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信条に架ける風
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ミハルは、ウェザーをあっさりと許し、地上へと帰した。余程眼識が秀でているのだろうか、ウェザーの嘘を即座に見破ってしまったのだ。鼻持ちならない男ではあるが、その権威にふさわしいだけの能力を抜かりなく備えているのだろう。天仔の頂点に立ち、ウェザーを独裁し、さらにはシフォンを震駭させるほどの存在を、トロンは侮る事なく、鋭い目つきでしかと見据えた。この男の手からは逃れらない、そう確信していたからである。
「さて、そろそろ本題に入るとしようか」ミハルは、玉座に戻ると、深く腰掛け、それから双子に目をやった。「なぜ蒔ク種族王がお前たちに頼み事をしたか、その答えを悟っている者は遠慮なく述べてみよ」
トロンは、自然の考えを理解できるとは毛頭思っておらず、ぬらりくらりと黙しているばかりだった。一方、シフォンは、小声ながらもこう発言した。
「救世主の意志を為す事は、天仔に背負わされた義務だからです…」
「そう、お前たちが天仔だからだ。天仔とは、救世主の意志を代行する存在でなければならない。そのために必要な権威は、救世主から既に授けられており、宿命に殉ずるその時までは保持されている事を忘れてはならないのだぞ」
「まさか…!まだ権威は生きているのですか…?」
「無論」そこでミハルはトロンに向けて「お前の与り知らぬ所で権威は授けられているのだ。お前の名には、Fの文字があるだろう。それこそが生まれ持った権威の象徴。すべての天仔には、権威の象徴たる文字が命名されている事を知れ」
「名付け親は母ではないのか…」トロンは、複雑な心境に至った。
「むしろ、その方が嬉しかろう。お前たち双子の母が、信条に背く事を厭わない性格だった事は、この私も知る所だ。それに、娘を捨ててまでヘイヴンから逃げ出した者に、母の資格などないだろうに」
「それはアンタが決める事じゃない」
「資格とは、より権威のある者によって有無を決定付けられるものだ。そして、お前たち双子には、生まれながらに救世主の手足となる資格がある。よって、今再び、お前たちに救世主からの使命を授けよう。言っておくが、天仔である以上、使命から逃れる事はできない。いくら必死になって信条に抗おうとも、贖い鐘がある限りは、甲斐ない事だ」
双子は異議を唱えなかった。ミハルから逃れるには、贖い鐘を無力化しなければならない。それだけが、使命から解放される術なのだ。
「よろしい」ミハルは、従順な素振りを見せる双子に、小さく頷いた。「お前たちには引き続き舞ウ鳥族を調べてもらう事とする。謀反の兆しはセイズの影響によるものだと我々も把握はしていたが、あの男の仕業ではない。お前たちの手で必ずや黒幕を暴き出し、この宮に引き出すのだ。しかし、二人だけでは心もとないだろうから、第八位の権威を有するアルミ・A・ゲルを連れて行くがいい。彼女は、まだ幼く、未熟であるが、お前たちよりかは権威がある」
「あの…。わたしたちは、どれほどの権威を有しているのでしょうか…?」シフォンは、遠慮がちにたずねた。
「シフォン・V・エーナディスには第九位、トロン・F・レインには第十位の権威がある。天仔の中では最底辺だが、全住人を凌ぐ権威がある事には違いない。もし、蒔ク種族王と再び相まみえる事があれば、その時は己が権威を誇ってやるがよい」
「はい…。確かに使命を承りました…。それでは、失礼します…」シフォンは、憂鬱な表情ながらも一礼した。
「その前に、質問に答えろ」トロンは、不躾ながらもミハルにたずねた。「他の天仔は、どこにいる?」
「各々の使命のため、このヘイヴンを発っている。実は、天仔の半数は、とある地に駐在しており、当分の間は帰ってこない。それらを除く残りの五名がヘイヴンに留まっているのだが、あいにく、この場に居合わせているのは私とアルミだけだ。ユライとシェイ、それからイイヨは、重要な使命によって席を外しているが、もうじき帰還する頃合いだろう」
