めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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不死鳥の背の上で

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 バスポテトは、宿命稼ぎの餌食となった二人の仔を探し回った。その軌跡は、不自然に曲がりくねっていたが、その理由をトロンは、すぐに察した。所々に罠が見受けられ、それらを避けるようにして歩いていたからである。虎挟みと呼ばれる、獣を捕獲する際に用いられる猟具が、塵芥ちりあくたに紛れ込むようにして設置されていたのだ。じゃの道はへび、トロンは、狩人の経験があるため、宿命稼ぎの仕掛けた罠を容易に見破る事ができたのだ。しかし、そんな罠など露知らず、スコアとホームズは意気揚々とバスポテトに追従していた。廻文字を持つ者同士、鼻息荒く闊歩かっぽする様は、足元をすくわれはしないかと不安になるほどであった。しかしながら、塹壕を出てからというものの、サニーなる少女に付きまとわれ、どうにも心持ちが落ち着けないでいる。初対面であるにもかかわらず、やけに背後に密着し、寄り添うようにして歩いている。不安も理解できなくはないが、一体どういうつもりなのだろうか。度を越えて鬱陶うっとうしいが、いじらしく、それでいて人形のような少女を無下にあしらえず、結局は甘んじているしかなかった。
 やがて塵芥にうずくまる一人の少女を見つけると、バスポテトは足を止めた。その耳を尖がらせた仔は、右足を虎挟みに食いつかれながらも、珍奇ではあるが、水玉すいぎょくを模した小さめの金魚鉢をまるで重宝じゅうほうのように抱えこんでいた。可笑おかしく思いもしたが、それでも、足の痛みを必死になって堪える姿は、なんとも不憫ふびんである。一見すると、右足以外に目立った外傷もなく、無事と言っても差し支えない。ところが、バスポテトは、真剣な面持ちで、少女を遠巻きに見つめるばかりであった。捕らえた獲物を囮に、さらなる獲物を呼び寄せる、そんな宿命稼ぎの常套手段じょうとうしゅだんに苦慮していたのである。そんなバスポテトをじれったいと感じたのか、ホームズは、こう急かした。
「見つけたんだから、早く助ければいいだろ!」
「あなた、あの罠の外し方を知ってるかしら?」バスポテトは、ホームズに問いかけた。
ホームズは、若干悩んだのち、「…棒とかで思いきり叩けば壊れるだろ!」
「そんなくらいで外れてくれれば、苦労はないわ」バスポテトは、ほうっとため息を吐いた。
「あの程度の罠なら十秒と経たずに外せる」トロンは、控えめに名乗り出た。
「あら、誰かさんとは違って頼りになるわね」バスポテトは、トロンに微笑みかけた。
トロンは、ホームズに目くじらを立てられ、スコアには目を丸くされ、サニーには、いまだに遮蔽物しゃへいぶつとして扱われた。ただただ小恥ずかしい。
「じゃあ、ルルリリの事、お願いするわ」バスポテトは、虎挟みに掛かった少女を指差した。「きっと宿命稼ぎが近くに潜んでるだろうから、私とホームズで荒肝を抜いてやるわ。その間に助け出してちょうだい」
「何する気なの?」スコアは、やけに自信に満ちたその言葉を気がかりに思い、たずねた。
「廻文字の力、その一端を見せてあげるわ」バスポテトは、そう答えたのち、ホームズに「あなた、使うのは私に任せなさいね」と命じた。
「見くびるな!オレだって使えるんだ!」ホームズは、常々不満を感じていたのか、駄々をねるように愚痴を漏らした。
「いいから。いつも通り、しっかりやるのよ」突如、バスポテトの胸元に、なぜかしら紫色に輝く廻文字が浮かび上がった。
 強い語気で促されたホームズは、渋々ながらも承諾すると、バスポテトと肩を並べて進み出て、皆と距離を空けた所で立ち止まったかと思うと、彼女諸共もろとも仰向あおむきながら深く息を吸い込み始めた。肺に空気を充満させたのも束の間、二人は、前方に向けて同時に息吹いぶいた。その優しい息遣いは、きめ細やかな玉虫色の光彩を放ち、微風を髣髴ほうふつとさせる流動にそよぐ無数の紬糸つむぎいとを生み出したが、それだけにとどまらず、糸は互いに絡まり合い、やがては一組の矮小わいしょうな火打ち道具を織り成した。手のひらに乗せられるほどの火打ち石と打ち金が、二人の眼前に浮遊しており、ふいにバスポテトは、その一組を手に取ると、甲高く打ち鳴らした。すると、火打ち道具は、ひとたまりもなく砕け散りはしたが、その岩屑から燃え盛る炎が轟々と噴き出すと、あたかも、のたうつ濁流のように地をい、ルルリリなる少女を取り囲むようにして行き渡った挙句、周囲一帯は瞬く間に火の海と化した。見境なく焼却し、灰燼かいじんと変えるばかりの惨烈な光景は、トロンとスコアに衝撃を走らせ、呆然とさせた。理解が及ばないが、これが廻文字の力なのか。夢かうつつか、たまらず目を見開いた。
 「ぼうっとしてないで、早く!!」バスポテトは、放心するトロンに向かって声を張り上げた。
 すっかり役割を失念していた。トロンは、我に返ると、急いでルルリリに駆け寄り、ものの十秒足らずで虎挟みを解除してみせた。ルルリリは、晴れて自由となったが、虎挟みのせいで右足を負傷しており、立つ事すらままならない状態であった。それでも気丈に振る舞おうとしているのか、トロンに助けを求めず、悔し涙を浮かべつつも自力で立ち上がろうと躍起になっていた。しかし、いよいよ時間も惜しかったので、トロンはルルリリを強引に抱えると、ふとした事に、金魚鉢になみなみと注がれた清水と、その中を我関せずと言わんばかりに遊泳する一尾の小魚を目にした。その珍妙な風体の魚をまじまじと観察してやりたかったが、この時だけは堪え、金魚鉢に留意しつつも皆の元へ戻ろうと駆け出した。
 そんな彼の足を文字通り引っ張ろうと、宿命稼ぎの放った包帯の枷鎖かさが、背後から片足に巻き付き、転倒させようとしてきたが、トロンは、かろうじて体勢を維持した。顧みると、遠方の炎々から包帯が伸びている様を認めた。やはり宿命稼ぎが虎視眈々と潜んでいたのだ。炎下に身を置きながらも、獲物だけは逃すまいと執着しているのだろうが、言うまでもなく包帯に引火してくれたおかげで、じきに拘束は燃え尽き、無事に逃げ延びる事ができた。皆と合流すると、ルルリリをバスポテトに引き渡し、トロンはその役目を果たし終えた。
「大丈夫かよ!?足を怪我してるぞ!」ホームズは、ルルリリを心配し、声をかけた。
「……別になんて事ないわよ…!」ルルリリは、涙を拭うと、強気に振る舞った。
「もうすぐ炎は消えるわ。早くここから離れましょう」バスポテトは、しきりに炎々に目を配っていた。
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