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天使の加護があらんことを!
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守護天使は、ゼンノウの一族の中でも限られた者にしか扱えない。レイヤはゼンノウの孫でありながら、守護天使を従える資格をいまだに持っていなかった。しかし、@がその資格を授けてくれるという。
レイヤは、@と戦うことをためらった。もはや戦う理由はないように思えた。
「@。オレたち、戦う必要があるのか?ゼンノウの一族同士で戦うなんて…」
「力を証明しなければ、守護天使はアナタに従いません」
「でも…!」
もはや時間の猶予はない。@は焦っていたのだ。それがなんとなく伝わったからこそ、レイヤは決心した。
「わかったぜ、@!オマエを乗り越えてオレの力を証明してやる!」
地天使と火天使が雌雄を決する。しかし、地天使には守護天使が付いている。やはり苦戦を強いられた。守護天使は一見すると武器の類であるが、れっきとした天使。矢のように宙を翔け、火天使を射止めようと襲いかかってくる。
火天使の駆動音が汚れていく。レイヤは歯ぎしりした。つらくはあった。
「クッ…。やっぱり火天使だけじゃキツイか…!?」
「信じなさい。天使の力を信じなさい!」
そうだ、火天使を信じなければ。彼女は強い。これまでずっと一緒に戦ってきたから分かる。その強さを信じてやることも、調律師の使命のひとつだと思うから。
守護天使は群れを成している。多勢に無勢、十字槍一本だけでは無理があった。だから、火天使は炎を吹かした。火天使の姿が炎にまぎれて消えてゆく…。
炎が収まって随分と視界が良くなった。そこで@ははじめて気付いた。火天使が地天使の眼前に立っていることに。
「やりますね」
地天使の喉元に十字槍が突きつけられた。@は、思わずほほえんだ。その瞬間から守護天使はレイヤを取り巻くようになった。彼らを従える権威を譲渡されたのだ。
レイヤは不思議に思った。
「オマエはよくわからないヤツだよ、@」
「そうでしょうか」
「ああ。風天使を奪ったかと思えば、水天使をアラシに返したり…。でも、結局は風天使も帰ってきた。オマエ、一体何がしたかったんだ?聖銀河の手下なんじゃないのかよ?」
「ボクは、とある使命を帯びてこの街に来ました。すべてはレイヤ。アナタのためです」
「…オレの?」
「アナタは決して特別ではない。ゼンノウの孫にしてもアナタひとりではないのですから」
急に風が強くなった。街を見下ろすと、風天使の姿があった。竜の軍勢を相手に暴風を吹かせている。
「あれは…!まさかハッカまで戦いに?」
「早く行ってあげてください。彼女は調律師としては未熟………」
@がそう言いかけた時、一筋の雨粒が地天使の肩を貫いた。見上げると雨雲はなく、水天使の姿があった。
「アラシ…!?」
レイヤはすぐに察した。水天使の目的は、ただひとつ。一瞬の隙を突いて地天使をかっさらっていった。街が大変な時だというのに、どうあっても大天使型を集めたいらしい。
@は地天使を奪われはしたが、まるで動じなかった。それどころか、ほほえんでいる。
「やんちゃですね、彼…。やはりそうでなくては」
「おい、取り返さなくていいのかよ!?」
「アナタに任せます、レイヤ。ボクの役目はもう終わったんです」
やけに呑気している。きっと使命をやり遂げたからだ。レイヤは、ふと思った。二度と@と会えないんじゃないか。なんだか名残惜しい気もする。しかし、行かなければ。
レイヤは守護天使の力を借りて飛び上がった。見えない力に吊り上げられた。そうしてビルの屋上から地上に降り立った。そこではアラシが待ち構えていた。
