めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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信条に架ける風

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 償いを背負わされた双子は、野に放たれた。信条に背く住人を罰するためである。不本意ではあるが、天仔の目を欺くため、今だけは従順な振りをする事に努めた。しかし、住人を殺めるつもりはない。彼らは自分なりの方法で住人を罰しようと心に誓っていたのである。人の過ちは千差万別あり、それを正す手段も同様であるが故、口頭でいましめるだけでも十二分に改めてくれるであろう。地上へと降ろされた兄妹は、秘めたる野心を果たすべく、樹上から住人の言動に目を配った。その最中、トロンは、げんぽぽが綿毛をまき散らす様を初めて目にする事ができた。花弁を失い、かわりに真珠のような綿毛を蓄えたげんぽぽが、そよ風に揺られる様を奇しくも目の当たりにする事ができたのだ。さながら巻積雲けんせきうんが地上に浮かんでいるかのようなその光景こそが、住人の献身の賜物であり、彼らが信条に忠実である事の証明でもある。それからも双子は、各々の生活の様子をしかと見張ってはいたが、信条に背くような言動をしている者は皆無であった。この調子では、二十人を罰する事などできそうにない。本当に罰に値する住人は存在しているのだろうか。そんな疑念を抱きつつも、シフォン共々、頭を抱えていると、ふと木陰に腰かけるウェザーの姿を見かけた。彼は、ミハルによって濡れ衣を晴らされると、すみやかに雲上から降りてはいたが、いまだにヘイヴンに留まっていたのだ。そこでシフォンは、わらにもすがる思いで助力を求めようとしたが、トロンによって制止された。ヘイヴンの住人ならいざ知らず、部外者の人間に頼った所で無意味である。どうせなら、少し毛色の異なる質問を投げかけ、あの男を水を得た魚のように饒舌じょうぜつにさせてやろう。そうトロンは考え、単独でウェザーへと歩み寄り、こう声をかけた。
「アンタは、贖い鐘がどういうものか知っているか」
ウェザーは、ゆっくりと立ち上がり、トロンに面と向かった。「ええ。知っていますよ。あれは、一部の人間にとっては悪名高い自然物ですから。教えてあげても構いませんが、そのかわり私事を一つ手伝ってはくれませんか?」
「断る」トロンは即答した。「しかし、贖い鐘の事を教えてくれれば、手伝ってやらん事もない」
「ふむ。本来であるならば、受け入れがたい要求ですが、今ばかりは呑んで差し上げましょう。あなたは、それなりに権威のある者ですしね」ウェザーは、渋々ではあるが、トロンの権威に屈した。「あの贖い鐘は、少々特殊な自然物でしてね。その音色を聞いた者は、たちどころに操られてしまうのですが、具体的には、鐘の所有者の意思を宿命として強要するのです。刷り込まれたが最後、万人は、自他の意志を混同し、何の疑問を持たぬままに操られてしまう、そんな恐るべき力を秘めた一品なのです」
それを聞いたトロン、及び、その背後に立っていたシフォンに衝撃が走った。
「という事は、住人は皆、贖い鐘によって知らず知らずの内に信条に従っているという事ですか!?」シフォンは、驚きを伴ってウェザーにたずねた。
「ええ。ヘイヴンは一日に一回は贖い鐘を鳴らしますから、それで全住人に信条を押し付けているのでしょう。そのせいで彼らは、自らの意思に反し、抗いようのない大きな流れに身をゆだねるばかりとなっているのです。ただ盲目的に信条に従う、その宿命の運河にね」
「それだけ聞ければ十分だ」トロンは、ウェザーに背を向けた。
「喜んでいただけて幸いですが、約束は守っていただかないと」ウェザーは、去り行くトロンの背に呼びかけた。
「暇ができたら手伝ってやる」トロンは、そう言い残すと、その場から立ち去っていった。
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