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ハラッパバッカのコのセカイ
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オッド=アインの元へと向かう最中、ガゼットの現状についてシフォンから教えられた。今日はオッド=アインの宣言から三日目であるが、依然として住人はガゼットに立てこもっているらしい。それはアースガルが抵抗を続けているおかげだが、それでも相当数の住人は踏ム獣族に連れ去られ、自然へと帰ってしまったらしい。それでも、アースガルを含む住人たちは、オッド=アインへの不服従を貫いているが、このままでは原初によるガゼット崩壊に巻き込まれ、彼らは確実に命を落とすだろう。一刻も早くオッド=アインを止めねば。倒せずとも、せめて原初を取り上げる事ができれば、ガゼットを救う事はできる。しかし、そのための作戦もなく、正面から堂々と戦いを挑むしか術はない。幸い、こちらは四人の廻仔がおり、数で押し切れるのなら勝機もあったが、オッド=アインにはウェザー、そしてスコアを味方としており、原初も含めて考えると、やはりこちらの圧倒的不利は否めない。それでも暴虎馮河の気概を発揮し、必ずや勝利をもぎ取ってみせよう、と皆は意気込んだ。
やがて四人はオッド=アインの姿を見つけた。そこはシフォンと初めて出会った森の泉であった。泉のほとりには、オッド=アインに物申すスコアと、そんな二人を傍観するウェザー(と、その肩に乗った飼い猿)が立っていた。
「ねぇ、まだガゼットには住人がたくさんいるんだよ!?」スコアは声を大にしてオッド=アインに詰め寄っていた。
「既に警告はしてある。それでもガゼットに残るというなら、彼らの選択として受け入れるまでだ」オッド=アインは、そっけなく返答した。ほどなくして来訪者の存在に気付くと、「あの程度の罰では足りなかったか、兄弟よ」と四人に目を向けた。
ラブ=ラドールはオッド=アインを見るや否や、野放しとなった狂犬のように激しくいきり立ち、飛びかかろうとしたが、すかさずシンバルに羽交い絞めにされた。
「まったく、血の気の多いヤロウだな!」シンバルはラブ=ラドールを力づくでなだめつつも、オッド=アインに向かって「おい、わざわざ来てやったんだ、せめて話し合いくらいはしようぜ!!」
「もはやお前に情はない、と言ったはずだ」オッド=アインは両手に原初を持ち、話し合いを拒む姿勢を見せた。それからシフォンに「シフォン、お前もだ。双子の兄との再会に舞い上がり、血迷ったか?」
「いえ、あなたも知っての通り、わたしは常々あなたのやり方に疑問を抱いていました…!」シフォンは勇気を持ってオッド=アインに歯向かった。「人間を自然に帰すのに、どうして誰もが血を流さなければならないのですか?人間も自然も、そればかりか廻仔まで…。わたしたちは、兄弟であり家族のはずです!それなのに、なぜ!?」
「人間が自然を拒絶したからだ。自然は人間を平和へと導こうとしているのに、それをあざ笑うかのように人間が争いの火種をまいているのだ。だが、彼らの抵抗など些細な悪あがきに過ぎない。最大の問題は、愚かな人間に触発され、己が宿命すらも忘れた哀れな廻仔、つまりお前たちが存在している事だ!!」
「もうこんな事、やめませんか?あなただって、わたしの大事な家族なんです!だから、誰とも争ってほしくない……傷ついてほしくないんです!人間を自然に帰すのなら、他に方法なんていくらでもあるはずです!」
「自然の意思を成し遂げるのに、忖度など不要だ。すべては自然のため、この星のため、そして、人間のためでもある。少しの痛みなど、いちいち気にしていては何も救う事はできない」
そこでシフォンは言葉を呑んでしまった。すると、シンバルはラブ=ラドールを取り押さえつつも、ウェザーとスコアに向けて訴えた。
「オマエらは、どうなんだ!?オマエらもオッド=アインと同じ考えなのかよ!?人々の意思を無視して、強引に自然に帰すのが正しいって思うのかよ!?メガネヤロウはともかく、スコア!!オマエは、どう思ってるんだ!?」
スコアは、やはり後ろめたいのか、口を開く事はなく、うつむいたままシンバルの問いから逃げるだけであった。
「私は、なんだって構いませんよ。ガゼットの住人が自然に帰ってさえくれればね」ウェザーは冷淡に言い放った。
「だったら、スコアはどうなんだ!?本気でオレたちを、ガゼットを裏切ったのか!?」シンバルはウェザーに見切りをつけ、今度はスコアにだけ訴えかけた。「確かにオマエは最初からオッド=アインの仲間だったんだろう!だが、オレには、オマエが自然の意思なんかに従っているとは思えない!!オマエは、ここ一年間、アースガルの一員として、自然と戦い続けてきたし、そのおかげで多くの人が救われたんだ!オマエは宿命なんかに流されるような人間じゃないんだよ!!それとも、今までオレと過ごしたすべては、演技だったってわけかよ!?」
それでも押し黙るスコアにオッド=アインが、こう言った。「お前は一年前と何も変わっていないはずだ。ガゼットへの潜入を進んで申し出たあの時から。兄妹よ、お前は奇特な廻仔だった。なぜなら、俺と出会う以前から既に己が宿命に目覚めていたのだからな。さらに、出会って間もなく、お前は父への献身を示しさえした。俺だけでなく、父なる自然もまた、感心させられたに違いない。それからまもなく、お前は、ガゼットを自然に帰すための先兵となり、一年の間、身を挺して働いてくれた。その功績は、お前が、己が宿命に従い続けたからこそ成し遂げる事ができたのだ」
「適当な事、言ってんじゃねぇ!!!」シンバルはオッド=アインに対して声を荒げた。すると、ラブ=ラドールが大声に驚いたのか急に大人しくなったので、羽交い絞めから解放してやると、槌を手にし、オッド=アインに数歩進み出たのち、強い語勢で言った。「さっきの話からするに、オマエよりオレの方がスコアとの付き合いは、ずっと長いってわけだ!!オレの方がスコアの事をよく知ってんだ、オマエは黙ってろ!!」
「シンバル…。ボク…」スコアは、やっとこさ重い口を開き、わずかばかりの言葉を発した。
「スコア。オマエがオッド=アインとグルだろうが、何だろうが、そんな事は別にどうでもいい。ただ、ガゼットを守りたいという気持ちが少しでもあるのなら、今、人々を守るために動いてくれ!!」
そのシンバルからの呼びかけに、スコアは思い煩ったように頭を抱えた。
「やはり救いようがないな、お前は…!」オッド=アインは、シンバルの言葉に嫌悪を表し、大層機嫌を損ねた。「これが最後通牒だ。廻仔の宿命に従い、我々の同志となれ。さもなくば、死だ。これまでは改心の余地ありとみなして手加減をしていたが、今度という今度は確実に消えてもらう」
「何が手加減だ!!強がってんじゃねぇよ!!」シンバルは真っ向から反発した。
「もうあなたにはついていけません、オッド=アイン!!わたしは、兄弟を、家族を守るために戦います!!」シフォンは、オッド=アインとの決別を宣言した。
「お前たち二人は愚者の極みへと成り下がったか…!」オッド=アインはシンバルとシフォンに対し、完全に愛想を尽かした。それから、ラブ=ラドールとトロンに「犠牲はできるだけ少ない方がいい。お前たちまでもが愚者の後追いをする事はないのだぞ」
ラブ=ラドールは、鋭い牙を剥き、低くうなり声を上げ、オッド=アインに敵意を剥き出しにすると、稀な事に、まともな言語を口にした。「戦いにおいて……果たされるべき…は…愛のために…紅き血を…流す事…だ…」
「まだそんなくだらない思想に取りつかれているのか。いい加減、無知から目覚めろ」オッド=アインは、はぁと小さくため息をついた。再三拒絶された挙句、残されたのはトロンのみであった。「無知と言えば、お前もだ、トロン・F・レイン。お前は廻仔に目覚めてまだ間もないが故に、いまだ自然の意思を理解しきれてはいない。愚かにも、お前は自然を悪だと勘違いしているようだが、それは現実を直視できていない何よりの証拠だ。悪い事は言わん、今すぐにでも己が宿命に従え」
トロンの答えは既に決まりきっていた。「俺は誰にも何にも従わない」
オッド=アインは、おもむろに両手の原初を高々と掲げた。「残念だ、兄弟たちよ。俺は、この命が燃え尽きるその時まで、今日という日を延々と憎み続けるだろう。だが、兄弟たちの十字架を背負ってもなお俺は自然の意思を果たさなければならない!!」
