責任取るのは俺の方でした

我利我利亡者

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 結局、娼館に入ってカーティスに童貞を捨てさせる事はできなかった。なんでかって? ……だいたいもう察しは着いてるよな? そうだよ、玄関前で騒ぎ過ぎて『店の雰囲気と品位を損なうから』って入店前に出禁くらったんだよ!!! こんちくしょう! お陰でカーティスはルンルンだ。ったく、こっちの気も知らないで!

「いやぁ、出禁になってしまいましたね。今から他の店で仕切り直しというのも無理でしょうし、これはもう貞操を捨てるのは諦めろという女神様からのご啓示に他なりません。さあ、帰りましょう!」
「満足そうにツヤツヤしやがって……。さっきくらいの勢いがいつも出せたなら、俺もあんな事までしなくて済んだんだけどなぁ……」
「うっ……。そ、それについては……申し訳ないとは思ってます……」

 ちょっとした嫌味のつもりで吐いた言葉に、カーティスは直ぐさまシュンとして分かりやすい程に落ち込む。その様子を見て、根が軽薄な俺も流石に良心がチクリと傷んだ。俺だって自分なりにカーティスの事を可愛がってはいるのだ。普段人に甘えてばかりの俺にとって反対に甘えてくれるカーティスは、物珍しく同時に得がたい甘やかしたくて堪らなくなるような歳下のおチビちゃんだった。

「……俺の方こそ、悪かったよ。ヤケになってたとは言え、嫌がるのを無理強いしたりして済まなかったな」
「いえ、あれは僕を思っての行動だと理解していますから」
「そうだとしても、悪かった。はぁー、また別の方法考えなきゃな……」

 俺相手にあれだけ抵抗できたのだから、女性恐怖症や人間不信はある程度回復したのではないか? と思ってさっき行きずりの人間に少し近づけてみたが、結果は惨敗。話しかけるよりもかなり手前のタイミングでカーティスの足は止まってしまい、話しかけさせようと狙っていた相手はこちらに気が付きもせず平然と歩き去ってしまった。やっぱり、このままは良くないんだけどなぁ……。

「オリバーさん、困らせてしまってごめんなさい。あなたはいい先生なのに、僕は不出来なばっかりにいい生徒になれない」
「何を言うんだ、カーティス。お前は充分優秀だよ! 確かに最初の頃はあんまり乗り気じゃなかったけど、ダンスのステップは基本的なものは3日で全部マスターしたし、あんなにオドオドしてたのに立ち振る舞いだって今じゃ一分の隙もない。分からないところがあったら自主的に復習までして、お前程素晴らしく勤勉で覚えの早い相手を俺は見た事がない」
「それはオリバーさんの教え方が上手だからですよ。どこか間違えても丁寧に教えるだけで殴らないし、一切馬鹿にせずに分かるまで付き合ってくれるし、できる事が増えたら調子に乗るなと恫喝もせず手放しで褒めてくれる。僕、これまでの人生でこんなにも良い先生に巡り会えた事はありません!」
「いやー、それは世間的に見たら普通の部類なんだけどなぁ」
「でも、僕にとっては普通じゃありませんでした。だから、できたらさっきもあなたの望むとおりに貞操を捨てて自信をつけられたら良かったんですけど……。でも、僕は本当に初めては大切な人の為に取っておきたいんです。我儘を言ってしまってごめんなさい」

 俺に対して酷く申し訳なく思っているカーティスを見て、こっちの方が申し訳なくなる。この子はこれまで周囲の身勝手な奴等に、多くのものを奪われてきた。その奪われたものを少しでも取り返す為の復讐なのに、その過程でまたカーティスから大切なものを奪ってしまっては、意味がないどころかそもそもの目的に反してしまう。目的と手段、どちらが大切なのかは比べるべくもない。

 初めてをいつか現れる大切な人の為に取っておきたいなんてそんないじらしい願い、我儘なもんか! 仮にこれを我儘と取るとしても、我儘とはこれを言っても相手は自分に酷い事をしないという信頼がなくてはできないもの。あれだけ周囲の顔色を伺っていたカーティスが我儘を言えるまでに俺を信頼してくれたという事だから、嬉しくはあっても怒ったり悲しんだりする理由がない。むしろ大歓迎だ!

