邪神の嫁として勝手に異世界召喚されたけど、邪神がもろタイプだったので満更でもないです

我利我利亡者

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 取り敢えず話を聞いてやろうじゃないか、と偉そうに宣言した俺に対して、代表らしい王様の1人が理由として話したところによるとこういう事だ。この世界には神様というものが存在する。いや、それなら俺の世界にも存在してるけど? と思ったが、この場合のするとは、すると言い換えられるものらしい。

 つまり、この世界における神とはその姿形を模した像とか壁画で見て、祈ってたらたまーに願いを叶えてくれたり叶えてくれなかったりする気がするもの……。ではなく、マジで目に見えて触れて、捧げものをしまくって上手にご機嫌取りをしたらその力を行使し願いを叶えてくれるものらしい。つまりは対話や交渉の余地があり、迷信じみたものではないという事のようだ。

 
 神様は各地に何柱も居て、その力も様々だ。いわゆる土地を司る土地神に、水源を司る水神、幸せなどの概念を司る神、等々。大抵は限定的なものを司り力はその司っているものにしか及ばないものなのだそうだが、その中でも複数の概念を司っている神様がいて、そういうのは特に力が強い神様なのだそうな。今回俺が神子として御相手しなくちゃいけないのも、そんな強力な神様の1柱らしい。成程。ただでさえ人智を超えた力がある神様の中でも特に強力な奴の機嫌を損ねたら、怒り任せにその強大な力を行使されて世界崩壊の引き金になりかねないから、こんだけ焦ってる訳だ。そこだけは納得したぜ。
 
「なんだよ、この世界ではそんなお偉い神様のお相手をするなんて、とっても名誉な事だっていう考え方はないのか? そういうのって普通なら我先にやりたがるもんじゃねぇの?」
「いえ、確かに神様のお相手をできるなんてとても光栄な事ですし、なんなら普通は神様のお相手をする役目を取り合って国同士で争いが起こる程なんです。しかし、今回は……」
 
 何だよ、急に言い淀みやがって。なんでそんな気まずそうな顔をするんだ。……まさか、その神様、とんでもない事故物件なんじゃないだろうな。有り得る。だって神様だぜ? いかにも人智を超えたぶっ飛び方してそうじゃん。人間の事故物件なら浮気性とか酒乱とかだけど、神様の場合の事故物件って一周回ってとんでもないとち狂い方をひていて『内側まで曝け出して見せあえてこそ信頼関係が築けるものだよね!』なんて内側とか見ようとしてきそう。お腹パッカーン、内臓コンニチハ! みたいな。えー! そんなの死ぬじゃん! 絶対ぇー、嫌なんですが!?
 
「やぁーだぁー! なんか含みのある神の神子なんて、絶っっっ対に嫌っっっ!」
「そ、そこをなんとかお願いしますよ神子様!」
「嫌なもんは嫌ー!」
「お願い致します! 神子様に御相手していただかないといけないのは、夜や闇、死を司る邪神様なのです! ただでさえ気性が荒いお方なのに、神子様がおいで下さらなかったら怒り狂って何を為さるか……!」
「邪神ってなんだよー! その響きだけでもう物凄く嫌なんですけど! ハッ! おい、まさか邪神にありがちな触手とか持ってたりはしないよな!? ネットのエロ漫画広告で見た事あるぞそういうの!」
「触手は持っていらっしゃいませんが、何代か前にそのお姿の恐ろしさに捧げられる予定だった神子役の娘が自死を選んだ事が」
「馬鹿、それを言うな!」
「ウギャー! 逆に何で異世界からなら神子連れてきていいと思ったん!? そんなの異世界人に押し付けんなや!」
 
 もうこれ完全に人身御供やん! 捧げられるって言ってたし! いや最初から分かってたけども! けどここまであからさまで露骨なのだとは思わんかったんですが!? 異世界から連れてきた俺なら雑に扱っても反発するような後ろ盾も、人権無視しても怒るような知り合いも居ないからって好き勝手し過ぎやろ! こっちの世界の人権団体仕事しろし! 異世界人愛護団体とかねぇんか、オラ!?
 
「どうか世界を救うと思って、お役目を果たしてください、神子様!」
「役目なんてそっちが勝手に押し付けてるだけじゃん! 良い風に言ってるけど要は生贄じゃん! 俺が世界救う義理ないじゃーん!」
「ですが神子様がお役目として邪神様の所に行ってくださいませんと、邪神様の尊い血脈が途絶えてしまいます!」
「は!? 待て待て、そういえばお前達が俺にとか言って何をさせようとしてるか、まだ聞いてなかったなぁ? お役目とか言って、俺は何をさせられる予定なんだ?」
「そ、それは」
「ここまで来て隠し事はなしだ! 洗いざらい吐け!」
 
 俺は目の前の神官長の胸ぐらをガシリと掴み、激しく前後にガクガクと勢いよく揺さぶる。普通ならこんな年寄り相手にここまでしたら下手すると死にかねないし、それ以前に常識的な配慮として他人なんかにやらないのだが、今はそうも言ってられない。こちとら勝手に異世界召喚された挙句、よく分からん邪神の捧げ物にさせられかけているのだ。多少手荒な事をしても情状酌量で許されるだろう。そうして鬼気迫る勢いで俺に脅され、流石の神官長も観念せざるを得なかったらしい。目を回しながらとんでもない事を白状した。
 