トロンは、早くも好機を掴んだ。敵陣が手薄となっていれば、鐘に接近するための機会も得やすいだろう。しかし、まもなく天仔は帰還すると聞かされては、一刻の猶予も許されない。彼は、ミハルに挨拶する事もなく、黙して背を向けると、足早に出口へと向かい、その後をシフォンが追従した。
「さて、そろそろ本題に入るとしようか」ミハルは、玉座に戻ると、深く腰掛け、それから双子に目をやった。「なぜ蒔ク種族王がお前たちに頼み事をしたか、その答えを悟っている者は遠慮なく述べてみよ」
トロンは、自然の考えを理解できるとは毛頭思っておらず、ぬらりくらりと黙しているばかりだった。一方、シフォンは、小声ながらもこう発言した。
「救世主の意志を為す事は、天仔に背負わされた義務だからです…」
「そう、お前たちが天仔だからだ。天仔とは、救世主の意志を代行する存在でなければならない。そのために必要な権威は、救世主から既に授けられており、宿命に殉ずるその時までは保持されている事を忘れてはならないのだぞ」
「まさか…!まだ権威は生きているのですか…?」
「無論」そこでミハルはトロンに向けて「お前の与り知らぬ所で権威は授けられているのだ。お前の名には、Fの文字があるだろう。それこそが生まれ持った権威の象徴。すべての天仔には、権威の象徴たる文字が命名されている事を知れ」
「名付け親は母ではないのか…」トロンは、複雑な心境に至った。
「むしろ、その方が嬉しかろう。お前たち双子の母が、信条に背く事を厭わない性格だった事は、この私も知る所だ。それに、娘を捨ててまでヘイヴンから逃げ出した者に、母の資格などないだろうに」
「それはアンタが決める事じゃない」
「資格とは、より権威のある者によって有無を決定付けられるものだ。そして、お前たち双子には、生まれながらに救世主の手足となる資格がある。よって、今再び、お前たちに救世主からの使命を授けよう。言っておくが、天仔である以上、使命から逃れる事はできない。いくら必死になって信条に抗おうとも、贖い鐘がある限りは、甲斐ない事だ」
双子は異議を唱えなかった。ミハルから逃れるには、贖い鐘を無力化しなければならない。それだけが、使命から解放される術なのだ。
「よろしい」ミハルは、従順な素振りを見せる双子に、小さく頷いた。「お前たちには引き続き舞ウ鳥族を調べてもらう事とする。謀反の兆しはセイズの影響によるものだと我々も把握はしていたが、あの男の仕業ではない。お前たちの手で必ずや黒幕を暴き出し、この宮に引き出すのだ。しかし、二人だけでは心もとないだろうから、第八位の権威を有するアルミ・A・ゲルを連れて行くがいい。彼女は、まだ幼く、未熟であるが、お前たちよりかは権威がある」
「あの…。わたしたちは、どれほどの権威を有しているのでしょうか…?」シフォンは、遠慮がちにたずねた。
「シフォン・V・エーナディスには第九位、トロン・F・レインには第十位の権威がある。天仔の中では最底辺だが、全住人を凌ぐ権威がある事には違いない。もし、蒔ク種族王と再び相まみえる事があれば、その時は己が権威を誇ってやるがよい」
「はい…。確かに使命を承りました…。それでは、失礼します…」シフォンは、憂鬱な表情ながらも一礼した。
「その前に、質問に答えろ」トロンは、不躾ながらもミハルにたずねた。「他の天仔は、どこにいる?」
「各々の使命のため、このヘイヴンを発っている。実は、天仔の半数は、とある地に駐在しており、当分の間は帰ってこない。それらを除く残りの五名がヘイヴンに留まっているのだが、あいにく、この場に居合わせているのは私とアルミだけだ。ユライとシェイ、それからイイヨは、重要な使命によって席を外しているが、もうじき帰還する頃合いだろう」
トロンは、早くも好機を掴んだ。敵陣が手薄となっていれば、鐘に接近するための機会も得やすいだろう。しかし、まもなく天仔は帰還すると聞かされては、一刻の猶予も許されない。彼は、ミハルに挨拶する事もなく、黙して背を向けると、足早に出口へと向かい、その後をシフォンが追従した。
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