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ハラッパバッカのコのセカイ
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放送局へはトラックで向かった。一際高い電波塔のような建物を目指し、猪突猛進の勢いで車道を突き進んだ。運転手はシンバル、助手席にはスコアが座り、トロンは荷台に隠れ潜み、放送局への到着を今か今かと待ちわびた。やがてトラックが止まると、トロンは、すかさず荷台から飛び降り、たどり着いた放送局を見上げた。鋼鉄の鉄塔としか例えようがないほどに無骨な外観であった。まもなくシンバルとスコアもトラックから降りてくると、三人は寄り集まり、誰もが緊張した面持ちで向かい合った。
「これはチャンスだ!ここでヤツを仕留められれば万事解決、原初も手に入って一石二鳥ってわけだ!」シンバルは、戦いを控えて気合十分であり、やたら鼻息を荒くしていた。
しかし、彼は原初の力を甘く見ているようだった。あの力を片鱗でも体感していれば、口が裂けても言えないような台詞をシンバルは勇ましく吐いている。そこで、トロンは、彼に気を引き締めさせるために注意を促す事にした。
「原初を敵に回すのは、自ら命を放り出すのと同じだ。だが、俺は刺し違えてでも、あの男を倒す」
「これからオレらは戦場に行くんだ。ならば、死ぬ時は一緒だ」シンバルは力強く言い放った。
「ボクだって!やる時は、やるんだから!」スコアも自身を奮い立たせ、気合を注入した。
それから、三人は電波塔に突入し、放送室へ急いだ。がらんどうの内部には、三人の行く手を遮るものなど何もなく、いともたやすく放送室まで駆け上がる事ができた。こざっぱりとした放送室、あるのは数台のテレビカメラと二人の廻仔、演説をしていた青年とウェザーだけであり、あの野生的な男の姿は見当たらなかった。二人は、突然の訪問者の登場に驚く事もなく、それどころか待ちわびていたように見えるほどの余裕すら見せていた。
「やはり雁首を揃えて来ましたね…!」ウェザーは、殴りこんできた三人を見ると、にやりと微笑んだ。やはりと言うか、あいかわらず猿を肩に乗っけていた。
「ウェザー!!」トロンはウェザーを見るや否や、目くじらを立て、声を荒げた。
「結局は、こうなりますか。だからこそ、あなたには洞窟で大人しくしていてほしかったのですが。しかし、ここへ来た以上は、兄弟であろうと容赦はできませんね」そのウェザーの言葉からは、謝罪の気持ちなど一切感じられなかった。
「おいっ!!!オマエ!!!」今度はシンバルが声を荒げた。その対象は、すまし顔の青年である。「自然に従ってるんだろうが、このガゼットで好き勝手はさせないぞ!!今すぐこの街から手を引け!!そうすれば、命の保証はしてやる!!」
青年は、ふっと、ほくそ笑んだ。「いまだに己の立ち位置を理解していないのか…?ガゼットの住人も愚かだが、お前たちは、それ以上に愚かで救いようがない」
「オマエに救ってもらう必要などない!!とにかく、もうガゼットには関わるな!!」
「己が宿命に従わぬ愚かな廻仔よ。父である自然に盾突くとは、いい加減に身の程を知るがいい。だが、今ここで自らの行いを悔い改め、我らの同志となるのなら、父もまた、お前を許すだろう」
シンバルは、電光の槌を構え、戦闘の意思を示した。「ごちゃごちゃとやかましいぞ!!オレには最初から父親なんていないんだよ!!」
青年は、小さくため息をついた。それから、今度はトロンに向かって語りかけた。「ならば、お前はどうだ。まだ目覚めて間もない兄弟よ」
「アンタは誰だ」トロンは、ウェザーへの怒りを一旦静め、神妙にたずねた。
「名前が聞きたいのか。だが、そんなものは無意味だ。名前など自然の中では何の意味もなさないからな」青年は名乗らないかと思われたが、急に思い直したのか、呟くようにして「もし、それが不便だというのなら、オッド=アインとでも呼ぶがいい。ただの呼び名でしかない、無価値な言葉だがな」