海と岩の原初が光り輝いた。トロンらは各々の武器を身構えたが、自然を操るその力に抗う術を依然として持たぬままであった。このままでは、三度までも同じ轍を踏む事になる。原初には原初。あの無双の力は、やはり同じ力をもってしなければ打ち破る事はできない。原初の放つ眩い輝きは、さらに増していき、その力に四人が晒されようとしていたその時である。
トロンの手にする歴戦の剣が、所有者の意思に反し、ひとりでに動き始めた。剣は、トロンの全身を傀儡のように動かし、居合のような構えをとらせると、そこから一気に自らを振り抜かせた。すると、驚くべき事ではあるが、周囲一帯を包んでいた原初の光に、黒き一閃が走ると、たちまち光が暗黒に覆われ、原初から一切の輝きが失われたのである。原初の放つ光を斬った、その光景には誰もが目を疑った。トロンでさえ、自らの所作を理解できず、それどころか意識すらしておらず、ただ剣に突き動かされるようにして動いた、その程度の認識しかなかった。オッド=アインは、高々と掲げた両腕を下すと、二つの原初を交互に凝視した。まもなく、「力が……それどころか、意思すら感じない…!!」と呟いたのち、トロンに向かい、動揺を感じさせる声でこうたずねた。「何をした!?その剣はなんだ!?」
トロンには何も答えられそうになかった。彼でさえ何一つ理解しておらず、そもそも質問そのものが聞こえておらず、自ら手にする得物を無我夢中で見つめるのみであった。
「あれは歴戦の剣ですよ、オッド=アイン」ウェザーは、自らの博識ぶりをひけらかした。「所有者の技術を記憶する、知識と経験を宿した剣です。さっきのは、剣に記憶されていた何らかの技に違いないでしょう。私も詳しくはわかりませんが、恐らくは……原初の力を相殺するための技かと…」
オッド=アインは歯ぎしりすると、二つの原初を懐にしまい込んだ。その隙をシンバルは見逃さず、突然、槌を片手に走り出した。これは、またとない好機。理由は知らぬが、原初の力は失われ、オッド=アインは一介の廻仔と化した。無謀かと思われていたガゼット崩壊阻止の目標が、今、現実味を帯びてきた。シンバルに続くようにしてラブ=ラドールも駆け出したが、シフォン(と、彼女の猪)は、あくまでトロンのそばに寄り添うようにして立っていた。トロンが無我から覚めやらぬままに、廻仔同士の闘争の火蓋が切って落とされた。
「…お前たちに自然は微笑まない!!」オッド=アインが叫ぶと、その両脇を二匹の狼がかすめていき、シンバルとラブ=ラドールに飛びかかった。隙ができると、苔生す槍を手に、自らも闘いに身を投じた。
やがて四人はオッド=アインの姿を見つけた。そこはシフォンと初めて出会った森の泉であった。泉のほとりには、オッド=アインに物申すスコアと、そんな二人を傍観するウェザー(と、その肩に乗った飼い猿)が立っていた。
「ねぇ、まだガゼットには住人がたくさんいるんだよ!?」スコアは声を大にしてオッド=アインに詰め寄っていた。
「既に警告はしてある。それでもガゼットに残るというなら、彼らの選択として受け入れるまでだ」オッド=アインは、そっけなく返答した。ほどなくして来訪者の存在に気付くと、「あの程度の罰では足りなかったか、兄弟よ」と四人に目を向けた。
ラブ=ラドールはオッド=アインを見るや否や、野放しとなった狂犬のように激しくいきり立ち、飛びかかろうとしたが、すかさずシンバルに羽交い絞めにされた。
「まったく、血の気の多いヤロウだな!」シンバルはラブ=ラドールを力づくでなだめつつも、オッド=アインに向かって「おい、わざわざ来てやったんだ、せめて話し合いくらいはしようぜ!!」
「もはやお前に情はない、と言ったはずだ」オッド=アインは両手に原初を持ち、話し合いを拒む姿勢を見せた。それからシフォンに「シフォン、お前もだ。双子の兄との再会に舞い上がり、血迷ったか?」
「いえ、あなたも知っての通り、わたしは常々あなたのやり方に疑問を抱いていました…!」シフォンは勇気を持ってオッド=アインに歯向かった。「人間を自然に帰すのに、どうして誰もが血を流さなければならないのですか?人間も自然も、そればかりか廻仔まで…。わたしたちは、兄弟であり家族のはずです!それなのに、なぜ!?」
