責任取るのは俺の方でした

我利我利亡者

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「よし、カーティス。今日はここで実施訓練だ」
「で、でも、オリバーさん。ここって……」
「大丈夫。こういう所は客が接客の時にポロッと零した情報なんかが筒抜けなイメージがあるかもしれないが、そういうのは下級の安い店だけの話だ。高級店は違う。特にここは本来なら入店だけで最短2ヶ月待ち且つ一見様お断りの超がつく特別高級店。俺の伝手で何とか予約を捩じ込めた。この娼館に居る娼妓なら、何があっても秘密を墓まで持っててくれるよ。俺が保証する!」

 大丈夫、と俺が強弁してもカーティスの顔の戸惑いは晴れない。然もありなん。そりゃあお前の女性恐怖症と自信がつかないところを一気に治してやる! と豪語されて信じて着いてきた先が娼館だったんだ。は? 何考えてんだこいつ。正気か? と悪態をつかなかっただけ、カーティスはお上品である。

「まっ、待ってください! 僕、女の人が苦手なんですよ!? それこそ、子供か御年寄じゃない女性は、全員駄目! それなのに、い、いきなり娼館なんて……無理無理無理無理! 絶対に無理! それに女性に慣れる為ってのはまだ分かりますが、自信をつけるのと娼館がどう関係があるんです!?」

 大粒の汗を流しながら、真っ赤な顔で俺に食ってかかるカーティス。俺に首根っこ引っ掴まれてセクシーなお姉さん達の犇めく建物の中に1人放り出されそうになっているので、かなり必死だ。俺の服をギッチリ掴んで離さないその手からは、絶対に置いてかれたくない、離れるもんかという強い意志が感じられた。やれやれ、どこまでも世話の焼ける弟子だなぁ。

「だって、よく言うじゃないか。『男が手っ取り早く度胸を付けるなら、一発ヤッて童貞を捨てるのが1番だ!』って。カーティスも耳にした事くらいあるだろう? なぁに、あんな環境に居たんだ。お前がその歳まで身綺麗なのは仕方がないさ。普通に暮らしててもその歳で童貞なんて、割とありふれてるしな。お前の場合、むしろそういう欲の捌け口に使われてなくて良かったよ。だが、環境も変わったんだしいつまでもそのままじゃ宜しくない。童貞が、じゃなくて度胸が足りないのが、な。今のままのお前でも俺は十分可愛げがあっていいと思うけど、これから強敵に立ち向かうんだ。流石に後ちょっとは神経を図太くしとかないと、ストレスで心身がやられちまいそうだからな。安心しろ、プロ相手ならパニクってる間に全部終わってる。苦手な女相手でも、気持ちいい事すりゃぁ嫌な思いも晴れるってもんさ」

 そう、俺が思いついたカーティスに度胸をつけさせると同時に女性恐怖症気味なのもなおさせる方法。それは、娼館でサクッと童貞を捨てさせて身も心も一皮剥けさせるという荒療治だった。昔下世話な下ネタ好きの爺様に聞いた時は話半分で適当に聞き流していたが、意外な所にヒントがあったな。まったく、年寄りの言う事はよく聞いとくもんだ。

「度胸を付けるのには童貞を捨てるのが1番だなんて、聞いた事ありませんよ! 女性に慣れる為にしてもやり方が乱暴過ぎますし、こんな事くらいで度胸がつくんなら、僕もあなたも最初っからもっと簡単に身について、こんなに苦労はしなかったでしょうよ!」

 それは、確かに一理あるけど……。でも、どれだけ正攻法でやっても無理なら、もう眉唾でもこういう方法に賭けるしかないじゃないか。実際俺だって身の回りで見聞きした経験から童貞捨てて成長した……かも? 程度の確信はある。どれだけ少なくとも多少は確信があるからこそ、カーティスをここまで連れてきたんだ。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす、じゃないが、成長の為なら時には思い切りも必要だろ?

「だ、大体お金を払って……その、ね、寝るなんて……」
「何? 不道徳だとでも? お前、それは思っててもいいけど、娼館の中では言うなよ。タコ殴りにされる」
「いや、じゃなくて! なんというか、えっと……。そういうのは、本当に好きな人とだけ、やるべきだと思うんです。は、初めてなら、尚更。初体験の相手なら、お互い責任取って結婚しなくちゃ。だから、ここで信憑性もなければ根拠も怪しい言説を理由に貞操を捨てるなんて、したくないというか……」

 おおい、マジか。今時貴族だってやりたい盛りになったら婚前交渉はもちろん不純異性行為だって当たり前にヤリまくってんのに、最早古代のものとなった思想信条を未だに持ってんのかい。あー……でもまあ、それも仕方がないか。恐らくだが、カーティスの性教育は親元から引き離された10歳未満の時点で止まっている。その歳での貞操観念なんてキスしたら赤ちゃんできちゃう! って勘違いしてないだけまあいいかくらいだろう。ある意味箱入り息子なので、性知識が偏っていても宜なるかな、だ。