「一つだけ答えろ。人々を自然に帰すとは、どういう事だ?」トロンは、さらに質問を重ねた。
「人間が生きるにふさわしい環境を与えてやる事だ。文明がある限り、人間の堕落が止まる事は決してない。同族でありながら、互いに憎しみ、いがみ合い、負の連鎖を恒久的に繋げようとする。そんな彼らの境遇を自然は憂い、己が一部に取り込む事によって救おうとしているのだ。それにより人間は孤独と自由と平和を得て、誰もが在るべき生を全うできるようになる。彼らは、自然の介入なくしては、平和を掴む事ができないのだ」
「自然こそがガゼットの平和を脅かしている元凶だ。自然さえなければ、人々は、もっと自由に生きる事ができるはずだ」
「本当にそう思うか?かつて人間は文明によって自然を虐げた。それどころか、同族たる人間の尊厳すらも蔑ろにしていたのだ。彼らは平和も自由も無に帰した虚しい世界の住人だったのだ。故に、自然は、あらゆる文明を破壊し、多くの人間を自然に帰した。しかし、この期に及んで、いまだ文明にすがりつく愚か者が残っているのもまた事実」
トロンは、オッド=アインの語る思想を理解できずにいた。かつての人間の有様も、その所業も、まるで想像できなかった。人間が自然を虐げていたなど考えた事すらなかった。しかし、この自分と同い年ほどの青年は、まるで人類の過去を知っているかのような口ぶりで語りかけてくる。彼が真に自然な自然の仔であり、また、自然の体現者であるからして、その口から出てくる言葉は、自然の意思に準ずるものなのだ。
「トロンと言ったな。これからは人間と袂を分かち、己が宿命に従え。そして、廻仔の在るべき姿に戻るのだ。以前、秘匿研究所を襲撃したように、これからも自然の意思を体現し続けよ」オッド=アインは、トロンに自然への服従を迫った。
「断る」トロンは即答した。「俺は俺の意思で動く。自然の意思など俺には何の関係もない」
「まさか逆らうつもりか?自然に。父に。お前に罪人の烙印を押した人間たちのために、なぜそこまで抗おうとする?」
「俺の招いた結果については何も言うまい。だが……」トロンは思い詰める素振りを見せたのち、吹っ切った表情で威勢よく「自然は信用できない!ましてや、仔を育まず、愛さず、それどころか平然と捨て去るような父のために誰が尽くすというんだ!」
「これだけは忘れるな。自然は我々廻仔を常に見守っているという事を」オッド=アインは懐から二つの球体を取り出すと、それぞれ両手に一つずつ乗せた。そのうちの一つ、右手に乗せられたのは紛れもなく原初の岩であった。「やはり廻仔といえども、父に背く愚か者には、相応の罰が必要だ。お前たちも、あの男と同じように思い知るがいい」
「あ。もしかしてあれが原初なの!?」スコアは、原初の放つ独特の威光に怖気づいたのか、シンバルの背後に隠れてしまった。「しかも、二つもあるし!!ってことは、あの人は自然を操れるって事だよね!?どうしよう!?」
「何が原初だ!!あんなボール、叩き割ってやる!!」シンバルは、槌ごと右腕をぶるんと回した。
原初の岩は、岩や鉱物を操るという。ならば、オッド=アインの左手に乗っているもう一つの原初、まるで水槽のような原初の効力は一体何なのだろうか。青く澄み渡る液体が入れられた球状の塩の結晶であり、その外見から推測するに、さしずめ水を操る原初と言った所か。
「無駄な抵抗はよせ。この原初の岩、そして“原初の海”の力は、お前たちの想像を絶する。父たる自然から仔たる廻仔への贈り物、その威力を思い知らせてやる」オッド=アインは、両手を天高く掲げた。
すると、二つの原初が一斉に光り輝いた。まるで宝石のごとき輝きを放ったかと思うと、信じられない事に、放送室の床が岩盤と化し、さらには海水が覆い、たちまち周囲一帯は浅瀬となった。
