邪神の嫁として勝手に異世界召喚されたけど、邪神がもろタイプだったので満更でもないです

我利我利亡者

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 ここのところお決まりになりつつあった、ちょっと甘えた態度でエイヴィスにちょっかいをかけた事から話は始まる。二人で仲良く夕食を摂った後、俺の方から風呂の用意まで少し時間がかかりそうだから夕涼みをしようとエイヴィスを誘ったのだ。特に反対する事もなくエイヴィスは大人しく俺に従い、二人で手に手を取って夕暮れ時の庭へと繰り出したのだ。

 庭での夕涼みは、最初の内はよかった。流石は名の知れた神である邪神の神殿に設えられた庭なだけあって、とても手入れが行き届いている。昼間の明るい光の中見事なトピアリーや美しい花々を見て楽しむのもいいが、夕方の薄暗闇の中に沈んだ庭園も、昼間とは違った趣があって美しい。手入れが行き届いているお陰で遊歩道には魔石による灯りまで焚いてあって、暗がりの中道に迷う事もない。吹き抜ける風が心地よい温度で肌を撫でる中、俺とエイヴィスはなんだかんだいい雰囲気で語らいながら夕方の庭を散策していた。手を繋いで、時折見つめ合ってはにかんで、超ロマンチックな感じ! その時はマジで超甘々ラブラブな空気だったんだよなぁ。そう、は、な。

 事態が急転したのは、不意にエイヴィスが立ち止まったかと思うと、スンッと鼻を鳴らしてから天を仰ぐ仕草をしてからだ。どうしたんだ? と思って俺はそんなエイヴィスの顔を見上げる。するとそれを待っていたかのようなタイミングで、ポツリ、と何か冷たい感触を鼻の頭に感じた。おやっ、と思って俺も空を見上げる。その頃には既にそれなりの時間庭を散策した後だったから、夕暮れからすっかり夜になっていて当然辺りは暗かった。足元を照らしてくれる魔石の明るさのせいか、天にある筈の星の光は見えなかったが、もう少し夜が深まって夜闇が増せば、その内見えてくるだろう。

 ……いや、違うわこれ。足元の光が眩しくて星明かりが見えないんじゃなくて、よく見たら空が曇ってて見えてないだけだわ。暗くて気が付かなかったけど、空は今にも降り出しそうな曇天だった。そう気がついた瞬間、お見事! 大正解! とでも言うかのように、ザァッと一気に雨が降り出す。やっべぇ、にわか雨だ! なんちゅうタイミングだよ! エイヴィスと一緒に慌てて建物の中に走り込んだが、遅かった。雨のかからない屋内に入った時にはもう、足元に水溜まりができるくらいに、俺達は全身濡れみずくだった。

「あっちゃー、思いっ切り降られたなー……」
「風呂に入る前でよかった。このままだと風邪をひきかねないし、もうそろそろ湯の準備も済んでいるだろうから、さっさと風呂場に向かうか」

 バケツをひっくり返したような土砂降りの雨に、窓を閉めたり濡れてはいけないものを避難させる為にか、神官達も慌ただしく動き回っている。その内の一人が差し出してくれたタオルを礼を言ってから受け取って、これ以上床を濡らしてしまわないようザックリと体を拭った。だが、身につけている衣服が隅から隅まで余さずグッショリと濡れているせいで、残念ながらあまり意味を成していない。体の水気を拭い切るより先に、体を拭いているタオルの方が水を吸い過ぎて使い物にならなくなってしまった。次のタオルを使おうにも、周囲に居る神官達は忙しそうでこちらの状況には気がついておらず、また声をかけて用事をいいつけるのも忍びない。うーん……、仕方がないか。

「毛皮がすっかり水を吸ってしまった。拭っている暇があったらさっさと風呂に入って体を温めた方が……ユズル!? 何してるんだ!?」
「は? 何って……見ての通り服脱いでんだけど」
「何故ここで服を脱いでいる!?」
「だって濡れたじゃん。冷えるじゃん。脱いだ方がいいじゃん」
「だからってこんな所でいきなり脱ぐ奴があるか、馬鹿者!」

 えー、でもさあ。よく言うじゃんか。『山で遭難した時に服が濡れたら、無理に着続けずにとっとと脱いで暖を取った方が体温を奪われずに済む』って。ここは山じゃねぇし遭難もしてねぇけど、状況的に見て判断は合ってるだろ? エイヴィスだってさっき、このままじゃ風邪をひくって言ってたじゃんか。風邪ひきたくないし、それに脱いでるのは上だけだし、これくらい、いいじゃんか。男の上裸なんて騒ぐ程のもんでもないだろうしさ。下まで脱ぎ出したら流石に見苦しいけど、上だけならまだギリちょんセーフじゃね? 少なくとも、個人的にはそう思うんだが……。

 しかし、どうやらエイヴィスの意見は違うらしい。エイヴィスは目にも止まらぬ速さで俺の目の前まで来たかと思うと、気がつくと俺は彼の大きな体で覆い被さるように抱き締められていた。いつもなら大歓迎だが、残念な事に今の俺は上裸。そしてエイヴィスの全身を包んでいる真っ黒艶々な毛皮は、現在雨を吸いに吸いまくってグッショグショな上に冷えている。素肌に直で水を吸って冷たくなった毛皮が触れたら……。まあ当然ビックリする。ヒャッ、てなる。生理現象で鳥肌も立つし、ついでに俺は変な声が出た。

