学校の怪談

結城朔夜

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第一章 鏡の間

case.8

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無事に由宇達は一葉達と美術室で合流し、そこへ紅映も加わって、巫子達の対策を練っていた。
まずは紅映に作って貰った護符の使い方を聞き、それから実際に和也を助け出すまでの手順を確認した。

まず、白い護符に自分の名前を書き、息を吹きかけ依り代とさせ、帰り道を繋ぎ鏡地獄の中へ入る。
その次にピンクの護符を巫子に貼り、動きを封じ込める。
最後に鏡地獄の砦となっている物を壊し、脱出する。

限られた可能性は一回きり。
その一回で、全てを成功させなければならない、

「………」

不安要素がたくさんありすぎて、一葉は顔を歪ませた。
そんな無謀とも思える挑戦に、果たしてうまく行くのか。
さらに言えば、鏡地獄の砦と成っているものが何なのか、誰も知らないという。
失敗すれば皆、鏡地獄から一生出ることは出来ない。
不安だけしかない状況で、実行すべきか躊躇ってしまう。

「一葉………」
「………分かってる」

由宇が心配そうに一葉を見て声を掛けると、一葉は暫く悩んだ末、決断し顔を上げた。
和也を助け出すための、唯一の方法だ。
迷ってなどいられない。

「行こう………。和也を助けて、無事皆で帰ろう!」

そう意気込み、皆も潔く返事をし、顔を合わせて大きく頷いた、

そして別れ際に、紅映は「これも持っていって。これを開けて曲を流せば、永遠の動きも止められるから」と、小さなオルゴール箱を渡してくれた。
「ありがとう」とオルゴール箱を受け取り、一葉達は再び家庭科室へと足を向けた。


その頃、和也は変わらず巫子のお遊びの相手をしていた。
鬼ごっこに飽きた巫子は、『今度はお人形で遊びましょう』と言いだした。

(そのお人形遊びも、また普通じゃないんだろうな………)

そう思う和也の予想は的中し、お人形は子供達。
その名の通り、お人形となった子供達を、まるで操り人形のように好き勝手に動かし、思い通りに動いてくれないと「不良品」と言って手荒に扱い、髪を切ったり振り回して投げつけたりと、まさに残虐な遊びだった。

巫子は楽しそうに子供達を弄び、キャッキャと笑っている。
子供達は更なる恐怖に最早抗う気力もなく、できるだけ巫子の機嫌を損ねないようにと、精一杯自分を犠牲にしてまで、巫子のお遊びに付き合わされていた。

このままでは、皆過労死してしまうかもしれない。
早く何とかせねばと、巫子の機嫌を伺いながら、どうにか脱出できる方法はないかと模索するも、出口はどこにも見当たらず、さらに鏡の間の外には永遠が監視していて、八方塞がりの状態だった。

「これ、マジでヤバいんじゃないか………?」

ぼそりと呟き、和也は何とかまた一葉達と連絡が取れないかと、梓帆へと視線を向けるも、今は永遠も監視している状態。
下手に行動すればどうなるか分からない。

「………くそっ」

結局何も出来ない状況に、和也はやるせなさから、自棄になりかけていた。
それを見透かしているかのように、巫子は「お人形遊び」に没頭し、永遠は寝転びながらそのお遊びを見て楽しんでいる。

その様子がさらに和也の精神を蝕んでいく。

「一葉………。早く助けに来てくれ………」

祈るように、縋るように、和也は小さく呟いた。

それを見計らったかのように、巫子がふと和也の方へと視線を向けて、にやりと笑みを浮かべる。
そして指をパチンと鳴らすと、和也の周りに鏡が集まり出した。

「えっ?何………?!」

急に集まった鏡に和也は驚くも、気付いたときには周りを全部鏡に覆われていた。
そして、そこに映し出されていたのは………一葉だった。
俯いてはいるが、確かに一葉の姿だ。
だが、何か様子がおかしい。

「一葉………!?」
『………』

もしかしたら、一葉もまた捕まってしまったのかと思い、声を掛けるが返事がない。
一体どうしたのかと、もう一度声を掛けようとして、直後一葉が言葉を発した。

「一葉………?」
『うるさいなぁ』
「え………?」

一瞬、何と言ったのか分からなかった。
普段の一葉が言うような言葉ではないとは思ったが、続けて発せられた言葉に、和也は言葉を失った。

『いつもいつも皆をまとめてるけど、自分が俺らのリーダーだとでも思ってるのか?』
「………っ」
『はっきり言って迷惑なんだよ。何でも都合の良いように話をまとめて、結局は自分の思い通りにまとめてるだけだろ。それって自己中と変わらないんじゃないのか?』
「なに、言って………」

明らかに普段の一葉とは様子が違う。
こんな風に誰かを悪く言うような奴ではないはずと、頭では否定しつつも、一葉のその言葉に胸が痛くて。
だが、そう云われても仕方ないことは事実だ。

いつもいつも由宇が面白可笑しく場を盛り上げて、和也がそれを制御していた。
一葉も愛依と同様に笑ったり呆れたりはしていたが、いつだって最後にその話題を変えるのは和也の役割だった。
自分としてはそれがいつものことと思っていたし、皆も信頼してまとめ役を任せてくれていると思っていたから。
本当は不満もあったかもしれないと、心の何処かで思っていたから、実際にそう云われて、和也は気に病み、何も言い返せなかった。

『言い返さないってことは、自分でもそう思ってたんだ………?和也って、本当は思い込みが激しいだけの、唯の自己中なんだな………』
「………」
『そんな奴、助ける価値もないよ』
「………っ」