「なんだってんだ!!?まさか本当に自然を操る……いや、それ以上だ、これは!!!」シンバルは眼球が飛び出るほどに目を見開いた。
「これが原初の力、その一端なのですよ」ウェザーは、この状況に対し、まるで動じず、淡々と一人語りを始めた。「この世のすべては自然から生まれ出たもの。すなわち、万物は自然の範疇にあり、原初にかかれば、それらをかつての自然物に戻す事も不可能ではないのです!」
「うわぁ~~!!どうなってんの!?」スコアは、挙動不審気味に慌てふためいた。
一瞬にして浅瀬を作り出した事には、度肝を抜かれた。しかし、自然を操る力がこの程度で済むはずがない。オッド=アインは、まだ原初の力をわずかばかり解き放ったに過ぎないのだ。これから彼は未知なる攻撃を仕掛けてくるはず。ならば、その前に仕留めるしかない。トロンは剣を引き抜くと、オッド=アインに向かって駆けだした。
その矢先、「自然に服せよ、愚か者たちよ!!!」とオッド=アインが叫んだと同時に、浅瀬と化した地面が、まるで地割れのようにひび割れ、割断された。地鳴りのような轟音を伴い、巨大な裂け目が生まれると、トロン、シンバル、スコアの三人は、抵抗する間もなく、海水と共に飲み込まれていったのである。放送局内であるにもかかわらず、裂け目の底には果てしなく続く岩と海水の奈落が開かれており、まるで暗き深海に引きずり込まれていくようであった。三人は、受けた衝撃の大きさに声を発する事すらできず、夢を見ているかような事態に飛地感すら覚えた。これは幻覚なのか、それとも現実なのか。実に奇妙な事ではあるが、時間の流れが極めて遅く、目に見えるすべての動きが、まるでスローモーションで動いているかのように体感できた。裂け目の縁には、オッド=アインとウェザーが立ち、奈落に落ちつつある兄弟たちを見下ろしている。助ける気など毛頭ない、そんな言葉が彼らの表情から難なく読み取れる。一巻の終わりか。三人は観念しかけたが、その時、思いもよらぬ事が起きた。どこからか一頭の巨大な猪が三人のそばに出現すると、各々の服の裾を一遍に口でくわえ、そのまま奈落の底へと真っ逆さまに落ちていったのである。この丸々とした猪は、まさかシンバルの言っていた…。もはやトロンに猪の正体を考えるだけの余裕はなく、三人は猪もろとも奈落から忽然と消え去ったのであった。
「これはチャンスだ!ここでヤツを仕留められれば万事解決、原初も手に入って一石二鳥ってわけだ!」シンバルは、戦いを控えて気合十分であり、やたら鼻息を荒くしていた。
しかし、彼は原初の力を甘く見ているようだった。あの力を片鱗でも体感していれば、口が裂けても言えないような台詞をシンバルは勇ましく吐いている。そこで、トロンは、彼に気を引き締めさせるために注意を促す事にした。
「原初を敵に回すのは、自ら命を放り出すのと同じだ。だが、俺は刺し違えてでも、あの男を倒す」
「これからオレらは戦場に行くんだ。ならば、死ぬ時は一緒だ」シンバルは力強く言い放った。
「ボクだって!やる時は、やるんだから!」スコアも自身を奮い立たせ、気合を注入した。
それから、三人は電波塔に突入し、放送室へ急いだ。がらんどうの内部には、三人の行く手を遮るものなど何もなく、いともたやすく放送室まで駆け上がる事ができた。こざっぱりとした放送室、あるのは数台のテレビカメラと二人の廻仔、演説をしていた青年とウェザーだけであり、あの野生的な男の姿は見当たらなかった。二人は、突然の訪問者の登場に驚く事もなく、それどころか待ちわびていたように見えるほどの余裕すら見せていた。
「やはり雁首を揃えて来ましたね…!」ウェザーは、殴りこんできた三人を見ると、にやりと微笑んだ。やはりと言うか、あいかわらず猿を肩に乗っけていた。
「ウェザー!!」トロンはウェザーを見るや否や、目くじらを立て、声を荒げた。
