88 / 124
信条に架ける風
12
しおりを挟む
償いを背負わされた双子は、野に放たれた。信条に背く住人を罰するためである。不本意ではあるが、天仔の目を欺くため、今だけは従順な振りをする事に努めた。しかし、住人を殺めるつもりはない。彼らは自分なりの方法で住人を罰しようと心に誓っていたのである。人の過ちは千差万別あり、それを正す手段も同様であるが故、口頭で戒めるだけでも十二分に改めてくれるであろう。地上へと降ろされた兄妹は、秘めたる野心を果たすべく、樹上から住人の言動に目を配った。その最中、トロンは、げんぽぽが綿毛をまき散らす様を初めて目にする事ができた。花弁を失い、かわりに真珠のような綿毛を蓄えたげんぽぽが、そよ風に揺られる様を奇しくも目の当たりにする事ができたのだ。さながら巻積雲が地上に浮かんでいるかのようなその光景こそが、住人の献身の賜物であり、彼らが信条に忠実である事の証明でもある。それからも双子は、各々の生活の様子をしかと見張ってはいたが、信条に背くような言動をしている者は皆無であった。この調子では、二十人を罰する事などできそうにない。本当に罰に値する住人は存在しているのだろうか。そんな疑念を抱きつつも、シフォン共々、頭を抱えていると、ふと木陰に腰かけるウェザーの姿を見かけた。彼は、ミハルによって濡れ衣を晴らされると、すみやかに雲上から降りてはいたが、いまだにヘイヴンに留まっていたのだ。そこでシフォンは、藁にも縋る思いで助力を求めようとしたが、トロンによって制止された。ヘイヴンの住人ならいざ知らず、部外者の人間に頼った所で無意味である。どうせなら、少し毛色の異なる質問を投げかけ、あの男を水を得た魚のように饒舌にさせてやろう。そうトロンは考え、単独でウェザーへと歩み寄り、こう声をかけた。
「アンタは、贖い鐘がどういうものか知っているか」
ウェザーは、ゆっくりと立ち上がり、トロンに面と向かった。「ええ。知っていますよ。あれは、一部の人間にとっては悪名高い自然物ですから。教えてあげても構いませんが、そのかわり私事を一つ手伝ってはくれませんか?」
「断る」トロンは即答した。「しかし、贖い鐘の事を教えてくれれば、手伝ってやらん事もない」
「ふむ。本来であるならば、受け入れがたい要求ですが、今ばかりは呑んで差し上げましょう。あなたは、それなりに権威のある者ですしね」ウェザーは、渋々ではあるが、トロンの権威に屈した。「あの贖い鐘は、少々特殊な自然物でしてね。その音色を聞いた者は、たちどころに操られてしまうのですが、具体的には、鐘の所有者の意思を宿命として強要するのです。刷り込まれたが最後、万人は、自他の意志を混同し、何の疑問を持たぬままに操られてしまう、そんな恐るべき力を秘めた一品なのです」
それを聞いたトロン、及び、その背後に立っていたシフォンに衝撃が走った。
「という事は、住人は皆、贖い鐘によって知らず知らずの内に信条に従っているという事ですか!?」シフォンは、驚きを伴ってウェザーにたずねた。
「ええ。ヘイヴンは一日に一回は贖い鐘を鳴らしますから、それで全住人に信条を押し付けているのでしょう。そのせいで彼らは、自らの意思に反し、抗いようのない大きな流れに身をゆだねるばかりとなっているのです。ただ盲目的に信条に従う、その宿命の運河にね」
「それだけ聞ければ十分だ」トロンは、ウェザーに背を向けた。
「喜んでいただけて幸いですが、約束は守っていただかないと」ウェザーは、去り行くトロンの背に呼びかけた。
「暇ができたら手伝ってやる」トロンは、そう言い残すと、その場から立ち去っていった。
「アンタは、贖い鐘がどういうものか知っているか」
ウェザーは、ゆっくりと立ち上がり、トロンに面と向かった。「ええ。知っていますよ。あれは、一部の人間にとっては悪名高い自然物ですから。教えてあげても構いませんが、そのかわり私事を一つ手伝ってはくれませんか?」
「断る」トロンは即答した。「しかし、贖い鐘の事を教えてくれれば、手伝ってやらん事もない」
「ふむ。本来であるならば、受け入れがたい要求ですが、今ばかりは呑んで差し上げましょう。あなたは、それなりに権威のある者ですしね」ウェザーは、渋々ではあるが、トロンの権威に屈した。「あの贖い鐘は、少々特殊な自然物でしてね。その音色を聞いた者は、たちどころに操られてしまうのですが、具体的には、鐘の所有者の意思を宿命として強要するのです。刷り込まれたが最後、万人は、自他の意志を混同し、何の疑問を持たぬままに操られてしまう、そんな恐るべき力を秘めた一品なのです」
それを聞いたトロン、及び、その背後に立っていたシフォンに衝撃が走った。
「という事は、住人は皆、贖い鐘によって知らず知らずの内に信条に従っているという事ですか!?」シフォンは、驚きを伴ってウェザーにたずねた。
「ええ。ヘイヴンは一日に一回は贖い鐘を鳴らしますから、それで全住人に信条を押し付けているのでしょう。そのせいで彼らは、自らの意思に反し、抗いようのない大きな流れに身をゆだねるばかりとなっているのです。ただ盲目的に信条に従う、その宿命の運河にね」
「それだけ聞ければ十分だ」トロンは、ウェザーに背を向けた。
「喜んでいただけて幸いですが、約束は守っていただかないと」ウェザーは、去り行くトロンの背に呼びかけた。
「暇ができたら手伝ってやる」トロンは、そう言い残すと、その場から立ち去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる