのう図の中へと入ると、まるで何もなかったかのように静寂が戻り、無人の廊下にまたどこから現れたのか、先ほどの黒猫がトコトコと歩き寄って。
体育館の扉の前で立ち止まり、まるで主人の帰りを待つかのように、扉を見つめて座り込んでいた。

不意に意識がぼんやりして、気付いた時には頬に木の感触と、かび臭い匂いに包まれていた。
はっと我に返ると、何故か床に倒れていた。
ゆっくりと起き上がるが、何故か頭が重い。
ふるふると軽く頭を振り、次第に意識がはっきりしてくると、周りを見渡したが…。

「……何処だ…?此処は…」

そこは見慣れぬ場所。
建物は古めかしい木造で、長い廊下の真ん中で、一葉達は横たわっていた。
すぐ傍に一葉と二葉、そして桜の姿を見つけ、皆を起こすと、ぼんやりした表情を浮かべながら起き上がり、周りを見渡して驚愕の表情に変わる。

「何だよ。此処…」
「わからない。確か俺たち、体育館の前の通路に居たよな?」
「ああ。それで、どうしてこんな場所にいるんだ?俺たち、どうなったんだよ」
「………もしかして…」

不意に、桜花が言葉を漏らし、近くの窓を見つけ、外の様子を窺った。
そして何かを確信したかのように「やっぱり…」と呟いた。

「桜花さん…?なにが、やっぱりなんですか?何か知ってるんですか?」
「………」

急に無言に成り俯く桜花に、何か分かったのかと一葉が問い掛けるが、返事はない。
代わりに、二葉がぼそりと、呟いた。

「………彼岸と此岸の境界。影の世界。導く者に誘われ、迷いこんだ杜の中…」
「え…?何だよ二葉。急に難しいこと言って、どうしたんだ?」
「………お兄ちゃん。あれ…」

そう言い、指を差したのは桜花が見ていた窓の向こう側。
一葉は訳が変わらず、言われるままに、窓の外を確認した。

そして、その目に映った“モノ”を見て、言葉を失った。

窓の外に映し出された景色は、校庭ではなく、まるで血の海の中にいるような、真っ赤な水が波打っていた。
その先は何処まで続いているのか、分からないほどに真っ暗になっていて、分からない状態だった。

「何だよ…これ…。一体…何がどうなってるんだ…!?」

時を同じくして、由宇たちもまた目を覚まし、見知らぬ此の校舎を見て言葉を失っていた。
何が起きたのか、此処は何処なのか?
外に出ることも憚れ、訳が分からないまま、一葉達はこの不気味な空間に閉じ込められてしまっていたのだった。
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