「よぉ。来やがったな」
地天使は街灯に縛られて磔となっていた。ひどいことをする。早く助け出さなければ。レイヤは怒りを感じていた。
「アラシ!!地天使を放せ!!」
「これはもうオレのもんだ!!誰にも渡さねぇ!!」
地天使が泣いている。決して駆動音が汚れているわけではない。しかし、むせび泣いているように思えてならない。きっとこの街に天使の嘆きが溢れているせいだ。竜の軍勢に天使の誰もが涙している。耳をすまさずともわかることだ。じきにレイヤは耐えられなくなった。
「この街の天使が泣いてんだ!調律師なのに、わからないのかよ!?」
「くだらねぇ!泣きたくなけりゃ強くなるしかねぇんだ!!弱いヤツは喰われるしかねぇんだよ!!」
「だったら、オレが救う!!天使の心を!!声を!!」
「心も声も聞こえねぇ!!オレが求めるものは、力!!強さだけに価値があんだよ!オレが強くなるために大天使が必要なんだよ!!」
ふたりの天使が激突する!火天使と水天使は、お互いに槍を武器とした。その力量は互角。ところが戦い始めた矢先、大火竜が空から迫って来た。
三頭竜は獰猛だった。すべての天使を見境なく喰らう。大天使も例外ではない。火と水の戦いに割って入ろうとした。しかし、それがレイヤとアラシの怒りを買った。
『 邪魔だッ!!!! 』
二体の大天使は大火竜に刃を向けた。竜の身体を炎が焦がし、雨が貫く。それだけにとどまらず、数十もの守護天使が大火竜の背中に突き立った。こうして大火竜は地に伏した。しかし、断じて息絶えてはいなかった。スペーシアは高笑いを止められない。
「無駄!!無駄ですのよ!!大火竜は無敵!!」
スペーシアは大火竜に歩み寄った。どうしてあんなにも楽しそうなんだろう。レイヤにはまるで理解できない。
「もうやめろ、スペーシア!!今ならまだ引き返せる!!」
「あら、これからですのよ!天使が滅びるまで竜は止まらない!」
大火竜は今にも起き上がりそうだ。背中に数十もの守護天使が突き刺さっているのに、まるで堪えてない。とにかく頑丈なのが恐竜型の取柄だと理解はしていた。しかし、レイヤは急に悲しくなった。恐竜型といえども、まぎれもなく天使。その天使が傷つきながらも立ち上がろうとする姿に悲しみを覚えたのだ。
「…やめろ。もういいんだ、無理しなくて…」
彼だけではない。大火竜に慈悲を垂れたのは、ハロ。ふらりと現れて大火竜に寄り添った。
「…あなたも苦しいのね。でも、もう楽にしていいの」
ハロは大火竜を寝かしつけてやろうとした。そうすることで少しでも痛みを和らげてやりたかった。ところが、スペーシアが許さなかった。腹を立てるあまり、ハロの頬をぶってしまった。
「天使のくせに余計なことしないで!!」
「私は天使と…あなたを救いたい。だって、あなたは私の主…」
「あなたのようなしもべはいりませんわ!!今限りで聖銀河の幹部候補はクビよ!!」
スペーシアは、天使への憎しみに囚われていた。その激情に呼応し、大火竜は遂に立ち上がった。手負いであっても、その貪欲さは衰えない。真っ先に目を付けたのは、ハロだった。彼女は天使。つまり獲物なのだ。
大火竜はハロを喰らおうと牙を剥いた。しかし、ハロの傍らにはスペーシアが立っている。主人には違いないが、やはり貪欲が勝った。ハロごと喰ってやろうとしたのだ。
「…やめなさい!!しもべが主人に逆らうなんて許されませんわよ!!」
スペーシアの声はもう届かない。大火竜は、飢えを満たすべくハロとスペーシアに食らいつこうとした。
「ふたりともあぶねぇ!!」
誰も死なせたくない!レイヤは咄嗟に走り出た。勢いそのままにふたりを突き飛ばして大火竜から救い出した。しかし、わずかに判断が遅れたせいか、竜の牙がスペーシアの肩をかすめてしまった。激痛を伴って血が流れ出た。