「結局は、こうなりますか。だからこそ、あなたには洞窟で大人しくしていてほしかったのですが。しかし、ここへ来た以上は、兄弟であろうと容赦はできませんね」そのウェザーの言葉からは、謝罪の気持ちなど一切感じられなかった。
「おいっ!!!オマエ!!!」今度はシンバルが声を荒げた。その対象は、すまし顔の青年である。「自然に従ってるんだろうが、このガゼットで好き勝手はさせないぞ!!今すぐこの街から手を引け!!そうすれば、命の保証はしてやる!!」
青年は、ふっと、ほくそ笑んだ。「いまだに己の立ち位置を理解していないのか…?ガゼットの住人も愚かだが、お前たちは、それ以上に愚かで救いようがない」
「オマエに救ってもらう必要などない!!とにかく、もうガゼットには関わるな!!」
「己が宿命に従わぬ愚かな廻仔よ。父である自然に盾突くとは、いい加減に身の程を知るがいい。だが、今ここで自らの行いを悔い改め、我らの同志となるのなら、父もまた、お前を許すだろう」
シンバルは、電光の槌を構え、戦闘の意思を示した。「ごちゃごちゃとやかましいぞ!!オレには最初から父親なんていないんだよ!!」
青年は、小さくため息をついた。それから、今度はトロンに向かって語りかけた。「ならば、お前はどうだ。まだ目覚めて間もない兄弟よ」
「アンタは誰だ」トロンは、ウェザーへの怒りを一旦静め、神妙にたずねた。
「名前が聞きたいのか。だが、そんなものは無意味だ。名前など自然の中では何の意味もなさないからな」青年は名乗らないかと思われたが、急に思い直したのか、呟くようにして「もし、それが不便だというのなら、オッド=アインとでも呼ぶがいい。ただの呼び名でしかない、無価値な言葉だがな」
「一つだけ答えろ。人々を自然に帰すとは、どういう事だ?」トロンは、さらに質問を重ねた。
「人間が生きるにふさわしい環境を与えてやる事だ。文明がある限り、人間の堕落が止まる事は決してない。同族でありながら、互いに憎しみ、いがみ合い、負の連鎖を恒久的に繋げようとする。そんな彼らの境遇を自然は憂い、己が一部に取り込む事によって救おうとしているのだ。それにより人間は孤独と自由と平和を得て、誰もが在るべき生を全うできるようになる。彼らは、自然の介入なくしては、平和を掴む事ができないのだ」
「自然こそがガゼットの平和を脅かしている元凶だ。自然さえなければ、人々は、もっと自由に生きる事ができるはずだ」
「本当にそう思うか?かつて人間は文明によって自然を虐げた。それどころか、同族たる人間の尊厳すらも蔑ろにしていたのだ。彼らは平和も自由も無に帰した虚しい世界の住人だったのだ。故に、自然は、あらゆる文明を破壊し、多くの人間を自然に帰した。しかし、この期に及んで、いまだ文明にすがりつく愚か者が残っているのもまた事実」
トロンは、オッド=アインの語る思想を理解できずにいた。かつての人間の有様も、その所業も、まるで想像できなかった。人間が自然を虐げていたなど考えた事すらなかった。しかし、この自分と同い年ほどの青年は、まるで人類の過去を知っているかのような口ぶりで語りかけてくる。彼が真に自然な自然の仔であり、また、自然の体現者であるからして、その口から出てくる言葉は、自然の意思に準ずるものなのだ。
「トロンと言ったな。これからは人間と袂を分かち、己が宿命に従え。そして、廻仔の在るべき姿に戻るのだ。以前、秘匿研究所を襲撃したように、これからも自然の意思を体現し続けよ」オッド=アインは、トロンに自然への服従を迫った。
「断る」トロンは即答した。「俺は俺の意思で動く。自然の意思など俺には何の関係もない」
「まさか逆らうつもりか?自然に。父に。お前に罪人の烙印を押した人間たちのために、なぜそこまで抗おうとする?」
「俺の招いた結果については何も言うまい。だが……」トロンは思い詰める素振りを見せたのち、吹っ切った表情で威勢よく「自然は信用できない!ましてや、仔を育まず、愛さず、それどころか平然と捨て去るような父のために誰が尽くすというんだ!」
