悪役令息の結婚相手として、断罪も兼ねて野獣侯爵と悪名高い俺が選ばれましたが、絶対幸せにします!

我利我利亡者

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 突然だが、俺は非モテだ。生まれてこの方モテたことがない。パッと見のスペックは我ながらあまり悪くないと思う。とある辺境伯の一人息子。両親はもう泉下の人なので嫁いできても義両親との確執とは無縁。一族郎党なんやかんやあって皆早死しているのでうるさい親戚は居ないし、変なしきたりだってない。どんな相手でも余程のことがない限り尊重するように心がけているので、逆に相手側の婚家と仲良くなれる自信ならある。
 領地は広大。運営は上手くいっており、平均から言ってもそれなりに高い収入がある。金のかかる趣味はしておらず、仕事はできる方。酒も煙草もやらない。貯蓄だってかなりあるぞ。向こう三世代過ぎた贅沢さえしなければそこそこ裕福に暮らせるくらいには。
 他人からはよく性格は一途で真面目と言われるし、俺本人としても伴侶を迎えたら自分にできる限り相手を尊び、その人だけを直向きに思い続ける所存だ。愛人を持つなんて不誠実なこと、とんでもない。俺はモテないのでそんな心配はないが、誘惑されたって靡くもんか。変な性癖は持ってないし、どちらかと言うと尽くしたい方なので、結婚相手を日々の生活に不自由させるつもりは更々なかった。
 しかし、これだけの条件が揃おうが、俺はモテない。結婚適齢期を過ぎた27の今になるまで、1度も縁談が来たことがないし、なんなら縁談を持って行って軒並み断られた。理由は分かってる。幾つかあるので、1つずつ説明していこう。
 まず第1に、俺は浅黒く骨太でガッシリした体付きをしている。背は高いし現場を知らねば何もできないという信条の元領地運営の一環で領民に交じって野良仕事をするので筋肉モリモリ且つ地黒に加えて日焼けが凄い。鍛錬も好きなので全身隆起した筋肉でパンパン。鍛え過ぎて服を仕立てるのに特殊なテクニックが必要になる程の体は、テーラー泣かせだ。上流階級にありがちでよく好まれる、色白で儚げな印象の触れれば折れてしまいそうな色素が薄く線の細い人間、と言う典型的美人の条件から外れる。体が丈夫なのは平民の間では好まれるだろうが、上流階級においてはむしろ『下民臭い』と嫌われこそすれ、好ましく思われることはなかった。
 第2に、俺の領地の位置取り。辺境伯なのはまあいい。お陰でそれなりに高い地位が約束されているから。領地が広いのも魅力的だ。管理は大変だが実入りは増えるし見栄も張れる。しかし、それが人間領の端、魔族領に隣接する場所に位置どっているのなら話は別だ。魔族領の隣ということはしょっちゅう魔物が出て領地が荒れるし瘴気のせいで土地が痩せていると昔から相場が決まっている。……と、少なくとも世間では思われていた。
 確かに昔は荒地だったかもしれないが、今は俺や俺の一族が防御魔法や魔物駆除に代々試行錯誤を重ねたお陰で我が領地は土地が貧しいなんて事ないのだが、イメージって結構大事だ。古くから続く先入観のせいで偏見の目で見られて、俺は未だに辺境伯の癖に貧乏人、立ち位置も低い、魔物をセコセコ駆除するくらいしか特技のない野蛮人、と見なされている。この国において、俺は結構な高額納税者なのに。現状世間における俺の認識は領地に湧いてくる魔物を力で捩じ伏せている蛮族扱いである。酷い。
 第3に俺の性格。乱暴者だったり、傍若無人で身勝手だったり、そういう難アリでは一応ない。ただ……。俺、結構な引っ込み思案なんだよね。気が弱くて押しも強くない。それと、親切心でなんでもホイホイ他人の言うことを聞いちゃう。よく言えば優しい人、明け透けに言えば都合のいい人間。仮に誰かと仲良くなれても、いつもいつもいい人止まりで関係が発展しない。
