煉獄の森~EZAM~

結城朔夜

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第三幕:犠牲の痕

vision:ⅩⅥ 追憶の葬送Ⅱ~揺蕩う燈と無数の痛み~

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語られた真実。
明らかになる、それぞれの想い。

その心に秘めるのは
希望か、それとも憎しみか。


――――――――――――――――――――

 
その後、七海は湊を失ったショックと、大切な家族を手に掛けてしまった後悔で、塞ぎ込んでいた。
辛うじて生き延びた子達は皆、七海を恐れて近寄ろうとせず、仮宥愛が食事を持っていったりして様子を見ていたが、一口も食事に手を付けない状態だった。

「………ごめんなさい」

囁くのは、謝罪の言葉だけ。
でも、いくら謝ったところで亡くなった命はもう二度と戻らない。
次第に心を閉ざすように、七海は一切他人に関わろうとせず、やがて悲しみよりも魔女への憎しみが強くなっていった。

そんな七海を見ていた仮宥愛は、やるせない気持ちでいっぱいだった。

そのころ結翔は犠牲になった子供達への追悼の意を捧げ、小さな慰霊碑を作っていた。

『安らかに眠れ』

そこに刻み込んだ文字を無言のまま見つめて、1人佇んでいた。
言いようのない感情が結翔の中にわだかまりを作っていった。

もし、あの時七海が力を暴走させなければ、こんな事にはならなかった。
もし、あの時七海を止められていたなら、こんな事にはならなかった。
そんな後悔の念に押し潰されそうになりながらも、結翔は現実を受け入れるしかなかった。

起きてしまったことは、もうどうしようもないこと。
過去は変えられない。
それは自分が一番よく知っているはずだった。

―――もっと、自分に力があれば………―――

そんなどうしようのない考えが頭を過ぎっても、何も出来なかった自分を悔いて、ぎゅっと拳を強く握りしめて、唇を噛んだ。

それ以降、結翔は七海に嫌悪感を抱くようになり、顔を合わせても一言も話さず、七海もまたすれ違うだけの日々が続いた。

数日が経ち、教会が被害に遭ったことを聞きつけた近隣の村人達は、力になれればと復興の作業を手伝ってくれた。

「みなさん、ありがとうございます」
「何、いつも俺たちがお世話になってる分、これでお返しが出来るってことですよ」
「そうそう、仮宥愛様も無理せず少しは休んでいてください。私たちに出来るコトは何でもしますから」
「お心遣い、ありがとうございます。みなさんも、無理せずに作業をしてくださいね」

そう言って、仮宥愛は皆に感謝と労いの言葉を掛けていた。
結翔も村人達のまかないの準備を手伝い、薬膳を振る舞ったりしていた。
その様子をひとり部屋の窓から見つめていた七海は、自分の至らなさと無力さを痛感していた。
そして、あの時の光景を思い返していた。


『貴方は何をしに戻ってきたの?大好きなお姉ちゃんの言いつけを破ってまで、戻ってきた理由は何?』
『まさか、死に様を確認するために戻ってきたとでも?バカな子ね』

魔女の辛辣な言葉が蘇る。
そして同時に、湊が最期に発した言葉も、七海にだけは届いていたのだ。

「七海、強く生きなさい………」

それが、湊の最期の言葉だった。


「お姉ちゃん………」

小さく呟き、ぎゅっと堅く手を握りしめた。
そして胸の前で反対の手に打ち付けるように、決意を決めるように、その瞳に光が走る。

「絶対、仇は取るから。………絶対に、私はアイツを、赦しはしない………!」

みなそれぞれ心に何かを抱えながら、必死に生きている。
死んだ家族のため、無くした居場所を取り戻すため。
魔女の脅威に怯えながらも、皆、賢明に前を向いて生きようとしている。
こんな所で、立ち止まってなんていられない。

そう心に決めて、魔女への復讐心を燃やし、それを生きがいにしていくことを決めた。

その日を境に、湊から授かった力を制御するために、七海は一人で特訓を始めることにした。
まずは精神面を鍛え、体力を上げ、集中力を持続させること。
そして、まずは小さな火だけでも自在に操れるようになるため、的を作っては何度も当てる練習を繰り返し、ようやくコントロールが出来るようになっていった。

その様子を静かに見守っていた仮宥愛は、塞ぎ込んでいた頃よりはと大目に見て、七海のやりたいようにさせていた。

やがて力の制御が出来るようになった段階で、七見は館を出て行く決意を固めた。

「何も出ていくことはないと思いますが………?」
「まだ此の力を良しとしない人もいるでしょう。それに、これ以上甘えてなんていられない。自分の道は自分で拓くわ」
「そこまで言うのであれば、止めはしません。でも無茶だけはしないで下さいね。貴方はムキになると、周りが見えなくなる時がありますから………」
「分かってるわよ、それくらい。だから特訓してたんじゃない。でも、ここにいてもこれ以上の事は出来ないわ。もっと強くなるためには、ここを出る必要があるの。ただそれだけよ」