「人間が自然を拒絶したからだ。自然は人間を平和へと導こうとしているのに、それをあざ笑うかのように人間が争いの火種をまいているのだ。だが、彼らの抵抗など些細な悪あがきに過ぎない。最大の問題は、愚かな人間に触発され、己が宿命すらも忘れた哀れな廻仔、つまりお前たちが存在している事だ!!」
「もうこんな事、やめませんか?あなただって、わたしの大事な家族なんです!だから、誰とも争ってほしくない……傷ついてほしくないんです!人間を自然に帰すのなら、他に方法なんていくらでもあるはずです!」
「自然の意思を成し遂げるのに、忖度など不要だ。すべては自然のため、この星のため、そして、人間のためでもある。少しの痛みなど、いちいち気にしていては何も救う事はできない」
そこでシフォンは言葉を呑んでしまった。すると、シンバルはラブ=ラドールを取り押さえつつも、ウェザーとスコアに向けて訴えた。
「オマエらは、どうなんだ!?オマエらもオッド=アインと同じ考えなのかよ!?人々の意思を無視して、強引に自然に帰すのが正しいって思うのかよ!?メガネヤロウはともかく、スコア!!オマエは、どう思ってるんだ!?」
スコアは、やはり後ろめたいのか、口を開く事はなく、うつむいたままシンバルの問いから逃げるだけであった。
「私は、なんだって構いませんよ。ガゼットの住人が自然に帰ってさえくれればね」ウェザーは冷淡に言い放った。
「だったら、スコアはどうなんだ!?本気でオレたちを、ガゼットを裏切ったのか!?」シンバルはウェザーに見切りをつけ、今度はスコアにだけ訴えかけた。「確かにオマエは最初からオッド=アインの仲間だったんだろう!だが、オレには、オマエが自然の意思なんかに従っているとは思えない!!オマエは、ここ一年間、アースガルの一員として、自然と戦い続けてきたし、そのおかげで多くの人が救われたんだ!オマエは宿命なんかに流されるような人間じゃないんだよ!!それとも、今までオレと過ごしたすべては、演技だったってわけかよ!?」
それでも押し黙るスコアにオッド=アインが、こう言った。「お前は一年前と何も変わっていないはずだ。ガゼットへの潜入を進んで申し出たあの時から。兄妹よ、お前は奇特な廻仔だった。なぜなら、俺と出会う以前から既に己が宿命に目覚めていたのだからな。さらに、出会って間もなく、お前は父への献身を示しさえした。俺だけでなく、父なる自然もまた、感心させられたに違いない。それからまもなく、お前は、ガゼットを自然に帰すための先兵となり、一年の間、身を挺して働いてくれた。その功績は、お前が、己が宿命に従い続けたからこそ成し遂げる事ができたのだ」
「適当な事、言ってんじゃねぇ!!!」シンバルはオッド=アインに対して声を荒げた。すると、ラブ=ラドールが大声に驚いたのか急に大人しくなったので、羽交い絞めから解放してやると、槌を手にし、オッド=アインに数歩進み出たのち、強い語勢で言った。「さっきの話からするに、オマエよりオレの方がスコアとの付き合いは、ずっと長いってわけだ!!オレの方がスコアの事をよく知ってんだ、オマエは黙ってろ!!」
「シンバル…。ボク…」スコアは、やっとこさ重い口を開き、わずかばかりの言葉を発した。
「スコア。オマエがオッド=アインとグルだろうが、何だろうが、そんな事は別にどうでもいい。ただ、ガゼットを守りたいという気持ちが少しでもあるのなら、今、人々を守るために動いてくれ!!」
そのシンバルからの呼びかけに、スコアは思い煩ったように頭を抱えた。
「やはり救いようがないな、お前は…!」オッド=アインは、シンバルの言葉に嫌悪を表し、大層機嫌を損ねた。「これが最後通牒だ。廻仔の宿命に従い、我々の同志となれ。さもなくば、死だ。これまでは改心の余地ありとみなして手加減をしていたが、今度という今度は確実に消えてもらう」
「何が手加減だ!!強がってんじゃねぇよ!!」シンバルは真っ向から反発した。
「もうあなたにはついていけません、オッド=アイン!!わたしは、兄弟を、家族を守るために戦います!!」シフォンは、オッド=アインとの決別を宣言した。