やはり覚醒した大火竜は、誰の手にも負えない。車を喰らい、街路樹を薙ぎ倒し、アスファルトを砕いた。あらゆる区別がつかなくなっている。まさに獣だ。なんとかしなくては。名乗りを上げたのは、アラシ。
「フン、まだ暴れたりねぇってか!!だったら、相手してやるよ!!」
「やめろ、アラシ!!戦うんじゃない、大人しくさせるんだ!!」
レイヤは必死だった。とにかくスペーシアの手当てがしたかった。肩からの出血がひどい。痛みにあえぐスペーシアをハロが抱きかかえて懸命に励ましている。応急処置だけでも済ませたいが、近くで大火竜に暴れられてはそれすら叶わない。
アラシは大火竜との死闘を望んでいる。大人しくさせるつもりなどない。こうなったら自分がなんとかするしかない。レイヤが立ち上がろうとした矢先、巨人型の姿を見かけた。銀狼を連れているからサイハのものだ。
「お~~い!!サイハ!!こっちだ!!」
暴れる大火竜、傷ついたスペーシア、闘志をむき出しにしたアラシ。それらを一目見るなり、サイハはすべてを理解した。巨人型は九頭もの銀狼を解き放った。一筋の光となって大火竜の足元を駆け抜けた。そうやって大火竜を氷漬けにしてやった。
ひとまず時間は稼いだ。レイヤはすぐにスペーシアの手当てを始めた。しかし、サイハは納得しなかった。
「ちょっと、レイヤ!なんでそんなヤツ助けちゃうの!?自業自得じゃん!」
「そんなこと言うなよ…!オマエ、昔はスペーシアを応援してたんだろ…!一緒に頑張ってたんだろ…!だったら…!」
「……うん」
あぁ、憎きゼンノウの一族に助けられるとは…。スペーシアは不本意だった。しかも、ハロが延々と励ましてくるのだ。この背中をしっかりと抱きかかえながら。理解できなかった。どうして彼らはこんな自分を助けるのか。
「わからない…。わたくしは、天使を滅ぼそうとしてるのに…」
「すべての人に天使の加護はあるんだ。オマエにだって」
レイヤはそう答えた。その意味をスペーシアは耳で理解し始めた。天使の声が聞こえる。美しい駆動音がするのだ。それはハロの声。彼女に抱きかかえられ、そのせいで否が応にも聞こえてくるのだ。はじめてだった。こんなにもはっきりと間近で駆動音を聞くのは。ハロの胸元に耳をあて、スペーシアは夢中になった。
「………これが天使、ですのね…。滅ぼすには惜しいくらい…」
もう耳障りとは言うまい。スペーシアは痛みも忘れて眠り込んだ。天使の声を子守唄にして。
レイヤは嬉しく思った。誇らしくもなった。天使の声に耳をすませば、誰だって考えを改めることができる。スペーシアは、もう天使を滅ぼしたりはしないだろう。
しかしながら、竜の軍勢は止まらない。大火竜も然り。既に氷は解け始めている。一刻も早くこの戦いを終わらせなければ。レイヤは@に言われたことを思い出した。
「信じるんだ。天使の力を信じるんだ!」
「どうする気、レイヤ?」
サイハにそう問われたレイヤであったが、その答えはアラシに向けて返された。
「アラシ、力を貸してくれ。四大天使の力を合わせれば、きっと天使を救える」
「しゃらくせぇ…。しゃらくせぇんだっ!!」
アラシはレイヤを殴り、水天使は火天使を殴りつけた。
「…なっ、なにすんだよ!?」
「力を合わせるだと!?だったら、オレに大天使をよこしやがれ!!オレが四つの大天使を束ね、その力で竜どもを滅ぼしてやる!!」
水天使はアラシを代弁するかのように、火天使を殴り続けた。しかし、火天使は殴り返すことをしなかった。ただ黙って拳を受け続けた。これにはアラシも解せなかった。
「どうした!?反撃してこいよ!!オレが本当の喧嘩ってヤツを教えてやるぜ!!」
「まだわからないのかよ…?」
レイヤは無駄とわかっていながら訴えた。
