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不死鳥の背の上で
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ルルリリ・シャイココースという少女は、がむしゃらであったが、その気概だけは、賞賛に値すると感ずる事ができた。ただし、保護者は必須であり、トロンとスコアは、彼女に引きずられるが如く塹壕から出ざるを得ず、サニーもまた、さも親身のように トロンの背後にまとわりついてきた。これまでは嫌厭するばかりでも、ここまで好いた風に振る舞われると、いよいよ妹の面影を映しているかのように思えてならない。己の妹は、シフォンに限るのだが、なぜ今しがた出会った少女を身内と見紛うのだろうか。それほどまでに、シフォンへの執心に取りつかれているのだろうか。率直になれば、妹想いの兄だと自負もできるが、その愛情は、永々と胸の内にて温めておき、さらなる励みの糧としたかった。サニーの映す面影は、トロンの決意を改めて固持させ、より一層ヘイヴンへの報復に滾らせた。
ルルリリらは、奇しくもバスポテトとホームズの元にたどり着くと、瓦礫まみれの砂浜に画然と空いた更地にて晒される一人の少年をも見つけた。何者かによって丸太に括りつけられ、磔に処された挙句、孤絶に置かれているようで、少年は、そんな自らの境遇を嘆いているのか、忍び泣いていた。しかし、それは女々しい少年を好餌に仕立て、獲物をおびき出さんとする宿命稼ぎの策略である事は自明である。あまりにもあからさまであったため、バスポテトは、遠巻きに手をこまねいており、無鉄砲なホームズを留める事に努めていた。ルルリリらと合流すると、図らずも増援に恵まれはしたものの、膠着を打開するほどの戦力とは認められず、依然として傍観を貫くばかりであった。
「まったく困ったわね。待ってなさいって言ったでしょう」バスポテトは、ルルリリとサニーをたしなめた。
「あたしだって役に立ってみせるわ!」ルルリリは、甲斐性に満ち満ちていた。
「ほら、見ろよ。どいつもこいつもヤル気だぜ」ホームズは、満を持して戦おうと腹をくくっていた。「たわみつを助けるには、もう命を懸けるしかないんだよ!やってやるしかないんだよ!」
「たわみつ?」スコアは、首を傾げた。
「あの捕まってる仔よ。喜撰たわみつって言うの」バスポテトは、磔にされた哀れな少年に目をくれた。「早く助けたいけど、同じ手は通用しないでしょうし、どうしたものかしらね」
「だから、散々言っているだろ!オレが囮になるって!」ホームズは、敢然と名乗りを上げた。
「それを待ち焦がれているのよ、宿命稼ぎは。ここで下手に出て行けば、間違いなく捕らわれるわ」バスポテトは、気概に水を差すように言った。「でも、抜き差しならない状況なのは確かだし、いざって時は、私が囮を買って出る。そうなったら、私を見捨てでも逃げなさい」
「囮なら俺がやる」
誰もが異を唱えようとした矢先、トロンが覚悟の一歩を踏み出すと、皆は瞬く間に言葉を呑んだ。静粛の最中、彼はバスポテトに向けてこう続けた。
「不本意だが、今の俺には何もない。廻文字も持ってなければ、その知識も持ち合わせていない。だが、アンタは違う。俺たちが廻文字について教わるには、アンタが必要不可欠なんだ。だから、こんな所で犠牲にするわけにはいかない」
「オレだって覚悟はできてるんだ!」ホームズは、むきになって追随した。
「あなたは黙ってなさい」バスポテトは、ホームズに軽く拳骨を見舞った。それから、トロンに「ありがとう。じゃあ、お願いするわ」と微笑を伴って礼を言った。
「相変わらず、無茶ばっかり言うね、この人」スコアは、むしろトロンの無謀に感服しているようだった。「やりたいのなら止めないけど。捕まらないよう頑張ってね」
ヘイヴンでの出来事を振り返れば、もはや他人の犠牲を見て見ぬ振りはできなかった。この命を賭して火中の栗を拾ってみせるのだ。見知らぬ少年すら救えぬようでは、妹を救うなどままならぬ。いまだ力及ばずとも、己が意志さえ手にすれば、十二分に立ち向かえる。トロンは、やや錆び付いた平俗な剣を瓦礫の中から見出だすと、おもむろに拾い上げ、危険を顧みず、たわみつ少年へと歩を進めた。道中には、幾重にも仕掛けられた罠が散見されたが、この期に及んで失態を演じはしない。罠さえ見破れば、容易な道筋であると思われたが、感知できぬほどの刹那、あえなく宿命稼ぎに射止められてしまった。瞬く間に、松脂の染み込んだ包帯に両膝下を巻き付かれ、もはや一歩たりとも前進できない。それでも、出来る限りの大股を開き、体勢を崩さぬよう努めた。剣を振るうべく、我が身に繋がれた包帯に目を移すと、ふと、その末にて押し立つ一人の銃手が目に留まった。やけに尖ったカウボーイハットが印象的な長躯の男性であり、なにやら獣骨を組み合わせたような乳白色の奇抜な施条銃を構えてはいたが、なにより目を剥いたのは、その銃口から包帯が飛び出た様である。不可視の包帯の正体は、れっきとした弾丸であったのだ。ならば、あの男こそが、己が宿命に従わぬ廻仔の捕獲を生業とする宿命稼ぎに相違ない。