「そ、その……。神子様には今代の邪神様に、お嫁入りをして頂きたく……」
「は? 今代? 嫁入り? 俺男なんだけど?」
「神子様の世界ではどうだか分かりませんが、この世界では神も人と同じく定命で、神の座は世襲制のものなのです。神の一族は代々天より賜った力を血と共に受け継いでいき、一族の長を『神様』として仰ぎます。また、神様はその神通力により様々な奇跡を起こす事が可能で、同性同士でも御子を成す事ができるのであります。今代の邪神様は男性で、一族は邪神様のお役目を為しているお方ただ1柱。神の一族は夫婦となっても伴侶が別の一族で司る力が違えば、力が反発しあって子供がほぼできません。神の力は血に寄るものなので混血では薄れませんし、神の一族は代々人間を伴侶に選んで繁栄してきました。なので、人間の伴侶を得て御子神を成す事は急務なのでございます」
 
 成程、なんか俺が思ってたよりもこの世界の神様とやらは、人間達にとって身近で地に足着いた存在だったようだ。神様にも結婚問題とか、後継問題とかあるんだな。世知辛ぇ。ていうか、邪神って言っても強力なら結構重要なものを司る神なんだろ? もっと血を残しとけよ! なんで神の一族が長である神様1柱だけなんだよ、絶滅寸前じゃねぇか! そしてそんな大事な神様の相手を異世界人の俺なんかにやらせるなや!
 
「いやいや、神様1人になる前に手を打てよ。あと絶対そんな重要な神様のお相手異世界人の俺じゃ駄目だろ。どこぞの姫とか王子とか差し出せや」
「それが、その……。大変申し上げにくいのですが、神の一族はどなた様も司る事象に影響されたお姿をされておりまして……邪神様もご多聞に漏れず……。そのせいで各国の姫はおろか、王子でさえ、この世界の人間は恐怖のあまり拝顔する事すら難しく……。お姿をお見かけしただけで失神したり、引き付けを起こす者も居るのであまり無理強いもできなくて……」
「は? なにそれ。じゃあ俺も絶対に駄目じゃん!」
「いえ、愛や調和を司る神様に占って頂き、邪神様の運命の御相手はこの世界ではなく異世界から調達するしかないと出ましたので! その結果を頼りに召喚させていただいたのが神子様、あなたでございます! ですから、相性が抜群なのは確約されております! きっと大丈夫です!」
「いや、何も安心できんのだけど!?」
 
 決して狭くはないであろうこの世界どこを探しても運命の相手が居ないって、それはもう別の世界でも絶対駄目でしょ! よしんば他所の世界に本当に邪神様の運命の相手が居るとして、それが俺だとどうして分かる!? 異世界がいくつあるのか知らないが、絶対この世界の中から探すだけよりも難しいって! 見ただけで引き付けを起こす相手に嫁入り!? それも男相手に!? 無理無理無理! 絶対に無理!
 
「嫌だ! 俺には絶対にできん! この世界の問題はこの世界で解決してくれ! 異世界人の俺を巻き込むな! 不良債権を他人に押し付けて問題解決になると思うなよ!? 俺は帰る!」
「神子様、そう仰らず!」
「いいから俺を元の世界に帰せ! なんと言われようとも俺は邪神なんかに嫁入りはしな」
「何事だ、先程から騒がしいぞ」
 
 その時、神官長に詰め寄る俺の背後、老人に対する俺の暴挙をどう止めたものかとオロオロする国家君主のその更に後ろから、朗々たる声が響いた。その声が聞こえた途端部屋の空気がピシリと固まり、その場に居合わせた人達の顔がサァッと青褪める。何事かと片眉をあげた俺の前で、人々は目にも止まらぬ速さで平伏し身分の貴賎も問わず1人残らず額づいた。
 
「猊下におかれましては本日もご機嫌麗しく」
「見え透いたご機嫌取りは止せ。私の顔も満足に見れない相手に言われても、不愉快なだけだ」
 
 ハッと鼻で笑う声と共にノシノシと大振りな動作で、しかし音も立てず静かに巨大な影が部屋に入ってくる。背丈は170cm代後半の俺でも見上げる程に高く、腕や足は驚く程に太い。いくら普段運動をしなくてひょろっとしている方だとはいえ、一応成人男性の俺の手足と比べても一回りは太いんじゃなかろうか。胸板は厚く筋肉ではち切れそうで、それだと言うのに腰周りは余分な肉が極限まで削ぎ落とされキュッと締まってる。なんとまあ立派な体躯だろう。

 しかし、今はそんな事はどうでもいい。目の前の服越しでも分かる程計算づくで作られた彫像のように美しい体よりも、もっと目を引く事があったからだ。その影が無造作に組んで傲慢そうな雰囲気に拍車をかけている腕。その指先から覗く鋭い爪。そして、全身を覆う黒い被毛。影の背後に見えていて、ユラユラと不機嫌そうに揺れる細長い尻尾。翠玉の虹彩に縁取られた瞳孔は細長く、そしてその頭上にはピンっと立った三角形の耳があって……。
 
「どうせまたコソコソ俺の事を不吉だなんだと言い合っていたのだろう。全く、面と向かってだとご機嫌取りしか言わない分尚更タチが悪い」
「そ、そのような事は」
「黙れ。そんなあからさまな嘘で俺を誤魔化せるとでも? ハッ、馬鹿馬鹿しい! お前達が俺を崇め奉っているのは世界滅亡を引き起こさない為であって、内心俺の事をたっとぶどころか汚らわしいと恐れている事くらい、手に取るように分かっているぞ」
「……」
 
 反論もできず気まずそうに黙り込むお偉方達。それを不機嫌も顕に見下す邪神。俺はそんな彼に釘付けだ。当然だろう。それは邪神が勝手に俺の婿殿にさせられているからじゃない。邪神なんて恐ろしげ名前で普通の人とは違う異形でも、俺は邪神がちっとも恐ろしくなかった。だって、そんなの当たり前だ。俺の目の前に現れたとやらは、全身モフモフで艶やかな黒い毛並みの美しい、靭やかな体躯の黒猫の獣人だったからだ。
 
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