 しかし、それはそれとしてやはりどうしても、童貞を捨てさせるにせよ捨てさせないにせよ、カーティスに1人で他人と対峙する力をつけさせるのは急務だ。折角他を完璧に仕上げても、挙動不審だったら全てが台無し。それどころか、見た目がいい分言動のぎこちなさが際立っちまうだろう。娼館はもう使えないし、使う気にもなれない。それならどうすれば……。セックスという一大イベントを経験して、大抵の事には動じなくなるという路線は悪くないと思うんだけど……。

「オリバーさん」
「んー、カーティス悪い。今考え事してるんだ。後ちょっとでなんかいい考えが浮かびそうなんだけど……その後ちょっとが出てこないぃ……」
「ん、分かりました。静かに待ってますね?」

 それから暫く馬車に揺られながら腕を組んでうーん、うーん、と考え続ける。……が、一向に新たな妙案は浮かんでこない。一生懸命考え過ぎて、段々頭が疲れてボウッとしてきた。……これ、駄目かも……。いや、ここで俺が諦めてどうする。可愛いカーティスの為だ。もっとちゃんと、必死になって考えなくては。

 考えを巡らせているとふと横で何かゴソゴソやっている気配を感じ、何の気なしにそちらに視線を向ける。そこでは俺の隣の座席に座ったカーティスが、考え事をする俺の邪魔をしないように黙って静かにしたまま、膝の上に乗せた手をパタパタと動かしてリズムを取って暇を潰していた。どうやら頭の中でダンスに使う曲のどれかを流してリズムを取り、その感覚を体に叩き込もうとしているらしい。

 こんな時まで学んだ事の復習なんて、真面目な奴だ。いや、それにしても手でリズムを取ってパタパタと動かすカーティスのその様子。集中し切った真剣なその横顔。幼子のやるようなその仕草と実年齢と見た目のギャップ。……正直言って、ちょっと……いや、かなり可愛い。生意気盛りのローティーンの男が可愛いなんて事が有り得るのか? いや、目の前に実例として可愛い奴が居るんだけどさ。やれやれ本当に、こんなにも可愛げのある人間を王宮の奴等はよくあんなに酷く虐められたな? あいつらの気が知れない。

 ……ん? 待てよ? 俺は今、カーティスの事を可愛いと思った。カーティスは男、俺も男だ。それでも、可愛いと思った。この様に異性間でなくても相手を可愛いと思うのは、一般的とは言い難いが同時に全くない訳でもない。同じ様な事が、俺達の抱えるにも当て嵌るのでは……?

 エウレカ! 発想の転換、パラダイムシフトだ! 我ながら完璧な解決策を思いついてしまったぞ! これなら、ある程度の諸問題さえ乗り越えてしまえば、カーティスに度胸をつけさせてやる事ができるかも! やっぱり、どんなに困った時も真剣に考えれば自ずと道は開けるんだ! 早速俺は笑顔を輝かせて隣で手遊びしているカーティスに話しかける。

「カーティス! 素晴らしい解決策を思いついたぞ!」
「えっ? 本当ですか? 流石オリバーさん! あなたはいつどんな時も、問題を解決に導く天才です! それで、その解決策は一体全体どんなものなんですか? 僕にも教えてください!」
「フフフ、もちろん教えてしんぜよう。この方法ならカーティスの気持ちの問題さえクリアすれば、キッチリ童貞を捨てて自信をつける事ができる筈!」
「……ん? え、童貞? 僕の貞操に関しては、諦めてくれたんじゃ……」
「案ずるな弟子よ、そう心配せずとも俺はお前が女と寝る事もなく、好きな相手に対して操を保ったまま、童貞を捨てる画期的方法を思いついたんだ?」
「えぇっ? そんな方法ある訳……」
「あるんだなー、それが! その方法とはな……俺がお前の初体験の相手になる事だ!」
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