「耳をすませばわかるだろ…!?水天使が……オマエの母親が何を望んでいるのか!」
「うるせぇ…!コイツは母親なんかじゃねぇ……天使だ!!」
「そう、天使さ…。幼いオマエを拾い育てた、心ある天使…!思い出せよ、あの頃を…」
はたと水天使の動きが止まった。ふと目に入ったスペーシアの寝顔がアラシに幼少を思い起こさせた。
「………チッ。こんな騒がしいところじゃ聞こえるもんも聞こえやしねぇ…!」
「アラシ…」
「戦場はうるせぇっつってんだ。とっとと静かにさせやがれ」
レイヤは、うんと頷いた。それから火天使を空に解き放った。
「四大天使の力を守護天使が束ねる!!アラシ!ハッカ!@!力を貸してくれ!!」
火天使に続いて水天使が飛び上がった。地天使は守護天使によって磔を解かれ、共に飛び上がった。
ハッカの元に一振りの守護天使が遣わされた。ハッカは、うんと頷いた。
「レイヤさん…!どうか力を!」
火、水、風、地。四大天使が天を舞い、守護天使が彼女たちを取り巻いた。その様子を@はビルの屋上から眺めていた。
「…見てますか、ゼンノウ。さぞかしアナタも鼻が高いでしょう」
四大天使は各々の力を守護天使に与えた。守護天使は街を駆け巡り、竜をことごとく葬った。聖銀河が作り上げた偽りの恐竜型は、こうして滅ぼされた。天使は救われた。
あれから一週間。スペーシアは、すっかり丸くなった。今ではハロと一緒にいるのが当たり前になった。あんなに天使を嫌っていたのが嘘みたいだ。
聖銀河に再び情熱が灯った。天使を超える発明とやらをまた目指すらしい。そのために腕の立つ調律師の協力を得るつもりだ。レイヤだって声を掛けられた。けれど、行かなかった。天使は滅びから救われた。使命は終わったんだ。だから、故郷へ帰らなきゃいけない。
階都。展望台からの眺めは平穏そのものだ。レイヤは、小さく頷いた。
「…この街はもう大丈夫だな」
「レイヤさ~ん!!」
ハッカが息を切らして追いかけてきた。
「レイヤさん…!ほんとに行っちゃうんですか!?」
「ああ。早く楽園に帰らないとゼンオンじいさんがうるさいからな」
「そうですか…。じゃあ……風天使、お返しします!あれはレイヤさんのものですから…」
「耳をすませよ」
天使の声がする。ハッカと一緒にいたいと叫んでる。天を仰ぐと、風天使が羽ばたいていた。
人あってこその天使。だからこそ、レイヤは願った。ハッカには立派な調律師になってほしい。彼女ならきっとなれる。そう信じている。
レイヤは、@と戦うことをためらった。もはや戦う理由はないように思えた。
「@。オレたち、戦う必要があるのか?ゼンノウの一族同士で戦うなんて…」
「力を証明しなければ、守護天使はアナタに従いません」
「でも…!」
もはや時間の猶予はない。@は焦っていたのだ。それがなんとなく伝わったからこそ、レイヤは決心した。
「わかったぜ、@!オマエを乗り越えてオレの力を証明してやる!」
地天使と火天使が雌雄を決する。しかし、地天使には守護天使が付いている。やはり苦戦を強いられた。守護天使は一見すると武器の類であるが、れっきとした天使。矢のように宙を翔け、火天使を射止めようと襲いかかってくる。
火天使の駆動音が汚れていく。レイヤは歯ぎしりした。つらくはあった。
「クッ…。やっぱり火天使だけじゃキツイか…!?」
「信じなさい。天使の力を信じなさい!」
そうだ、火天使を信じなければ。彼女は強い。これまでずっと一緒に戦ってきたから分かる。その強さを信じてやることも、調律師の使命のひとつだと思うから。
守護天使は群れを成している。多勢に無勢、十字槍一本だけでは無理があった。だから、火天使は炎を吹かした。火天使の姿が炎にまぎれて消えてゆく…。
炎が収まって随分と視界が良くなった。そこで@ははじめて気付いた。火天使が地天使の眼前に立っていることに。