「お前たち二人は愚者の極みへと成り下がったか…!」オッド=アインはシンバルとシフォンに対し、完全に愛想を尽かした。それから、ラブ=ラドールとトロンに「犠牲はできるだけ少ない方がいい。お前たちまでもが愚者の後追いをする事はないのだぞ」
ラブ=ラドールは、鋭い牙を剥き、低くうなり声を上げ、オッド=アインに敵意を剥き出しにすると、稀な事に、まともな言語を口にした。「戦いにおいて……果たされるべき…は…愛のために…紅き血を…流す事…だ…」
「まだそんなくだらない思想に取りつかれているのか。いい加減、無知から目覚めろ」オッド=アインは、はぁと小さくため息をついた。再三拒絶された挙句、残されたのはトロンのみであった。「無知と言えば、お前もだ、トロン・F・レイン。お前は廻仔に目覚めてまだ間もないが故に、いまだ自然の意思を理解しきれてはいない。愚かにも、お前は自然を悪だと勘違いしているようだが、それは現実を直視できていない何よりの証拠だ。悪い事は言わん、今すぐにでも己が宿命に従え」
トロンの答えは既に決まりきっていた。「俺は誰にも何にも従わない」
オッド=アインは、おもむろに両手の原初を高々と掲げた。「残念だ、兄弟たちよ。俺は、この命が燃え尽きるその時まで、今日という日を延々と憎み続けるだろう。だが、兄弟たちの十字架を背負ってもなお俺は自然の意思を果たさなければならない!!」
海と岩の原初が光り輝いた。トロンらは各々の武器を身構えたが、自然を操るその力に抗う術を依然として持たぬままであった。このままでは、三度までも同じ轍を踏む事になる。原初には原初。あの無双の力は、やはり同じ力をもってしなければ打ち破る事はできない。原初の放つ眩い輝きは、さらに増していき、その力に四人が晒されようとしていたその時である。
トロンの手にする歴戦の剣が、所有者の意思に反し、ひとりでに動き始めた。剣は、トロンの全身を傀儡のように動かし、居合のような構えをとらせると、そこから一気に自らを振り抜かせた。すると、驚くべき事ではあるが、周囲一帯を包んでいた原初の光に、黒き一閃が走ると、たちまち光が暗黒に覆われ、原初から一切の輝きが失われたのである。原初の放つ光を斬った、その光景には誰もが目を疑った。トロンでさえ、自らの所作を理解できず、それどころか意識すらしておらず、ただ剣に突き動かされるようにして動いた、その程度の認識しかなかった。オッド=アインは、高々と掲げた両腕を下すと、二つの原初を交互に凝視した。まもなく、「力が……それどころか、意思すら感じない…!!」と呟いたのち、トロンに向かい、動揺を感じさせる声でこうたずねた。「何をした!?その剣はなんだ!?」
トロンには何も答えられそうになかった。彼でさえ何一つ理解しておらず、そもそも質問そのものが聞こえておらず、自ら手にする得物を無我夢中で見つめるのみであった。
「あれは歴戦の剣ですよ、オッド=アイン」ウェザーは、自らの博識ぶりをひけらかした。「所有者の技術を記憶する、知識と経験を宿した剣です。さっきのは、剣に記憶されていた何らかの技に違いないでしょう。私も詳しくはわかりませんが、恐らくは……原初の力を相殺するための技かと…」
オッド=アインは歯ぎしりすると、二つの原初を懐にしまい込んだ。その隙をシンバルは見逃さず、突然、槌を片手に走り出した。これは、またとない好機。理由は知らぬが、原初の力は失われ、オッド=アインは一介の廻仔と化した。無謀かと思われていたガゼット崩壊阻止の目標が、今、現実味を帯びてきた。シンバルに続くようにしてラブ=ラドールも駆け出したが、シフォン(と、彼女の猪)は、あくまでトロンのそばに寄り添うようにして立っていた。トロンが無我から覚めやらぬままに、廻仔同士の闘争の火蓋が切って落とされた。
「…お前たちに自然は微笑まない!!」オッド=アインが叫ぶと、その両脇を二匹の狼がかすめていき、シンバルとラブ=ラドールに飛びかかった。隙ができると、苔生す槍を手に、自らも闘いに身を投じた。
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