勇者断罪物語

ちば防蟲

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#15 2話「優秀な部下ほど、メガネ属性」Part6

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「では、勇者対策会議を始めます。まずは、ラガルガ大将とギル長官との会談についてまとめましたので、確認をお願い致します」としっかりと進行係として進めていく。


「―――――――という解釈でよろしいですね?」


「さすがだな。その解釈で大丈夫だ。次にいってくれ」

と黒メガネ君ことクラウス・クラウン博士の有能さを再確認する。淡泊なのが、気になるが。



「では、次に・・・・勇者への対処方法です。殺害、監禁、拷問等々ありますが、どうされますか?私は監禁・拷問がいいのではないかと思うのですが。研究もできますし」


「そうだな~~。ってか、ボソッと怖いこと言ったな。まぁ~~そうさな・・・殺害が妥当だろうな。安全に管理できる環境があれば、捕まえるのもありだが、リスクが高いな」


「そのリスクとは、勇者が持つ特殊能力《神技》でしょうか?そうですね、サイト様の懸念はもっともです。あやつらの能力には、こちらの常識では測れない所がありますからね」


「神技は、勇者召喚時の恩恵で与えられた能力だからな。しかも、複数持ちがいるという噂だ。これが、厄介な点だな」


う~~むと眉間にしわを寄せて悩む二人。そんな二人の会話を聞いていた三人の中で、ソウは切り込む場を探っていた。組織のトップと幹部がいるこの機会を逃すわけにはいかない。自分のアピールは勿論のこと、抱いている疑問点をぶつける場としても最適だと考えを巡らせていた。


「あの!発言いいですかっ!」とソウは右腕を天井に向けて垂直に上げ、発言の許可を求めた。


「ん?あぁ、いいぞ。ってか、別に挙手しなくても構わない。この話し合いは、かたっ苦しい幹部会とは別と考えてくれ。気軽に発言していい」とソウの発言を許可した。


この場の一同が、ソウに視線を向けた。一気に真剣な眼差しを集めたことで、緊張レベルが5段階中4まで跳ね上がったソウは、心拍数の上昇や喉の渇き、口内の干上がりを感じた。


「え、え~~と、そ、そもそもなんですが!勇者を打倒することは可能なのでしょうか。ぼ、僕は実際に会ったことはありませんが、色々な文献を見た印象を元に考えていくと、我々だけの戦力で対処するのは、どうしても無理があるんじゃないか?と思ってしまいます」


ソウの考えを聞く四人。怖いくらいに、真剣に向き合ってくれている上司達に対して、色々と考えてします。これは、後ろ向きな発言をした自分の処分を考えているのか、それとも、本当に聞き入れてくれているのか。


本当は、こんな発言しなければいいのにと自分でも思う・・・・だが!今回の件、今までの仕事とは雲泥の差がある。こちらが壊滅する可能性だってあるのだ。もちろん、俺みたいな若輩者には見えていない世界があるのかもしれないが・・・・勇者打倒一辺倒で、進行する話が恐ろしく感じてしまった。


この発言で処分されるのであれば、それでもいい。もしも、尊敬する方々の意識に変化をもたらせるならば。


「我々の戦力は第一~第三戦略室の人員と諜報活動等を行っている人員で約3000人です。そこから、純粋な戦闘を行える者で考えると1000人程度。対して相手は、一人ひとりが一個師団(戦闘員5000人規模)に相当する戦力と分析されています。しかも、それが15人です。どんなに優れた戦術を用いても、圧倒的な力の前には、無力と考えられます」


ソウは一呼吸置いて、更に、自論を展開する。


「したがって、僕なりに考えてみました。国軍を巻き込むんです。ギル長官らから、動かせないと発言があったのは、承知しています。ですが!このまま、我々だけでは壊滅する可能性だってあります。なので、どんな方法を使ってでも、国軍に出てきてもらう必要があります。ポイントは、グリモア王国だけではなく、人類界全体を盤上にプレイヤーとして登場してもらう必要があります。人類界で挑めば、勇者打倒は可能だと思います」とソウは自論を言い終え「以上です」と付け足した。そして、サイトら幹部達の表情を伺う。


最初に口を開いたのは、サイトであった。


「なるほどな。お前の言い分はもっともだ。うちと勇者の分析も正確、案もなかなかな物だ。それに、この状況で、切り込んだ発言をしたことは評価できる」


サイトの発言に対して、ホッとしたのも束の間、だが・・・と話が続いた。


「だが、まだまだ、お前は青いな。戦力分析に俺や幹部連中といった個を起点とした分析が不足している。さらに、何も勇者全員を一度に相手するわけではない。個に対してこちらの戦力を向ければ、対処可能だ」と俺や幹部連中でフォローできると答えるサイト。