「やりますね」
地天使の喉元に十字槍が突きつけられた。@は、思わずほほえんだ。その瞬間から守護天使はレイヤを取り巻くようになった。彼らを従える権威を譲渡されたのだ。
レイヤは不思議に思った。
「オマエはよくわからないヤツだよ、@」
「そうでしょうか」
「ああ。風天使を奪ったかと思えば、水天使をアラシに返したり…。でも、結局は風天使も帰ってきた。オマエ、一体何がしたかったんだ?聖銀河の手下なんじゃないのかよ?」
「ボクは、とある使命を帯びてこの街に来ました。すべてはレイヤ。アナタのためです」
「…オレの?」
「アナタは決して特別ではない。ゼンノウの孫にしてもアナタひとりではないのですから」
急に風が強くなった。街を見下ろすと、風天使の姿があった。竜の軍勢を相手に暴風を吹かせている。
「あれは…!まさかハッカまで戦いに?」
「早く行ってあげてください。彼女は調律師としては未熟………」
@がそう言いかけた時、一筋の雨粒が地天使の肩を貫いた。見上げると雨雲はなく、水天使の姿があった。
「アラシ…!?」
レイヤはすぐに察した。水天使の目的は、ただひとつ。一瞬の隙を突いて地天使をかっさらっていった。街が大変な時だというのに、どうあっても大天使型を集めたいらしい。
@は地天使を奪われはしたが、まるで動じなかった。それどころか、ほほえんでいる。
「やんちゃですね、彼…。やはりそうでなくては」
「おい、取り返さなくていいのかよ!?」
「アナタに任せます、レイヤ。ボクの役目はもう終わったんです」
やけに呑気している。きっと使命をやり遂げたからだ。レイヤは、ふと思った。二度と@と会えないんじゃないか。なんだか名残惜しい気もする。しかし、行かなければ。
レイヤは守護天使の力を借りて飛び上がった。見えない力に吊り上げられた。そうしてビルの屋上から地上に降り立った。そこではアラシが待ち構えていた。
「よぉ。来やがったな」
地天使は街灯に縛られて磔となっていた。ひどいことをする。早く助け出さなければ。レイヤは怒りを感じていた。
「アラシ!!地天使を放せ!!」
「これはもうオレのもんだ!!誰にも渡さねぇ!!」
地天使が泣いている。決して駆動音が汚れているわけではない。しかし、むせび泣いているように思えてならない。きっとこの街に天使の嘆きが溢れているせいだ。竜の軍勢に天使の誰もが涙している。耳をすまさずともわかることだ。じきにレイヤは耐えられなくなった。
「この街の天使が泣いてんだ!調律師なのに、わからないのかよ!?」
「くだらねぇ!泣きたくなけりゃ強くなるしかねぇんだ!!弱いヤツは喰われるしかねぇんだよ!!」
「だったら、オレが救う!!天使の心を!!声を!!」
「心も声も聞こえねぇ!!オレが求めるものは、力!!強さだけに価値があんだよ!オレが強くなるために大天使が必要なんだよ!!」
ふたりの天使が激突する!火天使と水天使は、お互いに槍を武器とした。その力量は互角。ところが戦い始めた矢先、大火竜が空から迫って来た。
三頭竜は獰猛だった。すべての天使を見境なく喰らう。大天使も例外ではない。火と水の戦いに割って入ろうとした。しかし、それがレイヤとアラシの怒りを買った。
『 邪魔だッ!!!! 』
二体の大天使は大火竜に刃を向けた。竜の身体を炎が焦がし、雨が貫く。それだけにとどまらず、数十もの守護天使が大火竜の背中に突き立った。こうして大火竜は地に伏した。しかし、断じて息絶えてはいなかった。スペーシアは高笑いを止められない。
「無駄!!無駄ですのよ!!大火竜は無敵!!」
スペーシアは大火竜に歩み寄った。どうしてあんなにも楽しそうなんだろう。レイヤにはまるで理解できない。
「もうやめろ、スペーシア!!今ならまだ引き返せる!!」