 先ずオドオドして黙りがちなせいで、恐ろしい見た目も相まって黙って睨みつける怖い人と勘違いされて話し相手すらできず、仮に誰かと話をする関係になっても相手を甘やかして増長させてしまい、いいように利用されるだけで使い捨てにされる。王都の学園に通ってきた時、何度それで人との関係が破綻したことか。お陰で殆どの生徒が伴侶探しも兼ねて入学する学園を、お1人様のまま卒業してしまった。片手には卒業証書をもう片方の手には恋人の手を握り、意気揚々と季節も頭の中も春爛漫のおめでたいまま、幸せそうに学園を卒業していく同級生達を、呆然と日陰の中から見たのは卒業式における俺の苦い記憶だ。
 と、まあ、俺がモテない理由は大まかにこんな感じ。他にも未だ細かいのは色々あるだろうけど、それも数え始めると正直キリがないから割愛する。言ってて悲しくなるしな。あー、もう、どうしよう。俺の代でヴィッドルド家が絶えたら、両親やご先祖様に申し訳が立たないよ。両親が生きている間に結婚して晴れ姿を見せてあげられなかっただけでも十分親不孝なのに。
 俺には兄弟親戚が居ないから、このまま結婚できずに俺が死んだら、正真正銘俺で家が絶えてしまう。俺亡き後こんな僻地で魔族領に隣接してるなんて領地、シッカリ管理してくれる人が出てくるとも思えないし……。そんな事になったら領民が飢える。俺がモテないばっかりに、彼等が窮地に陥るのはあまりにも申し訳ない。
 なにより1人寂しく死んでいくのは嫌だ。俺だって自分の家族が欲しい。早くに両親や親族を亡くした分、その気持ちが顕著だ。長い独り身で、独身の寂しさは十分骨身に染みている。だからこそ、一家団欒を十分に楽しんで、子育てを全力でやって、最後は子や孫やできたら曾孫に囲まれて死にたい。それなのに……。
 でも、周囲が学園を卒業して18かそこらで婚約、結婚していく中、俺は27歳になるまで結婚相手が居なかったんだ。今更どう頑張ったって結婚は愚か、恋人作りですら無理だろう。最近ではもう諦めの境地だ。せめて生きている間にできる限り仕事をして、自分の死後領民が困らないように采配をしよう。そう、思っていたのだが……。
「けっ、けっ、けっ、結婚!? 俺が!? 結婚!?」
 ブルブルと全身を震わせながら、俺は王都から届いた書状を見詰める。お相手はファルネア公爵家。現王妃殿下の生家でもある、この国でトップの家門だ。
 そもそも俺には手紙の遣り取りをする友人知人が居ない。よくて仕事の書類が届く程度。誰も俺とは関わり合いになりたがらないので、パーティーの招待も事業の勧誘もパトロンになってくれという頼みも何も届かないのである。そんな物悲しい現状の俺は滅多に来ない華やかな王都から来た自分宛の手紙に先ず驚き、次に天下のファルネア公爵家からの手紙ということに驚き、最後にその手紙の内容、自分に対する結婚の申し込みという事に驚いた。
 なんで? なんで俺に結婚の申し込み? 言っちゃ悪いが、俺だぜ? 貴族ではあるがそれだけ。あいつに流れているのは高貴な青い血じゃなくて邪悪な黒い血だ、女子供が嫌いで恐ろしい一睨みで泣かせてた、なんて事実無根の悪い噂の絶えないこの俺! 噂が噂を呼び、下手な魔物よりも恐ろしい最凶伝説の数々ができあがっているってのに!
 そんな俺と、結婚したいだと? 書状の内容に衝撃を受け過ぎて、ただでさえ鍛え過ぎて強い力のコントロールが全くできない。折角の書状を力任せに引き裂きそうだ。高級故に繊細な便箋を破かないように細心の注意をはらいながら、慎重に書状を読み進めていく。既に強く握り過ぎてシワクチャになっているが、そこは見ないふりだ。かなり驚いたのだから仕方がない。必要な犠牲と思おう。
 手紙によるとこうだ。『ファルネア公爵家は、ヴィッドルド侯爵家当主、アルフォンソ・サンソーレ・M・ヴィッドルドに、カノーラ公爵家の三男、ルカ・ナタナエレ・F・カノーラとの婚姻を申し込む』らしい。……ん? ちょっと待ってくれ。カノーラ? カノーラだって? ファルネア公爵家ではなく?