「これだけは忘れるな。自然は我々廻仔を常に見守っているという事を」オッド=アインは懐から二つの球体を取り出すと、それぞれ両手に一つずつ乗せた。そのうちの一つ、右手に乗せられたのは紛れもなく原初の岩であった。「やはり廻仔といえども、父に背く愚か者には、相応の罰が必要だ。お前たちも、あの男と同じように思い知るがいい」
「あ。もしかしてあれが原初なの!?」スコアは、原初の放つ独特の威光に怖気づいたのか、シンバルの背後に隠れてしまった。「しかも、二つもあるし!!ってことは、あの人は自然を操れるって事だよね!?どうしよう!?」
「何が原初だ!!あんなボール、叩き割ってやる!!」シンバルは、槌ごと右腕をぶるんと回した。
原初の岩は、岩や鉱物を操るという。ならば、オッド=アインの左手に乗っているもう一つの原初、まるで水槽のような原初の効力は一体何なのだろうか。青く澄み渡る液体が入れられた球状の塩の結晶であり、その外見から推測するに、さしずめ水を操る原初と言った所か。
「無駄な抵抗はよせ。この原初の岩、そして“原初の海”の力は、お前たちの想像を絶する。父たる自然から仔たる廻仔への贈り物、その威力を思い知らせてやる」オッド=アインは、両手を天高く掲げた。
すると、二つの原初が一斉に光り輝いた。まるで宝石のごとき輝きを放ったかと思うと、信じられない事に、放送室の床が岩盤と化し、さらには海水が覆い、たちまち周囲一帯は浅瀬となった。
「なんだってんだ!!?まさか本当に自然を操る……いや、それ以上だ、これは!!!」シンバルは眼球が飛び出るほどに目を見開いた。
「これが原初の力、その一端なのですよ」ウェザーは、この状況に対し、まるで動じず、淡々と一人語りを始めた。「この世のすべては自然から生まれ出たもの。すなわち、万物は自然の範疇にあり、原初にかかれば、それらをかつての自然物に戻す事も不可能ではないのです!」
「うわぁ~~!!どうなってんの!?」スコアは、挙動不審気味に慌てふためいた。
一瞬にして浅瀬を作り出した事には、度肝を抜かれた。しかし、自然を操る力がこの程度で済むはずがない。オッド=アインは、まだ原初の力をわずかばかり解き放ったに過ぎないのだ。これから彼は未知なる攻撃を仕掛けてくるはず。ならば、その前に仕留めるしかない。トロンは剣を引き抜くと、オッド=アインに向かって駆けだした。
その矢先、「自然に服せよ、愚か者たちよ!!!」とオッド=アインが叫んだと同時に、浅瀬と化した地面が、まるで地割れのようにひび割れ、割断された。地鳴りのような轟音を伴い、巨大な裂け目が生まれると、トロン、シンバル、スコアの三人は、抵抗する間もなく、海水と共に飲み込まれていったのである。放送局内であるにもかかわらず、裂け目の底には果てしなく続く岩と海水の奈落が開かれており、まるで暗き深海に引きずり込まれていくようであった。三人は、受けた衝撃の大きさに声を発する事すらできず、夢を見ているかような事態に飛地感すら覚えた。これは幻覚なのか、それとも現実なのか。実に奇妙な事ではあるが、時間の流れが極めて遅く、目に見えるすべての動きが、まるでスローモーションで動いているかのように体感できた。裂け目の縁には、オッド=アインとウェザーが立ち、奈落に落ちつつある兄弟たちを見下ろしている。助ける気など毛頭ない、そんな言葉が彼らの表情から難なく読み取れる。一巻の終わりか。三人は観念しかけたが、その時、思いもよらぬ事が起きた。どこからか一頭の巨大な猪が三人のそばに出現すると、各々の服の裾を一遍に口でくわえ、そのまま奈落の底へと真っ逆さまに落ちていったのである。この丸々とした猪は、まさかシンバルの言っていた…。もはやトロンに猪の正体を考えるだけの余裕はなく、三人は猪もろとも奈落から忽然と消え去ったのであった。
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