死に戻ったけど、やり直したい事は特にありません

我利我利亡者

文字の大きさ
62 / 85

62.満ちる殺意

しおりを挟む
「さあ、準備は整った! これでお前も満足だろう! 往生際悪くあれこれゴネて我儘ばかり言っていたが、いい加減そろそろ死ぬ気になったんじゃないか?」
「ええ、それは勿論。お陰様で心残りもなくなりましたし、これでスッキリとした気分で満足しながら死ねます」
「フンッ! 最後まで減らず口を叩きおって。お前のそういう可愛げのない所が、私は昔から大嫌いだったんだ。全く、麗しく心根も優しい女神のようなユディトとは大違いだな!」
「まぁ、俺程度のくだらない人間が、あの方に勝てる訳もありませんからねぇ……」
「そうだろう、そうだろう! 血生臭く遠慮というものを知らないお前と違って、ユディトは花のように愛らしい慎み深い完璧な令嬢だ。彼女はきっといい国母になるし、私もきっと、そんな彼女に相応しい立派な君主になる! 2人の間に産まれてくる子供は、まるで天使のような素晴らしい子供に違いない。もっとも、お前はその子を見る事は叶わないがな。もし次生まれ変わってくる事があったら、必ずユディトの素晴らしさを見習い、私たち家族の幸福と繁栄を拝める立場だといいな! まあ、お前のような下衆はきっと地獄行きだ。天に御座す慈悲深い女神様であっても、そう簡単には生まれ変わらせてくれはしないだろうがな! 二度目の人生など、お前ごとき下衆には贅沢過ぎる!」

 俺の適当な相槌と自分に有利な状況に気分が乗ったのだろうか。王太子は高笑いと共に上機嫌でそんな意地の悪い事を言ってくる。俺はそれに苦笑いを隠した空笑いで曖昧に応えるのみだ。慈悲深い女神様の思し召しかどうかは分からないが、王太子もまさか目の前に居る俺が、その二度目の人生とやらを今正に体験しているとは思うまい。生まれ直した訳ではなく人生の途中からのやり直しだったが、やはり王太子が言うように女神様が俺にやり直させてくれたのだろうか? 

 でも、何の為に? ……やっぱり分からない。人生をやり直し初めてからそこそこ時間が経ったが、未だにどうしてやり直しているのか、なぜやり直しているのかは全て謎のままだ。まあいい、大事なのはそこじゃない。重要なのはやり直す事ではなく、だ。

 原因が不明であろうとも人生をやり直すなんて奇跡、そう何度もあるとは思えない。きっとこれが最初で最後だ。ここで死にさえすれば、繰り返した苦しみもようやく終わる。……いや、それは少し違うか。

 確かに1度目の人生は苦しい事が多くて大変だったが、2度目の人生はなかなか平和でこれまでの人生の中で1番ノンビリ過ごせたと思う。他でもない、ヨシュアのお陰で。本当に彼にはどれだけ礼を言っても言い尽くせないな。きちんと恩返しができないままなのが唯一心残りだったが、どうか広い心で許して欲しい。俺はどうしても死にたいから、ここで変にヨシュアに例を言いたいと欲を出して、確実に死ねる未来を手放したくなかった。

 何より最後と思ってヨシュアの顔を見て、己の死に向ける覚悟が鈍るのが怖かった。そんな顔を見た程度で揺らぐ生半可な気持ちでいるつもりではないが、万が一という事がある。迷惑をかけ通しだった大切な相手に謝罪をして心残りをなくす筈が、反対に増やしてしまうなんて笑い話にもならない。大丈夫、優しい彼ならきっと、俺の不義理を許してくれる。大丈夫、大丈夫、大丈夫……。頭の中で唱えるように自分に言い聞かせ続けた。

 王太子に渡された諸々の書類に、惰性で次々と言われる通りにサインをしたり、短い宣誓の文章を書いたりしていく。さして時間もかからず、要求された書類は全てでき上がった。鉄格子の隙間からそれを差し出せば、王太子に乱暴な手つきで取り上げられる。

 王太子は確認の為1枚1枚にジックリ目を通し、全て見終わった所、満足のいくが得られたのだろう。目を通し終えた書類の束を傍に控えていた従者に対して乱雑に手渡し、同時に俺の入れられている牢獄の鍵を開けるよう居丈高に命じた。後になって言い訳に使う書類さえ整ってしまえば、もう無駄に俺を生かしておく理由もない。サッサと死刑にして処分してしまうつもりなのだろう。こちらとしても、その方が話が早くて助かる。

 ここまで来て多少の心残りはあっても、やり残しは1つもない。自分の人生には概ね満足していて、これ以上望む事は一切なかった。最後にヨシュアに一目でも会えないのは残念だが……でもそれだけだ。自分の願いを諦めるのは昔から慣れていて、その事で今更感傷に浸る程可愛らしい精神性も、俺は持ち合わせていなかった。

 王太子の連れていた衛兵に両隣を挟まれ警戒されながら、ここまで来て反抗する気は一切ないので、大人しく連れられるがままに暗い道筋をひたすら歩き続ける。やがて俺達は、俺が来た事も聞いた事もないような、どこか奥まった場所にあるらしいそれなりに広いが薄暗くジメッとした王城のどこかに古くからあったらしい石造りの部屋へと辿り着いた。

 その部屋にはすし詰め、と言うにはいささか足りないが、かと言ってスペースに余裕があるかと聞かれたら、否としか言えない程度の人数が詰め込まれている。その人々は先頭を切って入室した王太子の姿を見ると、我先にと頭を下げて恭順の意を示した。その態度に満足気な王太子の楽にしろ、という言葉に頭を上げた彼等のその顔。どことなく見覚えがある。

 俺は基本他人に対して全く興味を持っていないので、他人を個体別に認識し覚えるというのが兎に角苦手だ。興味を持てない対象を覚えるなんて器用な真似、少なくとも俺には不可能なのである。恐らくそういった能力がない訳ではないと思うのだが、そこに労力を割く気がなさ過ぎて情報を知覚しても脳みそが情報を確りと判別してくれないのである。

 そんな俺ですら顔に覚えのある相手。それは、いつも王太子という立場に阿っていて、ジェレマイアの意を汲み昔から俺にキツく当たってばかりだった、王太子の取り巻き共だった。どうやら彼等が、これからここで起こる全ての見届け人となるらしい。俺に対する敵意でこちらに向けられる彼等の瞳はギラつき、部屋の空気は憎しみではち切れそうだった。

 俺の全身にグサグサと、冷え切った視線が突き刺さる。部屋中から感じる悪意と殺意。その重苦しさだけで、息をするのも苦労する程である。魔物とも渡り合う事ができる程の実力を持ち、普段から死を恐れていない俺ですら、苦痛に感じる空気。この空間では、1人も残す事なく誰しもが、俺の死を強く強く望んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...