「あら、これからですのよ!天使が滅びるまで竜は止まらない!」
大火竜は今にも起き上がりそうだ。背中に数十もの守護天使が突き刺さっているのに、まるで堪えてない。とにかく頑丈なのが恐竜型の取柄だと理解はしていた。しかし、レイヤは急に悲しくなった。恐竜型といえども、まぎれもなく天使。その天使が傷つきながらも立ち上がろうとする姿に悲しみを覚えたのだ。
「…やめろ。もういいんだ、無理しなくて…」
彼だけではない。大火竜に慈悲を垂れたのは、ハロ。ふらりと現れて大火竜に寄り添った。
「…あなたも苦しいのね。でも、もう楽にしていいの」
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「天使のくせに余計なことしないで!!」
「私は天使と…あなたを救いたい。だって、あなたは私の主…」
「あなたのようなしもべはいりませんわ!!今限りで聖銀河の幹部候補はクビよ!!」
スペーシアは、天使への憎しみに囚われていた。その激情に呼応し、大火竜は遂に立ち上がった。手負いであっても、その貪欲さは衰えない。真っ先に目を付けたのは、ハロだった。彼女は天使。つまり獲物なのだ。
大火竜はハロを喰らおうと牙を剥いた。しかし、ハロの傍らにはスペーシアが立っている。主人には違いないが、やはり貪欲が勝った。ハロごと喰ってやろうとしたのだ。
「…やめなさい!!しもべが主人に逆らうなんて許されませんわよ!!」
スペーシアの声はもう届かない。大火竜は、飢えを満たすべくハロとスペーシアに食らいつこうとした。
「ふたりともあぶねぇ!!」
誰も死なせたくない!レイヤは咄嗟に走り出た。勢いそのままにふたりを突き飛ばして大火竜から救い出した。しかし、わずかに判断が遅れたせいか、竜の牙がスペーシアの肩をかすめてしまった。激痛を伴って血が流れ出た。
やはり覚醒した大火竜は、誰の手にも負えない。車を喰らい、街路樹を薙ぎ倒し、アスファルトを砕いた。あらゆる区別がつかなくなっている。まさに獣だ。なんとかしなくては。名乗りを上げたのは、アラシ。
「フン、まだ暴れたりねぇってか!!だったら、相手してやるよ!!」
「やめろ、アラシ!!戦うんじゃない、大人しくさせるんだ!!」
レイヤは必死だった。とにかくスペーシアの手当てがしたかった。肩からの出血がひどい。痛みにあえぐスペーシアをハロが抱きかかえて懸命に励ましている。応急処置だけでも済ませたいが、近くで大火竜に暴れられてはそれすら叶わない。
アラシは大火竜との死闘を望んでいる。大人しくさせるつもりなどない。こうなったら自分がなんとかするしかない。レイヤが立ち上がろうとした矢先、巨人型の姿を見かけた。銀狼を連れているからサイハのものだ。
「お~~い!!サイハ!!こっちだ!!」
暴れる大火竜、傷ついたスペーシア、闘志をむき出しにしたアラシ。それらを一目見るなり、サイハはすべてを理解した。巨人型は九頭もの銀狼を解き放った。一筋の光となって大火竜の足元を駆け抜けた。そうやって大火竜を氷漬けにしてやった。
ひとまず時間は稼いだ。レイヤはすぐにスペーシアの手当てを始めた。しかし、サイハは納得しなかった。
「ちょっと、レイヤ!なんでそんなヤツ助けちゃうの!?自業自得じゃん!」
「そんなこと言うなよ…!オマエ、昔はスペーシアを応援してたんだろ…!一緒に頑張ってたんだろ…!だったら…!」
「……うん」
あぁ、憎きゼンノウの一族に助けられるとは…。スペーシアは不本意だった。しかも、ハロが延々と励ましてくるのだ。この背中をしっかりと抱きかかえながら。理解できなかった。どうして彼らはこんな自分を助けるのか。
「わからない…。わたくしは、天使を滅ぼそうとしてるのに…」