 ましてやカーティスにはリリアナ王女という名目ばかりではあるものの一応の婚約者が居た。婚約者が居る幼子に、女遊びがしたくなるような変な知識を教える人間は多くない。ましてやカーティスの周囲には意地が悪くてひっきりなしに彼をいびってばかりの人間しか居なかったのだから、尚更だ。そんな彼等がどんな形であれ、カーティスにまともな知識を与える訳がない。

「カーティスの言い分はわかった。だが、こうでもして度胸を付けないと、もう打つ手がなぁ……」
「僕、本当にこれからこれまで以上に頑張るので、何とか勘弁して貰えませんか?」
「うーん、よし。仕方がない。無理強いするのも良くないしな。こうなったら、打つ手は一つだ」
「わ、分かってくれましたか!」

 涙目のまま感謝を示す為に胸の前で手を合わせるカーティス。無理強いするのも良くない、という俺の言葉にこのまま解放してもらえそうだと踏んだのだろう。俺はそんな彼に、ニッコリと笑いかける。そして合わせる為に俺の服から離した手を、上からそっと両手で包み込んでやった。無理強いは駄目でも……強めに誘導するくらいはいいよな? 我ながらその2つの行動の差は、ちょっと分からないが。

「? オリバーさん? 何を」
「こういうのは勢いが肝心だ。何かが怖いなら、怖いと思う余裕をなくしてしまえばいい。大丈夫、気がついたら全部済んだ後さ」
「え、何を言って……うわああぁぁぁ!」

 この娼館は完全会員制で秘匿性の高いサービスが売りで、出入口だけでも複数ある。その内の一つである外からも内側からも遮蔽物があって簡単には様子を伺えない作りになった馬車回しに、俺とカーティスは乗り込んだ馬車を停めていた。俺はその馬車の中から片手にカーティスをふん捕まえたまま、無理矢理地面へと降り立つ。カーティスがビチビチバタバタ死に物狂いで暴れているが、最近肉を付けてきたとは言え、痩せっぽっちの彼では見栄えの為に筋肉をつけている俺には敵わない。

「きゃああぁぁぁぁ! 嫌ああぁぁぁ! 襲われるううぅぅぅ!」
「こら! 騒がしいぞ、カーティス! 馬鹿みたいな内容の生娘じみた悲鳴をあげるな!」
「やだやだやだやだ! 性行為なんて嫌だよー! 怖いよー! 今さっき会ったばっかの人間と、挨拶もそこそこにしけこむとかどんな拷問だよー!? 絶対に無理ぃー!」
「大丈夫だって、お前ならできる! 自分を信じろ! そして悲鳴を上げるな!」
「できないできないできない! できるわけがないしできて欲しくない! どうせ貞操を捨てても度胸なんてつかないんだから、こんな事するだけ無駄なんだ! だから諦めてよー!」
「カーティス! 餓鬼みたいに駄々を捏ねるんじゃない! いい加減観念するんだ! 抵抗を止めろ!」
「いーやーだー!」

 どうにかカーティスを建物の中へと連れ込もうとするが、全力で抵抗されてなかなか難しい。力はこっちの方が上でも、残念ながらタッパではカーティスに軍配が上がる。長い足で踏ん張って、長い腕を思い切り振り回されると、こっちとしては取り逃さないようにするのだけで精一杯になる。馬車から出入口までの短い直線上で、俺とカーティスは綱引き状態だ。

 くそっ、こうなったら奥の手だ。カーティスの腹に軽く一発パンチなり膝蹴りなり当てて、向こうが怯んだ隙に一気に出入口に引きずり込めば……。と、そんな良くない事を考えてさあこれからカーティスの腹にお見舞してやるぞ、と覚悟を決めた時、背後から肩にポンポンと手を置かれた。誰だよ、この糞忙しい時に! 何の用だ!?

「おい、こっちは今取り込み中なのが見て分からないのか!?」
「お客様、ちょっとよろしいでしょうか?」

 最初は肩に置かれた手を無視していたが、あまりにも執拗く叩かれるのでいい加減ウザくなって振り返る。振り返った先に居たのは、額に青筋を立てた娼館の従業員と、その背後には丸太みたいに太い腕をしたムキムキの警備兵が2人。おおっと、これはぁ……。思わずカーティスと争うのを放棄し、その場で動きを止める。これはヤバい、と本能的に悟った俺の前で、従業員は明らかに怒っているのが丸わかりの作り笑いで、満面の笑みを浮かべたのだった。
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