 いや、別にカノーラ公爵家に不満があるわけではない。俺なんかと結婚してくれるだけで大変有難い話だという事もあるし、ファルネア公爵家に負けず劣らず、カノーラ公爵家もかなりの名家だ。今でこそこの国は当代における王妃を輩出したファルネア公爵家の天下だが、過去にファルネア公爵家に負けず劣らず王妃や王配を何人も排出してきたカノーラ公爵家だって、それなりに力のある家なのである。
 だが、何故そのカノーラ公爵家の人間の縁組をファルネア公爵家が取り持つんだ? これはカノーラ公爵家と我がヴィッドルド侯爵家の問題だろう? 結婚前に箔をつけたりお互いの身分の差を埋める為に縁のある他家へ養子に行って、そこから婚家に嫁ぐという手段もあるにはあるが……。カノーラ公爵家くらいの名門なら、そんな必要もない筈だ。なのに、どうして? 少し疑問に思ったが、しかしそんな引っかかりもようやく自分だって人並みに結婚できるかもしれないという甘い誘惑の前には霞んでしまう。俺は多少の違和感を振り払い、また頭から終いまで何度も何度も丁寧に書状を読み返す。
 婚姻を申し込む……婚姻、婚姻だって! グフフフッ! 婚姻! 遂に俺にも結婚の申し込みが! ヤッター! とうとう長年の夢が叶ったぞ! 天国のお父さん、お母さん、お祖父さん、お祖母さん、先祖の皆さん! いよいよ俺にも春が来ましたよ! ここの所はもう殆ど結婚は諦めていたばっかりに、尚更嬉しい! 喜びのあまり、柄にもなく執務室で1人クルクルと舞い踊る。こんな事生まれて初めてしたぜ。
 ルカ・ナタナエレ・F・カノーラか……。どんな人だろう。ルカと言うからには男だろうな。同性だが、もう何世代も前に同性同士でも子供を作れる魔法が発明されているから、向こうが許してくれれば2人の間に子供だって望めるかも。なんてったって女が男を孕ませる事もできる強力な魔法だ。1人でも2人でも授かれるに違いない。まだ見ぬ伴侶と一緒に自分の子供が兄弟仲良く遊ぶさまを眺める幸せな光景想像して、またもや顔がだらしなく緩む。
 伴侶が男というのも都合がいいかもしれない。男なら女性より胆力が有るだろうから、俺にビビらないかも! それどころか、男同士だからこそ、むしろ色々と話が合うかもしれないぞ! ああ、夢にまで見た伴侶と我が子の居る薔薇色の生活! 今から幸せの予感で脳みそ蕩けそう! どうか未来の伴侶であるルカさんも、こっちと同じように俺との温かい家庭を望んでくれていると嬉しいな。
 できれば彼の性格からどんな家庭や夫婦生活をお望みか推察したかったが、それはできない。それは、残念ながら俺が社交界に疎いからだ。貴族の人柄を知るには、基本的に社交界に参加してそこで相手に関する噂話を収集する必要がある。俺だって学園に在籍していた頃は向こうからしたら嫌々だったろうけれどお義理で何度かパーティーに招かれた事があったにはあったが、卒業してからは年に1度王都である新年の挨拶パーティーくらいしか行っていない。
 誰もボッチで非モテで悪い噂の付き纏う俺の事なんて、招待してくれないからな! 唯一外界と触れられる機会である年に1度のパーティーですら、周囲の人々は俺の存在を嫌がって露骨に避ける。悲しい。なので俺の中の社交界における人間関係は学園を卒業した約10年前で止まってる。古過ぎて化石どころか塵にもならねぇ。それすらも誰かと仲良くお話するような関係性になれなかったせいで、あまり潤沢とは言い難いし。
 その古く乏しい知識の中には、ルカ・ナタナエレ・F・カノーラなんて人物はインプットされていなかった。相手がカノーラ公爵家の人間という事は、俺の耳が遠くて噂話が届かなかったって事はなさそうだ。トップの家柄のカノーラ公爵家は、社交界でも噂の的だったから。結婚の申し込みが来るからには、ルカさんは今現在学園を卒業若しくは卒業見込みの年齢なんだろうけど……。
 待てよ。若しかして、10年前は社交界に居なかった? おっとぉ、10年前は社交デビューしてないって事は、年下なのでは? 年下の! 伴侶! ヒャーッ! どうしよう、俺おじさんと思われないかな!? 一応体は鍛えてあるから自分ではそこまで歳食ってるとは思わないけど……。でもな。自己評価と周りの評価は得てして食い違うものだし……。2・3歳の差ならまだいいけれど、これが5・6歳離れてたら大変だぞ! 俺ってばただでさえ世間に疎くて流行りに乗れてないのに、ジェネレーションギャップも相まって、ますます話ができなくなるじゃないか!
 なんか不安になってきた。よし、今から鍛錬して若々しい体作り……はより一層ムサ苦しくなってまた『野獣侯爵』なんて呼ばれちまうから止めといて。ここはいつまでも若々しい執事長に、若作りの方法でも聞きに行くか。
 そうして俺は届いた手紙を大切にイソイソと懐に仕舞い、相談とついでにようやく自分にも来た遅い春の自慢をしようと、執事長を探しに執務室を出たのだった。
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