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第三章 イナズマ組
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しおりを挟む土曜の夕食の時間――飛華流は自室に隠していた成績表を、直志に突き出された。
「飛華流、これは何だ?」
「その、えっと……ごめんなさい。結果が悪すぎて、見せるのが怖かったんだ」
スプーンを握る手を止め、飛華流はしばらく硬直した。自分のピンチを悟ったのだ。くっそ――ベッドの下でも見つかっちゃうのか。
「あんた、まだテストの結果は出てないって言ってたよねー?」
守莉に顔を覗き込まれ、飛華流は力無くこくりと頷く。すると、守莉は顔を曇らせ、声を荒げた。
「嘘ついてまで隠していたら、後で余計に怒られるって分からないの?」
「本当にそうだよ……何なんだこの点数はっ! 三十点すら無いし……学年順位も後ろに数人って……」
ため息交じりにそう発する直志に続き、守莉が再び口を開く。
「……学校休んでる場合じゃないよ? このままだと、どこの高校にも入れないよ」
世間の人間はどうして、とりあえず高校って――単純な思考回路してるんだろう。学歴が全てだなんて、勘違いしてる人間が多いみたいでがっかりだよ。
親にがみがみ言われながら食べるカレーは、好物でも不味く感じた飛華流だった。
「真誠は、百点ばかり取ってくるよ……飛華流、お前も真誠みたいに頑張らないかんよ」
直志の放ったその言葉が、飛華流の胸にグサリと突き刺さる。ちぇっ……またそれかよ。別に僕は、真誠の様になりたいとは望んでないぞ。
真誠は、ピアノの賞とか体力賞まで取って、ママとパパを喜ばせていたし――二人には、こいつさえ居れば幸せなんだろうなっていうのはよく分かる。
家族を不幸にしてしまう自分には、存在意義なんてモノは無いとさえ感じ、飛華流は酷く落ち込んでしまった。
しかし、憎たらしい笑みを浮かべ、調子に乗っている様子の真誠を目にし、彼への対抗心が飛華流に湧いてくる。
だけどさ、真誠はただ親に従って、与えられた事をしてるだけなんだ。一般的な生き方では、凡人止まりで終わっちゃうよ。――でも、僕は違うっ! 僕はいつだって、自分の世界で生きていくんだっ!
「テスト期間中に、漫画なんか描いて遊んでるからそうなるの……分かる?」
守莉の発言に腹を立て、飛華流は彼女を睨みつける。
「あれは、遊びなんかじゃないっ! 僕は、本気で描いてるんだっ!」
いつか、僕の物語を世界へ出すっ! 僕の芸術を遊び呼ばわりするなら、ママでも許さないっ! 飛華流の内に秘めた情熱が、激しく溢れ出していた。
「はあ……あんたまさか、あんな画力で漫画家になれると思ってるの?」
母親が自分を信じてくれていない事に、飛華流はショックを受けて子供の様に泣いてしまう。そんな悲しさと悔しさに支配されている飛華流に、直志は容赦なく言う。
「夢を叶えたいならまず、やるべき事をしっかりしなさい」
飛華流の成績表を見ながら、直志は呆れた笑みを見せた。
そんなの嫌だね。僕には、勉強なんて必要ないよ。僕は、学歴無しじゃ生きていけない様な無能な人間じゃないんだっ!
言い返すと説教される時間が増え、もっと面倒になる事が分かっていた飛華流は、そんな気持ちを己の心にひっそりとしまい込んだ。
これから、親による長い説教が始まるだろうと、飛華流は覚悟していた。しかし、そんな時、ずっと黙っていた少女がおかしなイントネーションで喋り出す。
「黙れっ! 俺、キゾクゼロ」
上野一家は、少女の言葉に首を捻った。
「えっ、えっ? この子、今黙れって……」
乱暴な少女の言葉遣いに、飛華流が怯む。真誠は、立派な女の子である少女が男口調な事に違和感を抱く。
「……女子のくせに俺って言うのか?」
「キゾクゼロって……持ち金が無い貴族って意味かな?」
何語か不明な少女の言葉を、守莉は懸命に理解しようとする。そんな天然な守莉に、直志が突っ込む。
「いや、それじゃあ聞こえたままじゃんっ! ママさー、マジで本気で考えとんの?」
「あ、当たり前じゃん……かなり高価そうなネックレを身に着けてるし、身分が高い子って可能性も十分あるでしょ?」
「もし、仮にそうだとしても、そんな情報を俺達に教える意味が無いし自己紹介にもならんがー」
直志に正論をぶち込まれ、守莉は「確かに……」と呟いた。
――何、夫婦でコントしてんだよ。そう飛華流が呆れていると、真誠が真面目にこう言った。
「キゾクゼロ……それが、こいつの名前じゃねーの? どう見ても、日本人じゃねーしな」
「分かれ馬鹿っ! プンプン」
とてももどかしそうに、少女はそう口にした。そして、少ししてから微かに苛立った様子で、再び彼女は声を上げる。
「何も……覚えない。忘れーた」
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