「神技については、上級以上で見極める方針としましょう。その上で、捕獲可能であれば捕獲で。殺害が妥当であれば殺害で。ここに来る前に、幹部には勇者らの動向を探り、可能であれば、戦闘データの更新を行うよう指示を出しています。それとサイト様、あなたが各地に赴き対処する旨も伝えています。よろしかったですね?」とクラウス博士は事後報告を行った。


上下社会では、事後報告ほど無能な行いは無いが、クラウス博士の報告を聞いて上司であるサイトは、口角を上げ笑みの表情を作った。


「やっぱり、お前は優秀だな。勇者の最新情報の収集だけに特化する事、勇者討伐には俺が動く事、あとで指示をだそうと思っていたことだ。さすが!黒メガネ」と笑いながらクラウス博士の肩を叩く。「黒メガネは余計です」と反論するクラウス博士だが、サイトには聞こえていないのかもしれない。


「サイト様が行かれるのでしたら、私たちもお供いたします。いいですね?サクラ」


「言われなくても~~。その~~つもり~~ですよ~~」

ハギとサクラが討伐についていく旨を表明した。


「わ~~ってるよ。そもそも、お前たちは連れていくつもりだった。出発はまだ、先だがな」とハギとサクラの頭を撫でた。


「そうですね。まずは、情報収集が終了したエリアから攻めていきたい所です。あとは、グリモア王国側と協議となりますね。どこの勇者から討伐するか、考えがあるでしょうし。懸念事項があるとすれば・・・・」


「お目付け役が付く可能性か」


サイトとクラウス博士が懸念していることは、グリモア王国側が同行者を付けたいと言ってくるんじゃないかというもの。だが、この場合での同行者は無能が送り込まれる可能性が高い。


なぜならば。


「今回の作戦は、国軍を巻き込めない前提の隠密作戦となる。で、この場合のお目付け役となれば、切り捨ててもいい人材となり、戦力として数えられないカスが派遣される可能性がある・・・と。

はぁ~~やだやだ。考えたくもないわぁ~~」とサイトは両手で顔を覆った。


「でしたら、事が終わるまで眠らせておけばいいのではないですか?」とソウが問いかけた。


「ソウ君。その方法もありますが、相手側も想定はしているでしょう。恐らく、なんらかの対策は講じていると考えられます。もし、眠らすなりして隔離したことがバレたときには、こちらの立場が悪くなります。拉致、監禁した!と言いがかりを付けられれば、この人類界での生活は出来なくなるでしょう」と対処が難しい理由を説明した。


「そう!そこなんだよなぁ~~。しかも、拉致、監禁とかで追い詰めやすいようにある程度の身分を持った軍人を寄こすだろうな。で、クソ真面目で正義感が強くて任務には命を掛けています!ってやつなんだろうな~。考えたくねぇ~~!!」と両手で顔を覆った状態で叫ぶ。


「王国内の諜報員を使って候補を絞っておきます」とハギが頼もしい発言をした。


「よろしく~~。ハギちゃん。やっぱり、優秀な部下を持って俺、幸せだわ」とハギの真後ろに移動したサイトは抱き着いた。ここで、「ウギャヤヤアッヤヤヤヤアアアアアアアアアアアアアア」と赤面して叫ぶと思ったサイトだが、あれ?反応がない。


「家族」

「へ?」

ハギが耳をすまさないと聞こえないレベルで言葉を発した。


「家族!」

「!?!?」

右耳を近づけたサイトに対して、今度はボリューム大で言葉を発した。右耳へと放たれた異常値の音量をまともに食らったサイトは、真後ろに飛び跳ねた。


「私やサクラは部下じゃない。家族」とハギは泣きそうなのを無理やり抑え、口を震わせながら言葉を放った。先ほど、サイトに部下と言われたことが引っ掛かったみたいだ。


「ごめん。冗談にしては、無難じゃなかったな。そうだ、俺とハギ、そしてサクラは家族だ。揺らいではいないよ」と優しく話を掛けながら、もう一度抱き着いた。今度は、真剣にだ。兄が妹を気遣うように優しく。


「ハギねぇは気にしすぎだよ?サイトにぃが私たちへの気持ちを違えるわけがないじゃない」とハギの真横から抱き着くサクラ。彼女も不安があったのだろう、体が震えていた。


そんな、家族を見てクラウス博士は思う。「脆いが・・・・美しい。もし、組織が無くなることがあろうとも、この家族だけは守らなくてはならないな」と


また、ソウは「これは、割り込めないな。俺だって、こういう時は空気を読めるんだぞ」と組織の最初期メンバーの絆を傍らで眺めるのであった。


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