荷物をまとめながら、決意を新たにする七海に、仮宥愛は敢えて止めはせず、あくまでも七海の意見を尊重しての考えでいたが、心配な面も多々ある。
食べ物は確保できるにせよ、寝泊まりする場所はあるのか、力のコントロールを失った場合どうするのか、等々、不安が絶えない。
それでも、七海は「なんとかしてみせる」と言い張り、助けを頼もうとはしなかった。

そして荷物をまとめて仕度が整うと、最後に湊の墓へ霊を告げるため、教会の奥にある慰霊碑の方へと足を向けた。
そこに、結翔が佇んでいるのが見え、ついでだからと最後の挨拶をしようと思った。

「湊お姉ちゃんに、最後の挨拶をしても良いかしら?」
「………」

結翔は返事も見向きもせず、犠牲になった者達が眠る慰霊碑に向かい、無言で佇んでいた。

「………今更、どうしようもないけど。でも、みんなの死を無駄にはしないわ。私は強くなって、そしていつか、魔女を倒すわ………。湊お姉ちゃんにもらった此の力………、形見として大事に使う。でも、もう無茶なことはしない。これ以上、犠牲を出すのは嫌だから。だからどうか、見守っていて………」
「………」

七海の祈りにも似た想いを結翔はただ黙って聞いていた。
そして、いざ旅立とうと背を向け、歩き出した時に、結翔が呟いた。

「強くなって………魔女を倒せたとして、………それでどうするの?」
「え………?」

七海は立ち止まり振り向くが、結翔は視線を慰霊碑に向けたまま、言葉を続けた。

「魔女を倒した後は?その後はどうするつもり?」
「どうって………。そんなの、まだわからないわ」
「………倒せないよ、どうしたって。例えあの魔女を倒したとしても、厄災は消えない………」
「どうして、そんなこと言えるのよ?」
「犠牲になった人たちの念は、一生消えない。それが闇の瘴気の根源だから………。それが全て消えない限り、厄災は消えない。そしてまた、新たな魔女が生まれる………。」
「新たな、魔女………?どういう事よ、それ」
「………仮宥愛が言ってた。魔女は、元々普通の人間だったって。………でも、何らかのきっかけで、魔女に生まれ変わるのかもしれないって」

その言葉に、七海は驚きを隠せなかった。

「魔女が、元々普通の人間ですって?………でも、なんでそんなことを、仮宥愛は知ってるのよ」
「詳しくは、わからないけど………。仮宥愛は僕たちより多くの人から話を聞いてるから、なにか知ってるのかもしれない」
「何かって………。結翔はそれを疑問に思わないわけ?」
「仮宥愛のこと、疑うの………?」
「疑うとかそれ以前に、信じられるわけ無いでしょう。そんなこと、確証もないのに、どうして解るのよ?」
「………」

七海の問い掛けに、結翔は無言で見つめ返すだけ。
その瞳は何処までも昏く冷たい闇の底に沈んでいるかのようで。
七海は結翔のその視線と向き合うように、強く意思を持った瞳を向けて。

「仮宥愛のことになると、本当に何でも信じちゃうの、何とかならない?」
「………うるさい。仮宥愛のことを悪く言うなら、七海だって赦さない」
「………だったら、真実かどうかもはっきりしないのに、信用出来る貴方もどうかと思うわ」

そう言って互いに不穏な空気が漂い、一触即発の状態になった。
しかし七海は、無茶はしないと先ほど湊に誓ったばかりだ。
それ故、余計な争いは避けようとこの場は身を引き、早々に館を後にしたのだった。

それからというもの、ふとしたことで再会する度に、二人はことごとく力をぶつけ合うようになり、その都度、仮宥愛が静止しているのだった。


「………と、まあ経緯はこんなものよ。所詮、私が力を暴走させなければ、犠牲はもっと少なく済んだのでしょうけど。それ以来、私はひとりで魔女についての情報を集めて、森で暮らしてるってわけ。結翔に対しては私も思うところがあったから言うけど、仮宥愛に命を救ってもらった恩かは知らないけれど、何でもかんでも仮宥愛の言ったことを信じて、疑いもしないなんてバカみたいじゃない」

本人を前にして、七海は仮宥愛を使用できないことを告げる。
仮宥愛自身は、気にしてない素振りを見せるが、実際、何を考えているのかは私にも分からないところもあるのは確かで。
今は結翔を抱きかかえて介抱している限りでは、そんな悪いようには見えない。
だが、七海の言い分にも分からなくもない事もある。

仮宥愛は、何かを知っていて、それを隠している。

確信はない。
けれど、七海の言うように、全てを鵜呑みには出来ない。
仮宥愛には申し訳ないが、半分は信用できても、半分は疑いの目を向けざるをえなかった。

「………ん」

そんなコトを考えていると、ようやく意識を取り戻したのか、結翔が目を覚ました。

「大丈夫ですか?まだ無理には動かない方が良いです。かなり消耗してますからね」
「………か、なめ………」

まだ呂律がはっきりしないのか、虚ろな声で話す結翔を抱き抱えて、仮宥愛は「無茶しすぎです」と呟くと、安堵したのか、結翔は再び眠りについた。

「今回は、貴方の勝ちで良いです。でも、毎回こんな風になるのなら、止める私の身にもなってください。七海さんも、無茶しすぎです」
「………悪かったわ。でも、どうしても納得がいかないわ。これほどの力を生まれながらに持ってるのに、制御しきれないなんて、バカみたいじゃない。本当、見てて苛々するわ」
「………七海さんも、もう少し素直に心配してるって言ってくれないと。ちゃんと伝わりませんよ?」
「誰が心配なんてするのよ。からかうのも程々にしてよね………」