「ヒャッ」
「っ、なんだ今の声は!? ユズルは俺をどうしたいんだ!?」
「どうしたいって……別になんも考えとらんけど。声だって、エイヴィスの体が冷たくてビックリしたから出ただけで……。そんな目くじら立てるような変な声出してたか?」
「おまっ、変な声……出てたか、だと……?」

 な、なんでそんな怖い表情になってんの? お顔が猫ちゃんだから人間の顔よりも分かり辛い筈なのに、それでもその形相から伝わるエイヴィスの憤怒。さっき俺が出したの、そんなまずい声だったの……? 別に漫画とかによくありがちな色っぽい声が思わず漏れちゃった♡とかでもないし、ただ男が驚いて出した変な声ってだけじゃね? 情けなくはあったけど、それだけじゃん? 試しに周囲をコソッと見回してみる。何人かの神官達が足を止めてこちらを気にしている様子だが、その理由は絶対に俺の声じゃなくてエイヴィスが大騒ぎしてるからだと思う。そもそもあんな小声、3歩も離れれば聞こえるかどうかすら怪しい。と、そこで俺の視線の先を辿ったエイヴィスが神官達から注目されているのに気がついた。すると。

「お前ら! 何こっちを見てるんだ! ユズルの素肌を一瞬でもその目に映してみろ、二度と光を拝めなくしてやるからな……!」
「コラッ! なんて事言うんだ! 横暴にも程があるだろ! 今すぐ撤回しなさい!」
「だが、ユズル! あいつらお前の肌を盗み見て……! フシャーッ!」
「何やっとんねん! 急に猫っぽいな!? 兎に角威嚇しない! それに関しては悪いのここで脱いだ俺だから! 神官達は完全にとばっちり! って、ああもう! エイヴィスがアホな事言うから皆脅えて逃げちゃったじゃんか!」
「ユズルを不躾にジロジロ見るような輩なんて、居なくなって当然だ!」
「ウガー! 話が通じねー!」

 凍えないように上裸になっただけの筈なのに、気がつけば物凄く大事になっていた。この状況からするにエイヴィスが俺の体を覆うように抱きついてきたのは、きっと裸になった俺の上半身を隠す為なのだろう。それは俺がみっともない体をしているからと言うよりか、独占欲とかから自分以外の他人に俺の体を見せたくなくて隠してるっぽい。一応そこら辺のこっちの世界で通じている常識的なものは一通り習ったけど、その時の記憶によれば別に男の上裸なんて俺のいた元の世界と同じだけの価値しかなくて、そこまで騒ぎ立てるようなもんでもないと思うんだが。エイヴィスはなんでこんな大袈裟に騒いでいるんだ?

「別に、俺の体なんて隠すだけの価値はないのに」
「なっ! ユズル! お前はなんっにも分かっちゃいない! なんっっっにもだ!!!」
「ちょ、うるさっ! そんな大声出してまで主張するような事か!? 実際問題、こんなペラッペラな俺の体なんかより、腹筋バキバキのエイヴィスの体の方が余っ程見応えあるじゃんよ? 絶対大騒ぎする必要なかったって。ほら、よく見てみ?」

 そう言ってエイヴィスに体を見てもらう為に距離を取ろうとするが、相変わらず俺の裸を守っているらしいエイヴィスは俺の体を全く離してくれない。やれやれ、エイヴィスが威嚇するもんだから皆逃げちまって周囲には人っ子一人居ないってのに、何やってるんだか。しかしエイヴィスの方が明らかに力が強いので、こうなると俺は力負けしてしまって何もできない。仕方なく苦肉の策で、自分の体に回されていたエイヴィスの手を取る。ギチギチに巻きついていたが、俺が優しく引っ張ると何とか動いてくれた。それを顕になった肌の上に乗せ、形を辿るようにして撫でさせた。目で見なくとも、触れる事である程度の情報は把握できるだろうと考えたのだ。

 エイヴィスの体温が上がったのか、それとも俺の体温が伝わったのか。さっきまであれだけ冷たくて触れるだけで驚いていた濡れた毛皮は、今は濡れているせいで多少気化熱を感じるだけでそこそこ温もっている。その湿った指先が肌の上を滑るのは、なんだか妙な感じだ。流石に今回は事前に予期していたし、なんならエイヴィスの手を操って動かしているのは俺自身だ。その為さっきみたいにへんてこりんで情けない声を出すのは我慢できたが、それでも濡れた毛皮が肌を刺激するのが擽ったくて、ついついフッと声とも呼べない吐息を吐いた。

「ほら、何の変哲もない、つまらないだけの男の体だろ? エイヴィスが気にかけるようなことなんて、ぇぇえええ!?!?!?」

 突然視界が大きく揺れ動いたもんだから、驚いて変な声が出る。気がつくと、俺は無言でどこかへ向かってダッシュを決めるエイヴィスに俵抱きにされていた。な、何故? 問いかけようにも先程悲鳴を上げた際に舌を噛みそうになったので、もう恐ろしくてどうにも口を開けそうにない。抱えられながら話すだけで舌噛みそうなくらい滅茶苦茶に、エイヴィスが物凄い勢いでひた走っているのだ。な、為す術ねぇ……。結局、俺はそのままエイヴィスに一切抵抗できず、ドナドナされていく他なかったのだった。
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