ルルリリらは、奇しくもバスポテトとホームズの元にたどり着くと、瓦礫まみれの砂浜に画然と空いた更地にて晒される一人の少年をも見つけた。何者かによって丸太に括りつけられ、磔に処された挙句、孤絶に置かれているようで、少年は、そんな自らの境遇を嘆いているのか、忍び泣いていた。しかし、それは女々しい少年を好餌に仕立て、獲物をおびき出さんとする宿命稼ぎの策略である事は自明である。あまりにもあからさまであったため、バスポテトは、遠巻きに手をこまねいており、無鉄砲なホームズを留める事に努めていた。ルルリリらと合流すると、図らずも増援に恵まれはしたものの、膠着を打開するほどの戦力とは認められず、依然として傍観を貫くばかりであった。
「まったく困ったわね。待ってなさいって言ったでしょう」バスポテトは、ルルリリとサニーをたしなめた。
「あたしだって役に立ってみせるわ!」ルルリリは、甲斐性に満ち満ちていた。
「ほら、見ろよ。どいつもこいつもヤル気だぜ」ホームズは、満を持して戦おうと腹をくくっていた。「たわみつを助けるには、もう命を懸けるしかないんだよ!やってやるしかないんだよ!」
「たわみつ?」スコアは、首を傾げた。
「あの捕まってる仔よ。喜撰たわみつって言うの」バスポテトは、磔にされた哀れな少年に目をくれた。「早く助けたいけど、同じ手は通用しないでしょうし、どうしたものかしらね」
「だから、散々言っているだろ!オレが囮になるって!」ホームズは、敢然と名乗りを上げた。
「それを待ち焦がれているのよ、宿命稼ぎは。ここで下手に出て行けば、間違いなく捕らわれるわ」バスポテトは、気概に水を差すように言った。「でも、抜き差しならない状況なのは確かだし、いざって時は、私が囮を買って出る。そうなったら、私を見捨てでも逃げなさい」
「囮なら俺がやる」
誰もが異を唱えようとした矢先、トロンが覚悟の一歩を踏み出すと、皆は瞬く間に言葉を呑んだ。静粛の最中、彼はバスポテトに向けてこう続けた。
「不本意だが、今の俺には何もない。廻文字も持ってなければ、その知識も持ち合わせていない。だが、アンタは違う。俺たちが廻文字について教わるには、アンタが必要不可欠なんだ。だから、こんな所で犠牲にするわけにはいかない」
「オレだって覚悟はできてるんだ!」ホームズは、むきになって追随した。
「あなたは黙ってなさい」バスポテトは、ホームズに軽く拳骨を見舞った。それから、トロンに「ありがとう。じゃあ、お願いするわ」と微笑を伴って礼を言った。
「相変わらず、無茶ばっかり言うね、この人」スコアは、むしろトロンの無謀に感服しているようだった。「やりたいのなら止めないけど。捕まらないよう頑張ってね」
ヘイヴンでの出来事を振り返れば、もはや他人の犠牲を見て見ぬ振りはできなかった。この命を賭して火中の栗を拾ってみせるのだ。見知らぬ少年すら救えぬようでは、妹を救うなどままならぬ。いまだ力及ばずとも、己が意志さえ手にすれば、十二分に立ち向かえる。トロンは、やや錆び付いた平俗な剣を瓦礫の中から見出だすと、おもむろに拾い上げ、危険を顧みず、たわみつ少年へと歩を進めた。道中には、幾重にも仕掛けられた罠が散見されたが、この期に及んで失態を演じはしない。罠さえ見破れば、容易な道筋であると思われたが、感知できぬほどの刹那、あえなく宿命稼ぎに射止められてしまった。瞬く間に、松脂の染み込んだ包帯に両膝下を巻き付かれ、もはや一歩たりとも前進できない。それでも、出来る限りの大股を開き、体勢を崩さぬよう努めた。剣を振るうべく、我が身に繋がれた包帯に目を移すと、ふと、その末にて押し立つ一人の銃手が目に留まった。やけに尖ったカウボーイハットが印象的な長躯の男性であり、なにやら獣骨を組み合わせたような乳白色の奇抜な施条銃を構えてはいたが、なにより目を剥いたのは、その銃口から包帯が飛び出た様である。不可視の包帯の正体は、れっきとした弾丸であったのだ。ならば、あの男こそが、己が宿命に従わぬ廻仔の捕獲を生業とする宿命稼ぎに相違ない。
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