七海は、ふんっと顔を背けはしたものの、図星を疲れたのか、耳が真っ赤だった。
やっぱり七海は、本当は結翔のことを嫌ってはいない。
寧ろ心配する程、結翔のことを思っているのだ。

そんな七海の意外な一面を垣間見て、私は、人は見かけによらないなと改めて実感した。

「5年前にあった悲劇の真相は分かったわ。でも、結翔も力を使えば七海を抑えられたのかもしれないのに、どうして………?」
「簡単な話よ。暴走した力は制御した力じゃ抑えられないから、自分も力を暴走させなきゃ止められないってだけのこと。それがどういう事かは今ので分かったでしょう」
「あ………そっか。力を暴走させれば、結翔の場合、命に関わるって………」
「そう言うことです。だから、結翔は、七海さんを止められなかった。その後悔から、何度も自身を責めては、その想いを七海さんにぶつけているのです」
「そうだったんだ………。ごめんなさい、何も知らないで、無神経に首を突っ込んでしまって」
「いえ、構いませんよ。それに、今の結翔は昔に比べたらだいぶ成長してますし。なにより、他人を思いやれるだけの余裕もあります。昔は本当に、それこそ人形と呼んでもいいくらいに、自分の意思を持ってませんでしたから………」

眠る結翔の髪をそっと撫でて。
仮宥愛は哀しそうな瞳で、結翔を見つめた。

「全ての痛覚を失って、喜怒哀楽の表情も分からなくなる程に、心を殺し続けて、壊れてしまって。それこそ、食事も私が『食べろ』と言えば、ゴミでも食べるようなものでしたからね」
「………」
「言葉もまともに話せないうえ、痛覚がないので怪我をしても分からずに化膿させてしまったり、無意識に力を使ってしまう時もあったりして、面倒を見るのは大変でしたが。根は優しい子だって気付いたのは、些細なきっかけですがね」
「きっかけって、何ですか?」
「千紗都さんも、以前見かけたと思います。森の中の小鳥が怪我をした時に、教えてくれたんですよ。そして「助けてあげて」って言ったのです。そのことで私は、結翔は自身の痛みは分からなくても、他人の痛みを分かる優しい子だって気づきました」

そう言われて、私はあの時のことを思い出した。
森の中で傷ついた小鳥を見つけ、辛そうに見送ったことを。
そしてその時に言っていた言葉も………。


「皆が皆、死んでいいとは、限らない。死んで良い生き物なんて、居ない…!」


結翔は本当に優しくて、そしてすごく不器用なんだと、改めて知った。
そしてものすごく忠誠心の強い子なのだろう。
仮宥愛のことになると、感情が爆発して仕舞うみたいだ。
それほど、仮宥愛に恩を感じているのだろう。
確かに、地獄のような環境から救ってくれた救世主だ。
それだけ忠誠心が強くなるのも、分からなくもない。

「でも、それがきっかけで結翔に薬草学を教えたのは、仮宥愛の入れ知恵じゃなくて?」

今まで静かにしていた七海が、ふとそんなことを話して。
仮宥愛は「バレましたか」と苦笑いを浮かべて。

「確かに、結翔に薬草学を勧めたのは、この子にとっても役に立てそうだと思ったからです。治癒能力も高く、他人の痛みを分かってあげられる、それこそ、医学に通じるものだって思いませんか?」
「まぁ、言われてみれば、ヒーラー役にはぴったりだけど………。水の精霊の力って、そんなに貴重な物なんですか?」
「貴重と言うより、奇跡に近いでしょうね。精霊の力自体は、生まれ持った者と、後から覚醒し者の二つに分けられますが、私と七海さんは後者、結翔は前者ですからね。まずはその違いもありますね」
「そっか、精霊の力にも、いろいろと違いがあるんですね」
「そもそも、精霊の力自体が何を意味するのか、それ自体まだ解明されていないのもありますが………。いろんな可能性があるのは確かですね」
「まったく、湊お姉ちゃんから授からなかったら、こんな力欲しくもなかったけどね」

などと悪態を吐きながらも、その力を上手く制御できているアタリ、七海も卑下にはしていないのだろう。
そんな話をしていると、ふと先ほどまで晴れていた空の雲行きが悪くなっていて。
一雨来そうだな、と思っていると、七海もそれに気付いたのか空を見上げて。

「なんだか降りそうな雲行きね。どうせならこの奥に穴蔵があるから、そこで休む?」

と提案し、七海の案内の元、その穴蔵へと移動することにした。
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