「すべての人に天使の加護はあるんだ。オマエにだって」
レイヤはそう答えた。その意味をスペーシアは耳で理解し始めた。天使の声が聞こえる。美しい駆動音がするのだ。それはハロの声。彼女に抱きかかえられ、そのせいで否が応にも聞こえてくるのだ。はじめてだった。こんなにもはっきりと間近で駆動音を聞くのは。ハロの胸元に耳をあて、スペーシアは夢中になった。
「………これが天使、ですのね…。滅ぼすには惜しいくらい…」
もう耳障りとは言うまい。スペーシアは痛みも忘れて眠り込んだ。天使の声を子守唄にして。
レイヤは嬉しく思った。誇らしくもなった。天使の声に耳をすませば、誰だって考えを改めることができる。スペーシアは、もう天使を滅ぼしたりはしないだろう。
しかしながら、竜の軍勢は止まらない。大火竜も然り。既に氷は解け始めている。一刻も早くこの戦いを終わらせなければ。レイヤは@に言われたことを思い出した。
「信じるんだ。天使の力を信じるんだ!」
「どうする気、レイヤ?」
サイハにそう問われたレイヤであったが、その答えはアラシに向けて返された。
「アラシ、力を貸してくれ。四大天使の力を合わせれば、きっと天使を救える」
「しゃらくせぇ…。しゃらくせぇんだっ!!」
アラシはレイヤを殴り、水天使は火天使を殴りつけた。
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「どうした!?反撃してこいよ!!オレが本当の喧嘩ってヤツを教えてやるぜ!!」
「まだわからないのかよ…?」
レイヤは無駄とわかっていながら訴えた。
「耳をすませばわかるだろ…!?水天使が……オマエの母親が何を望んでいるのか!」
「うるせぇ…!コイツは母親なんかじゃねぇ……天使だ!!」
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はたと水天使の動きが止まった。ふと目に入ったスペーシアの寝顔がアラシに幼少を思い起こさせた。
「………チッ。こんな騒がしいところじゃ聞こえるもんも聞こえやしねぇ…!」
「アラシ…」
「戦場はうるせぇっつってんだ。とっとと静かにさせやがれ」
レイヤは、うんと頷いた。それから火天使を空に解き放った。
「四大天使の力を守護天使が束ねる!!アラシ!ハッカ!@!力を貸してくれ!!」
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「レイヤさん…!どうか力を!」
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あれから一週間。スペーシアは、すっかり丸くなった。今ではハロと一緒にいるのが当たり前になった。あんなに天使を嫌っていたのが嘘みたいだ。
聖銀河に再び情熱が灯った。天使を超える発明とやらをまた目指すらしい。そのために腕の立つ調律師の協力を得るつもりだ。レイヤだって声を掛けられた。けれど、行かなかった。天使は滅びから救われた。使命は終わったんだ。だから、故郷へ帰らなきゃいけない。
階都。展望台からの眺めは平穏そのものだ。レイヤは、小さく頷いた。
「…この街はもう大丈夫だな」
「レイヤさ~ん!!」
ハッカが息を切らして追いかけてきた。
「レイヤさん…!ほんとに行っちゃうんですか!?」
「ああ。早く楽園に帰らないとゼンオンじいさんがうるさいからな」
「そうですか…。じゃあ……風天使、お返しします!あれはレイヤさんのものですから…」
「耳をすませよ」
天使の声がする。ハッカと一緒にいたいと叫んでる。天を仰ぐと、風天使が羽ばたいていた。
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