 突き放すような一葉の言葉に、和也は言葉を失う。

『ふふ………。言われてるわよ?さぁ、あなたはどうするのかしら?』

様子を窺っていた巫子が、言葉を漏らした。
そう、これは全て巫子によって作り出された虚像の姿。
その鏡には魔力があり、映し出されるのはその者が気に留めていたことを具現化したものだった。
すなわち、鏡に映る一葉は、和也の心の奥底にあった思いを告げているだけに過ぎない。
和也自身も絶対にこれは何かの間違いだと思いつつ、何も言い返せない自分がもどかしくて。
頭を振り、気持ちを落ち着かせようと、精一杯の思いで言葉を発した。

「違う………。一葉はそんなこと言うようなヤツじゃない………」
『だったら、お前は何だよ。お前こそ、本物の和也だって証拠はあるのかよ?』

そう云われても、証拠なんて何も無いと分かっていて。
和也は何も言い返すことができず、俯き、ただ「違う………」と繰り返し呟いた。

『何が違うんだよ?言い返せないくせに』
『本物の和也なら、いつもみたく自分の意見をはっきり言ってみろよ』
『お前が偽物だから、何も言い返せないんだろう?』
『偽善者………。お前なんか嫌いだ』
「………っ」

畳み掛けるように、鏡に映された一葉が和也を責め立てる。
次第に和也の心が折れそうになって膝をついた。
そんな時だった。

「和也!!」


別の場所から一葉の声が聞こえてきた。

「………一葉?」
「大丈夫か?今そっちに行くから、待ってろ!」

由宇の声も聞こえて、和也は正気を取り戻した。
そうだ、本物の一葉なら由宇達と一緒にいるはず。
そう思い出して、和也は叫んだ。

「俺は大丈夫だから。先に捕らわれた子達が限界だ!」
「わかった!もうちょっとだけ辛抱してくれ!」
「頼む!」

そう云うと、和也はようやく我を取り戻して。
そして同時に、目の前の一葉を睨んで、告げた。

「お前の方が偽物じゃないか!本物の一葉なら、一人だけでここには来ない!」
『残念。もうちょっとで丁の良いお人形にしてあげようと思ったのにな………』

鏡に映された一葉が次第に歪んで消え、和也の周りを囲んでいた鏡が砕かれると、巫子は残念そうに両手を広げて『惜しかったなぁ』と呟いた。

「何のつもりだよ?こんな事をしてまで、何故皆を閉じ込めるんだ?!」
『だって、独りでいてもつまらないじゃない。お友達がいれば、いつだって楽しいでしょう?だから、ずっと一緒にいられるように、ここに置いているだけよ』
「だからって、何も閉じ込めることは無いだろう!こんな所にいても、全然楽しくもないし、皆早く帰りたがってるだろ」
『あら、そんなこと無いわよ?だって皆、私と一緒に遊びたくてここにいるんですもの。じゃなきゃ「一緒に遊びましょう」なんて言って、私を呼ばないでしょう?』

言われてみれば、先ほど和也達もそう言っていたのを思い出して。
だが、それはただ七不思議の話が本当かどうか確かめるための言葉であって、実際に遊びたくて言ったわけではない。
それを説明しても、巫子は『そんなことないわ』と聴く耳を持たない。

そんなやりとりをしている間に、一葉達は準備を進めていた。
まず先ほど紅映に貰った白い護符に自身の名前を書き、息を吹きかけて、帰り道の目印になるようにと、無くさないよう鞄の中に仕舞った。
それから家庭科室の大鏡の前に立ち、皆で声を揃え叫んだ。

「「「かがみこさん、かがみこさん、一緒に遊びましょう!」」」

その言葉に、巫子は『ふふ。良いわ、いらっしゃいな』といい、鏡の間への道を開いた。

「よし、行こう!」

皆で手を繋ぎ、「せーのっ!」で鏡の中へと飛び込んだ。
そして、鏡の間へ飛び降りると、早速和也の元へと駆け寄った。

「遅えよ。もう少しで呑まれるところだったって………」
「ごめん、遅くなって。でも、準備は整ったから皆で帰ろう!」

そう言って、一葉達は周りにいる子供達を見て、「よく頑張った、もう大丈夫だよ」と声を掛けて励ました。
子供達は疲れた様子で、最初は信じられなかったのか諦めた表情で見つめ返した。

『ふふ、それで?どうやって此処から出るつもりかしら?』

巫子はどうせ無理だろうと思っていたが、愛依の手に持っていたモノを見て、顔を青ざめた。

『まさか………それはっ!』
「ええ、そうよ。紅映さんに作って貰った護符よ。これであなたの動きを封じるわ」
『くっ………!何してるの永遠!さっさとこいつらを抑えなさい………!?』

巫子が叫ぶも返事がなく、どうしたのかと永遠の方へ視線を向けると、そこには既に抑え込まれた永遠の上に由宇が馬乗りになってる様子が見えた。
永遠の前にはあのオルゴール箱が置かれ、曲が流されていた。
故に、永遠は力を振るうことができず、あっという間に捉えられたというわけだ。

『もう!何やってんのよ、永遠ったら!』
『悪い………。マジで力が出ないんだよ。………この曲、アイツのピアノの音だ………』

そう言って、力なくうなだれる永遠に、巫子は顔を歪ませる。

「さあて、巫子さん?これで形勢逆転よ。あなたにも大人しくなってもらうわ」

愛依がピンクの護符を前に突き出して、宣言する。
和也も一葉に支えられて立ち上がり、これで完全に立場が逆転した。
互いに睨み合い、一触即発になりそうな雰囲気に、捕らわれていた子供達は、不安そうにその光景を見守っていた。
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